監修 内山 貴博 1級FP技能士・CFP
ユニコーン企業とは、設立年数が短く企業価値の高い未上場ベンチャー企業のことです。2022年9月時点で世界中に1,400社以上が存在します。しかし、日本のユニコーン企業はまだわずかです。
本記事では、ユニコーン企業の定義や世界で増加している理由、日本の企業が少ない理由を解説します。ユニコーン企業を増やすための日本の取り組みも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
ユニコーン企業とは?
ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上、かつ設立10年以内の未上場ベンチャー企業です。つまり、設立年数が浅く上場していないにもかかわらず、企業価値の高い企業を指します。
また、企業価値が100億ドル以上の未上場企業は「デカコーン」、1,000億ドル以上の未上場企業は「ヘクトコーン企業」と呼ばれます。ユニ(uni)は1、デカ(deca)は10、ヘクト(hecto)は100を表すことから造られた言葉です。
ユニコーン企業の条件
ユニコーン企業は、次の4つの条件をすべて満たす企業です。
ユニコーン企業の条件
● 設立10年以内である● 評価額が10憶ドル以上である
● 上場していない
● テクノロジー関連の企業である
インターネット上で個人間売買ができるサービスを提供する「メルカリ」は、日本発のユニコーン企業として知られていました。しかし、2018年に東証マザーズに上場し、ユニコーン企業の定義から外れました。
ユニコーン企業の言葉の由来
「ユニコーン企業」は、2013年ごろに誕生した造語です。ベンチャー企業への投資を行う会社「カウボーイ・ベンチャーズ」の創業者である、アイリーン・リー氏によって名付けられました。
当時、評価額10億ドル以上、かつ設立10年以内の未上場ベンチャー企業はごくわずかでした。その希少性の高さから、伝説の生きものである「ユニコーン」にたとえられ、「ユニコーン企業」と呼ばれるようになったのが由来です。
世界でユニコーン企業が増え始めた背景
世界でユニコーン企業が増えている背景は、以下の通りです。
世界でユニコーン企業が増えている背景
● 資金調達がしやすくなった● 企業や事業立ち上げにかかるコストが減少した
ユニコーン企業の数がもっとも多い国はアメリカ、2番目に多い国は中国です。世界でユニコーン企業が増えている背景を以下より解説します。
資金調達がしやすくなった
企業が事業を成長させるためには、資金調達が欠かせません。従来は、上場して資金調達をするのが一般的でした。しかし近年はベンチャーキャピタルが普及し、上場しなくても資金調達ができるようになりました。
ベンチャーキャピタル(VC)とは、成長が見込まれる未上場のベンチャー企業に出資する投資会社です。
アメリカの調査会社の報告によると、アメリカのベンチャーキャピタルによる投資総額は、2021年に過去最高の3,153億ドルを記録しました。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「米国の2022年のVC投資は前年比37%減も、フロリダなど一部州では増加傾向」
また、大企業がスタートアップ企業(※)を積極的に買収していることも、ユニコーン企業の誕生につながっています。
※ 短期間で急激に成長する企業を指します。
起業や事業立ち上げにかかるコストが減少した
起業、事業立ち上げに要するコストの減少も、ユニコーン企業が増えている理由のひとつです。
IT技術の進化でインターネットやクラウドサービスが普及し、従来と比べて起業や事業立ち上げの際の、初期投資コストがかかりにくくなりました。この影響で、IT関連のベンチャー企業から、ユニコーン企業が誕生しやすくなっています。
また起業形態もさまざまで、個人でも起業への一歩を踏み出しやすくなっています。
起業については起業するにはどうしたらいい?会社を起業する方法や手続きについてわかりやすく解説を参照してみてください。
日本にユニコーン企業が少ない理由
世界のユニコーン企業が増え続けているなかで、日本でユニコーン企業が増えない理由は、主に以下の2つです。
日本でユニコーン企業が少ない理由
● ベンチャー企業への投資額が少ない● 起業する人自体が少ない
しかし、日本のユニコーン企業は依然として10社ほどです。代表的な企業には、ディープランニングの活用などで世界の課題解決を目指す「Preferred Networks」、スマートフォン向けのニュースアプリを提供する「SmartNews」などがあげられます。
ベンチャー企業への投資額が少ない
日本でユニコーン企業が生まれにくい理由のひとつは、世界に比べてベンチャー企業への投資額が少ないためです。
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会の「日本経済再興のために」によると、ベンチャー企業への日本の投資額は年々増加しています。
