公開日:2023/09/13
監修 寺島 有紀 社会保険労務士
政府は、2028年度までに雇用保険の適用範囲を拡大する予定です。本記事では、雇用保険の加入要件や適用拡大が検討される背景などを詳しく解説します。
具体的には、雇用保険の加入要件である所定労働時間を「週20時間未満」の労働者まで対象とする方針です。
近年の労働市場には、「賃金の引き上げ」や「就業構造の変化」、「後継者・人材不足」といったさまざまな課題があります。人事労務担当者は、雇用保険の適用範囲の拡大が検討されていることや、その背景を把握しておきましょう。
目次
雇用保険とは?
雇用保険とは社会保険のひとつです。
失業や育児・介護等で一時的に就労できない場合、または教育訓練を受講する場合に、労働者の所得を一定程度補償します。労働者を雇用する事業は、業種・規模などを問わず、すべて雇用保険の適用事業です。
雇用保険の給付は、失業等給付・育児休業給付・雇用保険二事業から成り立っており、受け取れる手当は下図の通りです。
失業したときに受け取れるのは、失業等給付の求職者給付(基本手当)であり、一般的に「失業手当」と呼ばれます。
雇用保険の加入要件
雇用保険の加入要件は、次の3つです。
雇用保険の加入要件
1. 31日以上の雇用見込みがある2. 所定労働時間が週20時間以上である
3. 学生ではない
1 31日以上の雇用見込みがある
雇用保険に加入するには、「31日以上継続して雇用されることが見込まれる」必要があります。具体的には、下記のいずれかに該当する場合です。
31日以上の雇用見込みがあると判断されるケース
● 期間の定めがなく雇用される● 雇用期間が31日以上である
● 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない
● 雇用契約に更新規定がないが、同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある
雇用契約期間が「1ヶ月」の場合、暦の大小によって31日以上の雇用見込みが異なります。太陽暦(新暦)において、大の月は31日、小の月は30日(2月を除く)です。
暦が大の月であれば、更新規定の有無に関わらず要件を満たします。一方、小の月の場合、更新される旨が明示されることによって「31日以上の雇用見込みがある」と判断されます。
ただし雇い入れ時は雇用期間が25日で更新規定がなかったが、雇い入れ後に31日以上の雇用が見込まれた場合は、31日以上の雇用が見込まれる事実が発生した日から雇用保険への加入が必要です。
2 所定労働時間が週20時間以上ある
雇用保険の加入要件のひとつに、「1週間の所定労働時間が20時間以上である」ことが定められています。
所定労働時間は、就業規則や雇用契約書などで、労働者が通常の週に勤務すべきだと定められている時間をいいます。「通常の週」とは、祝祭日・振替休日・年末年始の休日・夏季休暇などの特別休日を含まない週のことです。
所定労働時間が複数の週・1ヶ月単位・1年単位で定められている場合、下表のように1週間の所定労働時間を算出します。
定められた所定労働時間 | 「1週間の所定労働時間」の求め方 |
複数の週 | 各週の平均労働時間 |
1ヶ月単位 | 1ヶ月の所定労働時間÷52/12 |
1年単位 | 1年の所定労働時間÷52 |
また、1週間の所定労働時間が変動する場合、当該1周期における所定労働時間の平均を、「1週間の所定労働時間」として扱います。
3 学生ではない
「昼間学生」は原則、雇用保険の被保険者にはなれません。昼間学生とは、学校教育法第1条、第124条または第134条第1項の学生・生徒を指します。
昼間学生であっても、下記に該当する場合は、雇用保険の被保険者となります。
雇用保険の被保険者となる昼間学生
● 卒業見込証明書を有し、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業所で働く予定の人● 休学中の人
● 事業主の指示または承認を受け、大学院などに在学する人
● 一定の出席日数を課程終了の要件としていない学校に在学し、当該事業において同種の業務に従事するほかの労働者と同様に勤務し得ると認められる人
なお、通信教育課程や夜間部へ通う学生は、「昼間学生」に該当しません。
雇用保険の加入手続きについても、「雇用保険の加入条件は? 加入手続きの方法や必要書類について」で確認しておきましょう。
政府は雇用保険の適用拡大を検討している
政府は、2028年度を目処に、雇用保険の対象者を「週20時間未満の人」まで拡大することを検討中です。少子化や人手不足が進むなか、制度を充実させることで現役世代の多様な働き方を支援する目的です。
