監修 大谷雄二 特定社会保険労務士・ハラスメント防止コンサルタント・介護労務コンサルタント
介護報酬改定は3年に一度実施されており、次回は2024年に行われる予定です。改定によって事業者は事前準備が必要になる場合があります。
時代の変化にあわせて規定が変わるため、事業者は介護報酬改定に向けた検討内容にも注目しておきましょう。
本記事では、介護報酬改定の概要や改定が必要な理由、準備内容などを解説します。
目次
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介護報酬改定とは
介護報酬とは、事業者が利用者に介護サービスを提供したときに、対価として事業者に対して支払われる報酬のことです。介護報酬は、介護保険法上、厚生労働大臣が審議会の意見を聴いて定めることとされており、介護サービスの種類ごとに決められています。
介護報酬は3年に一度改定が行われ、前回は2021年に介護報酬が改定されました。次回の介護報酬改定は2024年に行われる予定です。
介護報酬改定が必要な理由
介護報酬は、介護サービスの種類ごとにサービス内容または要介護度、事業所・施設の所在地等に応じた平均的な費用を勘案して決定されます。
介護サービスとしてどのようなサービスが必要なのか、各介護サービスにどれだけの費用がかかり報酬をいくら払うと適切なのかなどを検討します。
適切な金額は常に変わっていくため、時代や社会の変化にあわせて改定が必要です。そのため3年に一度、介護報酬改定が行われます。
2024年介護報酬改定の検討内容
2024年の介護報酬改定に向けて、厚生労働省の社会保障審議会(介護給付費分科会)では、2023年5月頃から改定内容に関する議論が本格的に始まりました。具体的な検討内容は厚生労働省のHP「社会保障審議会(介護給付費分科会)」で公開されています。
以下では、社会保障審議会での検討状況を踏まえ、2024年に行われる可能性がある介護報酬改定の主な内容やポイントを紹介します。
認知症への対応力強化
認知症高齢者数は、2025年には約700万人、2040年には約800~950万人に達する見込みです。
認知症になる人が今後増えたとしても、認知症を発症した人の意思が尊重され尊厳をもって暮らし続けられるように、認知症への対応力強化が求められています。近年の介護報酬改定の議論でも、認知症への対応力強化は重要な議題のひとつです。
前回2021年の介護報酬改定では、認知症専門ケア加算の創設や、医療・福祉関係の無資格者に対する認知症介護基礎研修の受講義務化など、認知症対応が行われました。
認知症への対応力をより強化するため、2024年の介護報酬改定では、認知症関連加算の算定方法などでルールを変更する方向で議論が進められています。
医療機関と介護施設の連携強化
今後は高齢者数が増えるなかで以下のようなケースが増え、医療機関と介護施設の間で連携がより必要になると予想されます。
高齢者の増加によって予想されるケース
● 介護保険サービス利用者が入院するケース● 退院後に介護保険サービスを利用するケース
2024年の介護報酬改定に向けた議論のなかで、社会保障審議会(介護給付費分科会)では、一定の介護施設に対して以下の要件を満たす協力医療機関を定めることを義務化する検討が行われています。
義務化が検討されている協力医療機関の要件
● 入所者の急変時等に、医師または看護職員が夜間休日を含め相談対応する体制が確保されていること● 診療の求めを受け、夜間休日を含め診療が可能な体制を確保していること
● 当該施設での療養を行う患者が緊急時に原則入院できる体制を確保していること
また、医療機関と介護施設の連携を強化することを目的として、加算の見直しが検討されています。2024年の介護報酬改定では、医療機関への情報提供項目や様式、評価制度が変更される可能性があるので、改定内容をよく確認するようにしてください。
新しい複合型サービス
2024年の介護報酬改定に向けて、訪問介護と通所介護を組み合わせた地域密着型の複合型サービスの創設が検討されています。
現行の制度では、訪問介護と通所介護を別々の介護施設で利用している場合、情報の提供や共有に手間がかかるなどの問題がありました。
一方でコロナ禍の特例として通所介護で訪問サービスの提供が行われた際、訪問サービスと通所サービスをあわせて提供することのメリットとして、以下のような点が指摘されています。
複合型サービスを提供するメリット
● 日常の様子を見ている職員が訪問するため、利用者の状態の変化にいち早く気づける● 以前から関わりのある職員が訪問するため、利用者や家族が安心して利用できる
また、訪問介護で人材不足が顕著になっていることも、介護サービス内容の変更が検討されている理由のひとつです。
介護施設へのアンケート結果では、訪問介護のサービス提供を断ったことがある理由として約9割が人手不足と回答しました。
介護サービスの提供体制を社会全体で維持するためにも、2024年の介護報酬改定では現行の制度からサービス体系が変更される可能性があります。
その他
