業界未経験者を1年で外勤監査担当に 成長著しい事務所が実践する人材育成術

伊藤会計事務所 所長 伊藤桜子さん(画面中央)
相良義則さん(画面左)田中さん(画面右)

課題
月次決算を早期化し事業の意思決定スピードを上げたい

会計業界の未経験者を1年で外勤監査担当に育て上げ、顧問先に財務のアドバイスができるレベルに成長させる。そんな人材の育成に力を入れているのが、伊藤会計事務所(福岡県福岡市)です。


新卒入社から3年半にして顧問先から絶大な信頼を勝ち取っている田中さん、その上司の相良義則さん、所長の伊藤桜子さんに人材育成をテーマに話を伺いました。


上司や先輩のフォローを受け入所1年で外勤監査担当に

――田中さんの業務内容について教えてください。

田中さん(以下、田中): 私は新卒として伊藤会計事務所に入所して、3年半になります。2年目からは外勤監査担当として活動し、今は約25社のお客様にサービスを提供をしています。


具体的には、毎月の試算表報告や決算申告書の作成が主な業務です。伊藤会計事務所の特徴でもあると思いますが、顧問先であるお客様の利益に貢献できるよう、月次試算表の早期提供、クラウドツールなどを活用した決算予測・キャッシュフロー予測などに力を入れています。


――入所して3年半とのことですが、田中さんの活動を事務所はどのように後押ししているのでしょうか?

田中: 入社した当初からメンターがついて、一から業務を教えていただきました。わからないことは、自分でも調べながら業務を行っていますが、先輩や上司にチェックや確認をしていただいたり、相談しながら進めています。うちの事務所にはスタッフの困りごとを引き受けてくれる土壌がありますし、相談できる頼りになる先輩がたくさんいて助かっています。


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――内勤から外勤の担当者になったときに不安はありませんでしたか?

田中: お客様先に出るようになった当初は、1時間の面談予定なのに30分くらいしか会話が続かなくて悩んだ時期もあります。そんな時、まずは相手が何を考えているのか何を望んでいるのかをしっかり把握するように、といった指導を受けました。


毎週の所内会議では、面談時の内容を報告し、先輩方からアドバイスを受けることも多いです。自分の報告内容だけでなく他の人の報告内容からも多くの気づきや学びがあります。


――顧問先への対応で、こだわっている点があれば教えてください。

田中: お客様からは毎月、多額の顧問料をいただいているので、それに見合う仕事をしなければならないという意識で業務を行っています。そのために事前準備をしっかりとやっています。時には、上司や先輩に頼んで、お客様を想定したロールプレイングをしてもらうこともあります。


数字に興味を示すよう顧問先を導いていく

――作成した財務諸表を提示したとしても、数字に苦手意識を持つ経営者もいると聞きます。そのような方にはどういう風に接していますか?

田中: 例えば面談頻度が少ないお客様の中には、毎月毎月、数字を見る必要はないとお考えの方がいらっしゃいます。そういうお客様にも「毎月、見てください」と根気強くお伝えし、お客様が何を知りたいのか、例えば納税額なのか売上の推移なのか、関心を持たれるポイントを知ることが重要だと考えています。


試算表だけでなく、領収書や請求書にすべて目を通し、「このお客様はここの数字が大きいので、今回はここをメインに話そう」とか頭の中でシミュレーションしながら、試行錯誤を繰り返しています。


そうするとお客様も徐々に数字に興味を持つようになり、「ここの勘定科目の金額はちょっと多すぎないかな」などと私に聞いてくるようになるんです。もっと打ち合わせの回数を増やしたいからと、契約内容を上位プランに変更したいただくことも多々あります。


契約内容変更のカギは事前の合意形成

――貴事務所では、契約内容の変更交渉も外勤担当者の方が行うと伺っていますが、契約内容の見直しについてお客様と話をする際に、大事にしていることはありますか?

田中: 顧問料を上げるか上げないかに関わらず、年に一度の決算のタイミングで「今、年商がいくらで顧問料はいくらです。年商がいくらに達したら顧問料はこのくらいになります」という話を事前にしています。


――顧問料はどういう基準で決まるのでしょうか?

田中: 私たちの事務所ではお客様と契約を結ぶ際に、面談の頻度と年商によって顧問料が決まる、ということを説明します。顧問料が上がるのは年に一度の決算月で、前年の年商をもとに料金を見直します。


また当事務所の業務量が増えたり、お客様のほうで店舗や部門が増えた場合などにも顧問料を見直すことがあります。はじめに契約を結ぶ際に、こうしたことを契約書の中に明記しているので、値上げをお願いする場合でもほとんどのお客様に納得していただけます。


顧客対応の質は事前準備で誰でも底上げできる

――田中さんのような外勤監査担当の仕事は、向き不向きがあるのでしょうか?

