監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
従業員の生活を守るため、インフレ手当を支給する企業が増加しています。本記事では、インフレ手当の概要や支給する企業が増えた背景を解説します。
食品の値上げラッシュや電気代など高騰が続き、インフレによる影響の大きさを感じている人も少なくないでしょう。
記事後半ではインフレ手当を支給する際の注意点も解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
インフレ手当とは?
「インフレ手当」は、電気代や食品の値上げといった物価高に応じて、企業が従業員に対して支払う特別手当です。
そもそもインフレとは、「お金の価値」と「物やサービスの価値(物価)」との関係をあらわす言葉です。物価が継続的に上昇し、お金の価値が下がっていく状態を意味するのが「インフレ」で、物価が下がり、お金の価値が上がる状態を「デフレ」といいます。
たとえば、昔はりんご1個を100円で購入できていたのに、今は1個200円で売られている場合、物(りんご)の価値が上がっているため「インフレ」の状態です。
インフレが続くと、食費や光熱費などの値上がりによって家計が圧迫され、人々の生活は苦しくなるでしょう。インフレ手当は、基本給などに上乗せされ、インフレによる実質的な賃金の減少を防ぐ役割があります。
インフレ手当を支給する企業が増加した背景
インフレ手当に注目が集まる背景には、「物価高騰」があります。
インフレが生じる原因はさまざまですが、近年、世界規模でインフレが起こっている主な原因として、新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵攻の影響が挙げられます。
まず新型コロナウイルス感染症の拡大によって、需要と供給のどちらにも大きなショックが生じました。その後パンデミックの鎮静化に伴い、経済活動が再開し、需要の拡大と供給体制の不安定さによってインフレを引き起こしています。
さらにロシアのウクライナ侵攻によって、小麦や原油の価格が上昇しました。その結果、さまざまな分野で価格の上昇が起き、物価が高騰しています。
日本では物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず、実質的に賃金が減少しているような状況です。このような状況のなか、物価高騰による従業員の不安を払拭するために、インフレ手当を支給する企業が増加しました。
インフレ手当によって手取り額が増えるため、従業員のエンゲージメント向上や離職防止への効果が期待されます。
インフレ手当の支給方法
インフレ手当を支給するには、主に2つの方法があります。
インフレ手当の支給方法
● 一時金として支給● 雇月ごとの手当として支給
一時金として支給する
一時金として支払うには、「毎月の給与に一時的な上乗せをする」または「賞与に上乗せして支給する」という方法があります。
実際に、インフレ手当を支給する企業の多くが一時金として支払っています。インフレ手当の事務処理を通常の給与や賞与とあわせて行えるため、企業にとって「事務の負担が増えない」点がメリットです。
また一時金として支給する場合、継続的に支払う義務がありません。月額手当として支給すると、手当を下げた際のインパクトが大きくなり、不利益変更に接触する可能性があるという理由で、一時金として支給した企業もあります。
ただし、短期的な支出の増加によるキャッシュフローの悪化には注意が必要です。
月額手当として支給する
月額手当として支給するには、インフレ手当を毎月の給与に上乗せします。つまり特別手当で短期的な支援を行うのではなく、ベースアップによって物価高騰に対応する方法です。
インフレ手当を月額手当で支払った企業のうち、次のような事例があります。
月額手当の支給例
● 通勤手当の20%分を増額し、数ヶ月という期間限定で実施● インフレ率を約2%と仮定し、給与に応じて相当額を上乗せ
また事業所の規模によっては、労働基準監督署への書類提出が必要になるため事務負担が増え、手間がかかります。
インフレ手当を支給する際の注意点
インフレ手当を支給する際、気をつけたいのは以下の2点です。
インフレ手当支給時の注意点
● 現金支給は所得税・社会保険料の対象となる● 企業側の経済的負担を考慮しなければならない
現金支給は税金・社会保険料の対象となる
原則、従業員に支払われる手当は「給与所得」として扱われます。インフレ手当も従業員の「所得」になるため、所得税などの課税の対象です(※)。
※現金だけでなく、食事の補助といった現物支給の場合も課税対象になる場合があります。
また健康保険や厚生年金保険などの社会保険は、標準報酬月額・標準賞与額を基準として、保険料や保険給付額を算出します。「標準報酬」とは、基本給だけでなく、労働の見返りとして事業所から支給された手当も対象です。
したがって、インフレ手当を受け取ることで、従業員の保険料負担額などにも影響が生じる可能性があります。
なお支給方法次第では、年金事務所等への手続きが発生する可能性があることにも留意が必要です。
支給方法 | 提出が必要な書類 |
一時金で支給(年3回まで) | 賞与支払届 |
一時金を毎月の手当として年4回以上支給 | 次回の算定基礎届 |
毎月の手当(期間を限定含む)で支給 | 月額変更届 |
加えて、扶養の範囲内で働いているパートやアルバイト社員などに関しては、扶養控除などを受けられる給与収入とのバランスを考慮しなければなりません。
企業のなかにはインフレ手当を支給するにあたり、従業員に受け取りの判断を委ねるといった対応をとるケースもあります。企業はそのあたりを踏まえたうえで、ルールを策定するとよいでしょう。
企業側の経済的負担を考慮しなければならない
インフレ手当によって、「人材流出の防止」や「従業員のモチベーション向上」を目的としている企業も少なくありません。
また正社員・パート・アルバイトなど、雇用区分によって支給可否を決めてしまうと不公平感が生じるため、「全従業員」に支払うのが望ましいでしょう。ただし入社年数や所定労働時間等で、支給額に差をつけることは問題ありません。
ただしインフレ手当を公平に支給する場合、企業体力を考慮しなければ会社にとって経済的負担となります。中小企業などでは「手当を支給する余裕はない」といった声もあり、インフレ手当の導入は慎重に検討する必要があります。
社会保険に関する業務を円滑にする方法
社会保険に関する業務は、加入手続きや保険料の計算など多岐にわたります。それらの業務を効率化したいとお考えの方には、freee人事労務がおすすめです。
freee人事労務には、以下のような機能があります。
- 社会保険の加入手続きに必要な書類を自動で作成
- ペーパーレスでの従業員情報の収集
- 入社時の被保険者資格取得届の作成
- 社会保険料の計算含む、給与計算事務
上記のほかにも年末調整・労働保険の年度更新・算定基礎届の作成・住民税の更新など、人事労務関連のさまざまな業務をサポートします。
企業の労務担当者のみなさん、freee人事労務をぜひお試しください。
まとめ
近年、ガソリン代や食品など、身の回りの物やサービスの価格が高騰しています。物価の上昇に賃金の伸びが追いつかなければ実質賃金が減少し、労働者たちの生活が厳しくなるでしょう。
そこで、賃金の目減りを防ぎ、従業員のエンゲージメントの向上を図るため、インフレ手当を支給する企業が増えています。
インフレ手当によって、従業員のエンゲージメントの向上などが期待できますが、所得税や社会保険料の対象となる点や企業側の経済的負担などを考慮する必要があります。
よくある質問
インフレ手当とは?
「インフレ手当」は、物価高に応じて、企業が従業員に支給する特別な手当です。
インフレ手当について詳しく知りたい方は、「インフレ手当とは?」をご覧ください。
インフレ手当を支給する企業が増加した背景とは?
物価高騰により、実質賃金が減少していることを背景にインフレ手当を支給する企業が増加しました。
インフレ手当に注目が集まる理由を知りたい方は、「インフレ手当を支給する企業が増加した背景」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。