監修 松浦絢子 弁護士
2024年6月、「スマホソフトウェア競争促進法」が成立しました。本記事では、法律の概要や施行される背景について、わかりやすく解説します。
近年、スマートフォンは生活の一部として浸透し、多くの人がさまざまなアプリを活用しています。スマホソフトウェア競争促進法とは、アプリストアや検索エンジンなどのスマホに欠かせない特定ソフトウェアの分野において、優越的な地位のIT企業を規制する法律です。
スマホソフトウェア競争促進法が施行されることで、どのような影響があるのか気になる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
スマホソフトウェア競争促進法とは?
2024年6月に成立した「スマホソフトウェア競争促進法」は、スマホを利用するための特定ソフトウェアに関して、優越的な地位にある企業を規制する法律です。
特定ソフトウェアとは、以下のようにスマホを利用するうえで欠かせないプログラムをいいます。
特定ソフトウェア
- モバイルOS
- アプリストア
- ブラウザ
- 検索エンジン
上記のような特定ソフトウェアを提供する代表的な事業者として、「アップル」や「グーグル」などがあります。近年、特定ソフトウェアに関する市場は、一部の巨大IT企業が寡占している状態です。
スマホソフトウェア競争促進法は、寡占が進む特定ソフトウェア分野において、巨大IT企業に対して禁止事項などを明確に定め、市場の競争を促すことを目的としています。
スマホソフトウェア競争促進法の概要
スマホソフトウェア競争促進法の概要として、以下の3つのポイントに分けて説明します。
スマホソフトウェア競争促進法の概要
- 規制対象事業者の指定
- 禁止事項及び遵守事項の整備
- 規制の実効性確保のための措置
それぞれ詳しく見てみましょう。
規制対象事業者の指定
公正取引委員会は、特定ソフトウェアの種類ごとに、利用者数などが一定規模以上の事業者を「規制対象事業者(指定事業者)」として指定します。
規制の対象となる特定ソフトウェアの定義は、以下の通りです。
特定ソフトウェア | 定義 |
---|---|
モバイルOS (基本動作ソフトウェア) | ・スマホを動かすための基本的なソフトウェアを指す |
アプリストア | ・利用者の用途に応じて、スマホに追加的に個別ソフトウェア(例:地図アプリなど)を組み込むためのソフトウェアを指す |
ブラウザ | ・個別ソフトウェアのうち、主にインターネットを利用してWebページを閲覧するためのソフトウェアを指す |
検索エンジン | ・入力された検索情報に対応したWebページのドメイン名などを出力するソフトウェアを指す |
上記のように、モバイルOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの4つに限定されるため、物販サイトやSNSなどは規制の対象ではありません。
禁止事項及び遵守事項の整備
スマホソフトウェア競争促進法では、指定事業者に対して、以下のような禁止事項を定めています。
禁止事項 | 主な内容 |
---|---|
取得したデータの不当な使用の禁止 | ・基本動作ソフトウェア・アプリストア・ブラウザの各指定業者に対して、取得した各種データ(アプリの利用状況や売上などに関するもの)の不当な使用および子会社などに使用させることを禁止する |
個別アプリ事業者に対する不公正な取り扱いの禁止 | ・個別ソフトウェアの仕様などの表示方法・利用条件・取引の実施に関して、不当に差別的・不公平な取り扱いを禁止する |
基本動作ソフトウェアにかかる指定事業者の禁止行為 | ・指定事業者が提供するアプリストアに限定することを禁止する ・ほかの事業者がアプリストアを提供することやスマホ利用者がほかのアプリストアを利用することを妨げる行為を禁止する など |
アプリストアにかかる指定事業者の禁止行為 | ・アプリストアを自社のものに限定し、ほかの事業者がアプリストアを提供するのを妨げる行為を禁止する ・アプリにおいて、アイテムなどの価格やWebサイトへの誘導リンクの表示を制限することを禁止する など |
検索エンジンにかかる指定事業者の禁止行為 | ・検索結果の表示について、正当な理由なく自社のサービスを優先的に表示することを禁止する など |
また、遵守すべき事項として定められている主な内容は、以下の通りです。
遵守事項 | 主な内容 |
---|---|
データ取得等の条件の開示にかかる措置 | ・基本動作ソフトウェア・アプリストア・ブラウザの各指定業者が、それぞれのソフトウェアの利用に伴い取得したデータについて、事業者や利用者に対して開示すべきとする旨を定める |
取得したデータの移転にかかる措置 | ・各指定事業者が、利用者の求めに応じて、取得したデータを円滑に移転するために必要な措置を講じる義務を定める |
標準設定等にかかる措置 | ・ブラウザや検索エンジンなどのデフォルトの設定を、より簡単に変更できるように「選択肢を表示する」といった措置を求める |
