監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
残業代の計算で使う割増率は法律で下限が定められています。本記事では残業代の計算方法や2023年4月の法改正による中小企業への影響を解説します。
残業代の計算方法は、経営者や人事担当者が従業員の労務管理をする際に必須となる知識のひとつです。残業代は従業員によって異なり、計算も複雑です。また法改正で割増率の変更もあったので、改めて注意しましょう。
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目次
- 残業代計算で必要な基礎知識
- 残業代の支払対象になる「法定外残業」とは?
- 残業にカウントされるのはどこから?
- 残業をさせるときに必要な「36協定」とは?
- 残業代の割増率の考え方・割増賃金の種類
- 【2023年4月】中小企業における残業代の割増賃金率の変更点
- 月60時間超の残業の割増率下限が25%から50%にアップ
- 残業代の割増率引き上げに伴い企業が取るべき対応
- 就業規則の変更
- 代替休暇制度の検討
- 時間外労働・人件費の削減に向けた対策の検討
- 残業代の計算方法
- 1.残業代計算に含む賃金と含まない賃金に区分する
- 2.1時間あたりの賃金を計算する
- 3.残業をした時間帯や日に応じて割増率を乗じる
- 残業代の割増率や計算結果に間違いがあったら?
- 勤怠管理を効率化する方法
- まとめ
- よくある質問
- 残業代の割増率は何%?
- 残業代はどのように計算する?
残業代計算で必要な基礎知識
残業時間に割増率をかけて残業代を正しく計算するためには、法定内残業と法定外残業の違いや残業となる時間の考え方などを正しく理解しておかなくてはなりません。
以下では、残業代計算で必要な基礎知識を紹介します。
残業代の支払対象になる「法定外残業」とは?
残業には法定内残業と法定外残業の2種類あり、法定外残業に対しては法定の割増率以上で残業代の支払いが必要です。
残業の種類 | |
法定内残業 | 会社が定める所定労働時間を超えるものの法定労働時間(※)を超えない残業 |
法定外残業 | 法定労働時間を超える残業 |
たとえば、会社の就業規則で定められた所定労働時間が9時~17時半の7.5時間で、労働者が9時~19時まで働くとします。当ケースでは17時半~18時の30分が法定内残業、18時~19時の1時間が法定外残業です。
労働基準法上、法定外残業の1時間に対して企業は残業代を割増して支払う義務があります。
一方で、法定内残業では企業が割増賃金を支払う法的な義務はありません。
残業にカウントされるのはどこから?
法定労働時間である原則1日8時間・1週40時間を超える残業には割増賃金の支払いが必要です。
仮に会社の就業規則で労働時間を1日10時間と定めた場合でも、変形労働時間制(※)を採用していない場合は「8時間を超えても10時間以内なら所定内労働時間の扱いなので割増賃金の支払いは不要」とはなりません。
※変形労働時間制とは、労働時間を月単位や年単位で調整すれば、繁忙期等で勤務時間が増加しても時間外労働としての取り扱いを不要にできる労働時間制度であり、残業代は法律に基づいて支給されます。
始業前に出勤して仕事をする朝残業も残業時間に含まれ、変形労働時間制を採用していない場合は、1日8時間や1週40時間を超えれば法定外残業です。
また、労働基準法では休日労働や深夜労働をした場合も割増賃金の支払いが義務付けられています。
休日労働とは毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日のいずれかである法定休日の労働、深夜労働とは22時~5時までの労働です。
残業をさせるときに必要な「36協定」とは?
