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特許法改正でなにが変わった? 主な変更点や注意点、影響を受ける企業をわかりやすく解説

公開日:2023/09/13

監修 松浦 絢子 弁護士

特許法改正でなにが変わった?主な変更点や注意点、影響を受ける企業をわかりやすく解説

2022年4月から「特許法等の一部を改正する法律」が施行されました。特許法は企業にとって、商品や技術の開発などに関わる重要な法律です。

特に特許関連に携わる企業の担当者は、今回の改正内容をきちんと把握しておく必要があるでしょう。

本記事では、特許法の改正での主なポイントを解説し、企業が受ける影響や注意点も紹介します。

目次

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2022年の特許法改正の背景と目的

新型コロナウイルスの感染拡大やデジタルの普及など、社会を取り巻く環境は大きく変化しています。法律も変化に伴って新たに施行されたものも少なくありません。

特許法も例外ではなく、2022年4月1に施行された「特許法等の一部を改正する法律」では以下を柱としています。

特許法改正の柱【2022年】

● 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備
● デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
● 訴訟手続きや料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化
出典:経済産業省「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定されました」

特許法は過去にも社会変化に適した改正が行われてきました。今回の改正も現在の社会環境に適した内容です。

特に「新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備」に関しては、2022年を待たずに施行されました。

また、近年はデジタル技術が進展によって特許権のライセンス形態が複雑化しており、企業の権利保護も再度見直しがされました。

特許法改正の主なポイント

今回の改正は、「特許法等の一部を改正する法律」とあるように、特許法以外の法律も含まれています。

特許法に焦点をあてた主な改正ポイントは以下の通りです。

特許法改正の主なポイント

● 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備
● デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
● 知的財産制度の基盤の強化
それぞれ詳しく解説します。

新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備

新型コロナウイルスの感染拡大に関連した特許法改正のポイントは以下の2つです。

新型コロナウイルス感染拡大に関連した特許法改正のポイント

● 審判の口頭審理などを、ウェブ会議システムを利用して手続きを行うことが可能になった
● 感染症拡大や災害などの理由によって特許料の納付期間を経過した場合の割増特許料納付免除の規定が設けられた
出典:経済産業省「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定されました」

従来の特許法では、審判手続きの口頭審理に関して、出願者が直接審判廷に出頭する形式でした。しかし今回の改正により、審判長の判断で、審判廷に出頭しなくてもオンライン上での口頭審理が可能になりました。

また、感染症拡大による企業活動への影響で、特許料を所定期間内に納付できない場合、割増特許料が免除されます。

特に中小企業のような小規模事業者にとって、感染症拡大や災害時など影響で特許料が負担となる場合も考えられます。

通常の特許料に加えて納付しなくてはならない割増特許料が免除されるのは、企業にとって大きなメリットでしょう。

デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し

今回の改正でライセンシー(許諾を受ける側)の承諾要件が撤廃され、ライセンス契約を締結している特許権でも訂正しやすくなりました。

近年はデジタル技術の進展もあり、複数のライセンシーがひとつの特許権に存在するなど、ライセンスの形態が複雑化しています。

従来の特許法では、特許権の訂正の際にすべてのライセンシーの承諾が求められていたため、ライセンシーが多数存在する場合は、ライセンサー(許諾をする側)の手続きが膨大になり負担となっていました。

また、特許法では権利が成立した後に、過去に類似発明があるなど特許権の無効主張を受けるケースがあります。無効または取消しを防ぐために、無効主張を受けた場合に特許権者が権利範囲の変更または縮小をして、特許権の訂正を行うことも少なくありません。

改正により、ライセンサーである企業の手続き工数が削減されるでしょう。

知的財産制度の基盤の強化

知的財産制度の基盤強化に関する特許法改正のポイントは以下の通りです。

知的財産制度に関する特許法改正のポイント

● 特許権侵害訴訟の裁判で第三者の意見を募集できる制度の導入
● 特許料の料金体系の見直し
出典:経済産業省「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定されました」

特許権の侵害行為を争う訴訟は民事裁判であり、判断の基礎である証拠の収集と提出は、基本的に当事者の責任と権限です。下された確定判決は、民事裁判訴訟の規定により、本来当事者にのみおよぶとされています。

しかし、近年はデジタル技術の進展もあり、特許権侵害訴訟が今まで以上に複雑化しています。そのため、訴訟の結果が当事者だけではなく、ほかの業界や関連企業などの第三者にも大きな影響を与える場合も少なくありません。

たとえば、近年発展が目覚ましいIoT関連技術の場合、関連業界は情報通信・自動車・家電・ロボットなど多種にわたります。

利害関係者が複雑に入り組む分野では、裁判所の判断が当事者のみならず、多くの業界に事実上の影響を及ぼす可能性が高いです。

したがって、判決は影響を受ける第三者の事業実態なども踏まえる必要があります。しかし当事者だけでは、第三者の事業実態などを証拠として提出することが難しいでしょう。

改正法では当事者の申し立てがある場合、裁判所が必要と認めたときに限り、一般の第三者に対して意見の募集を行えます。

また、特許料に関しては、これまで特許特別会計が歳入超過であったため、たびたび引き下げられてきました。近年は特許特別会計が逼迫している影響もあり、値上げされています。

