監修 安田亮 公認会計士・税理士・1級FP技能士
生命保険料控除が2024年に拡充されて税金が安くなる可能性があります。拡充の理由は、医療ニーズへの自助による備えを促すことや、子育て世帯の支援です。
税金がいくらかかるのか、税負担は家計や日々の生活に影響するので、税制改正の内容はしっかりと押さえておきたいところです。2024年度の税制改正で生命保険料控除がどのように変わり、税負担がいくら軽くなるのか、確認してみましょう。
本記事では、2024年度税制改正要望の背景や要望の内容を解説します。
目次
そもそも生命保険料控除とは
所得税と住民税には、税負担を軽減する仕組みとして所得控除と呼ばれる制度があります。生命保険料控除も所得控除のひとつです。
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料を支払うと、税率をかける前の金額から一定額を差し引けます。差し引く金額の分だけ税率をかける金額が安くなるので、「控除額×税率」で計算した金額だけ、所得税と住民税が安くなる仕組みです。
控除額は、新契約(2012年1月1日以後に結んだ保険契約)と旧契約(2011年12月31日以前に結んだ保険契約)で異なります。
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除額は、下記の式で計算した金額です。
所得税の生命保険料控除額(旧契約) | |
年間の支払い保険料等 | 控除額 |
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
所得税の生命保険料控除額(新契約) | |
年間の支払い保険料等 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
住民税の生命保険料控除額(旧契約) | |
年間の支払い保険料等 | 控除額 |
15,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
15,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+7,500円 |
40,000円超70,000円以下 | 支払保険料等×1/4+17,500円 |
70,000円超 | 一律35,000円 |
住民税の生命保険料控除額(新契約) | |
年間の支払い保険料等 | 控除額 |
12,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
12,000円超32,000円以下 | 支払保険料等×1/2+6,000円 |
32,000円超56,000円以下 | 支払保険料等×1/4+14,000円 |
56,000円超 | 一律28,000円 |
生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の合計では、所得税では旧契約で最大10万円、新契約で最大12万円、住民税では旧契約・新契約いずれも最大7万円の控除を受けられます。
たとえば、個人年金保険料(新契約)を月1.5万円・年18万円支払っている場合、控除額は所得税4万円、住民税2.8万円です。年収400万円で所得税率5%・住民税率10%の人の場合、所得税は2,000円(4万円×5%)、住民税は2,800円(2.8万円×10%)安くなります。
生命保険料控除の拡充の要望が出されている理由
各省庁が提出した税制改正要望(2024年度)のうち、金融庁が提出した要望の中で生命保険料控除の拡充が扱われています。
生命保険料控除を拡充する理由は、税負担を軽減して医療ニーズへの自助による備えを促すことや、子育て世帯の支援です。
さまざまな要因により経済の先行きに対する不透明感が高まる中でも、生命保険をうまく活用すれば、将来に向けた保障や資産形成への備えとして役立ちます。
2024年度「税制改正要望」における生命保険料控除の改正内容
2024年度「税制改正要望」の中で、生命保険料控除に関して出されている主な要望内容は下記の2つです。
生命保険料控除に関する改正の要望
● 控除額の引き上げ● 扶養する子どもがいる家庭の税負担の軽減
生命保険料 | 介護医療保険料 | 個人年金保険料 | 合計控除額 | ||
扶養する子どもがいる場合 | 所得税 | 6万円 | 5万円 | 5万円 | 16万円 |
住民税 | 4.2万円 | 3.5万円 | 3.5万円 | 7万円 | |
扶養する子どもがいない場合 | 所得税 | 4万円 | 5万円 | 5万円 | 14万円 |
住民税 | 2.8万円 | 3.5万円 | 3.5万円 | 7万円 |
要望の中では、扶養する子どもがいる家庭で控除額の上限をより緩和する制度が提案されています。
