監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
柔軟なキャリア形成の実現や人材確保・定着などの観点から、ポストチェンジ制度の普及が期待されています。
ポストチェンジ制度とは、京王電鉄株式会社が今年4月から始めた、育児や介護などのライフイベントに直面した管理職が希望に応じて一時的に職位を変更できる制度です。
本記事では、ポストチェンジ制度の概要や目的、導入のメリット・注意点を解説します。従業員一人ひとりが柔軟に働ける環境の整備やキャリア支援を考えている企業担当者さまは、ぜひ参考にしてください。
目次
ポストチェンジ制度とは
ポストチェンジ制度とは、京王電鉄株式会社が今年4月から始めた、育児や介護、不妊治療中であるなどの条件を満たす管理職が一時的に職位を変更できる制度です。管理職から一般職などに移行し、一定期間経過後に移行前の職位(管理職)に復帰します。
一般的に、管理職に就くと業務量が増え、責任も重くなります。業務負荷の大きさから、管理職と育児や介護の両立に不安を感じる、または管理職への就任を望まない従業員がいるなどの現状を踏まえ、一部の企業で導入されたのがポストチェンジ制度です。
働き方が多様化するなか、今後のポストチェンジ制度の活用が期待されます。
ポストチェンジ制度の目的
京王電鉄株式会社が掲げる、ポストチェンジ制度を導入する主な目的は、以下の通りです。
ポストチェンジ制度の目的
- 多様なキャリア形成の実現を支援する
- 人財確保・定着を図る
多様なキャリア形成の実現を支援する
ポストチェンジ制度の大きな目的は、多様なキャリア形成の実現を支援することです。
日本では、寿命の伸長に伴い、就業期間がますます長くなると予想されます。
日本の平均寿命(2022年)は、男性が81.05歳、女性が87.09歳であり、世界有数の長寿国です。老後期間が長くなることを踏まえると、希望する年齢まで自由にキャリア形成できるような仕組みが求められます。
また、人手不足が深刻化する日本では、性別や年齢にかかわらず活躍できる環境の整備が必要です。
このような現状から、従業員一人ひとりがライフステージに応じて柔軟にキャリア形成できるように支援することは、企業が持続的に成長していくための重要な取り組みのひとつと言えます。
人材確保・定着を図る
もうひとつの目的は、管理職への就任をためらう従業員を減らし、将来にわたって活躍する人財の確保・定着を図ることです。
人材定着率が上がると、生産性が向上する、採用・教育コストが削減できるなど、企業にとってさまざまなメリットがあります。なかでも育児や介護との両立支援は、人財を定着させるための重要な課題のひとつです。
企業がポストチェンジ制度を導入するメリット
企業がポストチェンジ制度を導入する主なメリットは、以下の通りです。
企業がポストチェンジ制度を導入するメリット
- 優秀な人材の離職を防げる
- 従業員のモチベーションを高められる
- 企業の社会的評価が高まる/li>
- ダイバーシティが促進される
優秀な人材の離職を防げる
ポストチェンジ制度の導入によって、優秀な人材の流出を防げる可能性があります。
人手不足は多くの産業で深刻化しており、なかでも社内の中核的な管理職は人手不足感が強い傾向があります。
また、育児や介護を理由とした離職は、企業にとって重要な課題のひとつです。出産後に女性が仕事を続ける割合は年々高くなっていますが、管理職は一般的に責務が大きく、子育てと仕事の両立は大きな負担となります。
また、管理職に多い40代~50代は、親の介護と仕事の両立を迫られる時期でもあります。
厚生労働省の雇用動向調査によると、2022年に介護・看護が理由で退職した方は約7.3万人でした。性別・年代別に見ると、男性・女性ともに「55歳~59歳」がもっとも高い結果となっています。
ポストチェンジ制度を導入すれば、管理職としての責務を軽減して働き続けられるため、優秀な従業員の離職率低下が期待できるでしょう。
出典:公益財団法人生命保険文化センター「介護離職者はどれくらい? 介護離職をしないための支援制度は?」
従業員のモチベーションを高められる
ポストチェンジ制度を導入すれば、従業員のモチベーション向上が図れます。
責任の重さや仕事量の多さから、管理職と育児や介護との両立に不安を感じる管理職は少なくないでしょう。
また、育児や介護との両立への懸念から、管理職への就任を望まない方も少なくありません。管理職に就任したくない主な理由として、「責任が重くなる」や「業務量が増える」、「仕事と育児の両立が困難になる」などが挙げられます。
ポストチェンジ制度を導入すれば、負担が大きくなりやすい時期に従業員が管理職から一般職などへ移行できるため、業務の負荷が軽減されます。ワークライフバランスを実現しやすくなるため、モチベーションや満足度の向上につながるでしょう。
企業の社会的評価が高まる
