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レパトリ減税とは?導入の背景や企業にとってのメリット・デメリットを解説

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

レパトリ減税とは?導入の背景や企業にとってのメリット・デメリットを解説

レパトリ減税とは、企業が海外に留保した利益を本国へ送金する際の税負担を軽減する措置のことです。多国籍企業による利益の海外留保が問題視される中、本国への資金還流を促す手段として導入されました。

グローバル化が進展し、企業の海外展開が加速する現代で、レパトリ減税は国内経済の活性化と企業の競争力強化を促す政策として注目されています。

本記事では、レパトリ減税の仕組みや企業への影響、日本の関連税制を詳しく解説します。

目次

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レパトリ減税とは?

レパトリ減税とは、企業が海外に留保している利益を本国に還流させる際に課される税金を軽減する措置のことです。「レパトリ」とは、Repatriation(リパトリエーション)の略で、「本国送還」「帰還」を意味します。

具体的には、企業が海外子会社で利益を上げ、その利益を現地で再投資したり、ほかの低税率国へ移転させたりするのではなく、親会社のある本国へ資金を移動させる場合に適用されます。

日本では円安進行に歯止めをかける一政策として注目が集まっていますが、現状はまだ検討・議論されている段階です。

レパトリ減税導入の背景と目的

近年のグローバル化の進展に伴い、企業の海外進出が加速しています。

しかし、本国での法人税率が高額な場合、企業は利益を現地に留めたまま本国への送金を控える傾向があります。

たとえば米国の場合、2017年の税制改革前の法人税率は35%と、先進国の中でもっとも高い水準でした。そのため、Apple社やGoogle社などの大手IT企業を始め、米国企業の多くが海外に巨額の資金を保有する状況が続いていました。

海外への資金留保は企業にとって合理的な判断である一方、本国経済にとっては大きな機会損失を意味します。国内での設備投資や研究開発投資の機会が失われ、新規雇用の創出も限定的になってしまい、税収面にも影響が出るためです。

レパトリ減税は、このような状況を改善するために考案された制度です。企業の自発的な資金還流を促すことで、国内経済の活性化と税収確保の両立を図れます。

レパトリ減税の仕組み

アメリカでは、これまでに2回の大規模なレパトリ減税を実施しています。1回目は2005年のブッシュ政権下、2回目は2017年のトランプ政権下での導入で、それぞれ下記のような違いがあります。


項目2005年版(一時的措置)2017年版(恒久的措置)
正式名称American Jobs Creation ActTax Cuts and Jobs Act
適用税率通常35%→5.25%(一時的)蓄積利益に15.5%(現金等)または8%(その他資産))
※本国に送金する際、一度限り軽減税率を適用
適用期間1年間の時限措置恒久措置として導入
還流資金の用途制限なし制限なし
特徴企業の任意選択制強制適用

2005年の制度は、ブッシュ政権下で導入された一時的な措置でした。通常35%の税率を大幅に引き下げ、わずか5.25%という低率での還流を認めることで、企業の自主的な資金還流を促す狙いがありました。

一方、2017年にトランプ政権下で導入された制度は、全ての対象企業に強制適用する恒久措置として位置づけられています。現金などの流動資産には15.5%、設備投資などの非流動資産には8%と、資産の性質に応じて税率を設定している点が特徴です。

レパトリ減税の効果と影響

アメリカにおいてレパトリ減税は、海外留保利益の還流に一定の効果を上げています。

2005年の制度導入時では、法人税収入は従来の3年間平均である約1,500億米ドルから約2,800億米ドルへと急増し、一時的な措置ながら大きな成果を上げました。また、企業による株主還元も活発になり、自社株買いや配当の増加などの形で経済効果が表れています。

一方、政策の目的であった国内投資や新たな雇用の創出といった実態経済を押し上げる効果は限定的でした。2005年の一時的措置では、企業が次の減税実施を見込んで再び海外に利益を留保する動きも見られています。

法人税の引き下げ、ならびに国外子会社からの利益還流分を非課税にしたことで、税収が減るなどの課題も浮き彫りになり、一時的な措置ではなく恒久的な制度設計の必要性が指摘されました。

