監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP
介護テクノロジー導入支援事業とは、介護事業者が介護ロボットやICTなどのテクノロジーを導入する際の経費を補助する事業です。
令和5年度まで実施されてきた「介護ロボット導入支援事業」、「ICT導入支援事業」が見直され、令和6年度の予算(地域医療介護総合確保基金)に盛り込まれました。
本記事では、介護テクノロジー導入支援事業の概要や目的、補助額、補助を受けるための要件を解説します。
本事業を導入するメリットも解説するので、介護業務の負担を軽減したい、または本事業について詳しく知りたい介護事業者様はぜひ参考にしてください。
目次
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介護テクノロジー導入支援事業とは
介護テクノロジー導入支援事業とは、職員の業務負担の軽減や職場環境の改善に取り組む介護事業者が介護ロボットやICTを導入する際の経費を補助する事業です。
本事業は、地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)として実施されてきた「介護ロボット導入支援事業」「ICT導入支援事業」の発展的見直しとして、令和6年度の予算概算要求に盛り込まれました。
地域医療介護総合確保基金とは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、質の高い医療提供体制を整える目的で各都道府県に設置された基金です。
消費税の増収分を財源に、国が3分の2、都道府県が3分の1を負担します。計画を作成し、事業を実施するのは各都道府県です。
出典:厚生労働省「介護テクノロジー導入支援事業」
事業の目的
介護テクノロジー導入支援事業の目的は、介護ロボットやICTなどのテクノロジーを活用し、介護現場の生産性向上を推進することです。
日本の人口が減少を続ける一方で、介護を必要とする方は増えており、介護人材の確保が喫緊の課題となっています。
本事業は、こうしたなかで介護ロボットやICTなどのテクノロジーを活用して業務効率化を進め、職員の業務負担を軽減するために実施されるものです。
また、業務効率化によって生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充て、介護の質の向上につなげる目的もあります。
【令和6年度】介護テクノロジー導入支援事業の補助内容・要件
介護テクノロジー導入支援事業で補助が受けられる項目は、大きく4つの分野に区分され、それぞれ補助額や補助を受けるための要件が定められています。
補助の対象となる4つの分野
- 介護ロボット
- ICT
- 介護現場の生産性向上にかかる
環境づくり
(介護テクノロジーのパッケージ型導入および見守り機器の導入に伴う通信環境整備) - その他
上記のうち、「その他(介護ロボットやICTを活用するためのICTリテラシー習得にかかる経費)」は令和6年度に拡充されました。
なお、補助内容や要件などに関して、詳しくは各都道府県のホームページにてご確認ください。
補助要件
介護テクノロジー導入支援事業で補助金を受けるためには、以下の要件を満たすことが必須とされています。
介護ロボットのパッケージ導入モデル、ガイドライン等を参考に、課題を抽出し、生産性向上に資する取組の計画を提出の上、一定の期間、効果を確認できるまで報告する
引用:厚生労働省「介護テクノロジー導入支援事業」
また、「介護現場の生産性向上にかかる環境づくり」に関して、予算概算要求では以下の要件が例示されました。
補助要件
- 職場環境の改善(改善内容は思案中)を図り、職員へ還元することが明記されている
- すでに導入されている機器、また本事業で導入する機器などと連携し、生産性向上に資する取り組みである
- プラットフォーム事業の相談窓口や都道府県が設置する介護生産性向上総合相談センターを活用する
- ケアプランデータ連携システムなどを利用する※1
- LIFE標準仕様を実装した介護ソフトで実際にデータ登録を実施する※2
※1 ケアプランデータ連携システムとは、居宅介護支援事業所と介護サービス事業所間でやり取りするケアプランの一部情報をデータ連携するシステムです。
