公開日:2023/07/15
監修 安田 亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
2023年4月7日に、内部統制基準および実施基準の改訂が公表されました。改訂内容や適用時期、背景や中長期的な課題を解説します。
内部統制は、組織内で目標達成やリスク管理を確保するための仕組みや、規則で経営や事業を適正に進めるために大切なプロセスです。内部統制基準や実施基準の改訂内容を知り、内部統制を適切に実施しましょう。
目次
2023年4月の内部統制基準および実施基準の改訂とは?
内部統制基準および実施基準の改訂とは、内部統制評価の実務上のガイドラインである下記の基準の改訂を指しています。
内部統制評価の実務上のガイドライン
● 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」(以下、基準)● 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、実施基準)
2023年4月7日、金融庁/企業会計審議会は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」を公表しました。意見書の公表を受けて、今後内部統制評価のルールが変更されます。 出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」
内部統制監査を受けている企業、またはIPO(新規上場株式)準備中の企業にとって、内部統制評価への対応は必須なので、適宜対応しましょう。
改訂後の内部統制基準の適用時期
改定後の基準および実施基準の適用は、2024年4月1日以降に始まる事業年度の内部統制監査からです。
なお意見書では、日本公認会計士協会に、内部統制監査の実務指針の作成を要請しています。日本公認会計士協会は、財務報告内部統制監査基準報告書の一部を見直し、意見公募を2023年6月23日まで実施しています。
内部統制基準の改訂の背景
内部統制報告制度の開始以降も、企業の経営環境は進化しており、新たなリスクへの対応が必要です。適切なガバナンスとリスク管理のため、内部統制基準の改訂が行われることとなりました。
以下より、内部統制基準の改訂の背景となる要因について詳しく解説します。
内部統制報告制度の実効性への懸念
内部統制基準が改訂された背景のひとつは、内部統制報告制度(J-SOX制度)の実効性に関する懸念が生じたためです。
2008年に内部統制報告制度が開始されて以降、制度は財務報告の信頼性の向上に一定の効果をもたらしました。
ただし、制度導入から15年ほどたち、経営者による内部統制の評価範囲外で開示が必要になる事例が出てきました。現行制度ではこれらの事例を補填することができません。
また、2013年5月に米国のCOSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)報告書が改訂され、国際的な内部統制の枠組みが変化しています。しかし、日本の内部統制報告制度には、国際的な枠組みの変化はまだ反映されていません。
このような内部統制報告制度をとりまく環境に対応するため、内部統制基準は改訂されました。内部統制基準の改訂に関する意見書は、2021年10月から内部統制部会で行われた審議を踏まえ、2023年4月に公表されています。
そもそも内部統制基準の目的とは?
内部統制基準の目的は、組織内で適切な管理や監督を行い、財務報告の信頼性や企業価値保全することです。先述のように、基準には内部統制の概念が、実施基準には内部統制評価の実務に関する進め方や監査方法が記載されています。
基準や実施基準の理解により、内部統制の基本的な枠組みや財務報告にかかる評価などの把握が可能です。
内部統制基準の改訂内容
基準および実施基準は下記の3つで構成されており、各項目で改訂が行われています。
基準および実施基準を構成する3つの項目
● 内部統制の基本的枠組み● 財務報告に係る内部統制の評価及び報告
● 財務報告に係る内部統制の監査
内部統制の基本的枠組み
「内部統制の基本的枠組み」は、内部統制の定義(4つの目的や6つの基本的要素)などが記載された部分です。意見書では、下記の改訂が示されています。
改訂で見直された内容
● 「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」へ改訂● 「リスクの評価と対応」「情報と伝達」「ITへの対応」への内容追加
● 経営者の内部統制の無効化
● 内部統制に関係を有する者の役割と責任
● 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理
注目点は「財務報告の信頼性」の改訂です。内部統制の4つの目的のひとつである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」へと改訂しています。それにより、財務情報だけでなく非財務情報を含むかたちへと報告の範囲を拡大しています。
また、不正リスクへの考慮の重要性、情報システムのセキュリティ確保の重要性などの内容が追加されました。
財務報告に係る内部統制の評価及び報告
