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未払賃金を請求する方法は?従業員の権利と請求手続きの流れを解説

監修 松浦絢子 弁護士

未払賃金を請求する方法は?従業員の権利と請求手続きの流れを解説

事業主には、労働の対価として賃金を支払う義務があり、給与の未払いは労働基準法違反にあたります。

未払賃金が発生した場合、労働者は過去3年にさかのぼって支払いを請求することが可能です。

本記事では、給与未払いの違法性と従業員の権利支払いを請求する際の手段と必要な証拠を解説します。

また後半では取引先に請求する際の注意点についても解説しているので、未払賃金に関する悩みを持っている人は、ぜひ参考にしてください。

目次

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未払賃金とは

未払賃金とは、あらかじめ労働契約や就業規則で決まっている賃金のうち、所定の支払日に支払われないものを指します。未払賃金の対象となるのは、以下のような賃金です。

未払賃金の対象となる賃金

● 定期賃金(毎月の給料)
● 退職金
● 賞与・ボーナス
● 休業手当
● 割増賃金
● 年次有給休暇の賃金
出典:厚生労働省 東京労働局「未払賃金とは」

たとえば、以下のような場合に未払賃金が発生します。

未払賃金が発生するケースの例

● 定期の支払日に給料が支払われない
● 一方的に給料から罰金が差し引かれている
● 最低賃金を下回る給料が支払われている

給料未払いは労働基準法違反

労働基準法第24条では、事業主には労働の対価として賃金を支払う義務があると定められています。つまり、給与の未払いは労働基準法違反となる行為です。

給与支払いの義務

1 賃金は通貨で、直接労働者に全額を支払わなければならない
2 賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない
出典:e-Gov法令検索「労働基準法第二十四条(賃金の支払い)」

上記に違法した場合は、労働基準監督署による取り締まりの対象となり、30万円以下の罰金が課されます。

労働基準法上の「賃金」とは、使用者が労働の対価として労働者に支払うものすべてです。正社員への給与だけでなく、パート代・アルバイト代も賃金に含まれます。

また、労働者が退職した場合、事業主は労働者からの請求より7日以内に賃金を支払わなくてはなりません。

給料未払いに対する従業員の権利

労働者は、労働の対価である給与を受け取る権利をもちます。

労働基準法上の「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者です。つまり、給与の未払いが起きた場合、正社員・パート・アルバイト・契約社員などの雇用形態にかかわらず、賃金の支払いを請求できます。

未払賃金請求の時効は、3年間(当分の間)です。従来は2年間とされていましたが、2020年に労働基準法が改正され、過去5年(当分の間は3年)にさかのぼって賃金を請求できるようになりました。

なお、雇用契約を結ばず「業務委託」で仕事をした場合も、雇用契約と評価される場合には賃金として請求できる場合があります。

未払賃金請求の手続きの方法と証拠になり得る資料

未払賃金があるときは、最初に、未払いとなっている賃金の種類や金額、支払いの根拠となる社内規則の内容を確認します。

未払賃金請求時に証拠となる資料の例

● 就業規則
● 賃金規定
● 労働契約書
● 給与支給明細書
● 離職票
● 退職証明書
● タイムカード
● 勤務時間を記録したメモ
証拠となる資料を集めたうえで、以下のような対応を検討しましょう。

未払賃金請求の流れ

1 会社に未払賃金の支払いを請求する
2 労働基準監督署に相談する
3 裁判所に訴訟や労働審判等の申立てをする

1 会社に未払賃金の支払いを請求する

会社との話し合いの場を設け、直接交渉しても賃金が支払われない場合、まずは内容証明郵便などで、支払いの請求書を郵送しましょう(※)。
(※)内容証明郵便とは、誰が誰にいつどういった内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれるサービスです。

内容証明郵便を送ることで、仮に裁判になった際、労働者側の意思や請求内容などを立証できます。法的手段に出るという意志を示すだけでも、未払分を支払ってもらえることもあるでしょう。

