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中小企業における後継者不足の現状は?解決策と後継者の育成方法を解説

公開日:2024/06/04

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

中小企業における後継者不足の現状は? 解決策と後継者の育成方法を解説

経営者の高齢化が進むなか、中小企業の後継者不足問題は深刻化しています。黒字であっても、後継者不足で廃業せざるを得ない企業も少なくありません。

本記事では、中小企業で深刻化する後継者不足の現状と原因、具体的な解決策を解説します。後継者を育成する方法もあわせて紹介するので、ぜひご覧ください。

スムーズな事業承継を実現するためにも、早いうちから準備・対応を進めましょう。

目次

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中小企業における後継者不足の現状

経営者の高齢化とともに、中小企業の事業承継は喫緊の課題となっています。

東京商工リサーチの「全国社長の年齢調査」(2023年)によると、経営者の平均年齢は63.76歳であり過去最高を更新しました。

出典:東京商工リサーチ「社長の平均年齢 過去最高の63.76歳 最高は高知県65.96歳、最年少は広島県62.67歳」

経営者の平均年齢が伸び続けるなか、後継者が決まっており本人も承諾している中小企業(決定企業)は、10.5%にとどまります。

出典:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」

一方、後継者が決まっておらず自分の代で事業をやめる予定の中小企業(廃業予定企業)は、57.4%にのぼる結果でした。

区分割合
決定企業10.5%
未定企業20.0%
廃業予定企業57.4%
時期尚早企業12.0%
また、廃業予定企業のうち後継者難を理由とした廃業は約30%を占めており、後継者不足が中小企業にとって大きな問題のひとつであることがわかります。

中小企業における後継者不足の原因

中小企業で後継者不足が深刻化している主な原因は、以下の通りです。

中小企業で後継者不足が深刻化している主な原因

  • 少子高齢化が進んでいる
  • 親族内承継が減った
  • 事業の先行きに不安がある
  • 事業承継の準備が進んでいない

少子高齢化が進んでいる

後継者不足に大きな影響を与えているのは、加速する少子高齢化です。

内閣府「令和4年版高齢社会白書」によると、2021年10月1日時点の日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は28.9%にのぼります。

出典:内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節 1)」

高齢化率は今後も上昇し続け、2036年には33.3%、2065年には38.4%に推定すると想定されています。

一方、内閣府によると2020年の出生数は84万835人であり、これまででもっとも少ない結果となりました。

出典:内閣府「令和3年度少子化の状況及び少子化への対処施策の概況(令和4年版少子化社会対策白書)」

高齢化によって事業を次世代へ引き継ぐ時期を迎える経営者が増えるなか、少子化によって後継者候補は減っており、後継者不足へとつながっています。

親族内承継が減った

従来は、子どもや孫などの親族に会社の経営を引き継ぐ「親族内承継」が第一の選択肢でした。

しかし、少子化や働き方の多様化が進むなかで、近年は親族以外を後継者候補とする企業が増えています。

日本政策金融公庫の調査によると、「長男」を後継者候補とする企業の割合は低下し、親族以外の役員・従業員や社外の人を後継者候補とする割合が増加しています。

出典:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」

事業の先行きに不安がある

事業の先行きへの不安から、後継者側が引き継ぐのをためらうケースもあります。

中小企業の経営環境は、原材料・エネルギー価格の高騰や人手不足などを背景に厳しい状況が続いています。新型コロナウイルス感染症による営業活動の縮小やコスト増加によって、大きな打撃を受けた中小企業は少なくありません。

日本政策金融公庫の調査によると、廃業予定企業が廃業する理由としてもっとも多かったのは「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」(45.2%)、次に多かったのは「事業に将来性がない」(22.1%)でした。

