監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
電子帳簿保存法の事務処理規程とは、電子取引データの改ざん防止を目的とした要件のひとつです。2022年の法改正に伴い、2024年1月1日以降はすべての事業者に対して電子取引のデータ保存が義務化されました。よって、電子帳簿保存法の要件を満たすために、事務処理規程が必要となるケースがあります。
本記事では、電子帳簿保存法における事務処理規程の必要性や記載項目、注意点について解説します。電子帳簿保存法を効率良く行う方法も紹介しているので、参考にしてください。
目次
- 電子帳簿保存法の事務処理規程とは
- 電子帳簿保存法の事務処理規程が必要となるケース
- 事務処理規程が不要なケースもある
- 真実性を確保できても事務処理規程を作成したほうが良いケース
- 電子帳簿保存法の事務処理規程への記載事項と例
- 法人の場合
- 個人事業主の場合
- 電子帳簿保存法の事務処理規程における注意点
- 電子データによる取引の範囲を詳しく記載する
- 対象となるデータを詳しく記載する
- 訂正・削除する場合の条件や方法を規定する
- 管理責任者や規程に従う人の範囲を規定する
- 事務処理規程の備え付けを怠った場合の罰則
- 青色申告の承認取り消し
- 推計課税や追徴課税
- 会社法による過料
- 電子帳簿保存を効率良く行うにはシステムの導入がおすすめ
- まとめ
- 電子帳簿保存法の要件を満たしながら帳簿書類を簡単に電子保存する方法
- よくある質問
電子帳簿保存法の事務処理規程とは
電子帳簿保存法では、電子取引データの改ざん防止を目的とした要件のひとつに、事務処理規程を設けることを求めています。
電子帳簿保存法について詳しく知りたい方は、別記事「電子帳簿保存法とは?対象書類や保存要件・改正内容についてわかりやすく解説」、「電子帳簿保存法の改正による電子保存義務化はいつから?必要な対応を解説」をご覧ください。
電子取引の取引情報を電子データで保存するには、そのデータが本物であることを保証する必要があり、改ざん防止手続きが必要です。そのため、電子帳簿保存法では以下のいずれかの改ざん防止手続きを行うことを求めています。
電子帳簿保存法で行うべきとされる改ざん防止手続き
- タイムスタンプ付与後、取引情報の受け渡しを行う
- 取引情報を授受後に速やかにタイムスタンプを付し、保存する人または監督者に関する情報を確認できるようにしておく
- データの訂正・削除を行った場合、訂正・削除の事実や内容を確認できるシステム、またはデータの訂正・削除を行うことができないシステムを利用して取引情報の受け渡しや保存を行う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて、規程に沿った運用を行う
この4つの要件は、「真実性の確保」の要件と呼ばれています。なお、タイムスタンプとは「その時点でその電子文書が存在していたこととそれ以降その電子文書が改ざんされていないこと」を証明する技術のことです。
電子取引を行ってデータを保存する場合は、データが改ざんされていない本物であることの保証「真実性の確保」とあわせて、保存されたデータの検索・表示ができるようにする「可視性の確保」をする必要があります。
電子帳簿保存法の事務処理規程が必要となるケース
以下2件のケースのように、真実性の確保が難しい場合は電子帳簿保存法の事務処理規程が必要となります。
事務処理規定が必要になるケース
- 作成日が2021年12月31日以前の書類をスキャンして電子データ化・保存するケース
- 正当な理由がない状態かつ訂正・削除が行われる可能性のある環境下で、取引データを電子化するケース
改正電子帳簿保存法が開始された2022年1月1日以前に作成された書類をスキャンして電子データ化する場合は、事務の手続きを明らかにした事務処理規程で、責任者を定めているものを備え付けることが必要です。これがあれば、スキャナ保存が可能となります。
また、正当な理由なく訂正・削除が行われる環境下において取引データを電子化している場合は、真実性の要件が保証されていません。よって、事務処理規程を設けて不正な訂正・削除が行われないようにする必要があります。
事務処理規程が不要なケースもある