ほかにも、2024年の介護報酬改定に関して社会保障審議会で議論されている主な事項として、LIFE(科学的介護情報システム)の活用促進が挙げられます。
2021年から運用を開始したLIFEで、改善の必要性がある指摘は以下です。
LIFEの課題点
● LIFEの入力項目では複数の加算で項目が重複している● 選択肢が不足している場合や定義が曖昧な場合がある
● 入力作業自体に時間がかかり負担になる
介護報酬改定の施行時期
介護報酬改定の内容は年末~年明けに概ね決まり、報酬告示の公布は通常3月です。
4月には改定後のサービス提供を開始するため、介護事業所は短期間でサービス内容や事務の変更に対応する必要があります。前回2021年の介護報酬改定時のスケジュールは以下の通りです。
2024年の介護報酬改定でも同じようなスケジュールで進むと考えられます。4月から改定後のサービス提供を開始するためには、3月までに報酬改定に伴うサービス内容の見直しへの対応や各種届け出などへの対応を終える必要があります。
2024年介護報酬改定に向けて準備すべきこと
介護報酬改定が行われる年は、改定の直前になって慌てることがないよう、介護施設では事前の準備が必要です。2024年の介護報酬改定に向けて介護施設がやるべき主な対応事項を紹介します。
介護報酬改定後のサービス内容の確認と提供に向けた準備
介護報酬が改定されると新しいサービスが提供される場合があります。新サービスの内容を事前に確認し、従業員に周知するとともに、新たに届け出などが必要であれば対応しなければいけません。
2024年の介護報酬改定では、複合型サービスとして訪問介護と通所介護を組み合わせた、地域密着型サービスが創設される可能性があります。
2024年の介護報酬改定の内容に関しては社会保障審議会で検討が進んでおり、厚生労働省のHP「社会保障審議会(介護給付費分科会)」で詳細を確認できるので、適宜確認して最新の情報を把握することが大切です。
医療機関との連携強化に向けた準備
2024年の介護報酬改定では、医療機関と介護事業所の連携強化がポイントのひとつとして挙げられています。
加算規定の変更や、協力医療機関を定めることが義務化される可能性があります。
改定内容が確定して公表され次第、変更点を確認して介護事業所の従業員への周知や必要な手続きを行いましょう。
財務諸表の見える化に向けた準備
2024年の介護報酬改定では、介護事業所における財務諸表の見える化も検討されています。介護サービス事業者の経営情報を的確に把握すれば、以下のような事項で活用できる点で、経営情報を収集・把握することは重要といえるからです。
● 介護サービス事業者の経営状況をもとに、国民に対して介護が置かれている現状・実態の理解の促進財務諸表の公開が義務化されると事務負担が大きくなる可能性があるので、どのような変更が行われるのか厚生労働省HPで最新の状況を確認し、対応を早めに開始するようにしましょう。
● 介護サービス事業者の経営状況の実態を踏まえた、効率的かつ持続可能な介護サービス提供体制の構築のための政策の検討
● 物価上昇や災害、新興感染症等に当たり経営影響を踏まえた的確な支援策の検討
● 実態を踏まえた介護従事者等の処遇の適正化に向けた検討
● 介護報酬に関する基礎資料である介護事業実態調査の補完
まとめ
2024年は3年ごとに行われる介護報酬改定が実施される年です。社会保障審議会では2024年の介護報酬改定に向けて、認知症への対応力強化や医療機関と介護施設の連携強化、新しい複合型サービスの創設などが議論・検討されています。
介護報酬改定によって新しいサービスが始まる年は、改定後の内容を確認し、介護事業所で働く従業員に新サービス内容を周知するなど、対応が必要になる場合があります。
改定が実施される直前に慌てないように、改定内容の確認や事前の対応を早めに始めるようにしてください。
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よくある質問
介護報酬改定とは?
介護報酬改定とは、事業者が利用者に介護サービスを提供したときに対価として事業者に対して支払われる介護報酬を改定することです。
介護報酬改定について詳しく知りたい方は「介護報酬改定とは」をご覧ください。
介護報酬改定はいつ行われる?
介護報酬改定は3年ごとに実施されており、次回は2024年に行われる予定です。介護報酬改定の実施時期について詳しく知りたい方は「介護報酬改定の施工時期」をご覧ください。
監修
ソラーレ社会保険労務士法人
代表 大谷 雄二(おおたに ゆうじ)
特定社会保険労務士・ハラスメント防止コンサルタント・介護労務コンサルタント
日本の労働生産性の低さと、増え続ける職場のハラスメントの相談件数との相関関係に注目しています。職場のハラスメントを無くして、安心して生き生きと働ける職場環境をつくることで、企業の労働生産性は向上します。社会保険労務士として、そしてハラスメント防止コンサルタントとして、労働生産性の高い企業を増やし、日本の労働生産性を高めるというビジョン実現を生きがいとしています。