公開日:2023/08/16
監修 岡崎 壮史 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP
従業員の子どもが3歳になるまでテレワークができることを、企業の努力義務とする案が検討されています。本記事では、背景や問題点などを解説します。
育児中にテレワークができれば、労働時間を減らさずに子育てと仕事の両立ができ、キャリア断絶防止につながるでしょう。
本記事では、現行の育児支援制度の内容を踏まえ、子どもが3歳になるまでテレワークできる環境整備が努力義務化される背景や、問題点などを解説します。
目次
厚生労働省が「子ども3歳までテレワーク」の努力義務化を検討
厚生労働省の検討会で、従業員の子どもが3歳になるまではテレワーク勤務が可能な労働環境の整備を、企業の努力義務とする案が提示されました。
仕事と育児の両立支援を目的とし、短時間勤務が困難な場合の代替措置としての役割を担うことも期待されています。
実際に、育児と仕事を両立させるため、下記のようにテレワークを活用した事例があります。
テレワーク活用事例
● 育児休業後、短時間勤務では育休前と同様の業務量を行えないため、「部分在宅勤務」を取り入れた● 会社での勤務と在宅勤務を組み合わせ、子どもの習い事などに対応できた
しかし上記のようなテレワークの活用によって、キャリア断絶の防止や従業員のモチベーション維持につながっていると考えられます。
3歳未満の子どもをもつ労働者が利用できる現行制度
以下の制度は、産後から子どもが3歳になるまで利用できる現行制度です。
3歳になるまで利用できる制度
● 育児休業制度● 短時間勤務制度
● 所定外労働(残業)の制限
育児休業制度
育児休業制度は、労働者の申し出により育児のために休暇を取得できる制度です。期間は、子どもが1歳(最長で2歳)の誕生日の前日までです。
対象となるのは、1歳未満の子を養育する男女労働者です。勤続年数1年未満の従業員など、労使協定がある場合は対象になりません。
「パパ・ママ育休プラス」という育児休業の特例もあります。両親がともに育児休業をするなど一定の条件を満たせば、1歳2ヶ月まで延長できます。
また保育所に入れないなど事情がある場合、1歳6ヶ月になるまで延長することも可能です。
短時間勤務制度
事業主は育児・介護休業法に基づき、労働者の申出により所定労働時間を短縮し、従業員が仕事と子育ての両立を容易にするための措置を講じなければなりません。
対象者は3歳未満の子どもを養育する男女労働者で、下記の条件をすべて満たす必要があります。
短時間勤務制度の適用条件
● 1日の所定労働時間が6時間以下でない● 日々雇用される者でない
● 短時間勤務が適用される期間に育児休業をしていない
● 労使協定により適用除外とされた労働者でない
労使協定で適用除外されるのは、勤続1年未満の労働者や、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者などです。
また短時間勤務制度の適用が難しい労働者に対しては、下記のいずれかの措置を講じる必要があります。
短時間勤務制度が適用できない場合の措置
● 育児休業に関する制度に準ずる措置● フレックスタイム制度
● 始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ(時差出勤制度)
● 事務所内保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
事業主は、短時間勤務制度を就業規則などに定め、制度化することが求められます。
所定外労働(残業)の制限
3歳未満の子を養育する男女労働者が申し出ることで、所定外労働(残業)が免除されます。
「所定労働時間」とは、事業所の就業規則で定められた、始業から終業までの時間です。たとえば、午前9時から午後5時までが所定労働時間の場合、この時間以外の労働を「所定外労働」といいます。
勤続年数1年未満の従業員や、週の所定労働日数が2日以下の従業員は、労使協定がある場合、残業の制限を申し出ることはできません。
このように、育児休業制度や短時間勤務制度、所定外労働を制限する制度は、労働時間を減らすことに重点を置いた内容です。
収入が減る不安や、仕事に時間を割けずにキャリアを断念してしまうリスクには、十分に対応できていないのが現状です。
「子ども3歳までテレワーク」の努力義務化の背景
従業員の子どもが3歳になるまでテレワーク勤務、を努力義務化する背景には、喫緊の課題「少子化問題」があります。
2022年の人口動態統計によると、出生数は過去最少の77万747人であり、初めて80万人を下回りました。
厚生労働省の資料によると、女性(正社員)が末子の妊娠で仕事を辞めた理由としてもっとも多いのが、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた(41.5%)」です。
離職者が仕事を続けるために重要と考える支援やサービスには、「保育園・託児所(43.8%)」や「短時間勤務制度(13.8%)」のほか、「在宅勤務制度」が10.3%を占めています。テレワークという勤務形態が、一定のニーズがあることがわかります。
また、予定していた子どもの数と、実際に出生する数にもギャップがあります。理想の子どもの人数としてもっとも多いのは「2人(43.3%)」、次いで「3人(17.7%)」ですが、実際には「1人以下」が27.3%に達しています。
出典:厚生労働省「仕事と育児・介護の両立に係る現状及び課題」
子どもをもたない理由としてもっとも選択率が高いのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的な理由です。
仕事と育児の両立が可能になれば経済的な不安が減り、「子どもをもつ」や「子どもの人数を増やす」という選択肢が生まれることが期待されます。
「子ども3歳まではテレワーク」努力義務化には問題点もある
企業にとっては問題点もあります。テレワークを導入することによって、生じると考えられる主な問題点は以下の通りです。
テレワーク導入のデメリット
● コミュニケーションが減少する● 業務効率が落ちる可能性がある
● テレワークでできる業務が限られる
またテレワークができる業務が限られるため、業種や職種によってはテレワークの導入が難しい場合もあるでしょう。
しかしテレワークを導入することによって、勤務時間を減らさずに、仕事と子育ての両立が可能になることが期待されています。
企業にとっては、仕事と子育てが両立できないという理由での離職を防止でき、従業員のキャリア形成も継続可能です。
テレワーク導入によって生じる問題点をいかに解消し、テレワークを導入するかが課題です。
まとめ
深刻化する少子化を食い止めるため、政府はさまざまな対策を講じています。「子どもが3歳になるまでの在宅勤務」を企業の努力義務化するのも、対策のひとつです。
従来の制度は、労働時間を短くすることで育児と仕事の両立を図ります。しかしテレワークができる職場環境が整備されれば、育児による収入減やキャリアロスの防止につながる
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よくある質問
「子ども3歳までテレワーク」の努力義務化とは?
政府が、「子どもが3歳になるまではテレワーク勤務」が可能な職場環境の整備を、企業の努力義務とする案を検討しています。少子化対策のひとつであり、仕事と育児の両立支援が目的です。
テレワークの努力義務化について詳しく知りたい方は、「厚生労働省が「子ども3歳までテレワーク」の努力義務化を検討」をご覧ください。
「子ども3歳までテレワーク」努力義務化の背景とは?
背景には、深刻化する「少子化問題」があります。
夫婦が子どもをもたない原因として挙げられるのは、教育費などの経済的な理由です。「テレワーク」という選択肢が生まれることで、収入減やキャリア断絶の防止が期待できます。
テレワークが努力義務化される背景について詳しく知りたい方は、「子ども3歳までテレワーク」の努力義務化の背景」をご覧ください。
監修 岡崎壮史(おかざき まさふみ) 社会保険労務士・1級FP技能士・CFP
マネーライフワークス代表。現在は、助成金申請代行・活用コンサルとして、企業様の助成金の申請代行や活用に向けたサポート業務、金融系サイトへ多くの記事を執筆・記事監修を担当し、社労士試験の受験指導講師としての活躍の場を全国に展開している。