四国全域と岡山県で公共施設や大型商業施設、店舗や一般住宅の内装仕上工事を手掛ける、香川県高松市の株式会社幸和。freee会計とkintone工事台帳の導入により、これまで個人の裁量が大きかった業務内容をより「会社らしく」仕組み化することに成功。
会社の成長とともに生じていた課題を、どのように捉え 、何に取り組んでいったのか。代表取締役の三井氏と、導入を支援した百十四銀行コンサルティング部の松浦氏、吉武氏、kintoneとの連携を支援しているsmooth株式会社の西村氏に、システム導入に至った背景や思い、これまでの苦労や成果について語っていただきました。
きちんとした数字をもとに、人事考課をしたい
株式会社幸和 代表取締役 三井 徹 氏
――freee会計を導入されたきっかけをお聞かせください。
幸和・三井氏(以下、三井): 会社が大きくなって人数が増えていった時に、一番の課題となったのが人事考課。主観による評価ではなく、きちんとした数字をもとに評価していかないと、会社らしくなっていかないですからね。今まで採用していた仕組みは各個人、各現場の利益がなかなか掴みきれない感じだったので、その辺りをどうにかしたいと考えていました。
それと私は元々メーカーの人間なので、色々なシステムの中できちっとやってきた中で、大企業レベルまでとは言わないけれど、ある程度きちんとしたシステムを整えることが、自分の役目を次に渡すには必要なのでは、と。
そんなことを考えていた時に、freeeの自動同期機能で業務を効率化できた事例記事を読んだんです。毎月手間をかけて作業している仕分けが、そんなに簡単に出来るのかと興味を持ちました。
百十四銀行・松浦氏(以下、松浦): 営業職の場合、大きな現場を持たれていると売上も大きくなります。一方で、インテリアコーディネーター等の資格を取得してコツコツ丁寧に業務をされている方のことも、しっかり評価していきたい考えを共有頂きました。会社貢献としては、売上も利益も両方大事なので、売上と利益の両方が適切に会社全体で把握できる仕組み化とバックオフィス業務の効率化を目的として、「freee会計」と「kintoneでの工事台帳」の導入に加えて「freee for kintone」を活用した会社全体の効率化を図る「伴走型ICTコンサルティング」を提案させていただきました。
三井: みんなが「だからこの人はこんなに評価されるのか」と分かるための軸を作って、しっかり公開するのが大切だと考えています。弊社は家族経営ではないので、会社の利益はみんなで分けましょうというのが根底にあって、それにふさわしい人事制度、考課制度を整えたいですね。
kintone工事台帳も導入し、freee for kintoneで連携
――kintoneでは工事台帳を導入されましたが、そのきっかけは?
三井: 工事台帳に関しては、パッと見てわかるような形の良いシステムがあればいいのかな、と。営業の仕事を簡素化したかったんです。もう一発で全部ができるような形のシステムが良い、と。
紙で書くのもいいのですが、手間がかかるし、字が読みづらいこともあるし、担当によって形式もバラバラで。作る目的も税務署の調査のためだけだったりして、せっかく作るのに後で見直す 機会もあまりなくて。それでは時間も労力ももったいないですよね。書式が統一化されていれば、新しい人が来ても決められた書式で入力すればいいし、リアルタイムできちんと入力していれば、見る側としてもタイムリーに見られるようになりますよね。
松浦: kintoneの工事台帳によって、上流工程の営業が顧客や案件を統一書式で管理します。工事の進捗状況に応じて、情報をkintoneからfreeeに自動連携します。その結果、営業と経理の部署間連携の手間削減や情報の不一致を防ぎます。下流工程の経理では、kintoneから受領したデータを活用し、会計処理まで実施することで二重入力がなくなります。顧客からの入金情報も銀行のインターネットバンキングからfreeeが明細を自動取得し、消込処理を実施します。最終、freeeからkintoneに消込情報を自動連携し、営業もkintone上で売掛金管理ができます。freee for kintoneの連携機能を最大限に活用することで、営業から会計まで一元管理が可能となります。
補助金を活用。3社でチーム体制を組み、理想的なシステムを構築
――システムの導入は、どのように進めたのでしょうか?
