監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、公的年金の上乗せとして任意に加入できる私的年金制度です。
加入や掛金の拠出、運用をすべて自分で行い、運用実績に応じて60歳以降に給付金が受け取れる仕組みです。
近年、iDeCoの加入者は増加を続け、2023年7月末には300万人を突破しました。
本記事では、iDeCoの仕組みや加入資格、掛金の拠出限度額、税制の優遇措置を解説します。iDeCoの注意点や加入する方法が知りたい方もぜひ参考にしてください。
目次
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは
iDeCoとは、老後資金を準備するための私的年金制度です。
加入の申し込みや掛金の拠出、運用をすべて自分で行い、掛金と運用益をもとに老齢給付金を受け取れます。将来受け取れる給付金の額は、運用成績に応じて変動する仕組みです。
日本の年金制度は3階建て構造になっており、iDeCoはその3階部分に該当します。なお、1階・2階部分は「公的年金(国民年金や厚生年金)」、3階部分は企業や個人が任意で加入できる「私的年金」です。
2017年の法改正で専業主婦(主夫)や企業年金加入者も加入できるようになったことをきっかけに、近年iDeCoの加入者は急増しています。2023年7月末には300万人を突破し、老後資金を確保する手段として定着しつつあります。
iDeCoの加入者(加入資格)
iDeCoに加入できるのは、一定の条件を満たす20歳以上65歳未満の人です。具体的には、以下に該当する人が対象となります。
国民年金の加入区分 | 加入対象者 |
---|---|
第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者とその家族、フリーランス、学生など |
第2号被保険者 | 厚生年金の被保険者(会社員、公務員など) |
第3号被保険者 | 厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者 |
任意加入被保険者 | 国民年金に任意で加入した方 ・60歳以上65歳未満で、国民年金の保険料の納付済期間が480月に達していない方 ・20歳以上65歳未満の海外居住者で、国民年金の保険料の納付済期間が480月に達していない方 |
iDeCoに加入できない方
iDeCoは、20歳以上65歳未満の人が加入対象ですが、以下に該当する方は加入できません。
国民年金の加入区分 | 加入できない方 |
---|---|
第1号被保険者 | ・農業者年金の被保険者
・国民年金の保険料納付を免除(一部免除を含む)されている方(※1) |
第2号被保険者 | ・お勤め先で加入している企業型確定拠出年金の事業主掛金が拠出限度額の範囲内での各月拠出となっていない方 ・マッチング拠出を導入している企業型確定拠出年金の加入者で、マッチング拠出を選択した方(※2) |
(※1)障害基礎年金を受給している方などは加入できます。
(※2)企業型確定拠出年金(企業型DC)のマッチング拠出とは、加入者が事業主掛金に上乗せして任意に掛金を拠出できる制度です。
出典:iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」
また、iDeCoの老齢給付金を受給したことがある人、老齢基礎年金を繰り上げ受給している人は加入できません。
iDeCoの掛金(拠出限度額)
iDeCoで拠出できる掛金の上限(拠出限度額)は、加入区分ごとに定められています。第2号被保険者は、お勤め先での企業年金の加入状況によっても異なるため注意しましょう。
加入区分 | 拠出限度額 | |
---|---|---|
第1号被保険者 任意加入被保険者 | 月額6.8万円(※1) (年額81.6万円) | |
第2号被保険者 | 会社に企業年金がない会社員 | 月額2.3万円 (年額27.6万円) |
企業型DCのみに加入している会社員 | 月額2.0万円(※2) | |
DB(※3)と企業型DCに加入している会社員 | 月額1.2万円(※4) | |
DBのみに加入している会社員、公務員 | 月額1.2万円 | |
第3号被保険者 | 月額2.3万円 (年額27.6万円) |
(※1)国民年金基金または国民年金付加保険料との合算枠です。
(※2)月額5.5万円-各月の企業型DCの事業主掛金額(月額2.0万円が上限)
(※3)DBとは、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、私立学校教職員共済を指します。
(※4)月額2.75万円-各月の企業型DCの事業主掛金額(月額1.2万円が上限)
出典:iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」
