監修 松浦絢子 弁護士
両立支援等助成金とは、仕事と家庭を両立できる環境作りに取り組む事業主を支援する制度です。育児休業や介護休業の取得促進などの種類があります。
両立支援等助成金の要件を満たす環境を作れば、働きやすい職場を整えられるでしょう。また、助成金を受けることによる費用面以外のメリットもあります。
本記事では、両立支援等助成金の概要やコースの種類、申請するメリットや注意点を解説します。
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目次
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金は、働きながら子育てや介護を行う労働者が働き続けやすい就業環境を整備している事業主に対して支給する助成金です。
両立支援等助成金は、労働者の雇用の安定化を目的に、誕生しました。職業生活と家庭生活が両立できる職場環境づくりを目指し、働きやすい職場づくりをフォローするための制度です。
両立支援等助成金の4つのコース
両立支援等助成金には4つのコースがあります。
両立支援等助成金の4つのコース
● 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)● 育児休業等支援コース
● 介護離職防止支援コース
● 不妊治療両立支援コース
①出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
出生時両立支援コースは、育児休業を取得しやすい環境を整備している中小企業事業者に向けた助成金です。男性労働者が育休を取得しやすい雇用環境や業務体制を整備する目的で創設されました。
当コースは育児休業取得時に支給される第1種と、取得率が上昇したときに追加で受給できる第2種に分かれます。支給金額や主な要件は以下の通りです。
支給金額 | 主な要件 | |
第1種 | 20万円 ・代替要員加算:20万円(代替要員を3人以上確保した場合は45万円) ・育児休業等に関する情報公表加算2万円 | ・男性が育児休業を取得しやすい環境整備の措置を複数用意していること ・子の出生後8週間以内に連続5日以上の育児休業を取得した男性がいること ・育児休業制度を、就業規則や労働協約に定めていること |
第2種 | 第1種の受給後、 ・1事業年度以内に30ポイント以上上昇:60万円 ・2事業年度以内に30ポイント以上上昇等:40万円 ・3事業年度以内に30ポイント以上上昇等:20万円 | ・第1種を受給していること ・3事業年度以内に育児休業取得率の数値が30ポイント以上上昇したこと |
第1種は、環境を整備したうえで、実際に男性が育児休業を取得したときにもらえる助成金です。育児休業中に代替人材を新たに確保した場合、最大45万円が加算されます。
さらに、育児休業の取得状況を公表した場合、2万円追加で支給されます。
第2種は、育児休業を取得した男性が増えたときに支給される助成金です。もとの育児休業支給率から比較して、30%以上上昇すると要件を満たし、上昇にかかった期間によって支給額が変わります。
それぞれ、1事業者につき1回限り受給できます。
②育児休業等支援コース
育児休業の円滑な取得、職場復帰の取り組みを行った事業主が対象となるのが、育児休業等支援コースです。育休を取得した労働者がいる場合や、代替労働者を確保し、原職(離職前の職業)に復帰させた中小企業事業主に支給されます。
支給金額や主な要件は以下の通りです。
支給金額 | 人数制限 | 主な要件 | |
育休取得時 | 30万円 | 有期雇用者・無期雇用者各1回 | ・労働者と面談を実施し、プランを作成すること ・連続3ヶ月以上の育休を取得させること |
職場復帰時 | 30万円 | ・プランに基づき、情報・資料を提供すること ・育休終了前に面談を実施し、結果を記録すること ・原職等に復帰させ、6ヶ月以上継続雇用すること | |
業務代替支援 | A)新規雇用:50万円 B)手当支給など10万円 ※有期雇用労働者の場合10万円加算 | A/Bあわせて1年度10名まで | ・育休終了後に原職等に復帰させると就業規則などで規定すること ・育休中に代替要員を新たに確保するか、業務を見直して周囲の社員でカバーさせること ・原職等に復帰させ、6ヶ月以上継続雇用すること |
職場復帰後支援 | 導入時:30万円 制度利用時: A)⼦の看護休暇制度1,000円×時間 B)保育サービス費用補助制度実費の2/3 | 導入時1回 制度利用は申請日から3年以内5人まで ※上限あり | ・育児・介護休業法を上回る「⼦の看護休暇制度(有給、時間単位)」または「保育サービス費用補助制度」を導⼊していること ・育休復帰後6ヶ月以内に一定以上制度を利用した実績があること |
上記のほか、育休の取得状況を公表した場合、2万円が支給されます。なお、出生時両立支援コースの対象となった労働者を支援した場合、助成金の併給はできません。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大にあたり、特例があります。学校の臨時休業時に利用できる支援制度や休暇制度を整備し、育児・介護休業の利用者が生じた場合、1人あたり10万円が支給されます。
新型コロナウイルス感染症対応特例は、中小企業事業主に限らずすべての事業主が対象です。
③介護離職防止支援コース
介護休業の円滑な取得や、職場復帰の取り組み・介護のために柔軟な就労形態制度の導入などを行い育児・介護休業利用者が生じた事業主に支給されるのが、介護離職防止支援コースです。
支給金額や要件は以下の通りです。
支給金額 | 主な要件 | |
介護休業取得時 | 30万円 | ・労働者と面談を実施し、プランを作成すること ・合計5日以上の休業を取得させること |
職場復帰時 | 30万円 | ・休業取得時の対象である労働者に対して、面談を実施し、結果を記録すること ・原職等に復帰させ、3ヶ月以上継続雇用すること |
介護両立支援制度 | 30万円 | ・労働者と面談を実施しプランを作成すること ・介護両立支援制度を20日以上利用すること ・申請日まで、継続雇用していること |
