監修 松浦 絢子 弁護士
民法改正で変わった保証人制度の内容や、企業が取るべき対応を解説します。改正内容を知らないと、トラブルに発展する可能性もあり、注意が必要です。
連帯保証人を含めた保証人に関する制度は、2017年5月に「民法の一部を改正する法律」が成立し、2020年4月より施行された民法上のルールが現在適用されています。
目次
連帯保証人とは
連帯保証人は保証人の一種で、連帯保証以外の保証人に与えられている一部の権利が制限されているため、より重い責任を負う存在です。
保証人は債務を負う人(主債務者)が返済や支払いができない場合に備え、主債務者の代わりに支払責任を負うと約束した人をいい、保証人になると約束する契約を保証契約といいます。
住宅ローンや事業融資、不動産の賃貸借契約などでは、問題が起きて貸付額を回収できない事態を防ぐため、保証人が必要になる場面があります。
保証契約と根保証契約
保証契約は債務を負う人(主債務者)が債務履行できない場合、代わりに債務履行を約束する契約で、債権者と保証契約を結んだ人が保証人です。
通常の保証契約では、保証の範囲が契約時に確定しています。
一方、将来的に発生する不特定の債務までを保証する、根保証契約も存在します。根保証契約では、最終的な保証内容・範囲が契約時には確定していません。
たとえば、継続的に事業資金の返済と借り入れを繰り返す予定があるため、最終的にいくらを保証するか契約時点ではわからない場合が挙げられます。
連帯保証人と保証人の違い
連帯保証以外の保証人は支払を要求されても、主債務者(借りた本人)へ先に請求して欲しいと主張できる、催告の抗弁権が与えられています。
また、借りた人の財産から先に回収して欲しいと主張できる、検索の抗弁権もあります。
しかし、連帯保証人には催告の抗弁権・検索の抗弁権がありません。貸した側は借りた本人よりも先に、連帯保証人への請求が可能です。
連帯保証契約を結んで連帯保証人になる場合は、連帯保証以外の保証人よりも責任が重くなると理解し、さらに慎重な判断が必要です。なお、実務上は「保証」といった場合は、ほとんど連帯保証となっています。
民法改正で変わった連帯保証人に関連するルール
2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が施行されたため、2020年4月から保証に関する民法上のルールが変更されています。
内容を理解しないまま安易に保証人になる事態を防ぎ、保証人になった人が大きな債務を負わないために変更されました。
以下では、特に連帯保証人に関係の深い点について紹介します。なお、以下で「保証人」と書かれている点は、すべて連帯保証人についても適用されます。
極度額を定めない個人の根保証契約はすべて無効
2020年4月以降に結ばれる契約では、個人が保証人になる場合、保証人が支払責任を負う金額に上限(極度額)を定めない保証契約は無効になりました。
なお、金銭の貸し渡しなどでの根保証契約では、2004年の民法改正時点から極度額を定めていないと無効になります。
今回の改正では、賃貸借契約での賃料や修繕費、損害賠償の債務保証など、今までは極度額を定めなくても問題なかった部分も含まれます。
極度額の定めは書面で明示し、当事者間の合意をもって、明確な金額を定めなければなりません。保証人になる人は、極度額の範囲内で支払責任を負う可能性があると知っておく必要があります。
また、極度額を定めていない・書面で明確にしていない契約は無効です。保証人へ支払いを請求できなくなるため、保証人を要求する債権者側も必要事項を盛り込んだうえでの契約締結が重要です。
保証人になる人へ公証人が保証意思を確認
今回、個人が事業用の融資で保証人になる場合、公証人が保証意思を確認するルールが新設されました。
事業用融資を受ける際、事業に関与していない親戚や友人を始めとする第三者が内容を理解しないまま保証人になっているケースがあり、予期せぬ債務を負う事態も発生しています。個人が安易に連帯保証人にならないため、公証人による確認が必要となりました。
なお、保証意思の確認は、以下に挙げるような事業と関係の深い個人が保証人になる場合は不要です。
保証意思の確認が不要な場合
● 主債務者が法人で、法人の理事・取締役・執行役や、議決権の過半数を持つ株主の場合● 主債務者が個人で、主債務者の共同事業者、主債務者の配偶者で現に事業に従事している場合
保証人への情報提供を義務化
2020年4月から施行された民法のルールでは、次に挙げる内容を保証人へ情報提供する義務も課せられています。
保証人に提供が必要な情報
● 保証人になるかを判断する情報● 主債務の履行状況に関する情報
● 期間の利益を喪失した場合の情報
主債務者が収入に見合わない借り入れをしていないか、他者からの借り入れと返済状況に問題ないかを確認したうえで、保証人になるかならないかを判断できます。
また、保証人になるかを判断する情報は、事業融資だけでなく売買代金やテナント料を始めとする融資以外の債務保証でも適用されます。
さらに、保証人は債務者に対して主債務の履行状況に関する情報を要求できます。滞りなく返済できているかが確認でき、保証人が法人の場合も同様の要求が可能です。
期限の利益を喪失した場合の情報提供も義務づけられています。「期限の利益」とは、定めた期限まで債務の返済をしなくていい権利を指します。債務者が分割金の支払を遅滞させると、一括払いの義務を負い、期限の利益を喪失する場合があります。
期限の利益が喪失すると、一括返済や加算される遅延損害金で保証人が一度に多額の支払を求められる可能性もあります。
そこで、こうした事態が発生した場合、債務者は事態を知ったときから2ヶ月以内に個人の保証人に対して通知しなければならないと義務づけられました。
保証人制度の民法改正で具体的に何が変わるのか?
