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特別加入制度の対象拡大! 2022年から新たに労災保険への加入が認められた人とは?

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

特別加入制度の対象拡大! 2022年から新たに労災保険への加入が認められた人とは?

労災保険の特別加入制度は、働き方の多様化などの社会変化にあわせて見直しが行われ、順次対象者が順次拡大しています。

特別加入制度は、労災保険に加入できない人で、保険給付が必要な一定の人に労災保険への加入を特別に認める制度です。

本記事では、2021年4月以降、新たに特別加入制度の対象となった業種や拡大の背景を解説します。

特別加入制度のメリットデメリット加入手続き方法も紹介するので、ぜひご覧ください。

目次

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労災保険の特別加入制度とは?

労災保険の特別加入制度とは、労働者でない人のうち保護が必要だとみなされる一定の人に、労災保険への加入を認める制度です。

労働者の業務上または通勤中の病気やケガに対する保険給付と、被災労働者の社会復帰の促進事業などを行う制度が「労災保険(労働者災害補償保険)」といいます。

労災保険の対象者は、事業主に雇用され、給与を受け取っている「労働者」です。労働者ではない事業主や、自営業者は労災保険に加入できないため、業務中にケガをしても労災保険による給付が受けられません。

しかし、労働者と同様の業務に就く場合や、労働者を雇わない場合など、業務実態が労働者と変わらないケースもあります。そのために特別加入制度が設けられました。

厚生労働省が検討中の新制度では、全業種にフリーランス労災保険を拡大する見通しです。フリーランスの増加に対応し、2024年秋の施行目指しています。

労災保険の特別加入制度が対象拡大した背景

特別加入制度の対象者は、2021年4月以降、順次拡大されています。拡大の背景にあるのは、働き方の多様化や新たな仕事の誕生です。

近年、働き方が多様化し、「労働者」以外の働き方で仕事をする人が増えています。また、科学技術の進歩によって、制度創設時にはなかったITなどの新たな仕事が数多く誕生しました。

このような社会経済情勢の変化を踏まえ、現代に合った制度運用とするために特別加入制度の対象範囲が見直されました。

需要がある業務を中心に、業務実態や災害発生の状況から、必要だとみなされた一定の業務に従事する人が拡大の対象となっています。

労災保険の特別加入制度の対象者

特別加入制度の対象者は、大きく4種類に区分されます。

区分対象者
中小事業主等次の①、②にあたる方(※)
1 一定の労働者を常時使用する事業主
2 労働者以外で①の事業主の事業に従事する人(事業主の家族従業者など)
一人親方その他の自営業者労働者を使用せず一定の事業を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する方
特定作業従事者● 特定農作業従事者
● 指定農業機械作業従事者
● 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
● 介護作業従事者および家事支援従事者
● 労働組合等の一人専従役員
● 芸能関係作業従事者
● アニメーション制作作業従事者
● ITフリーランス
海外派遣者 ● 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
● 日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に労働者ではない立場として派遣される人
● 開発途上地域に対する技術協力の実施の事業 (有期事業を除く)を行う団体から派遣され、開発途上地域で行われている事業に従事する人
(※)1年間に100日以上労働者を使用している場合は、常時労働者を使用しているものとして扱われます。
(※)中小事業主等と認められる企業規模は、金融業・保険業・不動産業・小売業は労働者数50人以下、卸売業・サービス業は100人以下、その他業種は300人以下です。

特別加入制度の対象拡大となったのは、上記のうち「一人親方その他の自営業者」または「特定作業従事者」に加わった以下の業種です。

2021年4月以降新たに特別加入が認められた人

● 芸能従事者やアニメーション制作者、柔道整復師
● 自転車を使用して貨物運送事業を行う者、ITフリーランス
● あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
● 歯科技工士
それぞれ以下で詳しく解説します。

