公開日:2023/08/29
監修 安田 亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
免税制度は外国人旅行客による、旅行消費の拡大を図るため、必要に応じて改正されています。令和5年4月1日には7回目の制度改正が施行されました。
免税制度は、要件を満たした海外旅行者などに対して、消費税を免除して販売できる制度です。
免税店事業者は制度の適切な運用が求められ、要件を満たさない取引を行った場合は罰則があるので注意しなくてはいけません。
本記事では、令和5年度に施行された免税制度の改正に伴う変更点を解説し、改正の影響なども紹介します。免税制度に関わる業界関係者の方はぜひ参考にしてください。
目次
免税制度改正とは?
免税制度とは、免税店の認定を受けた事業者が、外国人旅行客などの非居住者に対して、購入した物品の消費税を免除する制度です。
免税制度の対象物品は以下が該当します。
消耗品 | ● 食品類 ● 飲料類 ● 薬品類 ● 化粧品類 |
消耗品以外の一般物品 |
● 家電製品 ● 服・着物 ● 時計・宝飾品 ● 民芸品 ● カバン |
対象物品は、通常生活で使用される消耗品または消耗品以外の一般物品とされ、事業用や転売用として購入する場合は対象外です。
また免税制度は、非居住者が国外に物品を持ち出す場合を前提としています。そのため、非居住者が購入したからといって、自動的に適用されるわけではないので注意しましょう。
なお免税制度は、非居住者による日本国内での旅行消費で、地域経済の活性化を図ることを目的としています。
令和5年度4月1日には7回目の免税制度改正が施行されました。制度を利用した不正の防止・現場の作業負担の軽減・旅行者の利便性・満足度の向上などが期待されています。
令和5年度の免税制度改正の主な変更点
令和5年度の免税制度改正で主な変更点は2つです。
免税制度改正による変更点
● 免税購入対象者の変更● Visit Japan Webを活用した本人情報の確認
免税購入対象者の変更
令和5年度の免税制度改正で変更された点のひとつは、免税対象者が明確になったことです。
非居住者かつ入国後6ヶ月未満であることが確認できる場合に限定される点は、従来の制度から引き続き変わりません。しかし「外国籍」または「日本国籍」の免税対象者の条件が変更されています。
外国籍を有する場合の免税対象は以下です。
外国籍を有する場合の対象
● 短期滞在・外交・公用の在留資格● 上陸許可にて在留する者及び米軍関係者など
ただし、船舶観光上陸許可書や乗員上陸許可書などの旅券や許可書で、上陸の許可を受けて在留する場合は、従来と変わらず免税対象です。
次に、日本国籍を有する場合の免税対象者を確認してみましょう。
海外に住んでいて日本に国籍がある場合は、非居住者かつ国内以外の地域に引き続き2年以上住所または居住を有する者となります。確認は「戸籍の附票の写し」または「在留証明」で行われます。
海外滞在期間が2年未満の方は、外国への勤務目的または2年以上滞在する目的で出国しても、免税対象外なので注意が必要です。
免税対象 | 対象外 | |
外国籍を有する場合 | ● 在留資格が短期滞在・外交・公用の者 ● そのほかの上陸の許可(船舶観光上陸許可書、乗員上陸許可書など)にて在留する者 及び米軍関係者 | ● 在留資格が留学・家族滞在・特定活動・研修・技術・人文知識・ 国際業務・報道・永住者・技能実習などの者 |
日本国籍を有する場合 | ● 非居住者かつ国内以外の地域に引き続き2年以上住所または居所を有する者 ● 「戸籍の附票の写し」または「在留証明」で確認できる者 | ● 海外滞在期間が2年未満である者は、外国にある事務所へ勤務する目的または2年以上滞在する目的で出国した者であっても対象外 |
出典:観光庁「令和4年度税制改正に関する説明会」
Visit Japan Webの活用で本人情報の確認をより簡単に
2つめの変更点は、「Visit Japan Webサービス」に登録されている情報を免税店でも活用可能になったことです。
「Visit Japan Webサービス」は入国手続きができるWebサービスであり、活用することで本人情報の確認が容易に行えます。
従来の免税店での一般的な手続きの流れは以下です。
従来の手続きの流れ
1. 旅行者から旅券の提示を受ける2. パスポート内の情報(在留資格など)を 確認(対象者の判定)
3. 購入記録情報などを端末に入力
サービスを活用できれば、免税販売手続きの自動化により作業員の負担軽減や時間短縮が期待されるでしょう。
ただし、サービス利用には免税店に二次元コードを読み取る端末を設置しなくていけません。また日本国籍の方は、免税店でVisit Japan Webを活用した買い物ができないので注意してください。