なお、2024年12月からはDBなど、ほかの制度に加入している方の拠出限度額が月額1.2万円から月額2.0万円に引き上げられる予定です。
iDeCoの掛金は、月々5,000円から1,000円単位で自由に設定でき、1年に1回変更できます。また、掛金の拠出はいつでも止めることが可能です。
iDeCoに加入する3つのメリット
iDeCoに加入すると、拠出時・運用時・受取時にそれぞれ税法上の優遇措置を受けられます。
iDeCoに加入する3つのメリット
- 掛金全額が所得控除の対象となる
- 運用益に税金がかからない
- 受取時の税制が優遇されている
①掛金全額が所得控除の対象となる
iDeCoで拠出した掛金は、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
小規模企業共済等掛金控除とは、所得税・住民税を計算する際、支払った掛金の金額を所得から控除できる制度です。支払った掛金の金額分、課税所得が少なくなるため、所得税・住民税の負担を抑えられます。
たとえば、所得税率10%・住民税率10%の人が掛金を毎月1万円拠出した場合、年間2.4万円(所得税1.2万円+住民税1.2万円)、税金が軽減されます。
なお、小規模企業共済等掛金控除を受けるには、年末調整や確定申告書での手続きが必要です。ただし、第2号被保険者で「事業主払込」を選択している場合、申告手続きを行う必要はありません。なお、事業主払込とは、給与からの天引きで掛金を拠出する方法です。
②運用益に税金がかからない
iDeCoの運用益は、非課税で再投資されます。
通常、金融商品を運用して生じた運用益には、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。しかしiDeCoの場合、投資信託で得た運用益や預金の利息に税金がかかりません。
本来なら税金として差し引かれる金額をそのまま投資に充てられるため、効率よく運用できます。
③受取時の税制が優遇されている
給付金を受け取る際、年金として受給する場合は雑所得となり「公的年金等控除」、一時金として受給する場合は退職所得となり「退職所得控除」が受けられます。
なお、公的年金等控除は公的年金などを受け取った際、退職所得控除は退職金などを受け取った際に適用される制度です。
年金として受給する場合
iDeCoの給付金を年金で受給する場合は、公的年金等控除が適用されます。控除額は以下の通りです(公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合)。
65歳未満の場合
公的年金等の収入額(A) | 控除額 |
---|---|
130万円以下 | 60万円 |
130万円超410万円以下 | (A)×25%+27.5万円 |
410万円超770万円以下 | (A)×15%+68.5万円 |
770万円超1,000万円以下 | (A)×5%+145.5万円 |
1,000万円超 | 195.5万円 |
65歳以上の場合
公的年金等の収入額(A) | 控除額 |
---|---|
330万円以下 | 110万円 |
330万円超410万円以下 | (A)×25%+27.5万円 |
410万円超770万円以下 | (A)×15%+68.5万円 |
770万円超1,000万円以下 | (A)×5%+145.5万円 |
1,000万円超 | 195.5万円 |
一時金として受給する場合
給付金を一時金で受給する場合は、退職所得控除が適用されます。控除額の求め方は、勤続年数(iDeCoでの掛金拠出期間)によって異なります。
勤続年数 | 控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たないばあいは80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
iDeCoに加入する際の注意点
公的年金の上乗せとして活用でき、優遇措置を受けられるメリットがある一方で、以下の注意点もあります。
iDeCoに加入する際の注意点
- 原則として60歳までは引き出せない
- 投資信託で運用する場合は元本を下回る可能性がある
- 手数料がかかる
原則として60歳まで引き出せない
iDeCoは老後の資産形成を目的とした年金制度であるため、拠出した掛金と運用益は原則として60歳になるまで引き出せません。そのため、無理なく継続して支払える金額で拠出することが大切です。
また、加入期間によっては60歳になっても給付を受けられない場合があります。具体的には、60歳時点で通算加入者等期間が10年に満たない場合、受給開始できる年齢が段階的に引き延ばされます(※)。
(※)通算加入者等期間は、加入者期間と運用指図者期間を合算した期間です。
ただし、60歳以上で初めてiDeCoに加入した人は、加入から5年を経過した日から受給できます。
投資信託で運用する場合は元本を下回る可能性がある
iDeCoで拠出した掛金を投資信託で運用する場合、元本を下回る可能性がある点にも注意が必要です。
