監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP
育成就労制度は、技能実習制度に代わる新たな外国人雇用の制度です。
現行の技能実習制度では、人材育成による国際貢献を目的に掲げていますが、新制度の外国人育成就労制度では、外国人人材の育成・確保を目的とします。
育成就労制度では、特定技能と受け入れ職種が原則一致となるほか、制度の見直しにより、一定要件のもとで転籍が認められるなど、要件が緩和されました。
本記事では、育成就労制度とは何か、技能実習制度との違い、育成就労制度によるメリットなどを解説します。
目次
外国人の育成就労制度とは?いつから始まる?
育成就労制度は、技能実習制度に代わる新たな外国人雇用の制度です。
現行の技能実習制度は、技能や技術を開発途上地域などへ移転して、経済発展を担う人づくり貢献することを目的に1993年に創設されました。2017年には技能実習法が改正され、改正法のもとで制度が運用されています。
技能実習制度の見直しされる背景には、国内での深刻な労働力不足があります。現状では技能実習生や特定技能の外国人人材が貴重な労働力となっているのが実態です。
その中で、現行の制度の見直しが検討され、2024年6月に技能実習に代わる「育成就労」の制度を新設するための法改正が、国会で可決・成立しました。
育成就労制度は、改正法の公布日(2024年6月21日)から3年以内に施行される予定です。
出典:厚生労働省「外国人技能実習制度について」
出典:法務省 出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度Q&A」
技能実習制度から育成就労制度に変更される背景
育成就労制度に変更される背景には、国内での深刻な労働力不足があります。
技能実習生・特定技能外国人が貴重な労働力となっている実態があり、今後さらに外国人人材が重要な労働力になることが確実視されるでしょう。
また、台湾や韓国などの近隣諸国・地域との人材獲得競争が激化するなかで、外国人人材の受け入れや育成を進めるためにも、制度の見直しが求められています。
出典:法務省「育成就労制度の創設等に係る法案について」
育成就労制度での主な変更点
育成就労制度と技能実習制度の違いは、以下の通りです。実習期間・転籍の可否・対象分野・関係機関などに変更点があります。
技能実習 | 育成就労 | |
---|---|---|
目的 | 人材育成による国際貢献 | 国内の人材確保と人材育成 |
実習期間 | 最長5年間 | 原則3年間 |
転籍 | 原則不可 | 要件を満たせば可能 (やむを得ない事業による転籍の範囲を拡大) |
対象分野 | 特定技能と一致しない | 特定技能と原則一致 (ただし、国内での育成になじまない分野については対象外) |
受け入れ当初の 日本語能力 | 原則要件なし(介護はN4) | 日本語能力試験N5合格など |
監理団体 | 監理団体 | 監理支援機関 |
監督機関 | 外国人技能実習機構 | 外国人育成就労機構 |
育成就労制度での大きな変更点としては、以下が挙げられます。
育成就労制度での主な変更点
- 転籍が認められる条件が緩和された
- 育成就労制度の受け入れ職種は特定技能と原則一致となった
育成就労制度では、転籍の条件緩和により、外国人にとって働きやすい環境作りに向けた見直しがされ、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成し、外国人人材の定着を図る制度改正が行われます。
育成就労制度での変更点として挙げた2つについては、以下の通りです。
転籍が認められる要件が緩和された
育成就労制度では、一定の要件を満たす場合に、ほかの企業などへの転籍が認められます。
技能実習制度では、受け入れをする企業・団体などの転籍は原則不可とされています。人権侵害などの「やむを得ない事情」がある場合は、例外的に転籍が認められていましたが、その範囲も不明瞭なものでした。
また、転籍ができないために、不当な労働環境(低賃金・長時間労働・賃金の未払いなど)を強いられた場合、実習生が失踪してしまうことも問題となっています。
育成就労制度では、こうした背景を受けて、企業・団体などからの転籍を認める範囲を拡大し、転籍理由を明確化することで、さらに手続きなども柔軟なものにする制度です。
さらに、3年間ひとつの受け入れ機関での就労が効果的で望ましいとされますが、一定の要件を満たす場合には、同一業務区分内での本人意向による転籍が可能となります。
出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度Q&A」によると、転籍の要件として、2024年11月時点では以下の通りです。
育成就労制度での転籍の要件
- 転籍先の育成就労実施者の下で従事する業務が転籍元の育成就労実施者の下で従事していた業務と同一の業務区分であること
- 転籍元の育成就労実施者の下で業務に従事していた期間が、育成就労産業分野ごとに1年以上2年以下の範囲内で定められる所定の期間を超えていること
- 育成就労外国人の技能及び日本語能力が一定水準以上であること
- 転籍先の育成就労実施者が適切と認められる一定の要件に適合していること
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度Q&A」