出典:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」

また、株式会社ニッセイ基礎研究所「就業意識調査」によると、親が事業を行っている就業者の半数近くが引き継ぐ意思がないと回答しています。

さらに、引き継ぎたくない理由としてもっとも多かったのは「親の事業に将来性・魅力がないから」(45.8%)でした。

後継者不足を防ぐには、経営革新によって事業の将来性・魅力を高めることが重要です。

事業承継の準備が進んでいない

事業承継の必要性は感じているものの、事業承継を先送りにしてしまうのも原因のひとつです。

先送りにしてしまう背景には、「日々の経営で手一杯」、「何から始めればよいかわからない」などが挙げられます。

中小企業庁によると、事業承継には後継者の育成も含めて5~10年程度を要するのが一般的です。

早い段階から計画的に準備を進めなければ、後継者が見つからないまま経営者の判断能力が低下または死亡してしまい、事業継続に支障がでる可能性があります。

中小企業における後継者不足の解決策

事業を存続させていくためには、円滑な事業承継によって次世代へ経営資源をしっかり引き継ぐことが重要です。

後継者不足を解決するための具体的な方法を解説します。

後継者不足の解決策

  • 早い段階から計画を立てて事業承継に取り組む
  • M&Aを活用する
  • 事業承継の相談窓口を利用する

早い段階から計画を立てて事業承継に取り組む

事業承継を成功させるために、先送りにせず早い段階から計画的に準備しましょう。

事業承継を完了させるまでには、さまざまな手続きが必要です。

事業承継に必要な手続きの例

  • 会社の現状の把握
  • 後継者の選定
  • 経営計画の策定
  • 従業員・取引先への周知
  • 株式や財産の分配
  • 経営改善
また、後継者の育成には時間を要します。後継者が十分な能力やスキルを身に付けられるよう、現在の経営者が健康なうちに取り組む必要があります。

経営者の平均引退年齢は70歳前後であるため、60歳ごろには事業承継の計画や準備を始めるのが理想です。

M&Aを活用す

子どもや孫などの親族に事業を引き継げず、役員・従業員にも適任者がいない場合、M&Aを活用する方法もあります。

M&Aとは、社外の第三者に株式を譲渡する、または事業を譲渡する方法によって事業承継する方法です。新規事業展開を目指す企業や創業希望の個人に引き継ぐことで会社を存続できます。

また、従業員の雇用も引き継いで守れる事例が多いほか、会社売却による利益が得られます。

M&Aを有利に進めるためにも、早いうちから自社の強みや技術を書き出して、第三者に自社の魅力を伝えられるよう準備しておくと良いでしょう。

ただし、M&Aにはさまざまなノウハウや専門知識が必要です。

近年では、オンラインでM&Aができるサービス(マッチングサイト)も増えてきており、以前と異なり選択肢の幅が広がりました。その分誤った判断を行わないためにも、まずは専門家や公的機関に相談し、サポートを受けながら進めましょう。

事業承継の相談窓口を利用する

事業承継は事業を継続的に発展させていくための重要な取り組みであるため、専門家に相談しながら慎重に進めることが大切です。

たとえば、全国に設置されている公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」では、事業承継に関するあらゆる相談に対応してくれます。

