監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
フレキシキュリティとは英語のフレキシビリティとセキュリティを掛け合わせた造語で、柔軟性と保障や安定を意味します。一見共存が難しいとも思える2つの単語の両立ができたとき、労働市場の柔軟性や雇用の安定性が実現します。
今回は、フレキシキュリティができたきっかけや、フレキシキュリティが与える影響をご紹介します。フレキシキュリティが実現しているオランダやデンマークの成功例をもとに、日本ではどのような取り組みが必要かを確認していきましょう。
目次
フレキシキュリティとは
フレキシキュリティとは、柔軟性を意味する「flexibility」と保障を意味する「security」を合わせた造語です。労働市場や労使関係の柔軟性を拡大する一方で、労働者の再就職や収入の保障を担保するための社会保障を充実させる政策のことです。
フレキシキュリティという言葉は、1990年代のオランダの労働市場改革が発端といわれています。かつてのオランダは高失業率かつ不景気でしたが、減税や賃上げ要求の抑制、パートタイム労働の奨励などを実施し、景気の回復・失業率の抑制に成功しました。
そして1999年には労働市場の柔軟性を高め、低失業率を維持するための法律(The Flexibility and Security Act)が導入されます。
これにより、解雇をしやすくする一方で、有期契約を無限に更新できないよう制限し、オランダでは労働市場の柔軟性と雇用の安定性の両立が実現しました。
フレキシキュリティにおける海外での取り組み
フレキシキュリティが実現できているとされる、デンマークの取り組みをご紹介します。
デンマークでは2007年11月の失業率が3.3%、2006年の就業率は76.9%と好記録を出しています。
デンマークでは、積極的な労働市場改革、解雇・退職自由原則、充実した社会保障・失業給付制度、の3つが相互に作用し合い、フレキシキュリティの実現に至りました。これら3つの特徴は「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれています。
デンマークの国民はこの取り組みを「投資」として考え、使用者団体と労働者団体の合意を中核とした政労使三者の合意を得て長年にわたり整備を行ってきました。
デンマークのゴールデン・トライアングルを形成する3項目
デンマークのゴールデン・トライアングルを形成する3項目● 解雇・退職自由の原則
● 積極的労働市場政策
● 充実した社会保障・失業給付制度
フレキシキュリティが及ぼす影響
フレキシキュリティが実現されれば、日本の労働市場にも多大な影響を与えます。フレキシキュリティが及ぼす3つの影響をご紹介します。
解雇規制の緩和
日本では前提として、解雇は合理的な理由がなく、社会通念上認められない場合には行えない法律が制定されています(労働契約法第16条 )。
出典:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
この場合の理由とは、服務規律違反や勤務態度などが挙げられますが、これらは就業規則に明確に解雇事由を記載しておくのみならず、該当する場合でも会社側が相当な指導を行ったうえでようやく認められます。
解雇に関する考えはオランダやデンマークでも共通しています。しかし、フレキシキュリティとは一方的な解雇を認める取り決めではありません。
解雇を規制する条件の緩和により労働者の人権を守り、失業しても早く再就職できる仕組みを目指すことで、労働市場の流れが活発になる作用があります。
失業手当の充実
解雇の制限が緩やかな一方で、フレキシキュリティの考えでは、それに見合うような失業手当の充実も不可欠です。
日本の失業手当は最長1年間、失業前の賃金の50~80%を保障していますが、フレキシキュリティの実現をしているデンマークでは最長4年間、最大で失業前賃金の90%までが補填されます。
項目 | 日本 | デンマーク |
保障期間 | 最長1年間 | 最長4年間 |
賃金補償率 | 失業前の賃金の50%~80% | 失業前の賃金の最大90% |
制度の特徴 | ● 解雇されにくい ● 解雇後の保証が短期間 | ● フレキシキュリティの実現 ● 雇用・解雇が用意 ● 手厚い経済的保証 |
このような制度の拡充が労働者に安心できる環境を提供し、フレキシキュリティの基盤を支えています。
職業教育訓練の充実
デンマークは、失業者向けの教育訓練制度や在職者向けの教育訓練などにも力を入れています。
解雇され、求職者となった場合は6ヶ月ごとに開催されるプログラムに参加する義務を負い、プログラムに参加しない場合は、失業給付受給から2年半経過後に、失業手当の受給資格を失います。
職業教育訓練を行い、特定企業だけでなく、外部労働市場で活用できるスキルを習得可能にして、スムーズに再就職できるような制度です。
フレキシキュリティを導入する際の課題
日本でフレキシキュリティの実現を目指す場合は、いくつかの課題をクリアしていく必要があります。
デンマークでは転職をしてキャリアアップを図り、賃上げを目指す流れが一般的ですが、日本ではひとつの会社で内部昇格をしていくのが一般的です。
フレキシキュリティの実現には、「終身雇用」により内部労働市場に労働者をとどめる制度から、外部労働市場での市場価値を高められる制度への移行が求められます。
労働者のスキルや能力が、会社・業種・雇用形態にかかわらずチャレンジしやすい仕組みづくりが大切です。
日本はデンマークやオランダに比べて、失業手当や職業訓練が充実していません。労働市場を充足させるには、労働者や求職者の応用可能なスキル習得が鍵となってきます。
また、職業訓練制度の構築や労働市場の整備も重要です。これによりフレキシキュリティの実現に近づけると期待されます。
まとめ
フレキシキュリティの柔軟性・安定性を実現していくためには、時間やお金をかけて労働市場政策を改革していく必要があります。国民はそれを投資と捉えて後押しする姿勢が大切です。
使用者も労働者も充実した保障のもと仕事に取り組めるよう、EU諸国の良い取り組みを参考に積極的に取り入れていきましょう。
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よくある質問
フレキシキュリティとは
柔軟性を意味する「flexibility」と保障を意味する「security」を合わせた造語です。
フレキシキュリティ詳しく知りたい方は「フレキシキュリティとは」をご覧ください。
フレキシキュリティによってどんな影響がある?
フレキシキュリティが及ぼす影響は①解雇規制の緩和、②失業手当の充実、③職業教育訓練の充実の3つがあります。
フレキシキュリティの影響を詳しく知りたい方は「フレキシキュリティが及ぼす影響」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。