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中小企業経営強化税制とは? 適用要件や優遇制度(即時償却・税額控除)をわかりやすく解説

監修 西村真衣 西村税理士事務所

中小企業経営強化税制とは? 適用要件や優遇制度(即時償却・税額控除)をわかりやすく解説

中小企業経営強化税制とは、中小企業の設備投資を支援するための制度です。160万円以上の機械・装置や30万円以上の器具・備品など、要件を満たす設備を導入して税制優遇措置の適用を受けられると税負担を軽減できます。

設備投資に伴う負担を抑えながら生産性向上や収益力強化を図ることができる制度なので、中小企業の経営者は中小企業経営強化税制をうまく活用したいところです。

本記事では、中小企業経営強化税制の適用要件やA類型からD類型まである4つの類型の違い、即時償却と税額控除の概要をわかりやすく解説します。

目次

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中小企業経営強化税制とは

中小企業経営強化税制とは、設備投資を行って経営力向上を図る中小企業を支援するための制度です。中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、新たな設備を取得・製作等すると、税制優遇措置を適用できます。

具体的には、設備投資によって生産性向上や収益力強化、デジタル化推進などを図る場合に、設備導入時に発生する購入費用などの負担を、税制優遇措置によって軽減できる仕組みです。

設備を導入したときの取得価額を減価償却によらず即時償却するか、または、取得価額の一定割合の税額控除の適用を受けるか、いずれかを選択できます。なお、即時償却・税額控除は、ともに限度額があり、税額控除においては控除しきれない場合、1年間の繰り越しが認められます。

出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」

中小企業経営強化税制の適用要件

中小企業経営強化税制の対象となる企業・設備・期間については要件が定められています。以下では本税制の適用要件を紹介するので、自社の規模や購入予定の設備が要件に該当しているか、確認しましょう。

対象企業

本税制の対象になるのは、青色申告書を提出しており、中小企業等経営強化法第2条第6項に規定する特定事業者等に該当する法人等です。以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

中小企業経営強化税制の対象企業

  • 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
  • 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
  • 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
  • 協同組合等

ただし、以下の法人は資本金の額または出資金の額が1億円以下でも本税制の対象外です。

中小企業経営強化税制の対象企業

  • 同一の大規模法人(※)から2分の1以上の出資を受ける法人
  • 2以上の大規模法人(※)から3分の2以上の出資を受ける法人
  • 前3事業年度の所得金額の平均額等が15億円を超える法人

(※)大規模法人とは、資本金の額または出資金の額が1億円超の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人または大法人(資本金の額または出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除く

要件を満たせば、企業だけでなく個人事業主も中小企業経営強化税制の適用を受けられます。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」

対象設備

本税制の対象になるのは、新品の設備で以下の要件に該当する設備です。中古品は対象から除かれます。

中小企業経営強化税制の対象設備

  • 機械・装置:1台または1基の取得価額が160万円以上のもの
  • 工具・器具・備品:1台または1基の取得価額が30万円以上のもの
  • 建物附属設備:一の取得価額が60万円以上のもの
  • ソフトウェア:一の取得価額が70万円以上のもの

取得価額が基準額以上であるかどうかの判定は、事業者が税込経理を採用していれば消費税を含む金額で、税抜経理を採用していれば消費税を含まない金額で、それぞれ行います。

また、開発研究用のソフトウェアや医療保健業を行う事業者が取得・製作する医療機器などは対象外です。電気業や水道業、鉄道業など一定の業種で用いる設備は対象から除かれます。

中小企業経営強化税制における取得価額の考え方や対象設備の詳しい要件は、中小企業庁HPに掲載されているパンフレットやQ&A集をご確認ください。

出典:国税庁「No.5434 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

対象期間

本税制の対象になるのは、2017年4月1日から2025年3月31日までに経営力向上計画に基づいて新規設備を取得して事業の用に供した場合です。適用期限は2023年3月31日でしたが、2023年度税制改正により期間が2年間延長されています。

期限までに経営力向上計画の申請・認定を終えて設備の使用を開始する必要があるので、申請手続きは早めに行いましょう。

経営力向上計画を申請してから認定までにかかる期間は、書類に不備がなければ約30日、複数省庁にまたがる場合は約45日です。経営力向上計画申請プラットフォームによる電子申請、かつ、経済産業部局あてのみの申請であれば約14日かかります。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
出典:中小企業庁「経営力向上計画策定の手引き」