事務処理規程は、電子取引の取引情報を電子データで保存する際に、「データが改ざんされていない本物であること」を保証する「真実性の確保」の要件のひとつです。もし、別の方法で真実性を確保できるのであれば、事務処理規程を作成する必要はありません。
具体的には、電子取引に対応したシステムを導入するケースです。タイムスタンプの付与が可能だったり、訂正・削除の履歴が残ったりするような、電子取引に対応したシステムを導入すれば、真実性が確保できるため事務処理規程は不要です。
真実性を確保できても事務処理規程を作成したほうが良いケース
電子帳簿保存法の真実性の確保を満たすシステムを導入していたとしても、以下のようにシステムで対応しきれないケースや、システム上の制約があるケースが考えられるため、事務処理規程を作成したほうが良いといえます。
システムを導入していても事務処理規程を作成した方がいいケース
- 取引先から受け取ったファイル形式が自社のシステムで授受できないケース
- 単一のシステム上で「授受」と「保存」の要件を満たさないケース
- タイムスタンプ付与の対象となるファイル形式ではないケース
電子帳簿保存法の事務処理規程への記載事項と例
電子帳簿保存法の事務処理規程を作成する際の記載事項と例を、法人と個人事業主に分けて解説します。
なお、実際に作成する際は国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」の「電子取引に関するもの」にある電子帳簿保存法の事務処理規程のサンプルを活用してください。
法人の場合
法人の場合に記載する電子帳簿保存法の事務処理規程の事項は、次のとおりです。
【法人版】電子帳簿保存法の事務処理規程の事項
- 目的
- 適用範囲
- 管理責任者
- 電子取引の範囲
- 電子データの保存
- 対象となるデータ
- 運用体制
- 訂正・削除の原則禁止
- 訂正・削除を行う場合
- 施行日
書式の例としては、以下のようになります。
各事項について説明していきます。
1. 目的
事務処理規程が、電子取引の取引情報にかかる電磁的記録の保存義務を履行するためのものであることを明確にします。また、適正な保存のために必要な事項を定めていることもあわせて示します。
2. 適用範囲
事務処理規程が、誰に対して適用されるのかを記載します。通常は、全役員と従業員に適用されます。
3. 管理責任者
事務処理規程の管理責任者を記載します。
4. 電子取引の範囲
自社で行う電子取引の範囲を示します。
具体的な記載例としては以下のようなものになり、発生し得る電子取引はすべて記載する必要があります。
- 電子メールを利用した取引関係書類の授受
- ◯◯(クラウドサービス名)を利用した取引関係書類の授受
5. 電子データの保存
電子取引データをどこに、何年間保存するのかを記載します。
6. 対象となるデータ
「見積依頼情報」や「見積回答情報」など、保存の対象となるデータをすべて記載します。
7. 運用体制
保存する取引関係情報の管理責任者と処理責任者など、電子取引のデータ管理に関する運用体制について定めます。
8. 訂正・削除の原則禁止
訂正や削除を原則として禁止することを明記します。
9. 訂正・削除を行う場合
やむを得ない理由で訂正や削除を行う場合の方法を記載します。具体的には、処理責任者からの申請、管理責任者の承認といったフローを示します。
10.施行日
事務処理規程をいつから施行するのかを定めます。
個人事業主の場合
個人事業主の場合に記載する電子帳簿保存法の事務処理規程の事項は、次のとおりです。
【個人事業主版】電子帳簿保存法の事務処理規程の事項
- 規程の内容
- 訂正・削除の原則禁止
- 訂正・削除を行う場合
- 施行日
法人の場合よりも簡易的な事務処理規程で必要事項を満たします。
各事項について説明していきます。
1. 規程の内容
法人の目的と同様に、事務処理規程が電子取引の取引情報にかかる電磁的記録の保存義務を履行するためのものであることを明示します。また、適正な保存のために必要な事項を定めていることについても示します。
2. 訂正・削除の原則禁止
法人と同様に、訂正や削除を原則として禁止することを明記します。
3. 訂正・削除を行う場合
やむを得ない理由で訂正や削除を行う場合の方法を記載します。ただし、法人の場合と異なり、責任者に関する記述は不要です。