財政制度等審議会では、短時間労働者も失業給付や育児給付などを受けられるように、適用拡大を早急に検討すべきだとしています。
また就業時間が週20時間未満の労働者は、過去10年で1.5倍近くに増加しています。働き手不足などの社会問題を解決するためには、非正規労働者への支援は重要なポイントです。
雇用保険の適用拡大が検討されている背景
雇用保険の適用範囲拡大が検討されている背景として、主に次の3点が挙げられます。
雇用保険の適用拡大が検討されている背景
● リスキリングの必要性● 仕事と育児の両立支援
● 非正規雇用労働者に対するセーフティーネット
リスキリングの必要性
労働市場には、賃金引き上げや少子高齢化による人材不足などの課題があります。課題を解決するために重要なのが、労働者に対するリスキリングです。
リスキリングとは、「新しい職業に就くため」または「現在の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するため」に、必要なスキルを獲得することをいいます。
労働者が新たにスキルを学び直し、安心して転職活動を試みるには、自己都合離職者への失業給付の要件緩和など雇用のセーフティネット強化が求められます。
※関連記事
リスキリングとは?注目される背景や具体的な進め方を解説
仕事と育児の両立支援
雇用保険の適用範囲拡大の背景には、深刻な少子化問題もあります。
厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の出生数は初めての80万人割れ、出生率は1.26と過去最低でした。
出典:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
若い世代が理想の子ども数を持たない理由として圧倒的に多いのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的なものです。そこで、子育て世代に対し、仕事と育児の両立を促進する支援が進んでいます。
週20時間未満の労働者が、失業手当や育児休業給付金を受け取れるようにすることで、仕事と育児を両立できるようにサポートする狙いです。
非正規雇用労働者に対するセーフティーネット
2022年の厚生労働省の資料によると、役員を除く雇用者数に対する非正規雇用労働者の割合は36.9%です。
出典:厚生労働省「「非正規雇用」の現状と課題」
厚生労働省の調査では、「自分の都合のよい時間に働けるから」や「家計の補助、学費等を得たいから」という理由が多くなっています。また、「家庭の事情(育児・介護など)と両立しやすい」という理由で非正規雇用を選択する人も少なくありません。
出典:厚生労働省「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」
非正規雇用は、多様な働き方としてメリットがある一方、正規雇用と比べると公平な処遇とはいえない面もあります。雇用保険の適用拡大によって、労働者個人に多様な選択肢を与え、生活を守る効果が期待されます。
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まとめ
政府は、2028年度までに、雇用保険の適用範囲を拡大することを検討しています。雇用保険に加入するには、「1週間の所定労働時間が20時間以上」という条件がありますが、適用拡大後は「週20時間未満」の労働者も対象となる予定です。
雇用保険の充実によって、労働移動の円滑化や子育て支援、多様な働き方をサポートする狙いです。
よくある質問
雇用保険の適用拡大とは?
政府は、1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者も、雇用保険の適用対象とする案を検討しています。
雇用保険の適用拡大について詳しく知りたい方は、「政府は雇用保険の適用拡大を検討している」をご覧ください。
雇用保険の適用拡大が検討されている背景は?
雇用保険の適用拡大が検討されている背景には、リスキリングの必要性が高まっていることや、深刻な少子化問題などがあります。
適用拡大が検討される理由について詳しく知りたい方は、「雇用保険の適用拡大が検討されている背景」をご覧ください。
監修 寺島有紀(てらしま ゆき) 社会保険労務士
一橋大学商学部卒業後、新卒で楽天株式会社に入社、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。その後社会保険労務士事務所に勤務を経て現在は、中小・ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。