※2 LIFE(科学的介護情報システム)とは、通所・訪問リハビリテーションの計画書や高齢者の状態、ケアの内容などの情報を収集し、フィードバックを行うシステムです。
補助対象
介護テクノロジー導入支援事業の補助対象は、以下の通りです。
項目 | 補助対象 |
---|---|
介護ロボット | 「ロボット技術の介護利用における重点分野」に該当する介護ロボット |
ICT |
・介護ソフト※1
・タブレット端末 ・スマートフォン ・インカム ・クラウドサービス ・他事業者からの照会経費 ・Wi-Fi機器の購入設置 ・業務効率化に資するバックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理など) |
介護現場の生産性向上に かかる環境づくり |
・介護ロボット・ICTの導入やその連携にかかる費用
・見守りセンサーの導入に伴う通信環境整備※2 |
その他 | 介護ロボットやICTを活用するためのICTリテラシー習得にかかる経費 |
なお、「ロボット技術の介護利用における重点分野」とは、移乗支援、移動支援、排泄支援、見守り・コミュニケーション、入浴支援、介護業務支援の6項目です。
2025年4月からは、新たに3分野(機能訓練支援、食事・栄養管理支援、認知症生活支援・認知症ケア支援)が追加されます。
※1 機能実装のためのアップデートも含みます。
※2 Wi-Fi環境の整備、インカム、見守りセンサーなどの情報を介護記録にシステム連動させるためのネットワーク構築経費などが該当します。
補助額
介護テクノロジー導入支援事業の補助額・補助率は、それぞれ以下の通りです。
補助対象 | 補助額 | 補助率 |
---|---|---|
介護ロボット |
移乗支援・入浴支援:上限100万円
その他:上限30万円 |
1/2
※一定の要件を満たす場合は3/4 |
ICT |
・1~10人 :100万円
・11~20人: 160万円 ・21~30人: 200万円 ・31人~ :260万円 | |
介護現場の生産性向上に かかる環境づくり | 上限1,000万円 | 3/4 |
介護テクノロジー導入支援事業を活用するメリット
少子高齢化が急速に進み、人材不足が深刻化するなかで、介護業界でもICT化の必要性が高まっています。
介護テクノロジー導入支援事業を活用してICT化を進めれば、職員の負担が軽減されるだけでなく、情報共有の円滑化や介護の質の向上も期待できます。具体的なメリットは主に以下の3つです。
介護テクノロジー導入支援事業を活用するメリット
- 業務効率化が図れる
- 情報共有がスムーズになる
- 介護の質が向上する
業務効率化が図れる
介護ソフトやタブレット端末などのICT・介護ロボットの活用は、介護現場の業務効率化につながります。
厚生労働省の報告書によると、夜勤職員の「直接介護」および「巡視・移動」の合計時間は、見守り機器の効果測定調査によって約14分~約52分減少したことがわかりました※。
業務が効率化すれば、職員の負担が軽減され、離職率の低下やモチベーションの向上も期待できます。
出典:厚生労働省「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業 報告書」
情報共有がスムーズになる
介護ソフトやタブレット、スマートフォンなどのICTを導入すれば、職員同士の連携や正確な情報共有が行いやすくなります。
厚生労働省によると、ICTを導入した効果として多くの事業所が「情報共有がしやすくなった」(90.3%)、「事業所内の情報共有が円滑になった(話し合い時間の増等)」(88%)と回答しました。
情報共有がスムーズになれば、利用者の情報を細かく記録することでより適切な判断や対応が迅速に行えるようになるほか、職員のチームワークが向上する効果も期待できます。
出典:厚生労働省「ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告取りまとめ」
介護の質が向上する
業務効率化によって、介護の専門的知識を必要としない間接業務にかかる時間を削減できれば、直接的な介護ケアに充てられる時間が増え、介護の質が向上します。
また、ICT(介護ソフトなど)の活用によって利用者の情報が管理しやすくなり、より一人ひとりの状況に合わせたケアが可能になれば、利用者や家族の満足度も高められます。