【2021年4月】芸能従事者やアニメーション制作者、柔道整復師

2021年4月に対象となったのは、以下の業種です。

区分対象者
芸能関係作業従事者● 芸能実演家(俳優、舞踊家、音楽家、演芸家、スタント他)
● 芸能制作作業従事者(監督、撮影、照明、音響・効果、録音、大道具製作、美術装飾、衣装、メイク、結髪、スクリプター、ラインプロデュース、アシスタント、マネージメント他)
アニメーション制作作業従事者● キャラクターデザイナー
● 作画
● 絵コンテ
● 原画
● 背景
● 監督
● 演出家
● 脚本家
● 編集他
柔道整復師柔道整復師法にもとづく「柔道整復師」の資格を持っている人
創業支援等措置に基づき事業を行う人高齢者雇用安定法にもとづく、65歳から70歳までの就業確保措置のうち、雇用によらない措置にもとづく事業に従事する人(※)
出典:厚生労働省「令和3年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました」
(※)雇用によらない就業確保措置とは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入が該当します。
● 事業主が自ら実施する社会貢献事業
● 事業主が委託・出資等する団体が行う社会貢献事業

芸能関係作業従事者・アニメーション制作作業従事者は「特定作業従事者」に属します。

柔道整復師・創業支援等措置に基づき事業を行う人は「一人親方その他自営業者」に該当します。

柔道整復師が、従業員を雇用している場合は、従来通り中小事業主として特別加入することが可能です。ただし、一定の条件を満たしている必要があります。あんま・歯科技工師でも同様です。

【2021年9月】自転車を使用して貨物運送事業を行う者、ITフリーランス

2021年9月には、自転車を使用して貨物運送事業を行う者、ITフリーランスが特別加入者の対象に加わりました。

自転車を使用して貨物運送事業を行う者には、フードデリバリーサービスの自転車配達員などが該当します。

また、ITフリーランスとして特別加入が認められたのは、以下のような人です。

2021年9月に特別加入の対象に加わった人

● ITコンサルタント
● プロジェクトマネージャー
● プロジェクトリーダー
● システムエンジニア
● プログラマ
● サーバーエンジニア
● ネットワークエンジニア
● データベースエンジニア
● セキュリティエンジニア
● 運用保守エンジニア
● テストエンジニア
● 社内SE
● 製品開発/研究開発エンジニア
● データサイエンティスト
● アプリケーションエンジニア
● Webデザイナー
● Webディレクター
※以上の職種は例示です。

自転車配達員は「一人親方その他の自営業者」、ITフリーランスは「特定作業従事者」として特別加入が認められています。

【2022年4月】あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師

2022年4月には、以下の人が特別加入制度の対象に加わりました。

2022年4月に特別加入の対象に加わった人

● あん摩マッサージ指圧師
● はり師
● きゅう師
それぞれ資格を持っている人が対象です。特別加入制度の対象者のうち、「一人親方その他の自営業者」に該当します。

また、従業員を雇用している場合、従来通り中小事業主として特別加入することが可能です。ただし、一定の条件を満たしている必要があります。

【2022年7月】歯科技工士

2022年7月に対象となったのは、歯科技工士の資格を持っている人です。「一人親方その他の自営業者」として、新たに特別加入が認められました。

従業員を雇用している場合は、従来通り中小事業主として特別加入することができます。ただし、上記と同様に特定の要件を満たす必要があります。

労災保険の特別加入制度を利用するメリット

労災保険に特別加入するかどうかを迷っている方に向けて、特別加入制度を利用するメリットを紹介します。

労災保険に特別加入するメリット

● 業務上の病気やケガをしたときに補償が受けられる
● 自分で保険料を設定できる

業務上の病気やケガをしたときに補償が受けられる

労災保険に特別加入すれば、業務中や通勤中に病気やケガをしたときに本人または家族が保険給付を受けられます。

たとえば、業務中の病気やケガで治療が必要になった場合、治療にかかった費用が全額支給されるため自己負担がありません。

特別加入者は、休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付など、原則として労働者と同等の給付が受けられます。