近年、働き方改革の推進などを背景に、多様な働き方ができる環境や制度の整備が求められています。
ポストチェンジ制度を導入すれば、積極的に従業員のキャリア形成を支援する企業であることを社外にアピールできるため、社会的評価の向上が期待できます。また、顧客や取引先からのイメージが良くなり、人材確保の面でも有利に働くでしょう。
ダイバーシティが促進される
ポストチェンジ制度の導入は、ダイバーシティの促進にもつながります。
ダイバーシティとは、多様(性別や年齢、国籍、価値観、キャリア、働き方など)な人材を獲得し、活躍してもらう考え方や体制です。
ダイバーシティ経営は、企業が持続的に成長していくための手法として重要視されており、経済産業省も推進を後押ししています。
また、経済産業省によれば、ダイバーシティ経営に取り組む企業はそうでない企業と比べて、経営成果(人材確保・定着や利益など)が良いことが分かっています。
企業がポストチェンジ制度を導入する際の注意点
ポストチェンジ制度は、従業員・企業の双方にメリットがある制度です。導入による効果を得るためにも、注意点を確認しておきましょう。
企業がポストチェンジ制度を導入する際の注意点
- 導入目的や必要性を明確に示す
- 給与面はどのようにするか明確にする
- 制度の周知を徹底する
- キャリア研修や面談を実施する
導入目的や必要性を明確に示す
ポストチェンジ制度を効果的に運用するために、制度の導入目的や必要性を明確に示しましょう。すべての従業員に共有することで、制度利用者だけでなく、周囲の従業員からの理解も得られやすくなります。
また、制度対象者や移行後の職務、移行期間、申請方法などを具体的に決めることが重要です。
給与面はどのようにするか明確にする
一般職へ移行後給料が下がってしまうこともあるため、ポストチェンジ制度を利用したくないという人もいます。給与などは原則移行後の職責によって決定しますが、制度のなかで特定されていない場合は個別で決定することになります。
また、ポストチェンジ制度によって、新たに部長などのポストに就く者がいるようであれば、代理者の給与などをどのように整理するかも重要です。
制度の周知を徹底する
ポストチェンジ制度を導入しても、利用されなければ効果は得られません。制度を導入して終わりではなく、自社の状況に応じた方法で周知しましょう。
- 従業員一人ひとりがパソコンなどでいつでも閲覧できるようにする
- 研修で制度を説明する
- ハンドブックを配布する
- 動画を作成する
制度導入後も定期的に周知を行い、浸透させることが大切です。また、従業員にアンケートを実施するなどの方法で定期的に制度の課題を見直しましょう。
キャリア研修や面談を実施する
ポストチェンジ制度を導入するだけでなく、キャリア研修を実施し、従業員にキャリア形成について考える機会を提供しましょう。
実際にポストチェンジ制度を利用した管理職をロールモデルとして提示できれば、制度をより効果的に運用できます。
また、キャリア面談の実施や相談窓口の設置など、キャリア相談ができる場を設けることも大切です。
まとめ
ポストチェンジ制度とは、京王電鉄株式会社が今年4月から始めた、育児や介護、不妊治療中であるなどの条件を満たす管理職が一時的に職位を変更できる制度です。
従業員がワークライフバランスを実現しやすくなるため、モチベーションや満足度の向上が期待できます。また、優秀な人財の離職を防げる、社外にアピールできるなどのメリットもあります。
ポストチェンジ制度を導入する際は、制度が適切に運用されるよう従業員に対して丁寧に説明することが大切です。
ポストチェンジ制度は、働き方のニーズが多様化するなかで従業員一人ひとりのライフスタイルに応じた柔軟なキャリア形成を図る手段となります。企業を成長させるために、ポストチェンジ制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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よくある質問
ポストチェンジ制度とは?
ポストチェンジ制度は、京王電鉄株式会社が今年4月から始めた、育児や介護、不妊治療中などの条件を満たす管理職が一時的に職位を変更できる制度です。管理職から一般職などに移行し、一定期間経過後に移行前の職位(管理職)に復帰します。
ポストチェンジ制度の概要を詳しく知りたい方は「ポストチェンジ制度とは」をご覧ください。
ポストチェンジ制度を導入するメリットは?
企業がポストチェンジ制度を導入する主なメリットは以下の通りです。
- 優秀な人材の離職を防げる
- 従業員のモチベーションを高められる
- 企業の社会的評価が高まる
- ダイバーシティが促進される
ポストチェンジ制度のメリットを詳しく知りたい方は「企業がポストチェンジ制度を導入するメリット」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。