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情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)とは? 概要や改正内容などを解説

監修 松浦 絢子 弁護士

情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)とは? 概要や改正内容などを解説

2024年5月17日、旧プロバイダ責任制限法の改正法である情報流通プラットフォーム対処法が公布されました。本記事では、法律の概要などを解説します。

スマートフォンの普及に伴ってSNSなどの利用が増加し、多くの人にとって重要なコミュニケーションツールとなっています。しかし、使い方を間違えると、他人の権利を侵害するリスクがある点には気をつけなければなりません。

旧プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法への改正内容も解説します。SNSやWebメディアの運営などにどのような影響があるのか、ぜひ参考にしてください。

目次

情報流通プラットフォーム対処法とは?

情報流通プラットフォーム対処法は、もともとプロバイダ責任制限法という名称の法律でした。そもそもプロバイダとは、ネットワークにつなげるためのサービスを提供する通信事業者を指します。

情報流通プラットフォーム対処法は、インターネット上の「他人の権利を侵害する情報」に関して、プロバイダが適切な対応をとれるようにするための法律です。

インターネットの普及に伴い、ネット上の違法・有害情報の流通が問題視され、情報流通プラットフォーム対処法のもととなった旧プロバイダ責任制限法が2002年に施行されました。

情報流通プラットフォーム対処法で対象となるサービスは、以下のような「特定電気通信」です。

特定電気通信の例

  • ウェブサイトの掲示板への書き込み
  • SNSのコメント

特定電気通信は、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であり、1対1のやり取りである電子メールなどは対象外です。

また、「他人の権利を侵害する情報」とは、誹謗中傷や名誉毀損、プライバシーの侵害に該当するものをいいます。有害情報(死体画像や自殺を誘引する書き込み)や社会的法益を侵害する情報は含まれません。

旧プロバイダ責任制限法の内容

旧プロバイダ責任制限法とは、主に次の3点を定めている法律です。

プロバイダ責任制限法で定められている内容

  • プロバイダ等の損害賠償責任の制限
  • 発信者情報の開示請求等
  • 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続き

どのような内容なのか、それぞれ詳しく見てみましょう。

プロバイダ等の損害賠償責任の制限

旧プロバイダ責任制限法の第2章「プロバイダ等の損害賠償責任の制限」では、所定の要件を満たした場合、プロバイダ等の民事上の損害賠償責任を免除する旨が定められています。

ウェブサーバーや電子掲示板などの管理者またはインターネットへの接続サービスを提供する事業者は、下図のように、被害者から「書き込みの削除」を依頼された場合、発信者が書き込んだ権利侵害情報を削除する対応を求められます。


プロバイダ等の損害賠償責任の制限

出典:総務省「プロバイダ責任制限法について」

その際、適切な対応を行わないと、次のような法的責任を問われる可能性があります。

プロバイダ等が問われる可能性のある責任

  • 他人の権利を侵害する情報を放置した責任
  • 実際は権利を侵害していない情報を削除した責任

たとえば、「ヤブ医者」という書き込みを削除してほしいという被害者の要請に応じない場合、プロバイダ側に生じるのは「他人の権利を侵害する情報を放置した責任」です。

「プロバイダ等の損害賠償責任の制限」では、プロバイダ等が負う可能性のある法的責任に関して、次の条件に該当する場合や該当しない場合は免責とする旨を定めています。

責任の対象被害者(侵害されたとする者)発信者
問われる責任他人の権利を侵害する情報を放置した責任実際は権利を侵害していない情報を削除した責任
免責の要件 以下の内容に該当しない場合は、書き込みを削除しなくても免責となる

・権利侵害の事実を知っていたとき
・権利侵害の事実を知ることができたと認められる相当の理由があるとき
以下の内容に該当する場合は、書き込みを削除しても免責となる

・権利侵害していると信じられる相当な理由があるとき
・削除の申出があったことを発信者に連絡して7日以内に反論がないとき

「被害者の救済」と「発信者の権利の保護」のバランスを考慮し、プロバイダ等が負うべき責任に関して制限を設けています。

発信者情報の開示請求等

旧プロバイダ責任制限法の第3章の「発信者情報開示請求権」とは、権利侵害に該当する書き込みなどの流通によって生じた被害を回復するため、被害者がプロバイダ等に対して、発信者情報の開示を求めることができるものです。

開示請求権による開示の対象は、主に以下の2種類です。

開示請求の対象

  • 発信者情報
  • 特定発信者情報

「発信者情報」とは、氏名・住所・電話番号などの情報で、旧プロバイダ責任制限法施行規則第2条で挙げられているものに限定されています。一方、2022年10月の改正で追加された「特定発信者情報」とは、次の通信にかかるIPアドレスやタイムスタンプなどの情報です。

