監修 松浦絢子 弁護士
2025年4月から改正雇用保険法が順次施行されます。今回の改正では、雇用保険の適用拡大や育児休業給付の給付率の見直しなどが行われました。
この見直しは、多様な働き方への対応や「人への投資」の強化を目的としています。
本記事では、雇用保険法の改正内容を解説します。企業の実務にも大きく影響するため、企業担当者様は改正内容をしっかり知っておきましょう。
目次
【2024年成立】雇用保険法の改正内容
2024年5月10日、「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。
今回の改正では、働き方の多様化を踏まえた雇用のセーフティネットの拡大や「人への投資」の強化を目的に、雇用保険の適用拡大や育児休業給付の給付率の引き上げなどが行われました。
雇用保険法の改正内容
- 雇用保険の適用拡大
- 教育訓練やリスキリング支援の充実
- 育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保
- その他雇用保険制度の見直し
1 雇用保険の適用拡大
雇用保険の被保険者要件が見直され、適用対象が拡大されました。
現行では、雇用されて働く労働者で、以下の2つを満たす方が雇用保険の被保険者となります。
雇用保険の被保険者要件
- 所定労働時間が週20時間以上である
- 31日以上雇用される見込みがある
今回の改正では、雇用労働者の働き方や生計維持の在り方が多様化していることを受け、雇用のセーフティネットを拡げるために「週20時間以上」の要件が「週10時間以上」に変更されました。
厚生労働省によると、週10時間以上20時間未満の労働者(2023年)は約506万人であり、多くの方が新たに雇用保険の被保険者となる見込みです。
また、適用拡大に伴い、週20時間をもとに設定されている「被保険者期間の算定基準」や「失業認定基準」もそれぞれ改正されました。
改正項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
被保険者期間の算定基準 | 賃金支払いの基礎となった日数が11日以上、時間数が80時間以上ある月を1ヶ月とする | 賃金支払いの基礎となった日数が6日以上、時間数が40時間以上ある月を1ヶ月とする |
失業認定基準 | 1日の労働時間が4時間未満にとどまる場合は失業日と認定 | 1日の労働時間が2時間未満にとどまる場合は失業日と認定 |
2 教育訓練やリスキリング支援の充実
労働者の再就職活動や主体的な能力開発を支援することを目的に、教育訓練やリスキリング支援の見直しが行われました。具体的な改正内容は、以下の3つです。
教育訓練やリスキリング支援に関する改正内容
- 自己都合離職者の給付制限期間の見直し
- 教育訓練給付金の給付率(上限)の引き上げ
- 教育訓練休暇給付金の創設
出典:厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
自己都合離職者の給付制限期間の見直し
労働者が安心して再就職活動が行えるように、自己都合で離職した方の給付制限期間が見直されました。
現行では、自己都合で離職した方が基本手当を受給する際、待機期間満了の翌日から原則2ヶ月間(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月)の給付制限期間があります。給付制限期間中は、基本手当が受給できません(※)。
改正後は、離職期間中や離職日前1年以内に雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を自ら行った場合に、給付制限が解除されます。
また、給付制限期間が「2ヶ月」から「1ヶ月」(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月)に短縮されました。
※待機期間満了日は、受給手続き日から原則として7日が経過した日です。
教育訓練給付金の給付率(上限)の引き上げ
労働者の主体的な能力開発の支援を強化するとともに、教育訓練の効果を高める目的で教育訓練給付が拡充されました。
教育訓練給付とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した際の費用の一部を支給する制度です。
現行では、教育訓練の種類に応じて受講費用の20%~70%が支給されますが、改正後は給付率の上限が80%に引き上げられます。
改正後の給付率
項目 | 専門実践教育訓練給付 | 特定一般教育訓練給付 | 一般教育訓練給付 |
---|---|---|---|
本体給付 | 50% | 40% | 20% |
追加給付(資格取得した場合) | 20% | 10% | - |
追加給付(賃金が上昇した場合) | 10% | - | - |
最大給付率 | 80% | 50% | 20% |
専門実践教育訓練給付金では、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合の追加給付(受講費用の10%)が追加され、給付率の上限が80%になります。
また、特定一般教育訓練給付金では、資格取得して就職した場合の追加給付(受講費用の10%)が追加され、給付率の上限が50%に引き上げられました。
教育訓練休暇給付金の創設
労働者が生活費への不安なく教育訓練に臨めるように、教育訓練休暇給付金が創設されました。
現行では、労働者が自ら教育訓練のために休暇を取った際、その期間中の生活費の負担を軽減する仕組みがありません。
改正後は、教育訓練を受けるための休暇を取得すると教育訓練休暇給付金が受け取れます。
項目 | 内容 |
---|---|
支給対象者 | 雇用保険の被保険者期間が5年以上ある被保険者 |
支給額 | 離職した際に受給できる基本手当と同じ額 |
支給日数 | 被保険者期間に応じた日数(90日、120日、150日のいずれか) |
3 育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保
育児休業取得者数の増加に伴い、育児休業給付の支給額が年々増加しています。政府は男性の育休取得率85%(2030年時点)を目標に掲げており、今後も支給額の増加が予想されることから、財政基盤が見直されました。
改正内容は以下の通りです。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
