公開日:2023/10/26
監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
少子高齢化が急速に進むなかで、2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行されました。
事業主は、従来の「65歳までの雇用確保」(義務)に加えて、「70歳までの就業確保の措置(高年齢者就業確保措置)」を講ずるよう努めなくてはなりません(努力義務)。
本記事では、高年齢者雇用安定法の改正内容を解説します。改正による影響と企業が取るべき対策も解説するので、企業担当者はぜひご覧ください。
目次
- 高年齢者雇用安定法とは
- 改正前の高年齢者雇用安定法
- 【2021年施行】高年齢者雇用安定法の改正点
- 70歳までの就業機会確保(努力義務)の内容
- 対象となる事業主
- 【2025年】65歳までの雇用確保義務の経過措置が終了
- 改正高年齢者雇用安定法が企業に与える影響
- 人手不足の解消につながる
- ハローワークから指導や助言を受ける場合がある
- 改正高年齢者雇用安定法に対して企業が取るべき対策
- いずれの措置を講ずるかを決定する
- 対象者を限定する基準を決定する
- 就業規則を見直す
- 高年齢者に対する研修や災害防止対策を行う
- 助成金や給付金の手続きをする
- 社会保険に関する業務を円滑にする方法
- まとめ
- よくある質問
- 高年齢者雇用安定法の改正点とは?
- 改正高年齢者雇用安定法を受けて企業が取るべき対策は?
高年齢者雇用安定法とは
「高年齢者雇用安定法」とは、高年齢者が活躍できる環境を整備し、雇用の安定を進めることを定めた法律です。
日本の少子高齢化は、予想を超える速度で進んでおり、労働力の確保が喫緊の課題となっています。
人手不足感が強まるなかで、働く意欲のある人が働ける環境の整備が求められており、そのひとつが高年齢者の活躍です。
内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によると、60歳以上の人で今後収入を伴う仕事をしたいと回答した割合は40.2%でした。
諸国と比べて、日本の高年齢者は高い就労意欲を持っていることがわかります。
高年齢者雇用安定法は、1971年に「中高年齢者雇用促進法」として制定され、1986年に現在の名称に変更されました。
社会の変化に応じた複数回の改正を経て、2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行されています。
高年齢雇用継続給付について詳しく知りたい人は「高年齢雇用継続給付とは? 改正点や計算方法、雇用者が知っておきたいポイントを解説」をご覧ください。
改正前の高年齢者雇用安定法
改正前の高年齢者雇用安定法では、「65歳までの雇用確保」として以下の2つが義務付けられていました。
60歳未満の定年禁止 | 定年を定める場合は、60歳以上としなければならない |
65歳までの雇用確保の措置 | 以下のうちいずれかを講じなければならない ● 65歳までの定年引き上げ ● 定年制の廃止 ● 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)の導入 |
厚生労働省「就労条件総合調査結果の概況」(2022年)によると、定年が60歳の企業は72.3%、65歳の企業は21.1%でした。
前回の調査では、定年を65歳としている企業は16.4%であり、定年が60歳から65歳へと移行しつつあるのが読み取れます。
【2021年施行】高年齢者雇用安定法の改正点
改正高年齢者雇用安定法では、従来の「65歳までの雇用確保」(義務)に加えて、「70歳までの就業機会の確保」(努力義務)が新設されました。以下で改正点を詳しく解説します。
70歳までの就業機会確保(努力義務)の内容
事業主は、「70歳までの就業機会確保」として、以下のいずれかの高年齢者就業確保措置を講ずる努力義務を負います。
5つの高齢者就業確保措置
1 70歳までの定年引き上げ2 定年制の廃止
3 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
4 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
「70歳までの継続雇用制度の導入」は、特殊関係事業主に加えて、ほかの事業主による場合も認められます。(※)
(※)特殊関係事業主とは、自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等です。
なお、④と⑤は、雇用によらない方法で就業機会を確保する創業支援等措置です。
対象となる事業主
努力義務の対象となるのは、以下の事業主です。
努力義務の対象となる事業主
● 定年を65歳~69歳に定めている事業主● 継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主
【2025年】65歳までの雇用確保義務の経過措置が終了
65歳までの雇用確保のうち、継続雇用制度に設けられていた経過措置は、2025年3月31日をもって終了します。
65歳までの雇用確保のうち、継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入する場合、希望者全員を対象としなければなりません。
ただし、2025年3月31日までに対象者を限定する基準を定めていれば、経過措置が適用されます。
この措置は、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が段階的に引き上げられることを考慮したものです。
2025年4月1日以降は、65歳までの継続雇用を希望する人全員を雇用しなければならないので注意してください。
改正高年齢者雇用安定法が企業に与える影響
改正高年齢者雇用安定法が企業に与える主な影響は、以下の2点です。
改正高年齢者雇用安定法が企業に与える影響
● 人手不足の解消につながる● ハローワークから指導や助言を受ける場合がある
人手不足の解消につながる
少子高齢化の進行によって、労働力不足は今後ますます大きな課題になると予想されます。
改正高年齢者雇用安定法にもとづき、70歳までの就業機会確保措置を講ずることは、人手不足に対する解決策となり得ます。
経験を培ってきた高年齢者に働き続けてもらえば、即戦力となってくれるだけでなく、若手社員の育成も期待できるでしょう。
ハローワークから指導や助言を受ける場合がある