松浦:
三井社長のニーズに対して、百十四銀行とsmooth株式会社と連携してシステム構築案を検討しました。同時に初期コストを低減するために、補助金を組合せたプランで提案させていただき ました。
補助金が採択され、プロジェクトがスタートしました。
三井: 補助金の提案があったのは、大きいですね。補助金の存在を知らない同業者も多くいるため、百十四銀行に弊社が所属している組合で、補助金や法令対応のセミナーを開催してもらいました。システムの話だけではなく、当社の事業内容を理解して、様々な情報提供をくれることは地域金融機関である百十四銀行に、今後も期待する部分です。
百十四銀行・吉武氏(以下、吉武): プロジェクト体制としては、社長がプロジェクトオーナーという形で、実務はfreeeに関しては幸和さんの近藤さんや大嶋さんといった方々と、百十四銀行のチームメンバーが二人三脚で進めました。社内に総務部長的な存在がいらっしゃらないため、各担当間の情報連携や業務フローがどうなっているのか分からない点の整理は百十四銀行が主で実施しました。日々お電話やZoomでコミュニケーションをとり、意思決定をしていただかないといけないところは社長にご判断を仰ぎながら進めました。
経理担当の近藤さん(左)と百十四銀行の吉武氏(右)。新システム移行までは業務の仕組み化や移行前のソフトとの二重入力などで苦労もたくさんあったものの、現在の満足度は高く「育てた甲斐があった」と感じている。
松浦: 吉武が各担当の方の間を行き来して、「あちらはこうやってるんですけど、その後はどうやってるんですか」といった話を繰り返して、業務フローを図式化していきました。幸和さんには各担当部分のプロフェッショナルがいらっしゃるのですが、全体を把握されている方が不在でした。ですので我々はプロジェクトマネージャーとして皆さんに接しながら、全体の流れがわかるように紐解いていきました。百十四銀行が、地域で不足しているDX人材を担う「伴走型ICTコンサルティング」の効果を発揮した部分だと考えています。
吉武: 皆さんもこういう機会がないと、自分の作業の後がどうなっているかを知ることがないので、ひとつひとつ見える化させることで全体が把握できるようになり、「あ、じゃあこんな情報もいるよね」というのを協力して出し合ってくださいました。
また、操作説明の際には画面コピーを活用した幸和さま専用のマニュアルを作成しました。後日、同じ作業をする際に活用しているとコメントをいただきましたが、大変うれしく思う瞬間です。
kintoneの方はsmoothさんにご担当いただき、遠方なのでZoomでコミュニケーションを取りながら構築しました。freeeとkintoneはそれぞれでプロジェクトを進める一方で、百十四銀行とsmoothさんが緊密に連携して、一元管理の仕組みを完成させていきました。
営業担当の三木さん(左)とsmooth社の西村氏(右)。システムリリース後も、機能改善の要望や今後の課題をこまやかに共有・連携して、使い勝手のバージョンアップに取り組んでいる。
smooth・西村氏(以下、西村): コミュニケーションをスムーズにするため、幸和さんから弊社へのご要望は、営業職の女性に皆さんの声を拾っていただく役割を担っていただき、とりまとめてもらいました。
三井: kintoneは弊社の仕組みに合わせて、こういうのを作って欲しいと要望を伝えて作ってもらっています。まだ完全では無いのですが、育てている感じですね。
松浦: やりたいことを積み上げていくといったやり方で、少しずつDXを進めているところです。プロジェクトが終了した後も、継続的に取引関係が続く点は、地域金融機関がDX支援を担う強みだと考えています。
システム改革は、業務全体の意識改革に繋がっている
――導入後の実務においては、どのような変化がありましたか?
