監修 松浦絢子 弁護士

労働安全衛生法の改正により、2023年と2024年に新たな化学物質規制が導入され、2025年には定期健康診断結果報告など一部の手続きで電子申請が義務化されました。
企業の人事担当者は改正内容を踏まえた対応が必要です。
本記事では、2023年から2025年にかけて実施される、労働安全衛生法の改正内容を一覧でまとめて紹介します。
目次
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法とは、「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。
職場で責任者を選定すべきケースや機械・危険物・有害物の取扱方法など、事業場における安全衛生管理体制に関するルールが定められています。
労働安全衛生法が規定する内容は多岐にわたり、安全衛生教育や作業環境測定、健康診断などさまざまです。企業の人事労務担当者は、労働安全衛生法の内容や各年の改正事項を理解し、法に則った対応をする必要があります。
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法第一条」
【一覧】2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項
2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項は以下の一覧表の通りです。
改正内容 | 施行時期 | |||
---|---|---|---|---|
2023年 | 2024年 | 2025年 | ||
化学物質管理体系の見直し | ラベル表示・通知をしなければならない化学物質の追加 | ● | ||
ばく露を最小限度にすること | ● | ● | ||
ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存 | ● | ● | ||
皮膚等障害化学物質への直接接触の防止 | ● | ● | ||
衛生委員会付議事項の追加 | ● | ● | ||
がん等の遅発性疾病の把握強化 | ● | |||
リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存 | ● | |||
化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示 | ● | |||
リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等 | ● | |||
がん原性物質の作業記録の保存 | ● | |||
実施体制の確立 | 化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務化 | ● | ||
雇入時等教育の拡充 | ● | |||
職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大 | ● | ● | ● | |
情報伝達の強化 | SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新 | ● | ||
SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化 | ● | |||
事業場内別容器保管時の措置の強化 | ● | |||
注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大 | ● | |||
管理水準良好事業場の特別規則等適用除外 | ● | |||
特殊健康診断の実施頻度の緩和 | ● | |||
第三管理区分事業場の措置強化 | ● | |||
労働安全衛生関係の一部の手続きの電子申請義務化 | ● | |||
危険箇所の作業者の保護対象範囲の拡大、一人親方への周知義務化 | ● |
出典:厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」
出典:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」
2024年の改正事項(新たな化学物質規制)
化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度で推移しており、がん等の遅発性疾病も後を絶たない状況です。労働災害を減らすため、労働安全衛生法が改正されて新たな化学物質規制が導入されました。
労働安全衛生法の「新たな化学物質規制」
- 化学物質管理体系の見直し
- 実施体制の確立
- 情報伝達の強化
以下では、2024年に導入された新たな化学物質規制の概要を解説します。
化学物質管理体系の見直し
労働安全衛生法に基づくラベル表示やSDS(安全データシート)による通知等、リスクアセスメント実施の義務対象となる物質(リスクアセスメント対象物)が順次追加されます。対象物質は労働安全衛生総合研究所のサイトで確認してください。
また、「皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止」規定は、2023年までは努力義務でしたが、2024年から義務化されました。皮膚から吸収されて健康障害が起きうる化学物質の製造等をする場合、その物質の有害性に応じて労働者に保護具を使用させる必要があります。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
実施体制の確立
2024年から化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任が義務化され、雇入時等の教育の実施対象が拡充されました。
リスクアセスメント対象物の製造等をする事業場では、業種や事業場の規模に関わらず化学物質管理者を選任しなければいけません。リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場では、保護具着用管理責任者の選任が必要です。
また、特定の業種では雇入時等の教育のうち一部教育項目の省略が認められていましたが、この省略規定が廃止されました。危険性・有害性のある化学物質の製造等をする事業場では、化学物質の安全衛生に関する必要な教育を行わなければいけません。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
情報伝達の強化
2024年からSDSの通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加されています。
また、SDSの通知事項である「成分の含有量の記載」について、従来の10%刻みでの記載方法を改め、重量パーセントの記載が必要となりました。
ただし、他の記載方法で表示している場合でも、重量パーセントへの換算方法を明記していれば重量パーセントによる表記を行ったものとみなされます。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」
2025年の改正事項
2025年の労働安全衛生法の改正事項は次の2つです。
2025年の労働安全衛生法の改正事項
- 一部手続きの電子申請の義務化
- 危険な作業場での保護措置
以下でそれぞれ解説します。
一部手続きの電子申請の義務化(2025年1月~)
労働安全衛生法関連の手続きを効率化するため、2025年1月1日から以下の手続きについて電子申請が原則義務化されました。
電子申請の義務化
- 労働者死傷病報告
- 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医の選任報告
- 定期健康診断結果報告
- 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
- 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
- 有機溶剤等健康診断結果報告
- じん肺健康管理実施状況報告
電子申請を利用するにはe-Govでアカウント登録が必要です。初めて利用する場合は専用サイト「e-Gov電子申請」から利用登録を行ってください。
【関連記事】
e-Govとは?できることやメリット・デメリット|利用前に準備しておくことを解説
出典:厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます」
危険な作業場での保護措置(2025年4月~)
事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、2025年4月から保護措置の対象が拡大されます。
危険箇所等で作業を行う場合、事業者が行う以下の措置について、同じ作業場所にいる労働者以外の人も2025年4月からは対象です。一人親方や他社の労働者・資材搬入業者・警備員なども今後は対象に含まれます。
- 労働者に対して危険箇所等への立入禁止、危険箇所等への搭乗禁止、立入等が可能な箇所の限定、悪天候時の作業禁止の措置を行う場合、その場所で作業を行う労働者以外の人もその対象とすること
- 喫煙等の火気使用が禁止されている場所において、その場所にいる労働者以外の人についても火気使用を禁止すること
- 事故発生時等に労働者を退避させる必要があるときは、同じ作業場所にいる労働者以外の人も退避させること
また、立入禁止とする必要があるような危険箇所等で例外的に作業を行わせるため、労働者に保護具等を使用させる義務がある場合、保護具等使用の必要性の周知を請負人(一人親方・下請業者)に対しても行うことが義務化されます。
出典:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」
まとめ
2023年と2024年に労働安全衛生法が改正され、新たな化学物質規制が導入されたことで、化学物質を扱う企業では管理の方法や体制の見直しが必要になる場合があります。
また、2025年からは一部の手続きで電子申請が義務化されるため、これまで電子申請をしていなかった企業では電子申請用のアカウント登録などの対応が必要です。
労働基準法や労働安全衛生法など、労働関係法令の改正内容や趣旨を理解し、法改正に適切に対応することが企業の人事労務担当者には求められます。
今後も労働関係法令で改正が行われる可能性があるので、厚生労働省のサイトなどを使って法改正情報を随時確認するようにしてください。
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よくある質問
2024年・2025年の労働安全衛生法の主な改正内容は?
2023年に続いて新たな化学物質規制が2024年に導入され、また一部手続きで電子申請が2025年から義務化されました。
労働安全衛生法の改正内容について詳しくは「【一覧】2023年~2025年の労働安全衛生法の改正事項」をご覧ください。
労働安全衛生法の改正で新たな化学物質規制が行われる理由は?
化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度で推移しており、がん等の遅発性疾病も後を絶たない状況を改善するため、新たな化学物質規制が導入されました。
労働安全衛生法の改正による新たな化学物質規制について詳しくは「2024年の改正事項(新たな化学物質規制)」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。