70歳までの安定した就業機会の確保が必要だとみなされたときは、ハローワークによる指導・助言が行われる場合があります。
指導などを行っても状況が改善していないと認められれば、勧告を受ける場合もあります。
勧告の内容
● 高年齢者雇用確保措置を講ずべきことの勧告● 高年齢者就業確保措置の実施に関する計画作成の勧告
改正高年齢者雇用安定法に対して企業が取るべき対策
改正高年齢者雇用安定法に対して企業が取るべき対策は、以下の通りです。
改正高年齢者雇用安定法に対して企業が取るべき対策
● いずれの措置を講ずるかを決定する● 対象者を限定する基準を決定する
● 就業規則を見直す
● 高年齢者に対する研修や災害防止対策を行う
● 助成金や給付金の手続きをする
いずれの措置を講ずるかを決定する
高年齢者就業確保措置のうちどの措置を講ずるかは、従業員と協議し、高年齢者のニーズにあわせて決定するのが望ましいでしょう。ひとつではなく、複数の措置を講ずることも可能です。
また、従業員(高年齢者)一人ひとりにどの措置を適用するかは、本人の希望を尊重して決定しましょう。
なお、雇用によらない創業支援等措置を講ずる場合、必要事項を記載した計画を作成し過半数労働組合等の同意を得る必要があります。(※)
(※)過半数労働組合等とは、労働組合または労働者の過半数を代表する者です。
対象者を限定する基準を決定する
5つの就業確保措置のうち、以下の3つは、対象者を限定する基準の設定が認められます。
対象者を限定する基準を設定できる就業確保措置
1. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入2. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
3. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(事業主が自ら実施する社会貢献事業、事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業)
ただし「上司の推薦がある者に限る」「性別を限定する」など、同法の趣旨やほかの労働関係法令に反するものは認められません。
就業規則を見直す
高年齢者就業確保措置の導入にあわせて、就業規則を見直しましょう。
常時10人以上の労働者を使用する場合、法定の事項について就業規則を作成・変更し、届け出ることが義務付けられています。
定年の引き上げや継続雇用制度措置の変更、就業確保措置の新設などは、労働基準法の「退職に関する事項」などに該当します。
したがって、就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出なくてはなりません。
高年齢者に対する研修や災害防止対策を行う
高年齢者就業確保措置によって働く高年齢者の業務が定年前と異なる場合、研修や教育、訓練などの実施が望ましいとされています。
また、雇用による就業確保の措置を講ずる場合は、安全または衛生のための教育(労働安全衛生法第59条に定めのあるもの)を実施しなくてはなりません。
職場環境の改善、健康・体力の状況把握などの災害防止対策も積極的に行いましょう。
厚生労働省によると、死傷者数(労災による休業4日以上の死傷者数)のうち、60歳以上の占める割合は増加を続けています。
70歳までの就業確保を進めていくうえで、高年齢者が安全に働くための職場環境改善の取り組みは欠かせません。
厚生労働省の「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を参考に、対策を行いましょう。
助成金や給付金の手続きをする
必要に応じて、高年齢者の就業を推進するための助成金や給付金制度の手続きを行いましょう。
給付金・助成金 | 概要 |
高年齢者雇用継続給付金 | 60~64歳の人で、60歳到達時点と比べて賃金が75%未満に低下した雇用保険被保険者に支払われる給付金 |
65歳超雇用推進助成金 | 65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備などを行った事業主に対して助成が行われる制度 |
高年齢者雇用継続給付金は、原則として以下の要件を満たす雇用保険被保険者に支給されます。
高年齢者雇用継続給付金の要件
● 60歳~64歳の一般被保険者である● 60歳到達時点と比べて賃金が75%未満に低下している
● 被保険者であった期間が5年以上ある
一方、65歳超雇用推進助成金は、要件を満たす事業主に対する助成制度です。
「65歳超継続雇用促進コース」を選択し、以下のいずれかを実施した場合に助成が行われます。
65歳超雇用推進助成金の対象となる措置
● 65歳以上への定年の引き上げ● 定年制の廃止
● 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
● 他社による継続雇用制度の導入
● 支給申請日の前日において1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること等
社会保険に関する業務を円滑にする方法
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まとめ
高年齢者雇用安定法とは、高年齢者が活躍できる環境を整備し、雇用の安定を進めるための法律です。
急速な少子高齢化に対応する目的で、2021年に改正高年齢者雇用安定法が施行されました。
事業主は、65歳までの雇用確保に加えて、就業確保措置を講ずる努力をしなくてはなりません。
高年齢者雇用安定法の改正内容を正しく理解し、従業員とのトラブルがないよう必要な対応をとりましょう。
よくある質問
高年齢者雇用安定法の改正点とは?
2021年4月1日に施行された改正法では、従来の65歳までの雇用確保(義務)に加え、70歳までの就業機会の確保(努力義務)が新設されました。
高年齢者雇用安定法の改正点を詳しく知りたい方は「【2021年施行】高年齢者雇用安定法の改正点」をご覧ください。
改正高年齢者雇用安定法を受けて企業が取るべき対策は?
高年齢者雇用安定法の改正に適切な対応をとり、高齢者も含めて多様な人材が活躍できる職場環境を整えることが重要です。
改正高年齢者雇用安定法に対する企業の対策を詳しく知りたい方は「改正高年齢者雇用安定法に対して企業が取るべき対策」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。