監修 北田悠策 公認会計士・税理士
住宅取得資金の贈与には、贈与税の非課税特例があります。贈与税は高額になることがあるので、非課税特例の要件や期限を確認することが大切です。
節税対策をしっかりと行えば、贈与を受けた人が支払う贈与税が減り、税負担を軽減できます。
本記事では、贈与税の計算方法や住宅取得等資金の贈与を受けた際に適用できる可能性がある非課税特例の要件、注意点などを紹介します。
贈与税全般に関する詳しい内容は、「贈与税とは?かかるときや税率の計算について紹介」をご覧ください。
目次
- 住宅取得等資金の贈与の非課税特例とは?
- 住宅取得等資金の贈与の非課税特例を利用するための要件
- 受贈者に関する要件
- 住宅に関する要件
- 「住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例」を適用する際の手続き方法と必要書類
- 住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例と併用できる相続時精算課税の特例とは?
- 贈与税の計算方法
- 暦年課税
- 相続時精算課税
- 住宅取得資金を贈与または受贈するときの注意点
- 贈与のタイミングを間違えると非課税特例を適用できなくなる
- 相続時精算課税制度を利用しても節税にならない場合がある
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
- 住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例とは?
- 住宅取得等資金の贈与の非課税特例はいつまで?
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住宅取得等資金の贈与の非課税特例とは?
物やお金をあげる贈与を行うと、原則として贈与税がかかります。贈与税とは、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金で、財産を贈与された人(受贈者)が納める税金です。
ただし、すべての贈与で贈与税がかかるわけではありません。例外として贈与税がかからないケースがあります。主なケースは以下の通りです。ただし、いずれも社会通念上相当と認められる金額を超える贈与には、贈与税がかかるため留意する必要があります。
贈与税がかからないケース
● 夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から渡される生活費や教育費に充てるためのお金の贈与● 個人から受ける香典・花輪代・年末年始の贈答・祝物または見舞いのための金品の贈与
● 住宅取得資金や教育資金、結婚・子育て資金の贈与のうち特例制度の要件を満たす贈与
非課税特例の対象になる贈与は2026年12月31日までの贈与で、本特例制度は2026年で終了予定です。当初は2023年末で終了予定でしたが、令和6年度税制改正大綱によって2026年12月末までの延長が決定しています。
贈与をする際に特例制度を活用すれば、贈与を受ける子や孫の税負担を軽減できます。
住宅取得等資金の贈与の非課税特例を利用するための要件
住宅取得等資金の贈与の非課税特例を利用するためには、贈与が2023年12月31日までに行われることに加えて、一定の要件を満たす必要があります。
本特例を利用するための要件は「受贈者に関する要件」と「住宅に関する要件」の2つです。以下では各要件の概要を解説します。
受贈者に関する要件
住宅取得等資金の贈与で利用できる非課税特例の要件のうち、受贈者に関する要件は以下の通りです。
[受贈者の要件]
(1) 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること。本特例の対象になるのは、子や孫など直系卑属に住宅取得等資金を贈与する場合です。贈与を受ける人の年齢や年収など要件が細かく決まっているので、すべての要件を満たすかどうかよく確認するようにしてください。
(注) 配偶者の父母(または祖父母)は直系尊属には該当しませんが、養子縁組をしている場合は直系尊属に該当します。
(2) 贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上であること。
(3) 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下(新築等をする住宅用の家屋の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は、1,000万円以下)であること。
(4) 平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと(一定の場合を除きます。)。
(5) 自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から住宅用の家屋の取得をしたものではないこと、またはこれらの方との請負契約等により新築もしくは増改築等をしたものではないこと。
(6) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
(注) 受贈者が「住宅用の家屋」を所有する(共有持分を有する場合も含まれます。)ことにならない場合は、この特例の適用を受けることはできません。
(7) 贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること(受贈者が一時居住者であり、かつ、贈与者が外国人贈与者または非居住贈与者である場合を除きます。)。
なお、贈与を受けた時に日本国内に住所を有しない人であっても、一定の場合には、この特例の適用を受けることができます。
(注) 「一時居住者」、「外国人贈与者」および「非居住贈与者」については、コード4432「受贈者が外国に居住しているとき」をご覧ください。
