公開日:2023/09/25
監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP
多様な働き方が浸透するなか、育児中の国民年金の保険料免除が検討されています。本記事では、保険料免除の制度内容や受給額への影響を解説します。
子育てと仕事の両立を経済的に支援する制度のひとつが、「社会保険料の免除制度」です。厚生年金や国民年金など、被保険者の区分によって要件や免除内容が異なるため、制度内容を正しく把握しておきましょう。
目次
育休中は社会保険料が免除される
育児を理由に休業する人を経済的に支えるため、社会保険料の免除制度があります。
免除を受けた場合、産前産後休業および育児休業等をしている間、社会保険料(健康保険・厚生年金保険・国民年金保険)を支払う必要がありません。
免除制度を受けるには、事業主が年金事務所または健康保険組合への申出が必要です。
また、会社員などで勤務先から給与が支給されない場合、雇用保険料の負担は生じません。
社会保険料免除の要件は、2022年10月に改正されました。ここで、改正前と改正後の要件を詳しく見てみましょう。
育休中の社会保険料免除の要件(改正前)
対象となるのは、厚生年金の被保険者であり、育児休業等を取得する人です。
育児休業等の開始日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までの間、毎月の報酬にかかる保険料が免除されます。開始日の属する月と終了日の属する月が同一の場合、終了日が同月の末日であるケースを除き、免除対象外です。
また賞与に関しては、育児休業等期間に月末が含まれる月に支給された場合、保険料を支払う必要はありません。
育休中の社会保険料免除の要件(改正後)
従来の保険料免除要件に加えて、次の要件が追加されました。
改正後の社会保険料免除の要件
● 月額保険料について、同月内に14日以上育児休業を取得した場合も免除の対象となる● 賞与保険料は、賞与を支払った月の末日を含んだ連続した1ヶ月を超える育児休業等を取得した場合に免除される
厚生労働省によると、男性の育児休業取得時期としてもっとも多いのは「末子の出産後8週間以内」です。女性と比べると、末子が1歳になるまで休業する男性は少なく、短い期間で育児休業を取得する人が多い傾向にあります。
しかし従来のルールでは、1ヶ月以内で育児休業が終了する場合、保険料免除の適用可否を決めるのは「休業日が月末にかかるかどうか」でした。改正によって、休業時期・期間による不平等を是正する効果が期待されます。
一方、賞与にかかる保険料に関しては、「連続して1ヶ月を超える育児休業」が要件に加わったため、注意が必要です。
より詳しく知りたい人は「産休中の社会保険料は免除になる?手続き方法や注意点をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
国民年金と厚生年金の免除内容の違い
出産と育児にかかる保険料免除に関して、第1号被保険者が加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金の主な違いは以下の通りです。
産前産後の保険料免除期間 | 産前産後の休業要件 | 育児期間中の保険料免除 | |
厚生年金 | 出産の日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産の日後56日まで | あり | あり |
国民年金(第1号被保険者) | 出産予定日または出産日(出生後に届け出た場合)の前月から4ヶ月間 ※多胎妊娠は、出産予定日または出産日(出生後に届け出た場合)が属する3ヶ月前から6ヶ月間 | なし | なし |
厚生年金の産前産後の保険料免除期間は、出産の日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産の日後56日までです。一方、第1号被保険者が加入する国民年金の保険料免除期間は、出産予定日または出産日(出生後に届け出た場合)の前月から4ヶ月間です。
厚生年金の産前産後の保険料免除には、「産前産後休業を取得する」という要件が設けられていますが、第1号被保険者が加入する国民年金には休業要件はありません。
また育児休業期間も保険料が免除される厚生年金と異なり、国民年金は育児期間中の保険料免除制度はないのが現状です。
年金保険料が免除されると年金受給額は減る?
産前産後にかかる保険料免除に関して、厚生年金・国民年金ともに、免除期間は保険料を納めたものとして扱われます。したがって、保険料を免除されることで、将来の受給額が減るわけではありません。
国民年金の場合、平成31年4月以降、国民年金保険料を月額100円程度引きあげたことで、国庫負担額以外の部分を補っています。
また育児休業等期間中に保険料免除を受けた場合も、免除期間は保険料を納めたものとして扱うため、被保険者が受け取れる年金額に影響はありません。
産前産後の国民年金保険料免除を「1年に延長」が検討されている
政府は国民年金第1号被保険者に対し、産前産後の4ヶ月を超えて「育児期間にかかる社会保険料の免除」を検討しています。働き方が多様化するなか、自営業やフリーランスとして働く人の子育てを支援する目的です。
2026年度までの実施を目指しており、主に次の3つに関して議論されています。
育児中の国民年金保険料免除における論点
● 保険料免除の対象要件● 保険料免除の対象期間
● 免除期間に対応する基礎年金給付の水準
また産前産後期間の保険料免除制度と同様に、基礎年金給付額を満額保障するかどうかも検討されています。
厚生年金・国民年金保険料の免除を受けるための手続き
厚生年金保険の被保険者は、産前産後休業中の社会保険料免除を受けるため以下の手続きが必要です。
産前産後休業中の社会保険料免除を受けるための手続き
1. 被保険者が産前産後休業の取得を事業主へ申し出る2. 被保険者の産前産後休業期間中または休業終了日から起算して1ヶ月以内の期間中に、事業主が「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構へ提出する
育児休業中の社会保険料免除を受けるための手続き
1. 被保険者が育児休業の取得・延長を事業主へ申し出る2. 育児休業等の期間中または休業終了日から起算して1ヶ月以内の期間中に、事業主が「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構へ提出する
手続きが生じるケース
● 1歳に満たない子を養育するための育児休業● 保育所待機等特別な事情がある場合の1歳6ヶ月に達する日までの育児休業
● 保育所待機等特別な事情がある場合の2歳に達する日までの育児休業
● 3歳に達するまでの子を養育するための育児休業制度に準ずる措置による休業
● 産後パパ育休制度により取得する休業
産前産後期間の国民年金保険料免除 を受けるための手続き
● 「国民年金被保険者関係届書(申出書)」に、母子健康手帳など出産予定日が確認できる書類を添付する● 住所登録をしている市区役所の国民年金担当窓口へ提出する
まとめ
厚生年金の被保険者であれば、産前産後休業および育児休業期間中、国民年金の被保険者の場合は産前産後の期間中、それぞれ社会保険料を免除されます。また保険料を免除されても、将来の受け取り額には影響はありません。
政府は国民年金第1号被保険者に対し、産前産後期間だけでなく、育児期間にかかる社会保険料の免除を検討しています。実現すれば、多様な働き方と子育ての両立を支える経済的サポートのひとつとなるでしょう。
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よくある質問
育休中は社会保険料が免除される?
厚生年金保険の被保険者側が申し出ることで、健康保険料や年金保険料などの免除を受けられます。
社会保険料の免除制度を詳しく知りたい方は、「育休中は社会保険料が免除される」をご覧ください。
年金保険料が免除されると受け取れる年金額は減る?
現行制度では、産前産後および育児休業期間中に免除された期間は、保険料を納めたものとして扱われます。
年金額への影響を知りたい方は、「年金保険料が免除されると年金受給額は減る?」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。