給付の例支給されるとき
休業補償給付4日以上労働できない場合
障害補償給付治癒後一定の障害が残った場合
遺族補償給付死亡した場合

自分で保険料を設定できる

特別加入者の保険料は、3,500円~25,000円の範囲で設定する「給付基礎日額」に応じて決まります。

給付基礎日額とは、休業補償給付などの給付額を算定する基礎となるもので、本人の申請に基づき労働局長が決定します。

通常、労災保険の保険料は、賃金総額に労働保険料率(労災保険率+雇用保険率)をかけた額です。

しかし、特別加入者は給付基礎日額とのバランスをみながら、自ら保険料を決められます。

給付基礎日額を高くするほど補償は手厚くなりますが、その分保険料も高くなるため、慎重に検討しましょう。

労災保険の特別加入制度を利用するデメリット

労災保険の特別加入を検討する際、以下の注意点も考慮しましょう。

労災保険に特別加入するデメリット

● 入会金・会費の負担が生じる
● 業務上のケガすべてが補償対象になるわけではない

入会金・会費の負担が生じる

労災保険に特別加入する際、労働保険事務組合や特別加入団体への加入にあたり、入会金・会費が必要となります。

中小事業主等は「労働保険事務組合」、一人親方等は「特別加入団体」を通じ、団体として加入申請しなければなりません。

その際、保険料のほかに、入会金や会費の支払いが生じます。費用は組合・団体によって異なるので、事前に確認しましょう。

業務上のケガすべてが補償対象になるわけではない

労災保険に加入しても、業務上のすべてのケガが補償されるわけではありません。

中小事業者等の場合は、特別加入申請書の「業務の内容」欄に記載された所定労働時間(休憩時間・時間外・休日労働を含む)内に行った業務などが補償対象です。

加入者ごとに補償の範囲が定められているので、補償されるケース・されないケースをきちんと認識したうえで加入を検討しましょう。

労災保険の特別加入制度の申請手順

一人親方等が労災保険に特別加入するときは、都道府県労働局長の承認を受けた「特別加入団体」を通じて手続きを行います。特別加入団体を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険が適用される仕組みです。

以下のいずれかの方法で手続きを行います。

特別加入制度の申請方法は2種類

1 既存の特別加入団体を通じて申請する
2 新たに特別加入団体をつくって申請する
なお、「中小事業主等」は労働保険事務組合を通じて、「海外派遣者」は派遣元の団体または事業主を通じて手続きします。

1 既存の特別加入団体を通じて申請する

すでに特別加入団体として承認されている団体に申し込む方法です。以下の流れで手続きを行いましょう。

1. 特別加入団体に加入申込みをする
2. 特別加入団体が所轄の労働基準監督署長経由で労働局長に「特別加入に関する変更届」を提出する

加入申込みの際、原則として顔写真付きの身分証明書(顔写真なしの場合は2点以上)の提示が必要です。

詳しくは、お近くの特別加入団体や都道府県労働局に問い合わせる、またはホームページで確認しましょう。

2 新たに特別加入団体をつくって申請する

新たに特別加入団体をつくって申請する方法です。以下の流れで手続きしましょう。

1. 「特別加入申請書」を記入する
2. 所轄の労働基準監督署長を経由して所轄の都道府県労働局長に提出する

特別加入申請書の主な記載事項は、特別加入を希望する人の業務内容・業務歴・希望する給付基礎日額です。

記入後、原則として以下の書類を添付し、所轄の労働基準監督署長に申請書を提出します。

特別加入申請書に添付する書類

● 定款、規約などの目的、組織、運営などを明らかにする書類
● 業務災害の防止に関して団体が講ずべき措置および守るべき事項を定めた書類
申請書の記入方法や給付基礎日額は、厚生労働省「特別加入制度のしおり」を参考にしましょう。申請日の翌日から30日以内で、申請者が加入を希望する日が承認日となります。

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まとめ

労災保険の特別加入制度とは、労働者以外で、業務実態や災害の発生状況から給付が必要な一定の人に労災保険への加入を認める制度です。

特別加入制度の対象者は、社会情勢の変化にあわせて順次拡大されています。

2022年には、自転車配達員・ITフリーランス・歯科技工士が新たに特別加入制度の対象となりました。今後も適宜見直しが行われ、対象者が増えることが予想されるでしょう。

対象者は、メリット・デメリットを踏まえ、特別加入を検討しましょう。

よくある質問

労災保険の特別加入制度とは?

労災保険の特別加入制度とは、労働者でない人のうち、保護が必要だとみなされる一定の人に、労災保険への加入を特別に認める制度です。

労災保険の特別加入制度の概要を詳しく知りたい方は「労災保険の特別加入制度とは?」をご覧ください。

特別加入制度の対象者は?

対象となるのは、労働者以外で、中小事業主等・一人親方その他の自営業者・特定作業従事者・海外派遣者のいずれかに該当する人です。社会情勢の変化にあわせて、対象者は順次拡大されています。

特別加入制度の対象者を詳しく知りたい方は「特別加入制度の対象者」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史