監修 北田悠策 公認会計士・税理士
2023年3月15日、スタートアップを支援する新しい信用保証制度「スタートアップ創出促進保証」が始まりました。
スタートアップ創出促進保証は、創業5年未満の事業者が、経営者保証なしで金融機関から融資を受けられる制度です。
本記事では、スタートアップ創出促進保証の概要や創設の背景、メリット・注意点をくわしく解説します。
記事後半では申請手順も説明するので、利用を検討している人はぜひご覧ください。
目次
- スタートアップ創出促進保証とは?
- スタートアップ創出促進保証が創設された背景
- スタートアップ創出促進保証を利用するメリット
- 資金調達の選択肢が広がる
- 対象者の範囲が広い
- スタートアップ創出促進保証を利用する際の注意点
- 税務申告1期未終了の人は1/10以上の自己資金が必要となる
- 設立後3年目と5年目にガバナンス体制の確認が必要となる
- スタートアップ創出促進保証の申請手順
- 1. 創業計画書を作成する
- 2. 金融機関による与信審査が実施される
- 3. 信用保証協会による保証審査が実施される
- まとめ
- 開業届はツールで簡単・正確に!
- よくある質問
- スタートアップ創出促進保証制度とは?
- スタートアップ創出促進保証を利用するメリットは?
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スタートアップ創出促進保証とは?
スタートアップ創出促進保証制度とは、経営者の個人保証(経営者保証)不要で利用できる創業時の新しい信用保証制度です。
経営者保証とは、金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人になることです。
経営者保証が付いた融資では、万が一返済ができなくなった場合、経営者個人が会社に代わって返済していかなくてはなりません。
スタートアップ創出促進保証制度では、スタートアップ企業が金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が保証することで、経営者保証なしで融資が受けられます。本制度を利用できるのは、創業を予定している人、または創業5年未満の法人です。
区分 | 対象者 |
創業を予定している人 | ● 事業を営んでいない個人で、2ヶ月以内に法人を設立し事業を開始する具体的な計画がある ● 分社化により別法人を設立して事業を開始する予定の法人 |
創業5年未満の法人 | ● 事業を営んでいない個人が設立した法人で設立から5年未満である ● 分社化により別法人として新たに設立した法人で設立から5年未満である ● 事業を営んでいない個人が開始した事業を法人化し個人創業時から5年未満である |
保証限度額は3,500万円、保証割合は100%です。制度概要を以下にまとめたので、参考にしてください。
項目 | 概要 |
対象資金 | 運転資金、設備資金 |
保証限度額 | 3,500万円 |
保証割合 | 100% |
保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 1年以内(一定の条件を満たす場合は3年以内)(※) |
金利 | 金融機関所定 |
保証料率 | 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せ |
担保・保証人 | 不要 |
(※)申込金融機関にて本保証付融資と原則同時にプロパー融資を実行する、または保証申込時点でプロパー融資の残高がある場合に3年以内となります。
スタートアップ創出促進保証が創設された背景
スタートアップ創出促進保証の目的は、経営者保証が起業・創業を妨げる要因になるのを防ぎ、スタートアップを支援することです。
政府は、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。そのなかで、スタートアップへの投資額を5年で10倍を超える規模とする目標を掲げています。
目標達成に向け、スタートアップを支援する施策のひとつとして設けられたのがスタートアップ創出促進保証です。
政府によると、起業関心層が起業に踏み切れない理由として8割の人が「借金や個人保証を抱えること」と回答しています(※)。
(※)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(2022年6月7日)
スタートアップ創出促進保証は、こうした個人保証に対する懸念を取り除き、起業・創業を促進することを目的としています。
スタートアップ創出促進保証を利用するメリット
スタートアップ創出促進保証を利用する主なメリットを解説します。
スタートアップ創出促進保証のメリット
● 資金調達の選択肢が広がる● 対象者の範囲が広い
資金調達の選択肢が広がる
スタートアップ創出促進保証を利用すれば、担保や経営者保証不要で融資が受けられます。
金融機関から融資を受ける際、多くの事業主が経営者による個人保証を行っています。
経営者保証付きで融資を受けた場合、倒産などで返済ができなくなると、経営者個人が返済していかなくてはなりません。これは、起業をためらう要因のひとつとなっています。