伊藤桜子所長(以下、伊藤): もちろん人によって成果に差は出ますが、仕事に対する責任感や熱意があれば、基本的には誰にでもできることだと思います。自分には経験が足りないとか、知識が不足しているとか、コミュニケーションスキルに自信がないといった心配があるのなら、事前準備を丁寧に行うことが大切です。事前準備がすべてだと言っても過言ではありません。


相良義則さん(以下、相良): 私たちはお客様の1枚1枚の領収書を見られる立場にあります。言い換えれば、いちばん小さな取引の内容を把握できるのです。そういう意味では、お客様に関心を持ってもらえる話題には事欠かないはずです。社長は同じゴルフコースばかりに行くとか、同じ飲食店に通い続けているとか、話題はいくらでも出てきます。


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月次早期化で顧問先の利益増大に貢献する所員を育成

――貴事務所では、顧問先の月次決算の早期化を大切にしていると伺いました。ベテラン所員でも新卒入社の所員でも、誰がやっても一定の水準以上の付加価値を感じてもらうために、月次決算の早期化が重要だと考えておられるのでしょうか?

相良: 私たちが月次決算を早期化させるのは、お客様の利益に直結するからです。数字(月次決算)の早いところとそうではないところでは、利益率が全然違います。単に経営判断が早くなるという側面もありますが、数字が早いということはその企業自体が整理整頓できていると言えます。物理的な資料だけでなく情報やデータも整理されると、ムダが排除され、経営は効率化します。


私たちは数値の早期化というものをきっかけに、企業の業務改善のお手伝いをしているとも言えます。


またお客様に数字に興味を持っていただくようにコミュニケーションを図っていくことで、面談の頻度が上がり、結果として顧問料が上がることにもつながります。


月次決算を早期化しやすい点でfreeeを評価

ーーどんな点を評価してfreee会計を導入したのでしょうか?

相良: 繰り返しになりますが、月次決算を早期化しやすい点を評価しました。バックオフィスだけではなくフロント業務との連携も視野に入れた時、ものすごく生産性が上がり、常に利益を出し続ける企業が作れると信じています。


伊藤: リアルタイムな数字を会計事務所が作るだけでなく、クラウド会計ソフトなのでお客様にもリアルタイムに見ていただけるところが大きな価値だと思っています。


――freeeによる月次決算の早期化は、はじめから上手くいったのでしょうか?

伊藤: freeeを導入した当初は、今ほど上手くはいってなかったと思います。どの会計事務所も陥りがちだと思うのですが、最初は普通の会計ソフトの延長というか、同じようなものだと捉えていたので、freeeの良さを活かした使い方になっていなかったのです。


freeeを使うなら、導入する時から設計を考えて、いかに効率化するかというところできちんと仕組みを整えることが大切です。実際、freeeについて多く研修を行い、「こういう設計の会計ソフトなんだ」とか「こういう使い方をしなければいけないんだ」ということが浸透したくらいから上手くいくようになったと思います。


――当初は上手くいかなかったfreeeの導入ですが、どのようにして習熟を進めたのでしょうか?

伊藤: まずはfreeeに精通したスタッフを一人、集中的に育成しました。freeeを使うお客様はそのスタッフに担当してもらい、ノウハウを蓄積していったのです。先行してすごくよくできる人を育て、そこから周りに伝播していくかたちにしました。今はfreeeに精通した人が何人もいるので、その人たちに教育係をしてもらっています。


――これからfreeeを導入しようとしている会計事務所は、ファーストステップとして何をすればよいでしょうか?

伊藤: 現状、freeeの良さを活かしきれていない会計事務所もあると思います。まずはfreeeを理解するところから始めるのがよいと思います。そのために私たちにとって有効だったのは、認定試験の「freee会計エキスパート」を利用したことです。それが習熟を進めるうえでいちばんの近道だと思います。


認定試験に挑戦する中で「freeeが大好き!」という人が必ず出てきますので、その人を中心に周りに浸透させていくと良いと思います。


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――5年後、10年後に向けて事務所をどうしていきたいですか?

伊藤: AI(人工知能)やChatGPTなどが巷で話題になっていますが、今後、私たち会計事務所が価値を提供する方法が劇的に変わっていくと思います。


私たちは変化に強い事務所というか、常に新しいことに取り組んでいて、変化を楽しみながら課題解決をする文化を大事にしています。


特にここ数年、採用活動に力を入れて毎年増員していっていますが、そうした取り組みに共感してくれる仲間をもっともっと増やしていきたいなと思います。




伊藤会計事務所が所在する福岡県には、すばらしい企業がたくさんありますが、まだまだ紙文化が残っていると言います。紙をデータ化し、クラウドツールにより経営効率を高めることで、いかに地域に根ざす企業の持続可能性を高めるのか、freeeはその後押しをしていきます。


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