国庫負担割合 | 暫定措置として1/80 (本則1/8) | 1/8 |
保険料率 | 0.4% | 当面は0.4% (本則料率を0.5%に引き上げ) |
国庫負担割合は、2024年度から本則の1/8に引き上げられます。保険料率は当面の間0.4%のままですが、2025年度から本則料率が0.5%に引き上げられ、収支の状況に応じて引き下げられるようにする仕組みが導入されました。
具体的には、積立金残高と翌年度の収入の合計額(見込み)が翌年度の支出(見込み)の1.2倍を超えると、保険料率が0.4%に引き下げられます。
4 その他雇用保険制度の見直し
その他、以下の暫定措置がそれぞれ見直され、2年間(2027年3月31日まで)の延長が決まりました。
- 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例
- 基本手当の地域延長給付
- 教育訓練支援給付金
- 介護休業給付の国庫負担割合を1/80(本則1/8)とする暫定措置
なお、教育訓練支援給付金に関しては、給付率を基本手当の80%から60%に引き下げたうえで延長されます。
出典:厚生労働省「雇用保険等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
【2024年成立】子ども・子育て支援法の雇用保険制度に関する改正内容
2024年6月5日、政府のこども未来戦略を着実に進める目的で「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が成立しました。
そのなかで、雇用保険制度に関する改正も行われています。
雇用保険制度に関する改正内容
- 出生後休業支援給付の創設
- 育児時短就業給付の創設
出生後休業支援給付の創設
改正子ども・子育て支援法では、男性の育休取得をさらに促進するため、出生後休業支援給付が創設されました。
育休を取得すると、賃金の67%(休業開始から180日経過後は50%)の育児休業給付が支給されますが、育児休業を取得しない場合の給与と比べて手取りが少なくなります。
そこで新たに設けられたのが、夫婦ともに育休を取得した際に支給される出生後休業支援給付です。
項目 | 内容 |
---|---|
支給条件 | 出生直後の一定期間内に両親が14日以上の育休を取得する※ |
支給日数 | 最大28日間 |
支給額 | 休業開始前賃金の13%相当額 |
つまり、育児休業給付とあわせた給付率は80%へ引き上げられます。なお、配偶者が専業主婦(夫)の世帯やひとり親家庭では、配偶者の育休取得の要件は適用されません。
なお、男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に育休を取得する場合が対象です。
育児時短就業給付の創設
共働き・共育ての推進や、育児とキャリア形成の両立支援を目的に、育児時短就業給付が創設されました。
現行では、育児のために短時間勤務制度を選択し、賃金が下がってしまったときの給付はありません。
改正後は、2歳未満の子どもを養育するために時短勤務する際、時短勤務中に支払われた賃金額の10%が育児時短就業給付として支給されます。
出典:厚生労働省「子ども・子育て支援等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要」
改正雇用保険法の施行日
改正雇用保険法は、2025年4月から順次施行されます。制度によって施行日が異なるため注意しましょう。
改正内容 | 施行日 |
---|---|
雇用保険の適用拡大 | 2028年10月1日 |
自己都合離職者の給付制限期間の見直し | 2025年4月1日 |
教育訓練給付金の給付率(上限)の引き上げ | 2024年10月1日 |
教育訓練休暇給付金の創設 | 2025年10月1日 |
育児休業給付 | 国庫負担割合:2024年5月17日 保険料率:2025年4月1日 |
暫定措置※ | 2025年4月1日 |
出生後休業支援給付 | 2025年4月1日 |
育児時短就業給付 | 2025年4月1日 |
※暫定措置:雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付、教育訓練支援給付金、介護休業給付に係る国庫負担割合の暫定措置
まとめ
今回の雇用保険法の改正では、働き方の多様化などを背景に、雇用保険の適用拡大や教育訓練の見直しなどが行われました。
2028年10月1日に施行される雇用保険の適用拡大に関しては、新たに約500万人が被保険者となり、企業担当者の業務量が増加する見込みです。
また、出生後休業支援給付や育児時短就業給付の創設に伴い、新たな事務手続きも発生します。
企業担当者の方は、改正内容や実務への影響を正しく理解し、準備を進めましょう。
個人情報を適切に処理するなら管理ツールの使用を
従業員を雇い入れているなら、従業員の個人情報も適切に管理しなければなりません。
freee人事労務は、個人情報はもちろん、口座情報や入出金データなど、すべてのデータを暗号化して保存。すべての通信に対して金融機関レベルの通信方式を採用し、強固なセキュリティ体制を敷いています。
個人情報の取り扱いでは、一定基準を満たす企業に与えられる国際認証TRUSTeを取得しており、従業員の個人情報も適切な管理が可能です。
データはクラウド上で保管されているため、パソコンの紛失やハードディスクの破損による物理的なデータ損失の心配もありません。
外部へのデータ漏えいを防ぐ対策が施され、安心して利用できるfreee人事労務をぜひお試しください。
よくある質問
雇用保険の適用拡大とは?
雇用労働者の働き方や生計維持の在り方の多様化を受け、雇用保険の被保険者要件のうち「週20時間以上」が「週10時間以上」に変更されました。
改正後は、以下の2つに該当すると雇用保険の被保険者となります。
雇用保険の被保険者要件
- 所定労働時間が週10時間以上である
- 31日以上雇用される見込みがある
雇用保険の適用拡大に関する改正内容を詳しく知りたい方は「①雇用保険の適用拡大」をご覧ください。
改正雇用保険法はいつ施行される?
2025年4月から順次施行されますが、制度によって異なります。雇用保険の適用拡大は、2028年10月1日に施行されます。
改正雇用保険法の施行日を詳しく知りたい方は「改正雇用保険法の施行日」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。