介護テクノロジー導入支援事業を活用する際の注意点
介護テクノロジー導入支援事業の申請を行っても、機器導入のタイミングや応募の状況などによっては補助金が受けられない場合があります。
介護テクノロジー導入支援事業を活用する際の注意点
- 導入済みの機器は対象にならない
- 減額した金額で交付決定される場合がある
本事業を活用する際は、あらかじめ事業所が所在する都道府県の交付要綱をしっかり確認し、計画的に進めましょう。
導入済みの機器は対象にならない
介護テクノロジー導入支援事業で補助の対象となるのは、交付決定を受けてから購入した機器です。そのため、すでに導入済みの機器では補助金を受けられません。
また、補助を受けるためには、決められた期限内の導入・支払いが必要です。期限を過ぎると補助対象にならないため、注意してください。
減額した金額で交付決定される場合がある
申請した金額で補助が受けられるとは限りません。
予算額を超える応募があると、都道府県の基準によって選考されて不採択となる、または補助額や補助台数の調整が行われ、申請した金額から減額されて交付されるケースがあります。
介護テクノロジー導入支援事業で補助を受ける流れ
介護テクノロジー導入支援事業の補助を受けるには、事前協議書や交付申請書の提出が必要です。また、導入後は使用状況を踏まえて実績報告を行います。
補助を受けるまでの流れ
- 事前協議書を提出する
- 交付申請書を提出する
- 実績報告書を提出する
- 補助金が交付される
実際の流れや申請の期限は都道府県によって異なるため、詳しくは事業所が所在する都道府県のホームページを確認しましょう。
① 事前協議書を提出する
正式な申請の前に、事前協議書を提出します。都道府県の交付要綱や申請様式を確認したうえで、漏れがないように提出しましょう。
提出後、協議内容に基づいて予算額の範囲内で選考が行われます。
② 交付申請書を提出する
協議の結果、採択の内示を受けた事業所は、交付申請書を提出します。その際、業務改善計画書や導入機器のカタログ、見積書などの提出も必要です。
交付申請書の受理後に審査が実施され、交付が決定すると都道府県から通知が届きます。
③ 実績報告書を提出する
交付決定後、計画に基づいて介護ロボットやICTを導入し、決められた期限までに実績報告書を提出します。都道府県の様式や必要書類を確認し、漏れがないように報告しましょう。
④ 補助金が交付される
実績報告書の提出後、補助対象になるかどうかの審査が実施され、確定した補助額が通知されます。請求書の送付後、補助金が交付されるまでの期間は概ね1ヶ月程度です。
なお、介護テクノロジー導入支援事業を活用した事業者は、導入翌年度から3年間、導入によって得られた効果を厚生労働省および都道府県に報告します。
まとめ
介護テクノロジー導入支援事業は、介護事業者が介護テクノロジーを導入する際の経費を補助する事業です。
介護ロボットやICTの活用で介護現場の業務効率化を図ることができ、職員の負担軽減や人材定着、介護の質の向上にもつながります。
介護テクノロジー導入支援事業は各都道府県が実施しており、事前協議書や交付申請書の提出、機器の導入などにそれぞれ期限が設けられています。
導入を検討している介護事業者さまは、交付要綱をよく確認し、期限内に必要な手続きを行いましょう。
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よくある質問
介護テクノロジー導入支援事業とは?
介護テクノロジー導入支援事業とは、介護事業者が介護ロボットやICTを導入する際の経費を補助する事業です。
介護テクノロジー導入支援事業の概要を詳しく知りたい方は「介護テクノロジー導入支援事業とは」をご覧ください。
介護テクノロジー導入支援事業を活用するメリットは?
介護テクノロジー導入支援事業を活用して介護ロボットやICTを導入すると、以下のような効果が期待できます。
介護テクノロジー導入支援事業を活用するメリット
- 業務効率化が図れる
- 情報共有がスムーズになる
- 介護の質が向上する
介護テクノロジー導入支援事業のメリットを詳しく知りたい方は「介護テクノロジー導入支援事業を活用するメリット」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。