監修 安田亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
2023年11月7日に経済産業省は、従業員2,000人以下の企業を「中堅企業」と法律で位置づけ、重点的に支援する方針を表明しました。
具体的には、中堅規模の企業の投資やM&Aに関する税優遇が予定されています。法整備はまだ先ですが、中小企業と大企業の中間にある企業の成長を国として推進する動きがあるため、今後の動向に注目しておきましょう。
本記事では、中堅企業の定義や中小企業が中堅企業を目指すメリット、利用できる補助金や成長するための経営課題などを解説します。
目次
中堅企業の定義
現在、「中堅企業」の定義を明確に定めた法律はありません。一般的には、「中小企業の枠を超えているが大企業ではない、中間規模の企業」を指す場合が多いでしょう。
なお、「事業再構築補助金」の申請要件など、特定の条件下では明示されている場合もあります。
2023年11月に、経済産業省は従業員2,000人以下の企業を中堅企業と法律で位置づける方針を表明しました。今後の法改正により、いずれは明確な定義が整備される可能性が考えられます。
零細企業・中小企業との違い
一般に「零細企業」という言葉を耳にしますが、零細企業にも法的な定義はありません。
零細企業は中小企業基本法で「小規模企業者」に分類される企業などを指す場合が多いでしょう。
小規模企業者に分類されるのは、卸売業・サービス業・小売業で常時雇用人数が5人以下の場合です。また、製造業やその他の業種は20人以下です。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業その他 | 資本金や出資の総額が3億円以下の企業または常時使用する従業員が300人以下の企業・個人 |
卸売業 | 資本金や出資の総額が1億円以下の企業または常時使用する従業員が100人以下の企業・個人 |
小売業 | 資本金や出資の総額が5千万円以下の企業または常時使用する従業員が50人以下の企業・個人 |
サービス業 | 資本金や出資の総額が5千万円以下の企業または常時使用する従業員が100人以下の企業・個人 |
業種により条件が異なる点に注意が必要です。
大企業・みなし大企業との違い
大企業の場合、法的な定義だけでも複数存在します。
会社法による大会社の定義は「最終事業年度の資本金が5億円以上または負債200億円以上」です。
出典:e-Govポータル「会社法(平成十七年法律第八十六号)」
租税特別措置法では、「資本金または出資金が1億円を超える、または常時雇用する従業員の人数が1,000人を超える法人」が大規模法人とされています。
出典:国税庁「No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者」
また、法律上の基準ではなく、単純に従業員数だけで区別する場合もあります。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、常時雇用する人数が 1,000人以上の事業所等が大企業、100~999人は中企業、10~99人は小企業として扱われていました。
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
中小企業であっても、条件によっては「みなし大企業」として扱われる場合があります。みなし大企業に明確な定義がある訳ではありません。しかし、大企業による出資の割合が高く、実質的に支配されているケースなどが挙げられます。
みなし大企業の場合、補助金・助成金などの要件で制限される可能性が考えられます。
大きな企業は上場しているイメージがありますが、大企業が上場企業とは限らず、上場企業が必ずしも大企業であるとも限りません。
中小企業が中堅企業を目指すメリット
中小企業には税制の優遇を受けられるなどのメリットが存在しますが、中小企業の枠を超え、中堅企業になると得られるメリットも存在します。具体的には、補助金などの上限が変わるケースが挙げられます。
たとえば中小企業庁による「事業再構築補助金」です。事業再構築補助金は、コロナ禍を経て経済環境が変化するなか、新分野展開や業態・業種転換など事業再構築に臨む企業を支援する補助金です。公募や審査は経済産業省の中小企業庁が監督しています。
補助金支給の対象は、中小企業、中堅企業、個人事業主、企業組合などです。
申請後、審査により補助金交付候補者として採択されたら、交付申請を改めて手続きします。全体的な申請要件は、以下の通りです。
事業再構築補助金の申請要件
【事業再構築補助金の申請要件】● 事業者自身が作成した事業再構築指針に沿った事業計画が、認定経営革新等支援機関により確認済である
● 補助事業終了後3~5年で付加価値額を向上させる。申請枠により年率平均3.0~5.0%以上増加、もしくは従業員一人あたり年率平均3.0~5.0%以上増加
補助金額が3,000万円を超える案件は、金融機関による事業計画の確認が必要です。ただし、金融機関が支援機関を兼ねている場合は金融機関のみの確認で問題ありません。
事業再構築補助金の種類
事業再構築補助金は、取り組みの内容に応じて複数の募集枠が設けられています。参考までに、令和5年に募集が実施された第12回要綱での種類を確認しましょう。
事業再構築補助金の募集枠
● 最低賃金枠● 物価高騰対策
● 回復再生応援枠
● 産業構造転換枠
● 成長枠
● グリーン成長枠
● サプライチェーン強靱化枠
● 大規模賃金引上促進枠
● 卒業促進枠
実際、以前は募集されていた「グローバルV回復枠」や「卒業枠」はグリーン成長枠に引き継がれ、現在では廃止されています。
事業再構築補助金での中堅企業の定義
事業再構築補助金制度が定義する「中堅企業」とは、中小企業の範囲に入らない企業のうち、資本金10億円未満の企業です。