2021年に大型の資金調達を行った企業上位5社の調達額が、100億円を超えている結果も出ています。
しかし、100億円を超えていてもアメリカやアジア圏と比べると、投資額は少ないのが現状です。
たとえば、インドのベンチャー企業への平均投資額は200億5700万ドル、中国は191億4500万ドルであるのに対し、日本は平均3億2800万ドルと大きな差が開いています。また、アメリカのベンチャー企業への投資額は日本の約45倍と、日本と他国の差は明らかです。
その結果、日本のスタートアップ企業がグローバルな成功を収めることや、市場価値を急速に高めることが難しくなっています。
日本でユニコーン企業をさらに生み出していくためには、投資環境や資金供給のさらなる拡大が必要となるでしょう。
起業する人自体が少ない
日本は起業しやすい環境が整っておらず、そもそも起業家が少ないことも、ユニコーン企業が増えにくい原因のひとつです。
経済産業省委託調査として、みずほ情報総研株式会社が2020年に発表した「起業家精神に関する調査報告書」によると、アメリカの「事業機会認識指数」が67.2%であるのに対し、日本は10.6%にとどまります。アメリカ以外の主要国と比べても低い水準です。
「事業機会認識指数」とは、「今後6ヶ月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスが訪れると思いますか」の問いに対して「はい」と答えた成人人口の割合です。
日本では、以下のような理由から起業家が生まれにくい傾向があります。
起業家が生まれにくい理由
● 失敗への危惧● 身近に起業家がいない
● ほかの先進国と比べて起業家に対する社会的な評価が低い
● 大企業に人材が集中している
日本のユニコーン企業を増やす取り組み
日本政府は、ユニコーン企業を増やすための取り組みを進めています。政府は、「未来投資戦略2018」のなかで、「2023年までにユニコーン企業または創業10年未満の上場ベンチャー企業を20社創出する」という目標を掲げました。
出典:首相官邸「未来投資戦略2018」
背景にあるのは、日本が目指すべき新たな社会「Society 5.0」の実装への動きです。Society5.0の実現には、技術革新の担い手であるベンチャー企業の存在が重要な役割をもちます。
しかし日本発のユニコーン企業や上場ベンチャーはまだ少なく、「世界の成長に取り残されるのでは」と危機感をもたれているのが現状です。
そこでユニコーン企業や上場ベンチャー企業を増やすため、以下のような取り組みが進められています。
日本でユニコーン企業や上場ベンチャー企業を増やすための取り組み
● 海外進出支援の集中プログラム(J-Startup)● 起業家・スタートアップの成長支援
● 海外起業家の呼び込み(起業準備のために最長1年間の在留期間を付与する措置など)
出典:一般社団法人日本経済団体連合会「スタートアップ躍進ビジョン ~10X10Xを目指して~」
目標を達成するため、以下のような取り組みを進めるとしています。
ユニコーン企業を増やすための取り組み
● 起業する際の手続きの簡便化やコスト削減● 支援体制の確立
● 起業マニュアルの提供
● 個人投資家算入のための環境整備 など
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まとめ
ユニコーン企業の定義は、「評価額10億ドル以上・設立10年以内の未上場ベンチャー企業」です。アメリカや中国には、多くのユニコーン企業が存在します。
しかし日本では、ベンチャー企業への投資額が少ない、そもそも企業する人自体が少ないなどの理由でユニコーン企業が増えにくく、まだ少数です。
昨今はユニコーン企業を増やすための支援やプログラムなどの取り組みが進められており、今後日本のユニコーン企業の増加も期待されます。
よくある質問
ユニコーン企業とは?
ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上、設立10年以内の未上場ベンチャー企業です。新興企業で上場していないにもかかわらず、企業価値の高い企業を指します。
ユニコーン企業の概要を詳しく知りたい方は「ユニコーン企業とは?」をご覧ください。
ユニコーン企業が日本に少ない理由は?
日本のユニコーン企業が少ない理由は、主に以下の2点です。
● ベンチャー企業への投資額が少ない
● 起業する人自体が少ない
日本にユニコーン企業が少ない理由を詳しく知りたい方は「日本にユニコーン企業が少ない理由」をご覧ください。
監修 内山貴博(うちやま たかひろ) 1級FP技能士・CFP
大学卒業後、証券会社の本社で社長室、証券業務部、企画グループで5年半勤務。その後FPとして独立。金融リテラシーが低く、資産運用に保守的と言われる日本人のお金に対する知識向上に寄与すべく、相談業務やセミナー、執筆等を行っている。
日本証券業協会主催「投資の日」イベントや金融庁主催シンポジウムで講師等を担当。
2018年に日本人の金融リテラシー向上のためのFPの役割について探求した論文を執筆。