中小企業診断士、税理士などの専門家が在籍しており、後継者が不在の場合のサポートや事業承継計画の策定などの支援を受けることが可能です。

また、商工会議所や「よろず支援拠点」(国が設置した相談窓口)でも事業承継に関する相談を受け付けています。

事業承継には、後継者の選定・育成だけでなく相続税・贈与税の負担など多くの課題があり手続きも複雑であるため、なるべく早めに専門家に相談しましょう。

中小企業の後継者を育成する方法

後継者不足による事業存続の危機を防ぎ、また事業承継後も会社を発展させるためには、十分な期間をとって後継者候補を育成することが大切です。

後継者を育成する具体的な方法を解説します。

後継者を育成する方法

  • 社内の主要部門で業務経験を積ませる
  • 経営幹部として意思決定などを任せる
  • 経営者が直接指導する
  • セミナーを受講させる

社内の主要部門で業務経験を積ませる

営業部門や管理部門(財務・労務)などの主要部門で、さまざまな業務経験を積ませましょう。

複数部門での業務経験を積ませれば、社内の業務プロセスへの理解が深まります。現場の実態を知り会社全体を把握しやすくなれば、事業承継後の経営判断にも役立つでしょう。

経営幹部として意思決定などを任せる

経営力を身に付けるには、後継者候補を経営幹部に任命し、実際に経営へ参画させるのが効果的です。

新規事業立ち上げを担当させる、または経営上の意思決定・交渉を任せれば、経営者としての自覚・責任感やリーダーシップを養えます。

経営者が直接指導する

経営者が後継者に対し、経営者としての心構・経営理念・ノウハウ・今後の事業計画などを直接伝授しましょう。

事業を継続的に存続させるためには、目に見えにくい経営資源を引き継ぐ期間もしっかり設けることが大切です。会社の魅力を十分に承継することは、事業承継後の取引先との友好な関係にもつながります。

セミナーを受講させる

外部機関による後継者向けのセミナーに参加させ、経営に必要となる基本的な知識を効率よく習得させましょう。後継者同士が集まる場に参加すれば、人脈も広げられます。

セミナーは、民間の専門機関・金融機関、中小企業大学校(独立行政法人中小企業基盤整備機構)、全国の商工会議所・商工会などが開催しており、学べる内容もさまざまです。

事業承継に関する公的支援制度

国や自治体などの公的機関は、中小企業の事業承継を後押しするためのさまざまな支援を実施しています。

公的支援制度概要
事業承継税制後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の負担を軽減する制度
経営資源集約化税制経営力向上計画にもとづいてM&Aを実施した場合に税制措置が受けられる制度
登録免許税・不動産取得税の特例M&A時の不動産の権利移転にかかる登録免許税・不動産取得税を軽減する特例
事業承継・引継ぎ補助金事業承継後の設備投資や販路開拓などに要する経費の一部を補助する制度
金融支援承継時に必要な各種資金に対し、日本政策金融公庫による融資や信用保証などを受けられる
中小企業大学校後継者に必要な能力や知識を実践的に習得できる研修を受講できる
各種ガイドライン・マニュアル中小企業庁や経済産業省が事業承継に関するガイドライン・マニュアルを無料で提供している
事業承継診断事業承継に関する課題を抽出できる簡単なチェックシート
ローカルベンチマーク経営状態や経営に活かせる強みを把握・分析するためのツール
上記のほか、独自の事業承継支援を行っている自治体もあります。たとえば、東京都では事業承継セミナーや事業承継塾(後継者が経営的知識やスキルを習得できる塾)、事業承継支援助成金などを実施しています。

利用できる公的支援制度を把握し、積極的に活用しましょう。

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まとめ

経営者の高齢化が進むなか、少子化や事業の先行きへの不安などを背景に中小企業の後継者不足問題が深刻化しています。

円滑な事業承継を実現させ会社をさらに発展させていくためには、早い段階から計画を立てて取り組み、後継者候補を育成することが大切です。

事業承継は専門的なノウハウが必要で手続きも複雑であるため、まずは支援機関や専門家に相談しましょう。

よくある質問

中小企業における事業承継の現状は?

経営者の高齢化が進み、中小企業の事業承継が喫緊の課題となるなか、後継者が決まっている中小企業は10.5%にとどまります。

中小企業における事業承継の現状を詳しく知りたい方は「中小企業における事業承継の現状」をご覧ください。

中小企業における後継者不足の解決策は?

後継者不足の主な解決策は以下の通りです。

後継者不足の解決策

  • 早い段階から計画を立てて事業承継に取り組む
  • M&Aを活用する
  • 事業承継の相談窓口を利用する
後継者不足の解決策を詳しく知りたい方は「中小企業における後継者不足の解決策」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史