吉武: はじめは、これまでのやり方を変えて、現場の方々もちゃんとスマホで入力してくれるかなと不安もありましたが、皆さん真面目な方で、使い方を説明したらしっかりとご対応くださっています。
三井:
ランニングコスト以上の価値があると感じています。
今までは例えば社員が「この現場で○○の仕事をしました」と言っても、数字には全然表 れなかったんです。それが今は案件番号を使うから、ある現場に3時間行ったとしたら、その案件の原価に3時間分が記録されるようになりました。そうすることで、コストが全部分かる。原価計算するにはとても便利です。これをもっと上手に使えれば、営業一人ひとりが、原価管理と利益率の出し方などをさらに改善していけるのかなと思います。
あと無駄な仕入れもなくなりましたね。仕入時に案件番号を紐づけるようになったので、一応これを仕入れておこうかな、とりあえず買っておこうか、というのが出来なくなったんですね。案件が決まってから仕入れないといけないので、きちんと必要なものだけを、とみんなの意識が変わりました。
ただ案件が終わった後に、今回の現場ではこれだけの利益があったなとか、ここを直したらもうちょっと利益が上がるなとか、反対に失敗して下がったねとかを必ず振り返るようにしていかないといけないので、今後の改善のためには現場ごとの数字がもっと見やすくなるような仕組みにしていきたいとも考えています。kintoneの仕組みは、自分でやろうと思ったらできるのがいいところかな。
今までの仕事のやり方を変えるというのは、もちろん大変なこともありますが、いつか必ず乗り越えないといけないですからね。今は分岐点。私はこの会社をもっと会社らしくしたいから、新しいものも色々導入していきたいと考えています。
松浦: 新しい仕組みを始めてから現在で1年ほど経過し、データの履歴が溜まってきたことで、過去の同じような案件の時の見積もりや原価を見直しやすくな ったと伺っています。これまでは営業の方が内勤の方に依頼して、それを紙やデータで渡していたので手間も時間もかかっていましたが、これからはシステム上の履歴を自分で検索すれば、知りたい情報はすぐに閲覧できる状態になります。また例えば「この案件は過去が赤字だったから、今回は絶対赤字にならないように」といった注意喚起もできますね。
今回のシステム導入をきっかけに、個人や会社の力をもっと高めていきたい
――システムの導入が、利便性以上の成果を生み出しているんですね。今後についてはどのようにお考えですか?
三井: 弊社には営業職が10人ほどおりますが、みんなが個人商店なんですよ。基本的には自分で見積・職人手配・工事の進捗管理・出来高請求処理までしています。だけどやっぱり会社は一つじゃないといけないっていう考えもあるんです。新しい人と中間とベテランとによって、やり方とか考え方にいろんな違いが出てきてるので、その辺りは均等に、同じようなレベルに持って行きたいという思いがあって。それをシステム無しで、言葉だけで指示するのはなかなか難しいですよね。みんなが同じように使えるシステムを作ったうえで、もっとより良いやり方に変えていけるのが理想ですね。
営業職のモチベーションはとても高く、素晴らしいです。その頑張りをしっかりと数値化して見ていくことで、今後は、儲けたらうれしいねという気持ちをもっとたくさん感じて欲しいかな。交渉や工夫を重ねたことで、利益がどれほど生まれたかという喜びが、次への活力になると考えていますので。それに数字が見えると評価もしやすいので、これからは頑張ったことがより認められやすくなると思います。
そのためにも、個人個人が自分の案件の数字をしっかり把握して、予定している採算とずれてるな、だったら何かしら対応しないといけないなっていうところも出来るようにしていきたいです。
まあまずは今のシステムを順調に理解して、もっと使いこなせるようにしていくことが大事。
西村: kintoneを導入したことで、皆さんがどの現場で何を何時間したかを日報として入力するルールができました。これにより案件ごとの原価計算が可能になったので、個人の原価への意識が高まっており、それが利益管理へとつながっています。
今後は会社の利益が上がっているということの可視化をもっとしていけたら、と。帳票を活かして、現場の方々にももっと色々な成果を見せていけたらと思います。
そしてこれまで紙で社内回覧していらっしゃったものを、kintoneで新しく作る機会も出てきています。少しずつkintoneを使って行う業務を広げていくことにも取り組んでいきたいですね。
松浦: システム導入が終わりではなく、使いこなしていくことで会社としての組織力は向上していくと考えています。幸和さんの「会社としてのビジネスモデル」をより強固にするお手伝いを伴走型で継続していきます。そして、その土台が次世代の発展に繋がるように、しっかりと固めていきたいです。