特定ソフトウェアの仕様等の変更等にかかる措置 | ・指定事業者が特定ソフトウェアの利用に関する仕様の設定・変更・利用の拒絶を行う場合、事業者が円滑に対応できるように期間の確保や情報の開示などの措置を講じなければならない |
一定の禁止行為や遵守すべき事項を定めることで、迅速な違反行為の是正を目指しています。
出典:公正取引委員会「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案の概要」
規制の実効性確保のための措置
定められた規制の実効性を確保し、公正公平な市場を目指すため、以下のように環境を整備します。
禁止事項に違反した場合、再発防止などを命じる「排除措置命令」や日本国内の売上の20%を課徴金とする「課徴金納付命令」が出されます。
スマホソフトウェア競争促進法が施行される背景
スマホソフトウェア競争促進法が定められた背景には、主に2つの理由があります。
スマホソフトウェア競争促進法が施行される背景
- 特定ソフトウェアの市場は新規参入が難しく、一部の事業者による寡占状態が続いている
- 独占禁止法では違反の立証に時間がかかるため、違反行為の是正が困難である
一部の事業者にユーザーが集中し市場が寡占されると、以下の要因によって新規事業者の参入障壁が高くなります。
- ネットワーク効果の増加
- 使い慣れによるユーザーのスイッチングコストの増加
- OS開発コストの高さ
また、独占禁止法では、ルール違反の疑いがある事例に対して、個別に事実の立証が必要です。そのため立証するのに時間がかかってしまい、すぐに状況を改善できません。
スマホソフトウェア競争促進法では、禁止事項を明確に定め、罰則も厳格化されているため、事業者の競争環境を整備する効果が期待できます。
諸外国の動き
諸外国においても、デジタルプラットフォーム事業者に対する法律の整備が進んでいます。
欧州連合(EU)では、オンラインプラットフォームを包括的に管理するためのデジタル市場法(DMA)が発効されました。アメリカでは、司法省(DOJ)や米連邦取引委員会(FTC)などの競争当局による積極的な介入が進んでいます。
また、韓国やオーストラリア、インドなどでも新しい競争法制度が検討されています。
スマホソフトウェア競争促進法による影響
スマホソフトウェア競争促進法が施行されることで、考えられる影響は次の通りです。
スマホソフトウェア競争促進法による影響
- アプリストアや検索エンジンなどの市場に、新規事業者が参入し多様化する
- ユーザーが、安価で多様性のあるコンテンツ・サービスを選べるようになる
一部のIT企業による寡占状態が解消されれば、新たな事業者が参入できるようになるでしょう。市場の競争が活発になれば、手数料やアプリの値段にも反映されるため、スマホユーザーにとってもプラスの影響が生じると考えられます。
ただし、上記のようなメリットがある一方、セキュリティの確保やプライバシー保護の観点では懸念の声もあります。そのため、スマホソフトウェア競争促進法で規制対象となる企業は、セキュリティ確保などの面においても措置を講じることが求められます。
まとめ
スマホソフトウェア競争促進法とは、アプリストアやモバイルOSなどの市場を寡占する企業を規制し、公正な市場競争を促すための法律です。
従来の独占禁止法に比べると、禁止事項や罰則などが明確・厳格化されている点が特徴です。そのため、スマホソフトウェア競争促進法が施行されることで、新規事業者が参入しやすく、ユーザーにとっても選択肢が広がることが期待されています。
個人情報を適切に処理するなら管理ツールの使用を
従業員を雇い入れているなら、従業員の個人情報も適切に管理しなければなりません。
freee人事労務は、個人情報はもちろん、口座情報や入出金データなど、すべてのデータを暗号化して保存。すべての通信に対して金融機関レベルの通信方式を採用し、強固なセキュリティ体制を敷いています。
個人情報の取り扱いでは、一定基準を満たす企業に与えられる国際認証TRUSTeを取得しており、従業員の個人情報も適切な管理が可能です。
データはクラウド上で保管されているため、パソコンの紛失やハードディスクの破損による物理的なデータ損失の心配もありません。
外部へのデータ漏えいを防ぐ対策が施され、安心して利用できるfreee人事労務をぜひお試しください。
よくある質問
スマホソフトウェア競争促進法とは?
特定ソフトウェア市場を寡占する企業を規制し、公正な市場競争を促す法律です。
法律の概要や目的を知りたい方は、「スマホソフトウェア競争促進法とは?」をご覧ください。
スマホソフトウェア競争促進法の内容は?
市場において優越的な地位にある事業者を特定したうえで、禁止事項や遵守事項などを明確化し、規制の遵守状況などを報告させる措置を定めています。
法律の内容について詳しく知りたい方は、「スマホソフトウェア競争促進法の概要」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。