特定発信者情報

  • SNSなどのアカウント作成の際の通信
  • アカウントへのログインの際の通信
  • アカウントからのログアウト時の通信
  • アカウント削除時の通信

SNSなどのログイン型サービスでは、投稿時の通信記録が保存されない場合、発信者を特定するためにログイン時の情報が必要です。

下表の通り、条件を満たせば開示請求が認められます。

開示請求の対象開示請求の要件
特定発信者情報以外の
発信者情報
1.権利が侵害されたことが明らかである
2.発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある
特定発信者情報 1.権利が侵害されたことが明らかである
2.発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある
3.プロバイダ等が権利侵害投稿に付随する発信者情報を保有していない 等
出典:総務省「プロバイダ責任制限法Q&A」

特定発信者情報の開示請求は、権利侵害の明白性と正当な理由だけでなく、旧プロバイダ責任制限法第5条第1項第3号に挙げられる「補充的な要件」も満たす必要があります。

発信者情報開示命令事件に関する裁判手続き

情報流通プラットフォーム対処法では、迅速な被害者救済のため、発信者情報開示に関して一体的な手続きを可能にする旨を定めています。

従来は発信者を特定するため、2回の裁判手続きが必要でした。被害者の負担を考慮し、2022年10月に従来の方法に加えて新たに1回の手続きで済む方法が創設されました。


出典:総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)」

従来の開示請求の方法「発信者情報開示請求訴訟」に対し、2022年に新設された方法を「発信者情報開示命令」といいます。

当事者間(被害者とプロバイダなど)の対立が強い事案などは、慎重に手続きできる「発信者情報開示請求訴訟」が向いています。

一方、開示要件の判断が難しくない事案や当事者間での対立が低い事案である場合、「発信者情報開示命令」を利用すればスムーズに手続きを進められるでしょう。

【2024年】情報流通プラットフォーム対処法の改正内容

2024年5月17日、旧プロバイダ責任制限法の改正法である情報流通プラットフォーム対処法が公布されました。今回の改正で、大きく変更されている内容は以下の2点です。

最新の改正内容

  • 誹謗中傷やプライバシー侵害にあたる情報について、削除申請への対応などを義務付ける
  • 改正に伴って、法律名を「情報流通プラットフォーム対処法」へ変更する

大規模なプラットフォーム事業者を対象に、削除の申請などに関して以下の対応を義務化する内容になっています。

義務化される対応具体的な対応内容
削除申出への対応を迅速化 ・削除申出に関する窓口や手続きの整備・公表
・削除申出への対応体制の整備
・削除申出に対する判断・通知
運用状況の透明化 ・削除基準の策定・公表
・削除した場合の発信者への通知
出典:自民党「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案 改正のポイント」

義務化の対象となるプラットフォーム事業者は、サービスの利用者が多い一定規模以上の事業者が想定されています。被害者から削除の申請を受けた際、事業者は1週間程度で判断・通知を行わなければなりません。

旧プロバイダ責任制限法が改正された背景

旧プロバイダ責任制限法が改正された主な要因として、「インターネットにおける誹謗中傷などの情報の流通の深刻化」が挙げられます。

2022年度の調査結果によると、ネット上の名誉毀損やプライバシー侵害に関して、違法・有害情報相談センターに寄せられた相談件数は5,745件でした。2021年度の6,329件からは減少したものの、2010年度の1,337件に比べると約4倍に増えています。


出典:総務省(受託 株式会社メディア開発綜研)「令和4年度 インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書(概要版)」

相談件数のうち、多くの被害者が「削除方法を知りたい」、「発信者の特定方法を知りたい」と回答しています。

従来のプロバイダ責任制限法では、SNS事業者に対する削除に関する法律が定められていません。発信者の「表現の自由」と権利を侵害された「被害者の救済」に関して、バランスを考慮しながらインターネットの環境を整備していく必要があります。

まとめ

情報流通プラットフォーム対処法とは、ネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に該当する情報に関して、通信事業者などが適切な対応をとれるようにするための法律です。

2024年5月17日に公布された旧プロバイダ責任制限法の改正法である情報流通プラットフォーム対処法によれば、大規模なプラットフォーム事業者を対象に、削除申請の窓口設置や対応状況の公表などが義務付けられるものになっています。

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よくある質問

旧プロバイダ責任制限法とは?

インターネットの通信事業者などが、誹謗中傷や名誉毀損などに該当する書き込みに関して適切な対応を行えるようにするための法律です。

現在、名称は情報流通プラットフォーム対処法に変更されています。

旧プロバイダ責任制限法及び情報流通プラットフォーム対処法の概要を詳しく知りたい方は、「情報流通プラットフォーム対処法とは? 」をご覧ください。

【2024年】情報流通プラットフォーム対処法の改正内容は?

大きな変更点として、大規模なプラットフォーム事業者に対する権利侵害情報への削除対応などの義務化が挙げられます。

また、改正に伴い、旧プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法に法律名も変更されます。

旧プロバイダ責任制限法からの変更点を知りたい方は、「【2024年】情報流通プラットフォーム対処法の改正内容」をご覧ください。

監修 松浦 絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子