(8) 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することまたは同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
(注) 贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住していないときは、この特例の適用を受けることはできませんので、修正申告が必要となります。
住宅に関する要件
住宅取得等資金の贈与で利用できる非課税特例の要件のうち、住宅に関する要件は新築または取得するケースと増改築をするケースに区別されています。
国税庁が定める要件は、それぞれ以下の通りです。
[新築または取得の場合]
イ 新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。[増改築等の場合]
ロ 取得した住宅が次のいずれかに該当すること。
① 建築後使用されたことのない住宅用の家屋
② 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、昭和57年1月1日以後に建築されたもの
③ 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
④ 上記②および③のいずれにも該当しない建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その住宅用の家屋の取得の日までに同日以後その住宅用の家屋の耐震改修を行うことにつき、一定の申請書等に基づいて都道府県知事などに申請をし、かつ、贈与を受けた翌年3月15日までにその耐震改修によりその住宅用の家屋が耐震基準に適合することとなったことにつき一定の証明書等により証明がされたもの
イ 増改築等後の住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること。
ロ 増改築等に係る工事が、自己が所有し、かつ居住している家屋に対して行われたもので、一定の工事に該当することについて、「確認済証の写し」、「検査済証の写し」または「増改築等工事証明書」などの書類により証明されたものであること。
ハ 増改築等に係る工事に要した費用の額が100万円以上であること。
また、増改築等の工事に要した費用の額の2分の1以上が、自己の居住の用に供される部分の工事に要したものであること。
「住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例」を適用する際の手続き方法と必要書類
非課税特例の適用を受けるためには、贈与税の申告を行う必要があります。申告期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間です。
手続きをする際には、贈与税の申告書や所得がわかる書類(源泉徴収票など)、戸籍謄本、新築や取得の契約書の写しなど一定の書類の提出が必要になります。
手続きをする際の提出書類はケースによって異なり、具体的な必要書類は国税庁が公開している「チェックシート」で確認できます。
住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例と併用できる相続時精算課税の特例とは?
相続時精算課税制度とは、18歳以上の子や孫が原則60歳以上の父母や祖父母などから贈与を受ける場合、累計2,500万円までは贈与税を非課税にできる特例制度です。なお2,500万円を超える部分は、贈与税が一律20%かかります。
本制度は、住宅取得等資金の贈与の非課税特例と併用可能です。
また原則として、贈与を受けた年の1月1日に60歳以上の直系尊属からの贈与を対象とした制度ですが、住宅取得等資金の贈与の場合は、贈与者が60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択できます。
たとえば、住宅取得資金として父から5,000万円の贈与を受けた場合、条件を満たしていれば最大1,000万円非課税にできます。
もしも相続時精算課税制度を選択していた場合は、追加で2,500万円の特別控除が受けられるため、贈与税の課税額は1,500万円に抑えることが可能です。
【贈与税の課税額】
5,000万円 – 1,000万円 – 2,500万円 = 1,500万円
1,500万円 × 20% = 300万円
一度選択した場合、選択した人からの贈与に対しては暦年課税方式に戻すことができません。ただし、贈与者ごとに制度は選べるため、父親からの贈与は相続時精算課税制度を適用し、祖父からの贈与は通常の年間課税方式を選ぶことも可能です。
相続時精算課税制度を選択するかはよく検討しましょう。
贈与税の計算方法
贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があり、贈与税の計算方法は課税方式ごとに異なります。
贈与税の課税方式
● 暦年課税:1年間の贈与額を基準に贈与税を計算して申告や納税をする制度● 相続時精算課税:一定額の贈与までは贈与税を課さず、相続が起きたときに精算・課税する制度
暦年課税
暦年課税では、1月1日から12月31日の1年間に受けた贈与の金額をもとに贈与税を計算します。
贈与税の計算式
贈与税=(1年間に贈与された財産の金額-110万円)×税率-控除額贈与税の税率には一般税率と特例税率の2種類あり、18歳以上の人が直系尊属から贈与される場合に適用される税率が特例税率、それ以外の場合に適用される税率が一般税率です。
贈与税の税率
● 一般税率:特例贈与財産に該当しない財産の贈与で適用される税率● 特例税率:特例贈与財産(18歳以上の受贈者が直系尊属から贈与された財産)を贈与される場合に適用される税率
[一般税率]
