設立から50年の歴史がある尾張陸運株式会社。運送業を中心に、さまざまな事業を展開してきました。
事業が成長・多角化していく一方、バックオフィスには課題を抱えていました。「約600枚の請求書が一気に経理へ集まってしまい、業務の負担が大きい」「グループ会社の経営状況が見えづらく、リアルタイムで対応するのが難しい」「内部統制が不十分」などを解決するために導入されたのがfreeeです。
現在では、グループ企業4社でfreeeを稼働し、さらに導入企業を広げてい る最中です。尾張陸運株式会社 経営企画室室長の伊藤光彦さんに、freee導入について話を伺いました。
「非効率」「業務に波がある」「内部統制が不十分」… 課題が山積だったバックオフィス
経営企画室室長 伊藤 光彦氏
ーー貴社の事業内容や理念を教えてください。
伊藤光彦さん(以下、伊藤) 愛知県尾張旭市に本社を置く会社で、設立50周年を迎えました。主力事業の運送業だけにとどまらず、「暮らしのすべてをカバーし、子どもからシニアまで一生を共にできる会社に」を掲げ、経営を多角化してきています。具体的には、倉庫事業、物流加工事業、そして引っ越しや自動車に関わる生活関連事業などがあります。
もともとは祖父が立ち上げた会社です。私の父が幼かった頃に喘息の持病があり、祖父は治療に対応しやすくする必要がありました。そこで、自分の時間をある程度コントロールでき、車を活用しながら働ける運送業を始めたんです。
このように「身近な人を助けたい」との思いで創業しており、一人ひとりを生かすステージを作った結果、経営が多角化してきています。例えば、保育士の資格を持つ方がドライバーとして入社してきたことがありました。事情があって保育士を辞めて入社してきたのですが、「もし当社が保育園を作ったら園長をやりたいか」と尋ねると 、「やりたい」と。そこで、お子さんのいる従業員が安心して働ける環境づくりの目的もあって、社会福祉法人を立ち上げて保育所を作りました。
ーーfreee導入前には、バックオフィスにどんな課題がありましたか?
伊藤 非効率的で、経理の業務に波があり、内部統制が不十分だったのが課題でした。
まず、どのように非効率的だったかというと、当時は5つの事業所があって、全ての事業所の請求書が本社オフィスに山のように集まっていました。売上・費用を合わせて、およそ600社の取引先の分です。
集まった請求書に対して、それぞれの事業所長が本社オフィスに来て、承認印を押していくんです。押印が終わると、ようやく経理の出番。紙の請求書などの帳票を見て、データを入力していきます。作業ボリュームが大きく、どうしても人海戦術になってしまっていました。当然、月次決算の締めは遅くなっていましたね。
経理の業務に波があったのも課題でした。承認された紙の書類を入力するときには人手が必要なのですが、そうでないときもあります。業務量の調整がうまくいっていませんでした。
その背景には、経理業務が属人化してしまい、標準化ができていないことがありました。これは、担当者が優秀であるほど起きがちな課題だと思います。担当者個人にとってやりやすい方法が確立されていて、その状況を誰も周りが把握できていませんし、業務が当たり前のように行われて、誰も気にしないような状態です。
最後に、不十分な内部統制 も課題でした。各事業所から届く請求書に対して、経理としての内部統制・内部監査の仕組みがあまりありませんでした。不正を防ぐためだけでなく、同一の取引先からまとめて仕入れることによって購買力を上げるためにも、分析や業務改善にリソースを割くためにも、改善が必要でした。
ーーグループとしての課題はほかにありましたか?
伊藤 グループ各社の試算表は、本決算のときに紙で年に1回受け取るだけでした。私は自分なりに昨年比などの数字を出して利用していたのですが、売上も費用も毎日動いていきますよね。それらを詳しくドリルダウンして調べたい場合には、経理担当者に依頼してデータを出してもらわなければなりませんでした。
そういった経営サポートの業務は、経理の通常業務にプラスオンされてしまっていた部分です。ただでさえ日常業務が非効率で負荷が高かったため、依頼するのを申し訳なく感じていました。
freee導入でリアルタイムに対応できるグループ経営を
ーーfreeeを導入することになった経緯を教えてください。
伊藤 私が2017年に入社したときから、「このやり方は当たり前ではない」「あるべき姿に変えていきたい」と感じていました。
非効率だった業務の改善はもちろんのこと、分析も改善したいと思っていましたね。会社分割や共同出資などでグループ企業が増えてきていて、紙ベースで年に1回出してもらう試算表では、分析が全然追いつかなくなっていたんです。経営陣としては、グループ全体から得られる実際のキャッシュフローから、資本効率などを考える必要がありますが、リアルタイムの対応ができていませんでした。
また、将来の事業承継を考えた場合に、一番の要は経理だと感じていました。既存のシステムやフローでは、業務が属人化していて、内部統制に必要なステップが抜けている可能性も考え、一度見える化しなければならないと思っていたんです。そこで、freeeを導入することによって、経理業務を構造的に見える化したいと考えました。
ーーfreeeを選んだ決め手は何でしたか?