保証人制度の改正で具体的に何が変わるのか、例を挙げて解説します。
事業融資の保証人を個人に依頼する場合
事業融資の保証人に個人がなる場合、公証役場での保証意思確認が必須になりました。事業者と関係の深い間柄にある個人の場合は不要ですが、それ以外なら保証人になる本人が公証役場で手続きしなければなりません。
保証意思の確認は代理人ではできない手続きで、保証意思宣明公正証書の作成をもって、確認がなされたと証明されます。また、保証意思宣明公正証書は保証契約を締結する日より前の、1ヶ月以内の日付で作成された証書が必要です。
なお、根保証契約の極度額は、2004年の改正時点から定める必要がある項目ですが、今一度、取り交わす契約書類に記載漏れがないか確認が必要です。また、法人が保証人になる場合は、公証人の極度額の定めはなくても構いません。
賃貸借契約の保証人を個人に依頼する場合
賃貸借契約を結ぶ際の根保証契約では、保証人となる個人が負う極度額を定める必要があります。
書面で金額を明示していなければ契約は無効となり、債権者は保証人への請求ができません。
ただし、法人が保証人になる場合は対象外なため、極度額の定めがなくても契約無効になりません。事業融資とも異なるため、公証人による意思確認の手続きも不要です。
保証人制度の民法改正で事業者がとるべき対応
保証人制度の民法改正を受けて、事業者は締結時の手順や契約書類が改正後のルールに適しているか、見直しが必要です。
契約締結時の手順を見直す
事業融資で個人が保証人になる場合は、公証人による保証意思の確認が必要になりました。保証意思の確認は代理人では行えないため、保証人になってもらう人自身が公証役場へ行って確認します。
今までの手順にはない手続きが加わるため、契約締結時の手順を見直し、最寄りの公証役場の場所を確認しましょう。
契約書を改正内容に適したものにする
極度額を定めない根保証契約が無効となるため、具体的な金額が入っていないと万が一の際、保証人への請求ができません。
契約書の内容も法改正に適しているか確認し、契約書作成に雛形を使っているなら、忘れずに修正して、問題なく使える状態にしましょう。
情報提供の有無を記録に残す
法改正により、保証人への情報提供義務が追加されています。保証人を依頼する場合、必要な情報を提示するのはもちろん、相手へ必要な情報提供をしたか・相手が合意したかも記録に残すことが重要です。
また、保証人になった場合は、提供された情報を記録するとともに、情報提供があった日付や内容に問題がなかったかなども記録に残します。
電子契約システムで契約業務を効率化する方法
契約書の作成や郵送、締結後の管理など、契約業務は手間がかかる作業です。テレワークの普及で決裁に時間を要し、契約書の押印や郵送のために出社しなければならないなど、面倒な場面もあります。
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まとめ
2020年4月施行の民法改正では、連帯保証人を含めた保証人に関するルールが変更されています。個人が保証人になる根保証契約では極度額を決める必要があり、公証人による保証意思確認の手続きや、保証人への情報提供義務が加わりました。
企業は変更点へ対応できるよう、契約締結時の手順や契約書の雛形の見直しが必要です。また、契約業務を効率化するには、電子契約システムの活用もおすすめです。
よくある質問
連帯保証人とは?
連帯保証人は保証人の一種で、保証人に与えられている一部の権利が排除されているため、より重い責任を負う存在です。
連帯保証人を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。