36協定とは時間外・休日労働に関する協定で、労働基準法第36条が根拠となっているため「36(サブロク)協定」と呼ばれます。
法定労働時間を超えて残業をさせる場合、会社は事前に従業員との間で36協定を締結して労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定を締結し届出をせずに残業をさせるのは違法であり、36協定がない場合は法定労働時間(原則1日8時間・1週40時間)を超えて従業員を働かせられません。
しかし、36協定を締結し届出をしていれば、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間(※)です。この時間に達するまでは、従業員の残業が問題になりません。
※1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間・年320時間
36協定を締結する場合は労働者の過半数を代表する者や労働組合と書面により協定を締結します。
残業代の割増率の考え方・割増賃金の種類
残業代の割増率の下限は残業時間が月60時間を超えるかどうかで異なり、割増率は時間外労働・休日労働・深夜労働で異なります。
労働基準法で定められている割増率は以下の通りです。
割増賃金の種類 | 割増率 |
時間外労働のうち月60時間までの部分 | 25%以上 |
時間外労働のうち月60時間を超える部分 | 50%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
時間外労働(月60時間以内)かつ深夜労働の場合は「時間外労働25%+深夜労働25%」で50%以上の割増率で賃金を支払う必要があります。
休日労働かつ深夜労働の場合は「休日労働35%+深夜労働25%」で、60%以上の割増率で賃金を支払わなくてはなりません。
【2023年4月】中小企業における残業代の割増賃金率の変更点
中小企業では残業代の割増率が低く抑えられていましたが、2023年4月からは大企業と同じ水準に引き上げられました。
月60時間超の残業の割増率下限が25%から50%にアップ
2023年4月から、以下の企業では月60時間超の残業の割増率下限が25%から50%に引き上げられました。①または②のいずれかを満たす企業が対象です。
業種 | 1 資本金額または出資総額 | 2 常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
また該当する中小企業では2023年4月以降、代替休暇制度も適用対象になりました。
代替休暇制度とは、残業時間が月60時間を超えた場合に残業代の一部の支払いに代えて休暇を与えられる制度です。
月60時間超の残業に関する2023年4月の法改正ポイントとして「割増率の引き上げ」と「代替休暇制度」の2点をおさえておきましょう。以下の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】代替休暇の対象者が2023年4月から増える?労使協定で定める事項や代休との違い
残業代の割増率引き上げにともない企業が取るべき対応
残業代の割増率引き上げに伴い、対象となる中小企業では対応が求められます。以下では中小企業が取るべき主な対応を紹介します。
就業規則の変更
以下の事業場では、就業規則を変更して所轄労働基準監督署長に届け出る義務があります。
届出が必要な事業所
● 1ヶ月60時間を超える時間外労働を行う従業員がいることが見込まれる● 常時10人以上の労働者を使用している
法改正に伴って25%以上から50%以上に割増率の下限が変わります。就業規則の残業代の割増率に関する記載が50%以上でない場合は変更しなくてはなりません。
代替休暇制度の検討
2023年4月から中小企業も代替休暇制度の適用対象になったため、代替休暇制度を導入するか検討が必要です。
代替休暇制度を導入すれば、時間外労働が月60時間を超えた場合に割増賃金の代わりに有給の休暇を付与できます。有給の休暇を付与できるのは、割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられる部分です。
導入する場合は労使協定の締結や就業規則の変更が必要です。労使協定では代替休暇の計算方法や取得単位など、法定の事項を定めましょう。
時間外労働・人件費の削減に向けた対策の検討
割増賃金率の下限が25%から50%に上がれば人件費が増え、社会保険料計算の基礎となる賃金が上がれば健康保険料・厚生年金保険料等も上がります。
給与や会社負担分の社会保険料などの負担が増えると会社の経営に影響する可能性があります。事前に影響を考慮したうえで、必要であれば負担削減に向けた対策を検討しましょう。
業務の効率化を進めて従業員の残業時間を減らせれば残業代が減ります。各従業員の残業時間が月60時間以内に収まるようにすれば、高い割増率での残業代支払いを回避できる可能性があります。ほかの従業員と作業を分担できるような工夫が大切です。