また、会社に未払賃金に関する確認書(未払労働債権確認書)を作成してもらうことも有効です。未払賃金に関する確認書とは、未払いとなっている賃金の内容や金額を記した書類のことをいいます。こちらも法的手段をとるときや、未払賃金立替払制度を申請するときに利用できます。

なお、個別ではなく労働組合で対応するなど、賃金の支払いを交渉する際は従業員がまとまって行動するのもひとつの方法です。

2 労働基準監督署に申告する

労働基準監督署に申告すれば、賃金未払いについて調査し、行政指導や勧告をしてくれる場合があります。

あらかじめ証拠となる資料を用意し、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に申告しましょう。相談窓口や労働基準監督署の情報は、厚生労働省の労働条件に関する総合情報サイトで調べられます。

ただし、労働基準監督署による行政指導や勧告に法的な拘束力はないため、解決できるとは限りません。事業主が行政指導や勧告に従わない場合は、法的な手段も検討しましょう。

③裁判所に支払督促や労働審判の申立てをする

未払賃金が発生したとき、裁判所を通じて行える主な手続きには、以下のような手段があります。通常の民事訴訟と比べて手数料が安く、簡易・迅速に未払賃金問題の解決を図れる手段です。

法的な手続き概要
支払督促裁判所書記官が、書面審査のみで金銭の給付を命じる手続き
少額訴訟原則として審理を1回で終わらせ、その場で判決を出す訴訟(60万円以下の金銭の請求が対象)
民事調停調停委員会(裁判官と2人以上の調停委員で構成)が話し合いで解決を図る手続き
労働審判労働審判委員会(裁判官と労働関係の専門家である労働審判員2名で構成)が、原則3回以内の期日で審理し、解決を図る手続き

出典:厚生労働省 東京労働局「会社が存続している場合の労働債権確保」

支払督促・少額訴訟・民事調停は、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所を通じて行います。解決できなかった場合は、通常の訴訟に移行する場合があります。

労働審判は、地方裁判所を通じて行う手続きです。3回までの審理で調停を試み、まとまらない場合は労働審判(解決を図るための判断)がなされるため、迅速な解決が期待できます。

ただし、労働審判に対して2週間以内に異議の申立てがあれば、訴訟手続きに移行します。

上記のような法的手段をスムーズに進めるためにも、①②で解決しなかった場合は一人で悩まず弁護士などに相談しましょう。

未払賃金を請求する際の注意点

給与未払いが発生しているけれどそのままにしていると、時効によって支払いを請求できなくなる可能性があります。未払賃金を請求する際は、以下の注意点をおさえておきましょう。

未払賃金を請求する際の注意点

● 未払賃金請求は3年で時効を迎える
● 支払いの勧告をすれば時効が6ヶ月間中断する

未払賃金請求は3年で時効を迎える

未払賃金を請求する権利は、支払期日から5年(当分の間は3年)を経過すると消滅します。時効を迎えた場合、請求しても支払ってもらえない可能性があります。

これまで未払賃金請求の時効は2年でしたが、2020年の労働基準法の改正によって5年(当分の間は3年)に延長されました。

時効が延長されたのは、毎月の賃金・休業手当・割増賃金・年次有給休暇中の賃金などです。

また、付加金の請求期間も2年から5年(当分の間は3年)に変更されました。付加金とは、労働者からの請求で、裁判所が事業主に対し、未払賃金に加えて支払いを命じられるお金です。付加金請求の対象となるのは、以下の賃金に限ります。

付加金請求の対象となる賃金

● 解雇予告手当
● 休業手当
● 割増賃金
● 年次有給休暇中の賃金
出典:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されます」

なお、退職金請求権の時効は従来から5年であり変更はありません。

支払いの勧告をすれば時効が6ヶ月猶予される

一時的に時効を止めるのに有効な方法は、会社への「支払いの勧告」です。

未払賃金請求の準備をしている間も時間は経過し、時効を迎えると請求できません。裁判所に対して訴訟提起すれば、その訴訟等が終了するまで時効を止めることが可能です。しかし、訴訟を起こすための準備に時間がかかる場合もあります。