出典:法務省「育成就労制度の創設等に係る法案について」
育成就労制度の受け入れ職種は特定技能と原則一致となった
技能実習制度は、技能実習1号から開始され、各号の対象職種での試験合格などの要件を満たすことで、2号・3号へ移行することができ、さらなる実習期間を積むことができます。
2号以降の一部の職種は特定技能への移行が可能ですが、技能実習2号への移行対象職種(全90職種165作業)のうち、29職種・51作業は、対応する特定産業分野がありません。
一方で、育成就労制度では、特定技能1号水準の人材を育成するための制度とすることを目的に、受け入れ対象分野は、特定産業分野と原則一致するようになります。
実習修了後は帰国することが原則となる技能実習制度とは異なり、育成就労制度では、外国人が国内の各地域に定着して共生できる環境の整備を目指している制度です。
出典:出入国在留管理庁「外国人技能実習制度について」
出典:法務省「育成就労制度の創設等に係る法案について」
出典:法務省「育成就労制度の概要」
企業側が育成就労制度によって得られるメリット
育成就労制度によって、企業側としては、長期雇用が見込みやすくなるほか、日本語能力に優れた外国人人材を採用しやすくなります。企業側が育成就労制度によって得られるメリットは下記の通りです。
長期雇用がしやすくなる
育成就労制度では、特定技能への移行が整備されるため、外国人人材を長期雇用しやすくなります。
育成就労制度の受け入れ期間は3年で、最長5年の技能実習制度と比較すると短い期間となりますが、キャリアアップの道筋が明確化され、特定技能への移行がしやすい環境が整備されると、外国人人材のモチベーションアップにも期待できます。その結果、特定技能の在留資格を取得すれば、長期での就労が可能です。
企業としては、より長期的な視野で外国人人材の雇用や育成ができます。
日本語能力が高い人材を確保しやすくなる
育成就労では、就労開始前に日本語能力試験N5合格などによって日本語能力の水準を満たすことが必要です。
介護を除き、受け入れ時に日本語能力への要件がない技能実習制度と比較すると、日本語能力が高く、より円滑にコミュニケーションできる人材を確保しやすくなります。
出典:出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度Q&A」
外国人人材側が育成就労制度によって得られるメリット
育成就労制度では、一定要件のもとで転籍が認められるほか、外国人自身の費用負担が軽減されるなど、外国人人材が働きやすくなるための制度の見直しがあります。外国人人材側が育成就労制度によって得られるメリットは次の通りです。
費用負担が少なくなる
技能実習制度では、送り出し機関への手数料や渡航費の負担のために、多くの実習生が借金を抱えていることが問題視されていました。
育成就労制度では、従来は自己負担だった送り出し機関への手数料や渡航費を企業側でも負担することに変更され、従来は全額負担であった外国人人材側の費用負担が軽減されます。
転籍ができるようになる
育成就労制度では、一定の要件を満たす場合に、ほかの企業などへの転籍ができるようになります。
同一の業務区分であることや、同一機関での就労が所定期間を超えていること、技能・日本語能力が一定水準以上であることなど、制約が課されますが転籍は可能です。技能実習制度と比較すると、これまでより働きやすい仕組みが整備されます。
人権が厳格に保護される
技能実習制度では、企業側から不当な取り扱いを受けるなど、人権侵害にあたる事案が発生するケースがありました。そのため、育成就労制度では人権保護について、厳格に保護される可能性があります。外国人人材にとっては、安心して働ける環境が整備されるでしょう。
長期就労が可能
育成就労制度では、特定技能1号に相当する能力を所有できる育成が行われます。特定技能の在留資格を取得できれば、日本で引き続き就労が可能になるため、日本でキャリアを築くことができ、長期就労を希望する外国人にとって魅力的な制度といえます。
まとめ
外国人の育成就労制度では、人材育成による国際貢献を目的とする技能実習制度とは異なり、人材育成・人材確保を目的とすることが明確化され、制度が見直しされます。
特定技能1号水準の人材を育成することを目指して、特定技能と受け入れ職種が原則一致となるほか、一定要件のもとで転籍が認められ、外国人人材にとって働きやすい仕組みが作られます。
企業側としては、長期雇用しやすくなるほか、日本語能力に優れた人材を確保しやすくなる見込みです。雇用側としても、外国人人材の受け入れに向けて、育成就労制度に注目する必要があります。
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よくある質問
外国人の育成就労制度とはどのような制度?
育成就労制度は、技能実習制度に代わる新たな外国人雇用の制度です。
外国人の育成就労制度について詳しくは、「外国人の育成就労制度とは?いつから始まる?」をご覧ください。
育成就労制度と技能実習制度の違いは?
従来の技能実習制度では人材育成による国際貢献を目的としていましたが、育成就労制度では人材確保と人材育成を目的とし、制度自体が見直しされています。
育成就労制度と技能実習制度の違いや変更点は、「育成就労制度での主な変更点」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。