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | なし | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
[特例税率]
基礎控除後の課税価格 | 220万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | なし | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
【計算例1:住宅取得資金2,000万円を兄が弟に贈与する場合】
兄から弟への贈与では一般税率が適用されます。住宅取得資金2,000万円を贈与する場合、基礎控除額110万円を引いた後の金額は1,890万円なので、税率は50%です。贈与税は以下のように計算できます。
贈与税の計算例1
贈与税=(2,000万円-110万円)×50%-250万円=695万円【計算例2:住宅取得資金2,000万円を親が子に贈与する場合】
親から子への贈与では特例税率が適用されます。住宅取得資金2,000万円を贈与する場合、基礎控除額110万円を引いた後の金額は1,890万円なので、税率は45%です。贈与税は以下のように計算できます。
贈与税の計算例2
贈与税=(2,000万円-110万円)×45%-265万円=585.5万円相続時精算課税
相続時精算課税制度を選択している場合、特別控除額2,500万円の贈与まで贈与税はかかりません。特別控除額2,500万円を超える贈与をした場合は、超える部分に対して20%の税率で贈与税がかかります。
たとえば親が子に住宅取得資金4,000万円を贈与する場合、相続時精算課税制度を選択していれば、2,500万円を超える1,500万円に対して税率20%で贈与税がかかるので、贈与税額は300万円です。
住宅取得等資金の非課税特例を利用し、500万円が非課税になるケースであれば、課税価格は「4,000万円 - 500万円 - 2,500万円」で1,000万円と計算できます。この場合、贈与税額は1,000万円に税率20%を適用した200万円です。
住宅取得資金を贈与または受贈するときの注意点
住宅取得資金を贈与または受贈するときには注意すべき点がいくつかあります。以下では主な注意点を紹介します。
贈与のタイミングを間違えると非課税特例を適用できなくなる
非課税特例を適用できるのは、居住開始前に資金の贈与を受けた場合です。居住を開始後、すでに使った住宅取得資金を埋め合わせるために贈与を受けても、非課税特例の対象にはなりません。
また、非課税特例の適用を受けるためには、原則贈与を受けた年の翌年3月15日までに受贈者本人が新居に居住開始するか、同じ日から間をおかずに居住することが確実であると見込まれる必要があります。
住宅を新築するための契約手続きや工事で時間がかかってしまうと、非課税特例の対象外になるケースもあります。
また、もし3月15日までに居住開始の見込みがあると判断されていても、12月31日までに実際に居住していないときは、特例の適用を受けることができなくなり、修正申告が必要です。
住宅取得資金の贈与を受ける場合は、居住開始が間に合って特例を適用できるかどうか、事前にスケジュールをよく確認しておきましょう。
相続時精算課税制度を利用しても節税にならない場合がある
住宅取得資金を贈与する場合、相続時精算課税制度を利用すれば一定額の贈与まで贈与税がかからずに済みますが、相続税の対象になります。
税金を払うタイミングが贈与時から相続時に先送りされるだけなので、節税になるとは限りません。
また、相続時精算課税制度を選択すると暦年課税には戻せません。相続時精算課税制度と暦年課税は、よく検討したうえで決めることが大切です。
まとめ
住宅取得資金をはじめ、財産の贈与には原則として贈与税がかかります。しかし、2023年12月31日までに住宅取得資金の贈与を受け、要件を満たしている場合、非課税特例の適用を受けられます。非課税になる贈与額は最大で1,000万円です。
非課税特例は贈与を受ける人の年齢・年収・建物の床面積など、適用を受けるための要件が決まっています。まずは要件を満たしているか確認するようにしましょう。
また、非課税特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に手続きが必要です。贈与税の申告書・戸籍謄本・新築や取得の契約書の写しなど、必要書類を揃えて期限までに手続きを終えるようにしてください。
節税対策によって税負担を軽減できれば、贈与税を納税した後に手元に残る金額が増えることになり、実質的により多くの財産を渡すことができます。住宅取得資金の贈与をする、または受贈する際には、贈与税に関する節税対策を検討することが大切です。
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よくある質問
住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例とは?
住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例とは、父母や祖父母などの直系尊属が住宅取得等資金を贈与する場合に、一定額まで贈与税がかからずに済む特例制度です。
住宅取得等資金の贈与に関する非課税特例を詳しく知りたい方は「住宅取得等資金の贈与の非課税特例とは?」をご覧ください。
住宅取得等資金の贈与の非課税特例はいつまで?
住宅取得等資金の贈与の非課税特例は、2023年12月31日までの贈与で一定の要件を満たす贈与が対象です。
住宅取得等資金の贈与の非課税特例の要件を詳しく知りたい方は「住宅取得等資金の贈与の非課税特例を利用するための要件」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく) 公認会計士・税理士
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。