なお、改正後も従来通り旅券などでの本人情報の確認は可能です。
免税制度改正が企業に与える影響
令和5年度の免税制度改正が企業に与える影響を考察していきます。
免税店事業者が改正によって受ける影響を、メリット・デメリットの観点で見ていきましょう。
メリット | ● 転売目的の不正を抑止 ● 手続きフローの簡略化 |
デメリット | ● 売上の低下 ● より確実な確認が必要 |
各内容を解説するので参考にしてください。
メリット➀転売目的の不正を抑止できる
令和5年度の制度改正で留学生や技能実習などの在留資格者が、免税対象から除外された点は、免税店事業者にとってメリットでしょう。
以前から免税店事業者に対しては、不正防止に向けた制度の正しい運用が求められています。
過去には転売目的のブローカーが、留学生を利用して大量の商品を購入している可能性を示唆する事例も見うけられました。
対象者を短期滞在や外交、公用の在留資格者にすることで、制度を利用した不正の防止に期待が持てます。
メリット➁手続きフローの簡略化
「Visit Japan Webサービス」で情報確認が容易になり、商品購入時の手続きにかかる時間の短縮に期待できます。
今後は新型コロナウィルスの規制緩和やインバウンド需要の回復も見込めます。手続きフローの簡略化は旅行客の満足度向上につながるでしょう。
ただし、サービスを活用するためには読み取り端末が必要になるので、導入費用がかかる可能性は考慮しておく必要があります。
デメリット➀売上の低下
対象者が明確化された点は、転売など制度を利用した不正の防止に効果的かもしれません。一方で、免税店の売上低下につながる可能性も考えられます。
在留資格の範囲が縮小され、留学生などが免税対象者から除外されたので、単純に顧客数の減少が懸念されるためです。
顧客数が少なくなれば、売上の低下も予想されるでしょう。
デメリット➁より確実な確認が必要に
免税販売の要件を満たさない取引を行った免税店事業者は、追徴課税や行政指導の対象です。
過去には大手百貨店で、免税対象外の外国人に販売が行われ、多額の追徴課税がされたケースも存在します。
制度改正により免税対象者が変更されているので、関連する事業者の方はきちんと把握しておかなくてはいけません。
また、手続きフローが簡略化されたことによる、情報の見落としにも注意する必要があるでしょう。
免税制度改正の課題への対策
免税制度改正に伴う課題や懸念点を確認しておきましょう。
改正に伴う課題や懸念点は以下の通りです。
免税制度改正に伴う課題・懸念点
● 顧客に対する周知● 制度に則った適切な経営
したがって、トラブルを未然に防ぐために顧客への周知が必要です。
たとえば、観光庁の公式サイトの制度改正ポスターを店頭やカウンターに掲載するなど、顧客への周知を促す手段を検討しましょう。
また免税店事業者は、制度に則った取引を行う必要があり、要件を満たさない取引を行うと罰則が課せられます。
免税店事業者の責任者は当然ですが、業務に携わる従業員も、免税対象者の把握や手続きフローを確認して適切な制度の運用をしましょう。
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まとめ
令和5年4月1日から施行された免税制度改正では、主な変更点が2つあります。「一部免税対象の変更」と「商品購入時にVisit Japan Webが活用できる」ことです。
制度改正により、転売目的の不正抑止などのメリットも存在しますが、対象者の変更によるトラブルも予想されます。
改正された免税制度はすでに施行されているため、免税店事業者は顧客に対して変更点が周知される環境を構築しなくていけません。
そのためにも、まずは免税店の責任者や従業員など、免税店事業に関わる方が改正内容をしっかり理解しておく必要があるでしょう。
内容をしっかり把握して、適切な制度の運用をできるようにしてください。
よくある質問
免税制度改正とは?
免税制度は、外国人旅行者による地方での旅行消費を拡大し、地域経済の活性化を図るために、必要に応じて改正されます。令和5年4月1日にも改正された免税制度が施行されており、留学生などを免税対象者から除外、旅行者判定アプリの導入が主な変更点です。
免税制度改正について詳しく知りたい方は、「免税制度改正とは?」をご覧ください。
免税制度改正が企業に与える影響とは?
令和5年度の改正では、転売目的の不正抑止や手続きフローの簡略化などのメリットもあります。一方で、一部免税対象者が除外されたため、顧客数減少による売上の低下などが懸念されるでしょう。
免税制度改正が企業に与える影響について詳しく知りたい方は、「免税制度改正が企業に与える影響」をご覧ください。
監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。