残業代の計算方法
1時間あたりの残業代は「1時間あたりの賃金額×割増率」で計算します。残業代を正しく計算するために理解しておかなければいけないのは「1時間あたりの賃金額」の計算方法です。
以下では具体的な事例に沿って残業代の計算方法を解説します。
【事例】
事例
● 月給:30万円(うち基本給24万円、家族手当1.5万円、通勤手当4.5万円)● 1日の所定労働時間:8時間
● 1年間の所定休日:125日
● 1ヶ月の残業時間:20時間
1.残業代計算に含む賃金と含まない賃金に区分する
1時間あたりの賃金額は「賃金額÷労働時間」で計算します。賃金額には基本給や諸手当を含めて計算しますが、以下の賃金は残業代の計算の基礎となる賃金に含めません。
残業代の計算に含まれない賃金
● 家族手当● 通勤手当
● 別居手当
● 子女教育手当
● 住宅手当
● 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
● 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
※家族手当が扶養家族数に関係なく一律で支給される場合や住宅手当が家賃等の額に関係なく一律で支給される場合は残業代の計算の基礎となる賃金に含まれます。
2.1時間あたりの賃金を計算する
月給制の場合、1時間あたりの賃金は「月給額÷月平均所定労働時間」で計算します。月平均所定労働時間は以下の式で求めます。
本事例では1年間の所定休日日数は125日、1日の所定労働時間は8時間です。月平均所定労働時間は160時間、月給額24万円を160時間で割ると1時間あたりの賃金は1,500円と計算できます。
日給制の場合は、「日給額÷1日の平均所定労働時間」で1時間あたりの賃金を計算します。1日の平均所定労働時間とは「1週間の合計所定労働時間÷1週間の所定労働日数」で求めた時間です。
時給制の場合は1時間あたり賃金として時給額を使って残業代を計算します。
3.残業をした時間帯や日に応じて割増率を乗じる
前述のとおり、残業代の計算で使う割増率は残業をした時間帯や日によって変わります。深夜労働や休日労働、月60時間超の残業では割増率が変わるため、適用される割増率に応じて残業時間を区分する必要があります。
本事例では月の残業時間が20時間です。深夜労働や休日労働はなく残業20時間に対して割増率25%が適用される場合、「1,500円×1.25」で残業1時間あたりの賃金額は1,875円です。
残業時間が20時間なので月の残業代は「1,875円×20時間」で37,500円と計算できます。
残業代の割増率や計算結果に間違いがあったら?
残業代の割増率や計算結果に間違いがあると、支払不足額の支払いや過払額の回収、従業員への説明など、さまざまな対応をしなければなりません。
一時にまとまった額の未払残業代の支払いが必要になると会社の経営に影響を与える場合があります。さらに給料が変われば税金や社会保険料の金額も変わり修正作業が必要です。
また給与計算にミスがあると、従業員が「給料の計算・支払いが適切に行われていない」と感じてトラブルにつながるおそれがあります。会社と従業員の信頼関係が損なわれて日々の業務に支障が出る可能性も考えられます。
給与計算でミスをすると影響が大きくなる場合があるため、労働時間の把握や残業代の計算は適切に行わなくてはなりません。
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まとめ
従業員が法定外残業をした場合、法定の割増率をかけた額以上の残業代を支払う必要があります。残業代の計算で使う割増率は、通常の残業では25%以上、月60時間超の残業では50%以上です。休日労働と深夜労働では割増率が変わり、それぞれ35%以上・25%以上で計算します。
2023年4月からは中小企業の残業代割増率の下限が変わり、月60時間を超える残業では割増率が25%以上から50%以上に引き上がりました。
就業規則の変更や給与計算システムのバージョンアップなどの対応が求められる場合があるため確認しましょう。
よくある質問
残業代の割増率は何%?
法定労働時間を超える残業をすると割増率は25%以上です。ただし、休日労働や深夜労働、残業時間のうち月60時間を超える部分では割増率の下限が変わります。
残業代の割増率を詳しく知りたい方は「残業代の割増率の考え方・割増賃金の種類」をご覧ください。
残業代はどのように計算する?
1時間あたりの残業代は「1時間あたりの賃金額×割増率」で計算し、月給制の場合、1時間あたりの賃金額は「月給額÷月平均所定労働時間」で計算します。
残業代の計算方法を詳しく知りたい方は「残業代の計算方法」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。