2012年1月1日以後に保険契約を結んだ新契約の場合、現行の制度における控除額の上限は、所得税では生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料ごとにそれぞれ4万円、合計で12万円、住民税ではそれぞれ2.8万円、合計で7万円です。
要望内容の通りに生命保険料控除が拡充されれば、控除額の上限は所得税で12万円から14万円または16万円に引き上げられます。
住民税では、生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の合計控除額の上限は7万円に据え置かれる予定ですが、各保険料ごとの控除額の上限額は一部を除いて現行制度の2.8万円から引き上げられます。
扶養の子どもの有無によって控除額を変える理由
子どもがいる世帯では、万が一親が亡くなって子どもが残された場合への備えが重要です。十分な備えができていないと、残された子どもが生活に困ったり教育を受ける機会を失ったりすることになりかねません。
控除額の上限の引き上げによって、扶養する子どもがいる家庭の税負担を軽くすれば、生命保険に入りやすくなって万が一への備えをしやすくなります。
配偶者控除や扶養控除など、所得税や住民税では扶養する家族がいる家庭の税負担を軽減する控除制度があり、納税者の状況に応じた配慮がなされています。
扶養する子どもがいる家庭の生命保険料控除額を手厚くするという改正要望の内容も、納税者の個々の状況に応じた配慮に基づく制度設計といえるでしょう。
生命保険料控除の拡充が成立したら保険の見直しをすべきか
仮に所得税の控除額が12万円から16万円に上がった場合、年収400万円で所得税率5%の人であれば、所得税が年間で2,000円(4万円×5%)安くなります。
税負担が2,000円しか安くならないのに、保険を見直して保険料がそれ以上に大きく上がると生活が苦しくなる可能性があります。保険の見直しは補償内容と保険料負担のバランスを考えて決めることが大切です。
所得税や住民税の控除対象になる金額の範囲内に年間の保険料を抑えている場合は、控除対象の上限額の引き上げにあわせて保険の見直しを行ってもよいでしょう。
扶養する子どもがいる場合といない場合で控除額が異なります。ご自身の家庭の状況にあわせて税負担がどのように変わるのか計算し、生命保険料控除が拡充された際には保険の見直しを検討してみましょう。
個人情報を適切に処理するなら管理ツールの使用を
従業員を雇い入れているなら、従業員の個人情報も適切に管理しなければなりません。
freee人事労務は、個人情報はもちろん、口座情報や入出金データなど、すべてのデータを暗号化して保存。すべての通信に対して金融機関レベルの通信方式を採用し、強固なセキュリティ体制を敷いています。
個人情報の取り扱いでは、一定基準を満たす企業に与えられる国際認証TRUSTeを取得しており、従業員の個人情報も適切な管理が可能です。
データはクラウド上で保管されているため、パソコンの紛失やハードディスクの破損による物理的なデータ損失の心配もありません。
外部へのデータ漏えいを防ぐ対策が施され、安心して利用できるfreee人事労務をぜひお試しください。
まとめ
2024年度の税制改正要望では、生命保険料控除の控除額の引き上げと、扶養する子どもがいる世帯での税負担軽減が要望として出されています。
生命保険料控除の拡充が要望として出されている理由は、税負担を軽減することで医療ニーズへの自助による備えを促すことや子育て世帯の支援です。
拡充により所得税や住民税を計算する際、税率をかけあわせる前の金額から差し引ける控除額が引き上げられます。控除額が増えると生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料を支払っている人の税負担が軽減されます。
生命保険料控除が拡充された場合、税負担が変わるなど家計にも影響があるので、ご自身の場合に一体いくら税金が変わるのか、確認しておくようにしましょう。
よくある質問
生命保険料控除の拡充で期待できることは?
控除額が引き上げられることで所得税・住民税が安くなる可能性があります。
生命保険料控除の拡充を詳しく知りたい方は「2024年度「税制改正要望」における生命保険料控除の改正内容」をご覧ください。
生命保険料控除額を扶養の子どもの有無で変えるのはなぜ?
子どもがいる世帯では、万が一親が亡くなって子どもが残された場合への備えが重要であり、備えができるように負担軽減などの配慮が必要です。
扶養する子どもがいる場合の生命保険料控除額に関して詳しく知りたい方は「扶養の子どもの有無によって控除額を変える理由」をご覧ください。
監修 安田亮(やすだ りょう) 公認会計士・税理士・1級FP技能士
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。