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遺族厚生年金が改正される? 2025年の見直し内容や廃止予定の制度について解説

監修 内山 貴博 1級FP技能士・CFP

遺族厚生年金が改正される? 2025年の見直し内容や廃止予定の制度について解説

2025年に遺族厚生年金の制度内容が見直される予定です。実際に改正が行われれば、給付の対象者や給付額が変わり影響を受ける人がいます。

年金制度は私たちの普段の生活に直接的に影響する重要な制度です。法改正によって自身の生活に影響はあるのか、ある場合はどう変わるのか、確認しておきましょう。

本記事では、2025年の遺族厚生年金の改正について、改正の目的や内容、子のいる人といない人への改正の影響の違い、60歳以上や65歳以上の人への影響の有無を解説します。

※本記事は2024年11月時点の情報をもとに作成しています。

目次

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遺族厚生年金の問題点とは?改正が必要な理由と方向性

遺族厚生年金は、会社員などの厚生年金の加入者が亡くなった際、その人に生計を維持されていた遺族に支給される年金です。遺族厚生年金の受給要件には男女差があり、以前から見直しの必要性が指摘されていました。

たとえば、現行制度では、子のない妻が夫に先立たれると年齢に関係なく遺族厚生年金が支給されるのに対して、子のない夫は55歳未満だと遺族厚生年金の受給権が発生しません。

この制度設計の背景には、専業主婦の割合が高かった時代に妻が夫に先立たれると生活に困る可能性が高かったことや、夫は就労して生計を立てられるという考え方がありました。

しかし、現在では女性の就業率が高まり共働き世帯が増えるなど、社会の状況が変化したため、現行制度のような極端な男女差の必要性は高くありません。そこで、2025年から遺族厚生年金の制度を改正する方向で議論が進められています。


出典:日本年金機構「遺族年金」
出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」

2025年の遺族厚生年金の主な改正内容

2025年に予定されている遺族厚生年金の主な改正内容は以下の通りです。

2025年の遺族厚生年金の主な改正内容

  • 5年間の有期給付へ変更
  • 年金額の増額(有期給付加算の創設)
  • 死亡時分割の創設
  • 年収850万円の収入基準の撤廃
  • 中高齢寡婦加算の廃止

今回の改正では、「20代~50代に死別した子のない配偶者の遺族厚生年金」を中心に制度変更が検討されています。予定されている改正内容について、それぞれ詳しく解説します。

5年間の有期給付へ変更

20代~50代に配偶者と死別した人で子がいない場合の遺族厚生年金は、5年間の有期給付に変更される予定です。実際に改正されれば年齢要件に係る男女差が解消されます。

現行制度では、女性は30歳未満だと5年間の有期給付、30歳以上だと終身給付ですが、5年間の有期給付の対象年齢が30歳から段階的に引き上げられる見込みです。

一方で男性の場合は、20代~50代に妻と死別して子のいない人は、改正法の施行日から5年間の有期給付の対象になります。現行制度では、子のない夫は55歳未満だと遺族厚生年金は対象外ですが、改正後は施行日から5年間の有期給付を受けられるようになります。


出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」

年金額の増額(有期給付加算の創設)

支給期間を5年に短縮することで、子のない妻の遺族厚生年金の支給期間が短くなることから、配慮措置として年金額の増額が検討されています。

現在の遺族厚生年金の年金額は、「死亡した配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額」です。改正法の施行日から有期給付加算(仮称)が創設される予定で、5年間の有期給付では給付額が報酬比例部分の4分の3よりも増額されます。

改正によって年金額が増額されれば、配偶者が死亡した直後の生活再建期の年金額が増え、年金制度を通じた公的な支援が手厚くなります。


出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」

死亡時分割の創設

死亡時分割(仮称)とは、亡くなった人の厚生年金の加入期間を分割して、遺族である配偶者の老齢厚生年金の年金額を計算する際の加入期間に上乗せする制度です。

支給期間が5年に短縮することの配慮措置として、20代~50代の子のいない人に関して、亡くなった配偶者との婚姻期間中の厚生年金加入期間を分割する制度が検討されています。

65歳から受け取る老齢厚生年金は、それまでの厚生年金の加入期間をもとに年金額を計算する仕組みです。死亡時分割が創設されれば、遺族である配偶者の年金額を計算する際の加入期間が長くなり、65歳からの年金額が増えることになります。


出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」

年収850万円の収入基準の撤廃

遺族厚生年金の受給要件のひとつに生計維持要件があり、現行制度では「同一生計要件」と「収入要件」を満たさなければ受給できません。

遺族厚生年金の生計維持要件

【同一生計要件】
亡くなった配偶者と同居していた、または、別居であっても仕送りを受けていた、健康保険の扶養親族であった など

【収入要件】
本人の前年の収入が850万円未満、または、所得が655万5,000円未満である

2025年の改正では、20代~50代の子のいない世帯に関して、2要件のうち「収入要件」が撤廃される予定です。配偶者との死別は収入の多寡に関係なく生活に影響を与えるので、同一生計要件さえ満たせば遺族厚生年金を受給できるようになります。