ただし、利用者の不利になる特許料の値上げの反面、手続きのデジタル化や割増特許料の免除など、利便性は確実に向上しています。

特許法改正で注意するべき点

今回の改正では、特許法以外にも改正された法律があります。

特許法以外で改正された法律は以下の通りです。

特許法以外に改正された法律

● 実用新案法
● 意匠法
● 商標法
● 工業所有権に関する手続き等の特例に関する法律
● 特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律
● 弁理士法
出典:経済産業省「特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定されました」

特許法以外でも、「特許料等の支払い」「意匠の国際出願の登録査定の通知等」など、重要な内容が改正されています。企業の担当者は特許法だけでなく、改正に関連した法律も理解しておくようにしてください。

特許法改正で影響を受ける企業

今回の改正では、多くの企業が影響を受けると予想されます。影響を受ける企業の種類や影響内容について解説するので参考にしてください。

知的財産権関連の出願企業は負担増に

今回の改正により、特許関係料金や商標関係料金などの見直しが行われたため、料金が改定されています。

改定前と改定後の特許料を比較したので、確認しておきましょう。

年数改正前の特許料改正後の特許料
第1年から第3年まで毎年2,100円+(請求項の数×200円)毎年4,300円+(請求項の数×300円)
第4年から第6年まで毎年6,400円+(請求項の数×500円)毎年10,300円+(請求項の数×800円)
第7年から第9年まで毎年19,300円+(請求項の数×1,500円)毎年24,800円+(請求項の数×1,900円)
第10年から第25年まで毎年55,400円+(請求項の数×4,300円)毎年59,400円+(請求項の数×4,600円)
出典:特許庁「令和3年特許法等改正に伴う料金改定のお知らせ(令和4年4月1日施行)」

ただし、2004年3月31日以前に審査請求をした出願の特許料に関して、改定はありません。

また、改定前と改定後の商標登録料は以下です。

項目改正前金額改定後金額
商標登録料区分数×28,200円区分数×32,900円
分納額(前期・後期支払分)区分数×16,400円区分数×17,200円
更新登録申請区分数×38,800円区分数×43,600円
分納額(前期・後期支払分)区分数×22,600円区分数×22,800円
防護標章登録料区分数×28,200円区分数×32,900円
防護標章更新登録料区分数×33,400円区分数×37,500円
出典:特許庁「令和3年特許法等改正に伴う料金改定のお知らせ(令和4年4月1日施行)」

特許料や商標登録料のほかに、国際出願関係手数料や国際登録出願関係手数料、電子化手数料も含め、すべてで金額が上がりました。特許法改正以降(2020年4月1日)に納付される分から適用されます。

海外からの模倣品被害を受ける企業は権利が守られる

今回の改正は商標法や意匠法も対象です。

従来は、個人が私的に利用する目的で海外から国内に持ち込まれた商品に対して、商標権や意匠権の侵害は成立しませんでした。

特に近年は、ECサイトで個人が取引する機会も増えており、権利者の保護が十分になされていないことが課題でした。

改正により、海外事業者による模倣品輸入行為が、商標権や意匠権の侵害となることが明確化され、海外からの模倣品被害の抑制が期待できます。関連する企業にとっては権利を守られる可能性が高くなるでしょう。

特許を有する企業は無効主張があった際の負担が減る

特許権に関しては権利の成立後に、第三者による無効主張を受けることがあります。

従来の法律では特許権を訂正する際に、ライセンシー全員の承諾を得る必要があり、訂正が困難な場合もありました。

しかし、法改正により、訂正時にライセンシーの承諾が不要になり、ライセンス契約をしている特許権も訂正しやすくなっています。

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まとめ

特許法の改正は、社会の時流や大きなできごとによって、時代に適した改正が行われてきました。

2022年4月に施行された特許法の改正は、新型コロナウイルスの感染拡大とデジタル技術に対応した内容を主な柱としています。

また、今回の改正では、特許法以外の法律も改正されており、多くの企業が改正で影響を受けると予想されます。

今後も社会環境の変化に伴い、特許法等が改正される可能性が高いでしょう。関連業務に携わる企業の担当者は、定期的に関係省庁の動きを確認するのをおすすめします。

よくある質問

特許法改正のポイントとは?

今回の特許法改正のポイントは大きく3つです。

特許法改正のポイント

● 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備
● デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
● 訴訟手続きや料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化
特許法改正のポイントを詳しく知りたい方は「特許法改正の主なポイント」をご覧ください。

特許法改正で影響を受ける企業とは?

特許法改正で影響を受ける企業は、以下の全般が該当します。

特許法改正で影響を受ける企業

● 知的財産権関連の出願企業
● 海外からの模倣品被害を受ける企業
● 特許権を有する企業
特許法改正で影響を受ける企業を詳しく知りたい方は、「特許法改正で影響を受ける企業」をご覧ください。

監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士

松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。

監修者 松浦絢子