中小企業経営強化税制には4つの類型がある

中小企業経営強化税制には以下の4つの類型があり、対象となる設備の要件や申請手続きの際に必要になる書類が異なります。


類型概要
【A類型】生産性向上設備生産性が年平均1%以上向上する設備の導入
【B類型】収益力強化設備投資利益率5%以上のパッケージ投資
【C類型】デジタル化設備遠隔操作・可視化・自動制御化を可能にする設備の導入
【D類型】経営資源集約化設備修正ROAまたは有形固定資産回転率の改善が見込まれるパッケージ投資

A類型:生産性向上設備

A類型の対象となるのは、以下の要件を満たす設備です。

生産性向上設備の要件

  • 一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はない)
  • 経営力の向上に資するものの指標(生産効率・エネルギー効率・精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備

要件である一定期間内とは、販売開始からの期間が機械・装置は10年以内、工具は5年以内、器具・備品は6年以内、建物附属設備は14年以内、ソフトウェアは5年以内です。

年平均1%以上向上しているかどうかは、当該設備を製造しているメーカーの一代前のモデルと比較して判断します。 設備ユーザーが現在使用しているモデルとの比較ではありません。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制 Q&A集」

B類型:収益力強化設備

B類型の対象となるのは、以下の要件を満たす設備です。

収益力強化設備の要件

  • 年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

年平均の投資利益率は、以下で算出します。

(営業利益+減価償却費)の増加額÷設備投資額

投資利益率の計算で使う数値は、減価償却費は「会計上の減価償却費」、増加額は「設備の取得等をする年度の翌年度以降3年度の平均額」です。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」

C類型:デジタル化設備

C類型の対象となるのは、以下の要件を満たす設備です。

デジタル化設備の要件

  • 事業プロセスの①遠隔操作、②可視化、③自動制御化のいずれかを可能にする設備として、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

遠隔操作とは、「事業の非対面化」や「通常出勤している場所以外での従業員による業務遂行」を目的とするデジタル技術です。顧客と対面しない方法で行う遠隔教育や、工場・店舗で勤務している従業員が行う商品の在庫管理のためのテレワークなどが該当します。

可視化とは、デジタル技術を使ってデータの集約や分析を行い、事業工程に関する最新の状況の把握や経営資源等の最適化を行うことです。サプライチェーンにおける情報を把握管理して、適正な人員配置・生産量調整・温度のプロセス管理を行う場合などが該当します。

自動制御化とは、デジタル技術を用いて、事業工程に関する経営資源等の最適化のための指令を状況に応じて自動的にできるようにすることです。デジタル技術が用いられた設備を活用した工場の製造工程の自動制御化などが該当します。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制 Q&A集」

D類型:経営資源集約化設備

D類型の対象となるのは、以下の要件を満たす設備です。

経営資源集約化設備の要件

  • 経営力向上計画に事業承継等事前調査に関する事項の記載があり、経営力向上計画にしたがって事業承継等を行った後に取得・製作・建設をする設備
  • 計画終了年次の修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定の要件を満たすと見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

修正ROAまたは有形固定資産回転率の計算方法は、中小企業庁HPに掲載されているパンフレットに記載されています。計画期間に応じた基準値は以下の通りです。


計画期間有形固定資産回転率修正ROA
3年+2.0%+0.3ポイント
4年+2.5%+0.4ポイント
5年+3.0%+0.5ポイント
出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」

中小企業経営強化税制には2種類の優遇制度がある

中小企業経営強化税制の税制優遇制度は以下の2つです。

税制優遇制度

  • 即時償却
  • 税額控除

本税制の要件を満たせば即時償却と税額控除のいずれかを選択適用できます。

出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」

即時償却

即時償却とは、取得価額を減価償却によって複数年かけて計上するのではなく、全額をその年に費用計上することです。

取得価額が一定額を超える設備は、通常は減価償却によって複数年かけて費用計上しますが、中小企業経営強化税制の要件を満たせば即時償却が可能です。利益が出た年に設備費用を全額計上できれば課税所得金額が小さくなり、税負担を抑えることができます。

税額控除

税額控除とは、税金を計算する際に求めた税額から一定の金額を控除する制度です。

中小企業経営強化税制の要件を満たせば設備の取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除が可能です。控除額の分だけ税負担を抑えることができます。

中小企業経営強化税制を適用するための手続き方法

A類型からD類型まである4種類の類型のうち、いずれの類型を利用するのかによって手続きの流れや必要書類が異なります。中小企業経営強化税制を利用する場合は、以下で紹介する各類型の手続きの流れに沿って計画書の作成や申請を行いましょう。

A類型

A類型を利用する場合の手続きの流れは以下の通りです。

A類型の適用手続きの流れ

  1. 工業会等に証明書の発行を依頼する
  2. 経営力向上計画を策定し、証明書を添付して担当省庁に申請する
  3. 担当省庁から認定を受けたら設備を取得する
  4. 税務申告する際に税制優遇措置の適用を受ける