中小企業庁によると、借り入れの全部または一部について経営者保証を提供している事業者は、約8割にのぼります(2020年度)。
スタートアップ創出促進保証を利用すれば、万が一のリスクを抑えた資金調達が可能です。
対象者の範囲が広い
スタートアップ創出促進保証は、創業を予定している人または創業5年未満の法人が対象であり、対象者の範囲が広いのも特徴です。
日本政策金融公庫がスタートアップ支援を目的に行う「新創業融資制度」の場合は以下の人に限り対象です。
新創業融資制度の対象者
● 制度を利用できるのは創業予定の人● 税務申告を2期終えていない人
スタートアップ創出促進保証を利用する際の注意点
スタートアップ創出促進保証の利用を検討する際は、以下の2点に注意しましょう。
スタートアップ創出促進保証の注意点
● 税務申告1期未終了の人は1/10以上の自己資金が必要となる● 設立後3年目と5年目にガバナンス体制の確認が必要となる
税務申告1期未終了の人は1/10以上の自己資金が必要となる
スタートアップ創出促進保証を利用する際、自己資金が必要となるケースがあります。
具体的には、保証申込みの受付時点で以下のいずれかに該当する場合、創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要です。
自己資金が必要な人
● 創業を予定している人● 税務申告1期未終了の人
設立後3年目と5年目にガバナンス体制の確認が必要となる
スタートアップ創出促進保証を活用した人は、原則として会社設立後3年目、5年目の時点でガバナンスチェックを受診しなければなりません。流れは以下の通りです。
ガバナンスチェックの流れ
1 金融機関からガバナンスチェックに関する連絡が行われる2 「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」を作成する
3 中小企業活性化協議会に窓口相談のガバナンスチェックの申込みをする
4 信用保証協会によるヒアリング・提出書類の確認が実施される
5 中小企業活性化協議会からチェックシートにもとづく確認および助言を受ける
6 チェック結果の写しを金融機関に提出する
チェックシートの様式は、中小企業庁のホームページからダウンロードしましょう。
スタートアップ創出促進保証の申請手順
スタートアップ創出促進保証を利用して融資を受ける際の申請手順を解説します。
1 創業計画書を作成する
2 金融機関による与信審査が実施される
3 信用保証協会による保証審査が実施される
詳しい手続き方法や必要書類は、金融機関または最寄りの信用保証協会に問いあわせて確認しましょう。
1 創業計画書を作成する
スタートアップ創出促進保証を利用する際は、保証申込書類に加えて「創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)」の提出が必要です。中小企業庁のホームページにてダウンロードしましょう。
創業計画書の主な記載事項は、以下の通りです。
創業計画書の主な記載事項
● 事業概要● 創業準備の着手状況
● 必要な資金と調達方法
● 収支計画
● 取引先・借入金状況
2 金融機関による与信審査が実施される
金融機関に融資の申込みをすると、与信審査が実施されます。
与信審査への通過後、金融機関を通じて信用保証協会に必要書類を提出し、保証申込みを行いましょう。
3 信用保証協会による保証審査が実施される
金融機関経由で保証申込みを行うと、信用保証協会による保証審査が実施されます。信用保証協会が保証承諾をすると、金融機関によって融資が実行されます。
まとめ
2023年3月15日、経営者保証が起業・創業を妨げる要因になるのを防ぐ目的で、「スタートアップ創出促進保証」が創設されました。
スタートアップ創出促進保証とは、経営者保証なしで利用できる創業時の新しい信用保証制度です。
スタートアップが金融機関から融資を受ける際、信用保証協会の保証によって、経営者保証を用意することなく資金調達できます。
税務申告1期未終了の人は、創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要となるなど、注意点もあります。スタートアップ創出促進保証のメリットや注意点を正しく理解しましょう。
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よくある質問
スタートアップ創出促進保証制度とは??
スタートアップ創出促進保証制度は、経営者の個人保証(経営者保証)不要で利用できる創業時の新しい信用保証制度です。
スタートアップ創出促進保証制度の概要を詳しく知りたい方は「スタートアップ創出促進保証制度とは?」をご覧ください。
スタートアップ創出促進保証を利用するメリットは?
スタートアップ創出促進保証を利用する主なメリットは、以下の通りです。
スタートアップ創出促進保証のメリット
● 資金調達の選択肢が広がる● 対象者の範囲が広い
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく) 公認会計士・税理士
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。