「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」は、内部統制の評価範囲や内部統制報告書の作成方法などが記載された部分です。意見書では、下記の改訂が示されています。
改訂で見直された内容
● 経営者による内部統制の評価範囲の決定● ITを利用した内部統制の評価
● 財務報告に係る内部統制の報告
「経営者による内部統制の評価範囲の決定」は、審議会でも重要視された点です。理由は、開示すべき不備が評価範囲外から発見されるケースが、毎年一定数報告されたためです。
意見書では経営者による評価範囲決定に際し「財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性」を再度強調し、留意点を明確化しています。
財務報告に係る内部統制の監査
「財務報告に係る内部統制の監査」は、監査人による監査の手法や監査結果の報告などに関する内容が記載された部分です。意見書では、下記の改訂が示されています。
改訂で見直された内容
● 内部統制監査への財務諸表監査で入手した資料の活用● 監査人の独立性の確保
● 内部統制評価の範囲外からの内部統制の不備を識別した場合の対応
内部統制監査以外で監査人が入手する、「財務諸表監査の資料・証拠」は重要です。意見書では、その資料を経営者が決定した内部統制の評価範囲に妥当しているか検討する際に、必要に応じて活用するよう明確化されています。
内部統制基準の改訂による影響と対策
先述のように、今回の内部統制基準改訂の適用は2024年4月1日です。もっとも適用の早い3月決算会社は、2024年4月1日当日から適用が開始されます。
監査法人などと協議を行い、評価範囲決定のプロセスなどで検討が必要な項目はないか、事前の検討が求められます。
また今回の改訂では、業務プロセス水準でのITを利用した不正リスクや、情報システムに関するセキュリティ確保の重要性が強調されました。
このような基本的枠組みの変更が実務にどう影響するかは、現時点で不明確な部分も多いです。そのため、内部統制基準の改訂につづく、関連法令の整備などに注視する必要があります。
経営者や関係者は迅速な対応と情報収集を通じて、内部統制基準の改訂への適切な対応が求められるでしょう。
内部統制基準の改訂で示された中長期的な課題
意見書では、前文で下記の中長期的な課題を提起しています。
内部統制基準の改訂で示された中長期的な課題
● サステナビリティなどの非財務情報の内部統制報告制度における取り扱い● ダイレクト・レポーティング(直接報告業務)のあり方
● 内部統制に関する「監査上の主要な検討事項」を採用するべきかどうか
● 訂正内部統制報告書への監査人の関与
● 経営者の責任明確化や内部統制無効化に対応する課徴金や罰則規定の見直し
● 会社法と金融商品取引法の内部統制の統合
● 会社代表者による有価証券報告書の記載内容の訂正性に関する確認書への内部統制記載の充実
● 臨時報告書における内部統制への意識
上記の課題は今回の改訂では採用されなかったものの、今後も審議が継続される内部統制の課題として留意したい点です。
企業は常に環境の変化に敏感に対応し、内部統制の見直しや適切な対策の検討を行うことが求められます。
IPO準備・監査対応を効率的に進める方法
IPO準備では、「内部統制」と「予実管理」を並行して進めなければなりません。IPO準備・監査対応を効率的に進めるなら統合型会計システム freeeがおすすめです。
「統合型会計システム freee」は予実管理によって生成されたデータをクラウド上で確認でき、客観的なデータに基づいた迅速な意思決定が可能です。
多大な時間と手間のかかる資料の調査や提出も、監査とクラウド上でデータを共有することで、手間と労力を大幅に削減できます。
「統合型会計システム freee」は、2020年上半期マザーズ上場企業の32.1%にご利用いただいています(※)。IPO準備と監査対応を円滑に進めるために、まずは資料をダウンロードしてご検討ください。
まとめ
今回の内部統制基準および実施基準の改訂は、2008年に内部統制報告制度が開始されて以降、初めての大幅な改訂です。
意見書では「内部統制の基本的枠組み」を始めとする、3つの章すべてで見直しが提議されています。内部統制を取り巻く変化を反映し、よりブラッシュアップされた内容です。
改訂された内容は、2024年4月1日より適用されます。今後、関連する法令や実務指針、制度に関するQ&Aや事例なども整備されると予想されます。監査法人と相談しつつ、自社の体制を整えていきましょう。
よくある質問
内部統制基準の改訂内容は?
2023年4月7日に公表された意見書では、「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」へと拡大して変更するなど、複数の改訂がなされています。
内部統制基準の改訂内容を詳しく知りたい方は「内部統制基準の改訂内容」をご覧ください。
内部統制基準の改訂による影響は?
改定の適用時期(2024年4月1日)まで期間が短いため、早急な対応が必要な場合があります。
内部統制基準の改訂による影響を詳しく知りたい方は「内部統制基準の改訂による影響と対策」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。