出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」
出典:日本年金機構「生計維持」

中高齢寡婦加算の廃止

中高齢寡婦加算とは、夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で同一生計の子がいない妻など、一定の要件に該当する妻の遺族厚生年金に加算されるものです。

中高齢の寡婦は配偶者の死亡後に就労することが困難であることに着目して、現行制度では中高齢寡婦加算が設けられています。

しかし、女性の従業率の上昇など社会状況の変化を踏まえ、また年金制度上の男女差を解消すべきという観点から、中高齢寡婦加算は段階的に廃止される予定です。


出典:厚生労働省「遺族年金制度等の見直しについて」
出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」

年金制度改正による影響

配偶者が亡くなった際の年齢や子の有無、性別によって、改正の影響を受けるかどうかが変わります。

自身の年金額や受給期間への影響の有無について間違いのないように、以下では2025年からの遺族厚生年金の制度改正の影響について確認してみましょう。

60歳以上・65歳以上の人への影響

今回の改正の主な対象は、20代~50代に配偶者と死別した人で子のいない人への遺族厚生年金です。60歳以上の高齢期の夫婦の一方が死亡したことによる遺族厚生年金では、現行制度の仕組みは維持されるので、年金の受給要件や金額に関して変更はありません。

ただし、死亡時分割制度が導入されれば、老後に受け取れる老齢厚生年金が従来の制度よりも増える場合があります。

また、2025年に改正が実施されても、施行日前に受給権が発生している遺族厚生年金については現行制度の仕組みが維持される予定です。60歳以上や65歳以上の人で遺族厚生年金を現在受給している人は影響を受けず、引き続き年金を受け取れます。

子のいる配偶者への影響

今回の改正は、子のいない配偶者の遺族厚生年金に関する改正が中心です。子のいる配偶者は基本的に影響を受けず、現行通りに給付を受けられます。

ただし、中高齢寡婦加算が廃止されると、加算額がなくなる分だけ現行制度よりも受給額が減る見込みです。子が18歳到達年度の末日に達したなど、一定の要件に該当して中高齢寡婦加算の対象になるケースは、法改正で加算対象外になれば影響を受けることになります。

なお、中高齢寡婦加算同様、国民年金の寡婦年金も段階的に廃止が検討されていますが、施行日前に受給権が発生している寡婦年金は、引き続き受給できるので法改正による影響はありません。

改正が男性と女性に与える影響の違い

配偶者と死別して子のいない人の場合、現行制度では男性は55歳未満だと遺族厚生年金の支給対象外です。しかし、2025年の法改正により、施行日からは20代~50代の男性も新たに5年間の有期給付の対象になります。

一方で女性の場合は、配偶者と死別して子がいない人の遺族厚生年金は、有期給付の対象年齢が段階的に引き上げられます。現在は30歳未満の人が5年間の有期給付の対象ですが、施行日から対象年齢が40歳に引き上げられ、その後も段階的に年齢が上がる予定です。

まとめ

2025年からの遺族厚生年金の改正は、子のいない世帯への給付内容を中心に変更が行われます。男女差を解消する観点から、子のいない世帯への遺族厚生年金は5年間の有期給付に変わる予定です。

ただし、子のいない妻への遺族厚生年金については、その影響の大きさを考慮して段階的に実施される方向で検討されています。法改正の内容に関して、今後も新しい情報が公表される可能性があるので、ニュースなどで最新の情報を確認するようにしましょう。

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よくある質問

遺族厚生年金はなぜ改正される?

現在の遺族厚生年金の受給要件には男女差があり、差をなくすべきとの指摘が出ていたため、2025年に制度改正が実施される予定です。

遺族厚生年金の改正が必要な理由について、詳しくは「遺族厚生年金の問題点とは?改正が必要な理由と方向性」をご覧ください。

2025年からの遺族厚生年金の改正内容は?

配偶者と死別して子がいない人への遺族厚生年金を中心に改正が行われる予定です。60歳以上や65歳以上の人への影響は基本的にありませんが、20代~50代の人は改正の影響を受ける可能性があります。

2025年からの遺族厚生年金の改正内容について、詳しくは「2025年の遺族厚生年金の主な改正内容」をご覧ください。

監修 内山貴博(うちやま たかひろ) 1級FP技能士・CFP

大学卒業後、証券会社の本社で社長室、証券業務部、企画グループで5年半勤務。その後FPとして独立。金融リテラシーが低く、資産運用に保守的と言われる日本人のお金に対する知識向上に寄与すべく、相談業務やセミナー、執筆等を行っている。
日本証券業協会主催「投資の日」イベントや金融庁主催シンポジウムで講師等を担当。
2018年に日本人の金融リテラシー向上のためのFPの役割について探求した論文を執筆。

監修者 内山貴博