代わりに、取引情報の訂正・削除内容や理由に関する書類を作成し、当該取引関係情報の保存期間に合わせて保存するといった具体的な方法を記載します。
4. 施行日
法人と同様に、事務処理規程を施行する日を定めます。
電子帳簿保存法の事務処理規程における注意点
事務処理規程の項目は、自社の運用体制に応じて修正していきます。作成した規程内容が法令を遵守しているかについても確認し、定期的に見直すようにします。
電子帳簿保存法の事務処理規程における注意点として挙げられるのは以下の4つです。
事務処理規定における主な4つの注意点
- 電子データによる取引の範囲を詳しく記載する
- 対象となるデータを詳しく記載する
- 訂正・削除する場合の条件や方法を規定する
- 管理責任者や規程に従う人の範囲を規定する
電子データによる取引の範囲を詳しく記載する
電子データの保存の対象になるかどうかを事務処理規程の記載から判断できるようにするため、取引の形態を明確に記載する必要があります。具体的には、以下の内容が挙げられます。
取引の形態を記載する際の内容
- EDI(Electric Data Interchange:電子データ交換)による取引
- 電子メールで送られてきた請求書データ(PDFファイル等)
- ホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータまたはホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
- クラウドサービスで共有した電子請求書データ
- クラウドサービスを利用して取り込んだクレジットカードの利用明細データ
- 電子マネーのデータ
- スマートフォンアプリによる決済データ など
対象となるデータを詳しく記載する
電子データ保存の対象となる内容として、以下の項目などが該当します。
保存対象となるデータ項目
- 見積依頼情報
- 見積回答情報
- 確定注文情報
- 注文請け情報
- 納品情報
- 支払情報
自社の業務フロー上、対象となるデータはもれなく記載するようにします。
訂正・削除する場合の条件や方法を規定する
訂正・削除の手続きは、厳格に定める必要があります。たとえば、訂正・削除を申請するための「申請書」の内容や申請方法、申請を受けた管理者がとるべき対応を規定します。
また、訂正・削除後は「取引情報訂正・削除完了報告書を作成すること」などを記載します。
管理責任者や規程に従う人の範囲を規定する
適切な運用体制を行うためにも、管理責任者を記載し、担当者が変わったら速やかに規程に変更を反映させます。
あわせて、規程に従う人の範囲も記載します。この場合、単に「従業員」といった記載ではなく、役員や社員、契約社員、パートタイマーといったように、詳細な種別を記載する必要があります。
事務処理規程の備え付けを怠った場合の罰則
電子帳簿保存法の「真実性の確保」の要件のうち、ひとつも満たさず、かつ事務処理規程の備え付けを怠った場合は以下の罰則を受ける可能性があります。
事務処理規定の備え付けを怠った際に受ける罰則
- 青色申告の承認取り消し
- 推計課税や追徴課税
- 会社法による過料
それぞれの罰則について、その影響度合いやデメリットなどを詳しく紹介します。
青色申告の承認取り消し
青色申告の承認が取り消されると、最大65万円の特別控除が受けられなくなります。さらに、その年に発生した赤字額と翌年の黒字を相殺することができなくなる、企業としての信頼を損うなどのデメリットが生じます。
ただし、国税庁の「お問い合わせの多いご質問(令和3年11月)」の「Ⅳ【補足説明】補4」において、「電子帳簿保存法の規則に違反したからといって、すぐに青色申告が取り消されるわけではない」との見解が示されています。
事務処理規程の備え付けを怠ったからといって、すぐに青色申告の承認が取り消されるわけではありませんが、場合によっては取り消しの可能性があることを意識しておきましょう。
出典:国税庁「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」
推計課税や追徴課税
