監修 松浦絢子 弁護士
介護保険法は介護を取り巻く状況にあわせて定期的に改正されています。介護保険法の改正内容を2024年施行の改正とともに解説します。
高齢者で介護が必要になったとき、介護保険法にもとづいて提供されるサービスは生活を支える大切な仕組みです。
介護保険法が改正される背景やこれまでの改正内容、2024年に施行される改正のポイントを確認し、介護保険の内容を把握しましょう。
目次
介護保険法が改正される背景
介護保険法が改正される理由には、介護保険利用者の増加など介護保険を取り巻く状況の変化が挙げられます。
そもそも介護保険法は、介護や支援が必要な高齢者を社会全体で支えるための仕組みです。
「自立支援」「利用者本位」「社会保険方式」の基本的な考え方のもと、1997年に成立しました。
介護保険法は2000年に施行されて以降、3年に一度ほどのサイクルで改正されています。
背景には、介護保険利用者や費用の増加・75歳以上人口の推移・現役世代の減少などの、介護保険を取り巻く状況の変化が挙げられます。
たとえば、介護保険の要介護(要支援)認定者は、2000年4月末の218万人から2020年4月末は669万人となり、約3.1倍に増加しました。
サービス利用者も2000年4月の149万人から2020年4月には494万人となり、約3.3倍の増加です。
増加しているのは、介護保険の利用者だけではありません。介護保険の総費用は2000年には3.6兆円でしたが、2018年には11.0兆円に増加しています。
そのほか、75歳以上または85歳以上の人口が急速に増加しているにもかかわらず、保険制度を支える現役世代は急減しています。
利用者や費用が増加していけば、費用を賄う保険料を確保しなければなりません。また、認知症患者への対応など、さまざまなニーズに対応するための仕組みづくりも必要です。
介護保険法の改正は、上記のように目まぐるしく変化する状況に対応するため、定期的に実施されています。
これまでの介護保険法の改正内容
介護保険法は、これまで以下のような改正が実施されてきました。
改正された年 | 改正の内容 |
2005年改正 | ・介護予防の重視 ・地域包括支援センターの創設 ・小規模多機能型居宅介護などの地域密着サービスの創設 |
2008年改正 | ・介護サービス事業者への法令順守を定める業務管理体制の整備 ・休止や廃止の事前届出制への移行 |
2011年改正 | ・24時間対応の定期巡回・随時対応サービスの創設 ・複合型サービスの創設 ・介護サービスでの医療的ケアの制度化 |
2014年改正 | ・地域医療介護総合確保基金の創設 ・在宅医療や介護連携など、地域支援事業の充実 ・低所得の第一号被保険者に対する保険料軽減割合の拡大 |
2017年改正 | ・自立支援や重度化防止の制度化 ・介護医療院の創設 ・特に所得の高い層の利用者負担割合を2割から3割へ |
2020年改正 | ・ボランティアポイント制など包括的な支援体制の構築支援 ・医療や介護のデータ基盤の整備 |
たとえば、2011年の改正は、介護サービスの基盤や地域包括ケアシステムを強化しました。要介護者の生活をより豊かにする目的です。
24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや複合型サービスの創設はその具体例です。
高齢者介護の変化を踏まえ、介護保険法がより実態にあった制度とするために改正されています。
介護報酬改定の変遷
介護保険を取り巻く状況にあわせ、介護報酬も随時改定されています。
改定された年度 | 改定率 |
2003年度 | ▲2.3% |
2006年度 | ▲0.5% |
2009年度 | 3.0% |
2012年度 | 1.2% |
2014年度 | 0.63% |
2015年度 | ▲2.27% |
2017年度 | 1.14% |
2018年度 | 0.54% |
2019年度 | 2.13% |
2021年度 | 0.70% |
各介護報酬の改定は、介護サービスを提供する事業者への支援などが目的です。たとえば2017年度の改定では、介護人材への処遇改善に1万円相当が加算されています。
2024年介護保険法改正のポイント
2024年施行予定の介護保険法改正は、2023年5月12日に社会保障関連の法改正の一部として成立しました。2024年施行予定の介護保険法改正のポイントは以下の通りです。
2024年介護保険法改正のポイント
● 介護情報を管理する基盤の整備● 詳細な財務状況の報告を義務化
● 看護小規模多機能型居宅介護の役割の明確化
● 介護予防支援の許認可の拡大
介護情報を管理する基盤の整備
2024年施行予定の介護保険法改正では、介護情報を管理する基盤の整備が加速されます。
現在、利用者に関するレセプトなどの各種情報は、各介護事業所や自治体などで分散して保管されている現状です。
各種情報を確認するためには、それぞれ保管しているところで確認しなければなりません。
改正では、各種情報をシステムなどで収集・整理する基盤を整備するとなっています。自治体・利用者本人・介護事業所・医療機関が本人の同意のもと、必要な情報を利用する仕組みを整える方針です。
情報基盤が整備されれば、自治体は地域の介護保険の実情を把握でき、利用者は自身の介護情報をより簡単に閲覧できるようになります。
また、介護行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の一環として、厚生労働省は介護事業者が自治体に届け出る方法を電子申請に統一する方針を示しています。
詳細な財務状況の報告を義務化