このような実情を踏まえ、現在では投資促進策との組み合わせや国際的な税制の調和が重要視されています。

レパトリ減税のメリット・デメリット

レパトリ減税は、税負担の軽減というわかりやすいメリットがある一方で、実務面での課題も存在します。以下は、レパトリ減税のメリット・デメリットです。

レパトリ減税導入のメリット

レパトリ減税が企業にもたらす直接的な効果は、税負担の大幅な軽減です。通常の税率と比べて低い税率での資金還流が可能となり、手元資金を効率的に確保できるようになります。

還流した資金は、国内での事業拡大や設備投資に活用できるほか、研究開発投資を通じた競争力の強化にもつながります。

また、企業価値向上の観点から、M&Aの資金源としても有効活用が可能です。さらに、株主還元の原資として自社株買いや配当増額にも充てられるため、資本市場からの評価向上も期待できます。

さらに、海外子会社との資金管理の最適化にもつながり、グループ全体での資金効率の改善にも寄与します。国内金融機関との取引拡大や、信用力の向上など副次的な効果が見込める点もメリットです。

レパトリ減税導入のデメリット

レパトリ減税で懸念されるのは、海外での事業機会の損失です。現地で獲得した利益を本国へ還流させるため、成長市場での再投資機会を逃す可能性が生じてしまいます。特に新興国など、高い成長率が期待できる市場での投資機会を逃すリスクは無視できません。

さらに、大規模な資金移動に伴う為替リスクも重要な懸念事項のひとつです。将来的な税制変更による不確実性も存在するため、グローバル経営ではこれらのリスク要因を総合的に判断する必要があります。

日本における海外利益還流施策

日本では、アメリカのようなレパトリ減税制度は導入されていません。しかし、海外利益の還流を促す税制として「外国子会社配当益金不算入制度」が2009年から導入されています。

外国子会社配当益金不算入制度は、日本企業が海外子会社から受け取る配当の95%が益金不算入となり、税負担を大幅に軽減できる制度です。 この制度の目的は、国際競争力の強化と国内投資の促進です。海外留保利益を還流しやすくすることで、国内の設備投資・研究開発・M&A等への資金活用が見込めます。 制度を適用するには、内国法人による外国子会社の株式保有比率が25%以上であることなどが条件です。保有比率は、配当等の支払義務が確定する日以前から6ヶ月以上継続している必要があります。 新設の外国法人の場合、設立時から配当の支払義務が確定するまでの期間に25%以上の株式を保有していれば制度を適用可能です。確定申告時には配当等の額に関する明細書の添付が必要で、外国法人が外国子会社に該当することを証明する書類の保存も求められます。

まとめ

レパトリ減税は、企業が海外に留保した利益を本国へ還流させる際の税負担を軽減する措置です。

背景には、多国籍企業による利益の海外留保や国際的な税制競争があり、国内経済の活性化と税収確保の両立が主な目的です。

税負担の軽減や資金効率の改善など、企業にとって魅力的なメリットがある一方、海外での事業機会の損失や、資金移動に伴う為替リスクなどのデメリットも無視できません。

日本ではレパトリ減税制度は実施されていませんが、外国子会社配当益金不算入制度が海外利益還流を促進する役割を担っています。海外子会社からの配当95%が益金不算入となるため、企業の国際競争力強化や国内投資の活性化に寄与しています。

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よくある質問

レパトリ減税とは?

レパトリ減税とは、企業が海外に留保している利益を本国に還流させる際に課される税金を軽減する措置のことです。「レパトリ」とは、Repatriation(リパトリエーション)の略で、「本国送還」「帰還」を意味します。

詳しくは「レパトリ減税とは?」をご覧ください。

レパトリ減税はいつ実施された?

アメリカでは、過去2回大規模なレパトリ減税が実施されています。1回目は2005年のブッシュ政権下で1年間の時限措置として導入され、2回目は2017年のトランプ政権下で恒久措置として導入されました。

なお、日本ではレパトリ減税という名称の税制は導入されていませんが、外国子会社配当益金不算入制度が海外利益還流を促進する役割を担っています。

詳しくは「レパトリ減税の仕組み」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史