iDeCoでは、掛金の拠出や資産の運用を加入者自身が行います。運用成績に応じて将来の給付額が変動するため、投資信託の仕組みやリスクを正しく理解したうえで運用することが大切です。
なお、iDeCoでは、元本確保型(定期預金など)の金融商品も選択できます。元本確保型の商品は、満期まで保有すれば元本を下回ることはありません。
ただし、日本は長く低金利が続いているため、元本確保型の商品だけで運用すると、大きな収益を得るのは難しいでしょう。
手数料がかかる
iDeCoに加入すると、加入から給付金を受け取るまでの間にさまざまな手数料がかかります。手数料は金融機関によって異なるため、加入前にサービス内容とあわせて確認しましょう。
区分 | 手数料の種類 | 手数料の内容 |
---|---|---|
加入時 | 加入時・移換時手数料 | 加入時または企業型確定拠出年金からの移管時に発生する手数料 |
運用時 | 口座管理手数料 | 加入者に毎月かかる手数料) |
その他 | 給付事務手数料 | 給付のつどかかる手数料 |
還付事務手数料 | 加入者に還付が行われる際に発生する手数料 | |
移管時手数料 | 金融機関を変える際などに発生する手数料 |
また、投資信託で運用する場合は信託報酬も発生します。信託報酬とは投資信託で運用する場合の運用管理費用のことで、投資信託によって異なります。
なお、加入時または企業型確定拠出年金からの移換時にかかる手数料は、金融機関にかかわらず2,829円です。
iDeCoに加入する方法
iDeCoは、運営管理機関(iDeCoを運用する金融機関)で加入手続きを行います。金融機関によって運用できる金融商品や手数料が異なるため、よく比較検討して選びましょう。
加入する際の一般的な流れは、以下の通りです。
iDeCoに加入する流れ
- 金融機関に加入申し込みを行う
- 加入資格の審査が実施される
- 口座開設通知が届く
①金融機関に加入申し込みを行う
金融商品やサービス内容、手数料などをもとに加入する金融機関を選び、Webなどで金融機関への加入申し込みを行います。
金融機関や加入区分、掛金の納付方法などによっては申込書類を取り寄せて返送が必要な場合もあるため、事前に確認しましょう。申し込みに必要なものは以下の通りです。
申込みに必要なもの
- 基礎年金番号
- 通帳やキャッシュカード
- 本人確認書類
- 事業主の証明書(会社員・公務員の場合)
第2号被保険者(会社員・公務員)が加入する際は、必ず事業主の証明書が必要です。書式を印刷してお勤め先に記入を依頼し、申し込みの際にアップロードなどで提出します。
②加入資格の審査が実施される
iDeCoの申し込み手続きが完了すると、国民年金基金連合会による加入資格審査が実施されます。
加入資格審査とは、申込内容と国民年金の被保険者記録などを照合し、加入資格の有無を確認する手続きです。審査には1~3ヶ月程度かかるため、余裕をもって手続きしましょう。また、書類に不備があるとさらに日数を要します。
③口座開設通知が届く
審査に通過し、口座開設のお知らせが届くと手続きは完了です。
iDeCo取引画面のユーザーID・パスワードを通知する書類もあわせて送付されます。iDeCoに関する手続きを行う際に必要となるため、送付された書類は大切に保管しましょう。
まとめ
iDeCoは、老後資金に備えるための私的年金制度です。毎月掛金を拠出して自ら選んだ方法で運用し、60歳以降に運用成績に応じた給付が受けられます。
iDeCoで拠出した掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税・住民税の負担を軽くできます。また、運用によって生じた運用益に税金はかかりません。
一方、運用商品によっては元本を下回る可能性があるなどの注意点もあります。仕組みやリスクを正しく理解し、無理のない掛金で加入することが大切です。
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よくある質問
iDeCoとは?
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金の上乗せとして任意に加入できる私的年金です。加入の申し込みや掛金の拠出、運用をすべて自分で行い、掛金と運用益をもとに将来給付金を受け取れます。
iDeCoの概要を詳しく知りたい方は「iDeCo(個人型確定拠出年金)とは」をご覧ください。
iDeCoのメリットは?
iDeCoには、3つの税制上の優遇が設けられています。
iDeCoに加入する3つのメリット
- 掛金全額が所得控除の対象となる
- 運用益に税金がかからない
- 受取時に控除が受けられる
iDeCoのメリットを詳しく知りたい方は「iDeCoに加入する3つのメリット」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。