2024年度から各介護事業所・施設には、収益や費用などの詳細な経営状況に関する報告の努力義務が課されます。
具体的には、社会福祉法人や医療法人などの介護サービス事業者が、毎会計年度に経営情報を都道府県知事に報告します。
都道府県知事は経営情報の調査・分析を厚生労働大臣に報告し、厚生労働省でデータベース化して国民へ公表する仕組みです。
介護サービス事業者の財務状況を見える化し、経営状況の調査・分析にもとづいた支援策の検討を行うために実施されます。
看護小規模多機能型居宅介護の役割の明確化
看護小規模多機能型居宅介護(看多機)とは、訪問看護と小規模多機能型居宅介護の複合型サービスです。
2024年施行の改正では、看多機を複合型サービスのひとつとして法律的に位置づけました。「通い」「泊まり」でも、看護サービスが提供されることを明確化しています。
看多機の多機能なサービスを法律上で明確化し、より多くの人に利用されるようにすることが狙いです。
そのほか、12年ぶりに、在宅サービスに新たな複合型サービスが創設される方向性が示されています。
ただし、新たなサービスが創設される点だけが決まっており、詳細は今後の介護報酬改定審議で検討される予定です。
介護予防支援の許認可の拡大
2024年施行の改正では、介護予防支援や総合相談支援業務などを担える事業者を拡大する方針が示されました。
介護予防支援や総合相談支援業務は、これまで地域包括支援センターが担っていました。しかし、その業務量の多さから支援センターの負担となっている状況です。
改正により居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)も、市町村からの支援を受けて介護予防支援の業務を実施できます。
また、総合相談支援業務も、その一部の業務をケアマネ事業所へ委託可能と変更されました。
2024年介護保険法改正の課題
介護保険法改正の課題のひとつに挙げられる点が、対応する介護事業所の負担の問題です。
2024年施行の改正で行われる情報基盤の整備や電子申請、財務状況の報告は、制度の円滑な運用に大切な部分です。
ただし、対応する介護事業所の負担は増えてしまいます。特に小規模事業所でのシステム導入や事務処理の負担増加は懸念される点です。
また、看多機の役割の明確化、さらなる訪問看護と通所介護の複合型サービスの新設は利用者のニーズにあった介護サービスの提供に役立ちます。
一方で、各介護事業所ではすでに人材不足の問題を抱えており、新サービスをうまく取り入れられる事業所がどれだけあるかの課題も想定されます。
介護保険法改正の具体例や事例紹介
これまで介護保険法は定期的に改正されてきました。以下では、過去の介護保険法改正が実際に運用された具体例、事例を紹介します。
ボランティアポイント制度を導入した事例
ボランティアポイント制度とは、介護保険を活用し、介護支援ボランティアの活動実績に応じてポイントを交付する制度です。
ボランティアポイント制度自体は、2007年から地域支援事業交付金を活用し、市町村の裁量で実施されてきました。
2014年の介護保険法改正により、一般介護予防事業のなかの地域介護予防事業の枠組みでも、ボランティアポイント制度が活用されています。
東京都稲城市は、全国で初めてボランティアポイント制度を導入しました。導入から10年で介護支援ボランティアの数は231名から761名へ増加し、市民の介護予防を支えています。
地域包括ケアシステムを推進した事例
地域包括ケアシステムとは、高齢者の増加に対応するため、住まい・医療・介護・予防などが地域で一体的に提供されるシステムです。
2011年の介護保険法改正で強化の方針が定められるなど、我が国の医療や介護を担うシステムとして構築が推進されています。
たとえば東京都世田谷区では、在宅医療推進や、定期巡回や随時対応型訪問看護の利用による介護サービスの提供などを実施しました。
安心できる高齢者の在宅生活の実現を目指し、定期巡回や随時対応型訪問介護看護を区内全域で提供できる体制を確保しました。
多くの利用者に施策の内容を周知するため、パンフレットや事例集を作成し、配布しています。
東京都世田谷区では「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」の地域包括ケアシステムでの5つの要素をバランスよく取り込み、地域住民のニーズにあわせたサービスを提供しています。
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まとめ
日本は2042年に65歳以上の人口が約3,900万人に達すると予想され、高齢者の増加は今後も続くと想定されています。
支援が必要な人を支える介護保険法の持続可能性は、重要なポイントです。
介護保険法は、3年に一度のサイクルで改正されています。2024年施行の改正法では、介護情報の基盤整備や経営情報の報告が努力義務となる予定です。
改正は介護サービスの内容へも影響を与えるため、介護サービスを利用する人も提供する人も、改正される内容には注視していきましょう。
よくある質問
介護保険法改正とは?
介護保険を取り巻く状況に対応するため、3年に一度ほどのサイクルで実施される法改正です。
介護保険法改正を詳しく知りたい方は「介護保険法が改正される背景」をご覧ください。
介護保険法改正の主なポイントは?
2024年の法改正では、介護情報の基盤整備や財務状況の報告の義務化などが盛り込まれています。
主なポイントを詳しく知りたい方は「2024年介護保険法改正のポイント」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。