中小企業の範囲は中小企業基本法で定められている通りです。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
製造業その他 | 資本金や出資の総額が3億円以下の企業または常時使用する従業員が300人以下の企業・個人 |
卸売業 | 資本金や出資の総額が1億円以下の企業または常時使用する従業員が100人以下の企業・個人 |
小売業 | 資本金や出資の総額が5千万円以下の企業または常時使用する従業員が50人以下の企業・個人 |
サービス業 | 資本金や出資の総額が5千万円以下の企業または常時使用する従業員が100人以下の企業・個人 |
大企業により実質支配を受けるみなし大企業は対象外です。また、直近過去3年の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超える企業は中堅企業として扱われます。
中堅企業が事業再構築補助金制度に応募する際は、受け取れる補助金の上限が上がる場合があります。
令和5年に募集が実施された第12回の「グリーン成長枠」では、中小企業が最大8,000万円の条件に対し、中堅企業の場合は最大1億円の設定でした。また、中小企業から中堅企業へ成長する企業は、「卒業促進枠」の上乗せ申請が可能でした。
今後も同じ内容で募集が実施されるとは限りませんが、補助金上限の条件が継続されるのであれば、中堅企業であるメリットは大きいでしょう。
中堅企業が成長するための経営課題
中堅企業が、中小企業の枠を超え成長していくために必要な課題を解説します。
重要と考えられる経営課題
中小企業庁の小規模企業白書2020年版によると、「重要と考える経営課題」というアンケートに対し、中規模企業の回答は次の項目が高い割合を占めました。
重要と考える経営課題
● 人材の確保や育成・後継者の育成や決定● 営業力や販売力の強化・販路開拓
● 設備増強・更新・廃棄(製造業など)
上記で挙げた項目のほかには、設備投資のための資金確保、コストや借入金の削減、サービス開発などの回答がありました。
人手不足はどの業種でも深刻な問題です。業務フローの見直しやIT化で効率改善を図りましょう。また、短時間労働の導入や、子育て世代や副業人材の積極採用など、多様な働き方で生産性を高める取り組みが必要です。
柔軟な職場環境は従業員にとって魅力が高く、人材を定着させる効果が期待できます。優秀な人材の新たな獲得にもつながるでしょう。
同白書によると、成長企業は課題解決に向けてセミナーや講演などで情報を収集し、専門家などに積極的に相談している割合が高い傾向にあります。こうした成長企業の動きを積極的に取り入れ、参考にするとよいでしょう。
M&Aは成長のための価値を創出する戦略
M&A(企業合併・買収)は、企業が成長するための価値を創出する手段のひとつです。中小企業でも近年増加傾向にあり、新しい分野での展開が成功すればグループ全体で相乗効果を発揮します。
M&Aでは、相手先従業員の理解や信頼を十分に獲得できるかどうかが重要な課題です。
中小企業庁の「小規模企業白書2023年版」では、経営統合(PMI)を早期に実施した企業はM&Aの成果を感じる度合いも期待以上であったという結果が出ています。
出典:中小企業庁「2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」
いかにスピーディーに取り組めるかが、スムーズな経営統合のポイントです。
政府は2023年11月、従業員数が2千人以下の中堅企業を重点的に支援していく方針を発表しました。
中堅企業の投資やM&Aに関して、賃金の伸び率などの要件を満たす場合に税優遇する制度の創設が予定されています。
国としてM&Aによる中堅企業の発展を促進する意図があり、中堅企業は日本経済の重要な位置づけであると考えられています。
中堅企業が地域社会で担う役割
中小企業庁の「小規模企業白書2023年版」によると、地方では中堅・中核企業の雇用者割合が全体の約70%を占めています。
出典:中小企業庁「小規模企業白書2023年版」
また中堅企業は、大企業や中小企業と比較し、一企業あたりの売上高・設備投資額・給与総額や従業員数の伸び率が高いという結果が出ています。
中堅・中核企業は、特に地方での雇用創出や経済の中心的役割を担っており、中堅企業の成長・発展は、地方への若者の移住を促進し、人口増加に対する貢献も期待されているでしょう。
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まとめ
中堅企業の法的な定義は現時点では存在しません。中小企業や大企業は明確な定義があるため、いずれにも属さない中間規模の企業を指す場合が一般的です。
経済産業省が「従業員2,000人以下の企業」を中堅企業と法律で位置づける方針を2023年11月に表明したため、今後の法改正で新しく定義される可能性が考えられます。
中小企業の枠を超えて中堅企業になるメリットは、補助金などの上限額が上がる可能性がある点です。
中堅企業は従業員数や給与の伸び率が高く、地方の雇用創出の中心的役割を担っています。中堅企業が発展していくためには、人材面・営業力・働き方・M&Aなど成長のための取り組みが大事です。
よくある質問
中小企業と中堅企業の違いは?
現在、中堅企業の法的な定義はありません。一般的には、中小企業の定義から外れており、大企業の枠にも入らない中間規模の企業を指す場合が多いでしょう。
中小企業と中堅企業の違いを詳しく知りたい方は「中堅企業の定義」をご覧ください。
中堅企業に成長するメリットは?
補助金などの金額の上限が上がる可能性が考えられます。
中堅企業のメリットを詳しく知りたい方は「中小企業が中堅企業を目指すメリット」をご覧ください。
監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。