それぞれ、1年度5名まで支給の対象です。
介護休業期間中に代替要員を確保した場合は20万円、周囲の社員に手当などを支給してカバーさせた場合は5万円加算されます。また、制度の説明を対象者に行った場合や、制度を2つ以上導入した場合には、さらに15万円支給されます。
介護離職防止支援コースにも新型コロナウイルス感染症対策特例がありますが、こちらは中小企業事業主のみ対象です。
④不妊治療両立支援コース
不妊治療と仕事の両立ができる職場環境制度を導入し、労働者に使用させた中小企業事業主に支給するのが、不妊治療両立支援コースです。
不妊治療のための休暇制度を導入し、制度を5日以上利用した労働者が出た場合に30万円が支給されます。さらに、不妊治療休暇を20日以上連続して取得した場合に、30万円が加算されます。
それぞれ、1事業者に対して受給は1回限りです。
両立支援等助成金の申請方法
各助成金の申請先と提出期限を紹介します。
コース名 | 申請先 | 申請期限 |
出生時両立支援コース | 労働局雇用環境均等部 | 第一種:育休終了日の翌日から2ヶ月以内 第二種:育児休業取得率が上昇した事業年度の翌年度開始日から6ヶ月以内 |
育児休業等支援コース | ・育休取得時:育休開始日から3ヶ月経過した日の翌日から2ヶ月以内 ・職場復帰時・代替雇用:育休終了日の翌日から起算して6ヶ月経過する日の翌日から2ヶ月以内 | |
介護離職防止支援コース | 休業取得時:介護休業取得日数が合計5日になった日の翌日から2ヶ月以内 職場復帰時:介護休業終了日の翌日から3ヶ月経過した日の翌日から2ヶ月以内 両立支援制度:利用実績が20日を経過した翌日から1ヶ月経過した日の翌日から2ヶ月以内 | |
不妊治療両立支援コース | ・休暇、制度利用期間が合計5日になった日の翌日から2ヶ月以内 ・長期休暇加算は連続20日以上休暇を取得し復帰した日から3ヶ月経った日の翌日から2ヶ月以内 |
郵送する場合は、期限内必着です。郵送済みでも届いていない場合は期限遅れになってしまうため、注意しましょう。
なお、コースや対象となる条件により、必要書類が異なります。厚生労働省が資料を提供しているので、必ず確認し、もれなく準備を進めてください。
両立支援等助成金を申請する企業のメリット
両立支援等助成金を申請するメリットは、助成金がもらえるだけではありません。具体的には、以下のような点もメリットです。
申請のメリット
● 制度を整えることで人材の離職を防げる● 採用活動で有利になる
● 株主などへの対外的なアピールになる
両立支援等助成金を申請するときの注意点
両立支援等助成金を申請するには、注意すべき点があります。
申請の注意点
● 事業主単位の支給である● 休業を始める前に社内制度を整える必要がある
● 受給には時間を要する
● 各コースの必要項目が異なるため、入念な準備が必要
事業主単位での支給である
両立支援等助成金は事業主単位の支給であり、事業所単位ではありません。支給を受けられるのは原則、中小企業事業主に限られる点も注意が必要です。
中小企業事業主に該当する条件は、以下にまとめました。
小売業・飲食業 | 資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者数が50人以下 |
サービス業 | 資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者数が100人以下 |
卸売業 | 資本額または出資額が1億円以下、または常時雇用する労働者数が100人以下 |
その他 | 資本額または出資額が3億円以下、または常時雇用する労働者数が300人以下 |
なお、新型コロナウイルス感染症対応特例は、中小企業以外も対象です。
休業を始める前に制度を整える必要がある
助成金を申請するには、育児休業を始める前に労働協約や就業規則に、運用ルールを明記しなければいけません。「育児・介護休業法の内容による」との委任規定だけでは不十分です。就業規則に休業制度の内容を具体的に明記する必要がある点に注意が必要です。
介護休業の場合は、介護支援プランを作成しなければいけない点も理解しておきましょう。
受給には時間を要する
助成金を申請してから振込までは、概ね2〜3ヶ月と言われています。ただし、助成金によってはさらに時間がかかる場合があるため、注意が必要です。
助成金に頼らない資金繰りを検討しておきましょう。
各コースの必要項目が異なるため入念な準備が必要
両立支援等助成金は、コースによって必要な書類が異なります。それぞれ提出書類が多いため、事前に確認して誤り・漏れがないように、準備を進めてください。
なお、書類に不備があった場合の補正期間は1週間しかありません。内容もしっかりと確認し、提出前に入念な準備をしておきましょう。
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まとめ
育休休業や介護休業、不妊治療休暇をとれるように仕組みを整備した事業主に支給されるのが、両立支援等助成金です。資金面だけでなく、離職防止や採用へのアピールにもなるメリットもあるため、積極的に活用するとよいでしょう。
ただし、両立支援等助成金を申請するには、多くの書類提出が求められます。社内制度を事前に整えないと受給要件を満たさないなど、注意点もあるので事前に確認し、準備を進めましょう。
よくある質問
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金とは、働きながら子育てや介護を行う労働者が働き続けるための就業環境を整備している事業主に支給する助成金です。4つのコースが用意されています。
両立支援等助成金を詳しく知りたい方は、「両立支援等助成金とは」をご覧ください。
両立支援等助成金を申請するときに注意すべき点は?
コースや職種・事業主などによってそれぞれ要件が異なる場合があります。また、制度を事前に整えたり、申請内容に応じた書類を用意したりする必要があるため注意しましょう。
両立支援等助成金の注意点を詳しく知りたい方は「両立支援等助成金を申請するときの注意点」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。