伊藤 経営陣が見たいものを、自ら触ってリアルタイムで見られる点ですね。気になる費目をドリルダウンして調べられること、エビデンスとして請求書などの証憑まで紐づいているところなどは良いと感じました。それから、承認フローの設計もfreeeで適切に作ることができています。
さらに、引き継ぐ人に経理の知識がなくてもできると感じられたのも、決め手になりました。全員参加型経営を目指していくなかで、経理知識の有無に関わらず、一人ひとりが数字を見て業務ができる点を魅力に感じました。
経験の長い経理担当者が「いまが一番良い」と言ってくれた
ーー導入の流れを教えてください。
伊藤 税理士との導入の話 し合いは、2019年の夏頃から始めていました。2020年1月から、まずは親会社の尾張陸運で導入支援に入っていただき、グループ会社にも導入を薦める声がけを始めています。
2020年8月から、期首のタイミングに合わせて本稼働を始めました。グループ各社は決算期がずれているところもあるので、それぞれの期首のタイミングに合わせて導入が始まっているところです。
現在、当社も含めてグループ企業4社で導入し、さらにもう1社でも導入の話が進んでいます。また、私の個人事業でもfreeeを使っていて、同じアカウントでシームレスに確認できる点が魅力ですね。
ーー導入時に大変だったのはどんな点ですか?
伊藤 freeeを導入することで楽になったり、見える化できたりするのが自分ではわかっていても、社内ではあまり理解してもらえなかった点です。「経理が大変なら、人を増やしてやればいいのではないか」といった声もありました。
でも、経理は現状のやり方を変えなければ、経営が立ち行かなくなるほどの課題だと私は考えていました。だからこそ、私が決裁者となって、導入が動き出してから「どのように楽になるか」「どう見える化できるか」を少しずつ見せていきました。
ーーfreeeを導入して良かった点を教えてください。
伊藤 紙で年1回見ていたグループ各社の試算表を、リアルタイムで構造的に見られるようになった点です。各社の数字は相互に関係していくので、年1回かつ紙ベースでは追いつきませんでした。freeeを導入したことで、 立体的につなげて数字を見られるようになりました。
それから、長く経理を担当してきた方が「いまが一番良い」と言ってくれたのも良かったですね。これは最近の幹部旅行でも、共有され、嬉しく思いました。
業務負荷が減って余裕が出てきたことだけでなく、社員の一人ひとりが役割を担えるようになってきたことが理由です。また、導入前は承認フローが整っていなかったため、請求書が何でも経理に来ていて、ミスが見つかれば経理が確認作業をしていました。
しかし導入後は、証憑は部署ごとにfreeeにアップした上で、適切な承認経路を通って経理に流れてきます。経理は疑心暗鬼にならずに、「これは承認経路を通ってきたものだから送金していい」と処理を進められます。もしお客様から届く書類に相違があれば、各部署が確認を取ってからfreeeにアップします。現場の社員も、一人ひとりが数字を意識できるようになっています。
経理から社内外に電話をしたり、問い合わせを受けたりするのではなく、グループ全体として自然に業務をまわせている状態になったのは良かった点です。
経理が約600枚の請求書処理から解放される
ーー導入前後でそのほか変化はありましたか?
伊藤 ひと月に、費用の請求書が約400枚、売上の請求書が約200枚ありました。それらが経理に届いて、各事業所の担当者が印鑑を押しに来るんです。毎月締めるときに、経理から「これはどこの請求書ですか」と問いかけても、誰からも返事がなく、わからなくなってしまうこともありました。
それが、各事業所に50〜60枚ずつが順次届くようになりました。適度な負担で正確に処理をしていけるようになり、経理の負担は大幅に減りましたね。
また、決算にかかる日数も減りました。当社は7月が期末で本決算となるのですが、以前は締めるのに9月半ばまでかかっていました。今回、freeeを導入して初めての本決算だったのですが、8月半ばに終わっていて、約1カ月短縮することができました。税理士さんとのやりとりで、例えば固定資産の証憑を出すときにスピーディに対応でき、コミュニケーションがスムーズに進んだのも、締めが早く終わった要因でした。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
伊藤 非財務情報が重要だと言われている時代です。そんななかで、「会社を成長させよう」「事業を多角化していこう」「投資していこう」と考えたときには、数値ではっきりとわかる財務情報をリアルタイムで把握していることは、最低限必要なことですよね。
私たちは非財務のプロジェクトもやっていますが、これは社会的に価値があっても、定量的にコントロールできません。だからこそ、定量的にコントロールできる財務情報をきちんと見える化し、自分たちで管理できる状態にしておきたいと考えています。
バックオフィスを構造的に見え る化することで、運送業の会社として世の中にまだ見出されてない価値を、これからも作っていきたいですね。
(取材・執筆:遠藤光太 撮影:平山陽子 編集:ノオト)