時効が迫っている場合、会社に支払いの勧告をすれば、時効を6ヶ月間止められます(時効の完成猶予)。「支払いの勧告」の代表的な方法は、未払賃金の支払いの請求書を内容証明郵便で送付する方法です。

ただし、6ヶ月間を経過すると時効期間は再び進むので、猶予期間中に訴訟を提起する、労働審判を起こすなど時効の中断(更新)をする措置を取らなくてはなりません。

なお、支払いの勧告によって時効の完成猶予の効果が得られるのは1回だけです。

会社が倒産したときは「未払賃金立替払制度」の利用を検討する

未払賃金がある状態で会社が倒産したときは、「未払賃金立替払制度」の利用も検討しましょう。

未払賃金立替払制度は、倒産した企業の代わりに未払賃金の一部を支給する制度です。以下の要件を満たす場合に立替払が受けられます。

未払賃金立替払制度の要件

● 使用者が1年以上事業活動を行っており、倒産した
● 労働者が、裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)または労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職した者である
倒産には、「法律上の倒産」と「事実上の倒産」があります。

法律上の倒産● 破産
● 特別清算
● 民事再生
● 会社更生
事実上の倒産(中小企業事業者のみ)(※)事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない場合

出典:厚生労働省「未払賃金立替払制度の概要と実績」
(※)中小企業事業主とは、資本額または出資の総額、常時使用する労働者数が一定以下の事業主を指します。

法律上の倒産の場合は、破産管財人等による倒産事実等の証明、事実上の倒産の場合は、労働基準監督署長の認定がそれぞれ必要です。

未払賃金立替払制度で立替払される額は、未払賃金額の8割です。ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の間で上限が決まっています。

退職日の年齢未払賃金総額の限度額立替払上限額
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

出典: 独立行政法人 労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」

立替払の対象となるのは定期賃金(税金や社会保険料等を控除する前の額)と退職手当で、ボーナスは対象外です。

ただし、退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに、支払期日が到来しているものに限ります。また、未払賃金の総額が2万円未満の場合は立替払の対象にはなりません。

会社が倒産したときは「未払賃金立替払制度」の利用を検討する

出典:独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」

未払賃金立替払制度の利用を検討している人は、お近くの労働基準監督署に相談しましょう。

厚生労働省の「未払賃金立替払事業(令和4年度)の実施状況について」によると、令和4年度には14,203人に対して立替払が実施されました。立替払額は48億5,600万円にのぼります。

まとめ

事業主は、毎月1回以上、通貨で直接労働者に全額を支払わなくてはなりません。給与の未払いは労働基準法違反にあたり、労働基準監督署による取り締まりや罰則の対象となります。

給与の未払いが発生した場合、労働者は、雇用形態にかかわらず賃金の支払いを請求できます。会社に交渉しても支払われない場合は、労働基準監督署に申告する、督促や労働審判などの法的な手段も検討しましょう。

未払賃金請求の時効は、5年間(当分の間は3年間)です。未払賃金で困っている人は、一人で悩まず早急に労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。

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よくある質問

未払賃金とは?

未払賃金とは、あらかじめ労働契約や就業規則で決まっている賃金のうち、所定の支払日に支払われないものです。

事業主には、労働の対価として賃金を支払う義務があり、支払わない場合は労働基準法違反となります。未払賃金請求の時効は、5年間(当分の間は3年間)です。

未払賃金の概要を詳しく知りたい方は「未払賃金とは」をご覧ください。

給料未払いを請求する流れは?

未払賃金の請求は、証拠となる資料を集めたうえで以下の流れで進めましょう。

未払賃金請求の流れ

1 会社に未払賃金の支払いを請求する
2 労働基準監督署に申告する
3 裁判所に支払督促や労働審判の申立てをする


給料未払いを請求する流れを詳しく知りたい方は「未払賃金請求の手続きの方法と証拠になり得る資料」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子