A類型では、設備が要件を満たしていることを確認するため、工業会等から証明書を取得する必要があります。設備メーカーに証明書の発行を依頼しましょう。

出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」

B類型

B類型を利用する場合の手続きの流れは以下の通りです。

B類型の適用手続きの流れ

  1. 投資計画を策定して公認会計士・税理士の事前確認を受け、事前確認書を取得する
  2. 所轄の経済産業局に申請し、投資計画の内容について確認を受ける
  3. 経営力向上計画を策定し、経済産業局発行の確認書等を添付して担当省庁に申請する
  4. 担当省庁から認定を受けたら設備を取得する
  5. 計画認定後、投資計画に関する実施状況報告を決められた期間に提出する
  6. 税務申告する際に税制優遇措置の適用を受ける

B類型では、投資計画を策定して経済産業局から確認書を取得する必要があります。経済産業局に申請してから確認書が発行されるまでにかかる日数は数日から1ヶ月程度です。

実施状況の報告書は、設備の取得等を行った事業年度の翌事業年度終了後4ヶ月以内に提出する必要があります。

出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」

C類型

C類型を利用する場合の手続きの流れは以下の通りです。

C類型の適用手続きの流れ

  1. 投資計画を策定して認定経営革新等支援機関の事前確認を受け、事前確認書を取得する
  2. 所轄の経済産業局に申請し、投資計画の内容について確認を受ける
  3. 経営力向上計画を策定し、経済産業局発行の確認書等を添付して担当省庁に申請する
  4. 担当省庁から認定を受けたら設備を取得する
  5. 税務申告する際に税制優遇措置の適用を受ける

C類型も、B類型と同様に投資計画を策定して経済産業局から確認書を取得する必要があります。経済産業局に申請してから確認書が発行されるまでにかかる日数は数日から1ヶ月程度です。

出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」

D類型

D類型を利用する場合の手続きの流れは以下の通りです。

D類型の適用手続きの流れ

  • 投資計画を策定して公認会計士・税理士の事前確認を受け、事前確認書を取得する
  • 所轄の経済産業局に申請し、投資計画の内容について確認を受ける
  • 経営力向上計画を策定し、経済産業局発行の確認書等を添付して担当省庁に申請する
  • 担当省庁から認定を受けたら設備を取得する
  • 計画認定後、事業の承継報告および事業承継等に関する状況報告を決められた期間に提出する
  • 税務申告する際に税制優遇措置の適用を受ける

D類型でも、B類型やC類型と同様に投資計画を策定して経済産業局から確認書を取得する必要があります。経済産業局に申請してから確認書が発行されるまでにかかる日数は数日から1ヶ月程度です。

実施状況の報告書は、事業承継等を行った事業年度の翌事業年度終了後4ヶ月以内に提出する必要があります。

出典:中小企業庁「中小企業経営強化税制」

まとめ

中小企業経営強化税制の要件を満たせば、即時償却か税額控除のいずれかを選択適用できます。税負担を軽減できる点がメリットです。

A類型・B類型・C類型・D類型の4種類の類型では、それぞれ要件が異なり、申請する際に必要になる書類や手続きの流れが異なります。中小企業経営強化税制の対象期間は2025年3月31日までです。

対象となる企業や設備の要件に該当するかどうか確認し、要件を満たす場合は期限までに手続きを行いましょう。制度の詳しい内容は中小企業庁HPなどで確認してください。

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よくある質問

中小企業経営強化税制の対象設備は?

機械・装置、工具・器具・備品、建物附属設備、ソフトウェアで一定金額以上のものが対象です。

中小企業経営強化税制の対象設備について詳しくは「対象設備」をご覧ください。

中小企業経営強化税制の即時償却・税額控除とは?

中小企業経営強化税制において、即時償却とはある年に取得価額の全額をまとめて経費計上すること、税額控除とは取得価額の7%または10%の金額を税額から控除することです。

中小企業経営強化税制の税制優遇措置について詳しくは「中小企業経営強化税制には2種類の優遇制度がある」をご覧ください。

監修 西村真衣(にしむら まい)

父も祖父も税理士という家系に長女として生まれる。実家は60年続く税理士事務所。学生結婚し、子供を授かるも、母、妻、娘の役割以外に、自分の人生も生きていきたいと2人の子供を育てながら税理士試験に合格する。自身も経営者の立場を経験しない事には、お客様の気持ちに真に寄り添うことはできないと感じ、実家の税理士事務所とは別に2021年に西村税理士事務所を開業。現在は、女性起業支援を中心に活動している。

西村真衣