毎年秋、東京都内で「視覚障害者向け総合イベント」と銘打って、「サイトワールド」というイベントが開催されます。サイトワールドでは、45社程度が出展する展示会と、複数のセミナーや体験会などが実施されます。3日間の会期中に約4千人が来場する、視覚障害関連では国内最大級のイベントです。
そのサイトワールドの企画、運営をしているNPOがサイトワールド実行委員会です。そして同NPOの経理では、freee会計をご利用いただいています。
委員会には視覚障害者も晴眼者(視覚障 害がない人)もいますが、委員長を務めるのは全盲(視力がない状態)の荒川
明宏さんです。今回は、荒川さんにfreee会計導入の経緯や、全盲のユーザーの立場からのfreee会計の使い勝手などについてお話をうかがいました。
レポート機能で試算表や総勘定元帳なんかを確認できるというのが一番の良さですね
――まず荒川さんご自身について簡単に教えてください
私は10歳の時に全盲になり、若い頃は汎用大型機のSEとして働いたり、視覚障害者向けのOCRソフトの開発をしたりしていました。その後IT製品を含め視覚障害者向けの製品の販売を手がける株式会社ラビットを起業し、現在も社長をやっています。
その他に、サイトワールド実行委員会の理事長や、社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会という、点字図書館などのいろいろな福祉施設や事業者が集まった団体の常務理事などもやっています。
――サイトワールド実行委員会がfreee会計を導入した経緯を教えてください
サイトワールド実行委員会は、2019年にNPOとして法人格を取得しました。それまではExcelで会計をやっていたんですが、NPOになるとちゃんと税理士の先生に見てもらって報告書も出さないといけない ということで、なにか会計ソフトを導入する必要が出てきました。
それまで他のところで使ったことがあった別のクラウド型の会計ソフトを使うということも考えましたが、このソフトはスクリーンリーダー※1での利用が難しい点があったのでまず除外しました。
調べていく中でfreee会計の利用料金が安かったのでとりあえず試してみたのですが、まあまあ使いやすいし、銀行口座と連携できる機能なんかも便利だったので、そのまま使ってみることにしました。記帳件数もそこまで多いわけではなかったので、もしスクリーンリーダーでの利用が難しくてもExcelも活用すればどうにかなるだろうと思って使い始めたという感じでした。
※1視覚に障害がある人などがパソコンやスマートフォンを利用する際に用いる、画面に表示されている内容を、音声で読み上げたり、点字ディスプレイという装置に表示したりするソフトウェア。
――経理関係の業務に関して、荒川さんはどのように関わっておられますか
日々の記帳などは主に事務局長がやっていますが、私も必要があれば記帳したり、記帳されたものを確認して修正したり、まあ何でもやりますよ。ただ、立場上、経理の全体を把握することが一番重要な役割になっています。ですから、レポート機能で試算表や総勘定元帳なんかを確認できるというのが一番の良さですね。
急に社長が全盲になったような場合でも、口座連携してれば社員がやったことも把握できるし帳簿も見られる
――他の会計ソフトと比較して、freee会計の使いやすさをどのように評価されますか
先ほど触れた会計ソフトとは別の会計ソフトを利用した経験もありますが、そちらはアクセシビリティ※2があまり意識されていないようで、マウスを使わなければできない操作があったり、テキスト情報が付加されていないので役割が分からないボタンがあったりします。freee会計にはそういった、押すと何が起こるか分からないようなボタンはほとんどないと思います。
※2年齢、性別、利用環境、障害の有無、その他様々な社会的属性などの違いに関係なく、所要時間、身体的負荷、精神的ストレスなどが無い状態で利用できることを「アクセシビリティが高い状態」と表現します。 例えば、画面を見ることができない視覚障害者がWebサービスを利用する際に、スクリーンリーダーで表示内容を理解しサービスを利用できるようにするといった操作性の充実などが挙げられます。
また、さらに別の会計ソフトを試そうとしたこともあって、使い始めようとしたのですが、初期設定 の画面にスクリーンリーダーではうまく操作できないボタンかなにかがあってあきらめたということがありました。もし仮にそこがどうにかできても、日々使い続けることができるのか不安になりました。
そういった経験からも、freee会計はスクリーンリーダーで利用する場合もかなり使いやすいと思います。
使いやすさという点では、いろいろなデータをCSV形式で取得できるのもすごく便利ですね。Webでは分かりづらかったり操作しづらかったりするものも、CSVで取得してExcelで必要な情報だけ取りだして確認したりできますから。PDFではこういったことはできません。
――freee会計で使いにくいと感じる点はありますか
使いにくいというのとはちょっと違いますが、請求書などを作成したときに、私のようにできあがった書類を見て確認することができない場合、自分が意図したとおりのものができているのかどうか確信を持てないのが不便だと感じます。
それから、これは一度使い方が分かれば何と言うこともないことなので、やはり使いにくいというのとはちょっと違うかもしれませんが、一部の入力項目で、入力フィールドに文字を入力すると候補リストが表示され、その中から選択して入力を完了するようになっているものがあります。スクリーンリーダーを使っていると、一見普通に入力できそうに見えるこのフィールドで、実際には入力を完了できずに困惑しました。このときは、画面の様子を教えてもらって使い方を推測することができましたが、すべての視 覚障害者が同じように使えるわけではありません。
――freee会計は経理業務をする視覚障害者にお勧めいただけるものですか
はい、もちろんそう思います。そして会計士や税理士の先生と連携することができたりするのも非常に良いと思います。
あと、中途失明の人は増えていると思いますが、例えば急に社長が全盲になったような場合でも、口座連携してれば社員がやったことも把握できるし帳簿も見られる、不正なことをやらせないということにつながるとても重要なものだと思います。そこにすごく価値があると思います。
――アクセシビリティの観点でfreee会計に今後期待することを教えてください
クラウドで提供されていてWebブラウザーで使うようなサービスは、アプリケーションをインストールして使うサービスよりもスクリーンリーダーで利用できる可能性は高いと思います。それでもやはり、元々が晴眼者にとって使いやすいように作られているものですから、スクリーンリーダーでは使いづらい部分や使えない部分もあります。使いづらい部分についてはどうすれば使えるのかといった情報、使えない部分については使えないという情報が提供されると良いと思います。基本は今のままで良いと思うんですが、そういう情報提供がやっぱり大切なんじゃないでしょうか。
おわりに
本記事では、freeeがアクセシビリティ改善に取り組んでいるfreee会計を活用して、ビジネスで多様な人材が活躍できているお客様事例をご紹介しました。
『だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム』というビジョンを実現するため、freeeはアクセシビリティ向上を目的とした様々な取り組みを行っています。
- 製品のアクセシビリティ改善
- 社員研修の実施
- ガイドラインおよびチェックリストの運用
- デザインシステムの策定と活用
- アクセシビリティ関連リソースの公開
- 情報アクセシビリティ自己評価様式の開示
- 合理的配慮への対応方針の策定
より詳しい内容 は、下記のページをご覧ください。
アクセシビリティ