国税関係帳簿書類に不備や誤記が多い場合は、税務署による「推計課税」がおこなわれる可能性があります。推計課税とは、所得税や法人税について税務署が税額を推定して、課税することです。推計課税は税務署の判断で課税金額が決められるため、より多くの税金を支払わなければなりません。
また、電子データで悪質な改ざんや隠ぺいが明らかになると、通常の追徴課税35%に10%を加重して納める必要があります。
会社法による過料
会社法第976条には帳簿や書類の記録・保存に関する規定があり、電子帳簿保存法上での違反が発覚すると会社法の規定違反でも罰せられる恐れがあります。
具体的には、国税関係帳簿書類を適正に保存しなかった場合は100万円以下の過料が科せられることになります。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第九百七十六条」
電子帳簿保存を効率良く行うにはシステムの導入がおすすめ
電子帳簿保存を効率良く行うには、システムを導入するのがおすすめです。システムを導入する際の選定ポイントは、以下の3つです。
電子帳簿保存のためにシステム導入する際の選定ポイント
- 電子帳簿保存法のうち、帳簿・スキャナ保存・電子取引のどの類型に対応したシステムなのか(例:取引先と電子メールによって請求書等のやり取りをしている場合は、電子取引に対応したシステムを選ぶ)
- 電子データを保存するのにどれくらい手間がかかるのか(例:電子取引によって授受したデータを保存するのにどれくらいの工数が必要なのかを調べる)
- 保存だけではなく、受発注や経費精算などの業務プロセスをクラウド上で行えるのか(例:発注書や請求書、経費精算などをクラウド上で連携させ、一元管理化することができるかどうかを調べる)
まとめ
電子帳簿保存法では、電子取引データが改ざんされていない本物であることを保証するために、「真実性の確保」の要件を満たす必要があります。その要件のひとつが、事務処理規程の備え付けです。
事務処理規程を作成する際は、電子データによる取引の範囲や対象となるデータを詳しく記載し、訂正・削除する場合の条件や方法、管理責任者や規程に従う人の範囲などを明記するようにしてください。
事務処理規程の備え付けを怠るなど電子帳簿保存法に違反した場合は、罰則の可能性もあります。電子帳簿保存法を効率良く行うためにも、システムの導入をおすすめします。
電子帳簿保存法の要件を満たしながら帳簿書類を簡単に電子保存する方法
電子帳簿保存法に従って帳簿や書類を電子保存するためには、さまざまな保存要件を満たさなければなりません。タイムスタンプの付与や検索機能の確保など、環境構築からはじめなければならないような要件も多く、担当者に大きな負担がかかってしまいます。
そこでおすすめしたいのが、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入です。システムの導入によって、帳簿書類を電子帳簿保存法の各要件を満たしながら簡単に電子保存できます。
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よくある質問
電子帳簿保存法で事務処理規程は義務付けられていますか?
電子帳簿保存法での事務処理規程は、電子取引のデータ保存に関する「真実性の確保」を満たすための要件のひとつであり、法律上の義務ではありません。
しかし、2021年12月31日以前に作成された書類をスキャンして電子データ化・保存するケースや、正当な理由がない状態かつ訂正・削除が行われる可能性のある環境下で取引データを電子化するケースでは、事務処理規程を備え付ける必要があります。
詳しくは記事内「電子帳簿保存法の事務処理規程が必要となるケース」をご覧ください。
タイムスタンプが不要な電子帳簿保存法の事務処理規程は?
タイムスタンプを付与したあとに、取引情報の受け渡しを行う際は、電子取引のデータ保存に関する「真実性の確保」を満たすため、事務処理規程は不要です。
ただし、導入したシステムが対応しきれないケースや、システム上の制約があるケースも考えられるため、真実性を確保できても事務処理規程を作成したほうが良いといえます。
詳しくは記事内「真実性を確保できても事務処理規程を作成したほうが良いケース」をご覧ください。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。