公開日:2023/10/26
監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
ダブルワーク(副業)の労働時間管理や割増賃金計算では注意が必要です。本記事ではダブルワーク(副業)の割増賃金の考え方や計算方法を解説します。
従業員が仕事を掛け持ちしているのか、残業代の支払義務は自社と副業先どちらにあるのかなど、適切に把握しなければなりません。
経営者や人事労務担当者は雇用管理を適切に行うため、ダブルワーク(副業)の従業員を雇用する際のポイントを理解しておくことが大切です。
目次
- ダブルワークの割増賃金の考え方
- 本業と副業の労働時間を通算して割増率を判定する
- 通算の対象にならない労働時間は除外する
- 本業と副業どちらの会社が残業代(割増賃金)を支払う?
- ダブルワークの残業代(割増賃金)は原則「後から労働契約を結んだ会社」が支払う
- 先に労働契約を結んだ会社が残業代(割増賃金)の支払義務を負う場合もある
- ダブルワークの割増賃金の計算方法
- ダブルワークの従業員を雇用する際の注意点
- ほかの勤務先の労働時間を従業員に申告してもらう
- 36協定の締結が必要になる場合がある
- 残業時間の上限規制にも注意する
- まとめ
- 勤怠管理を効率化する方法
- よくある質問
- ダブルワークで割増賃金の支払いは必要?
- 本業と副業どちらの会社が割増賃金を支払う?
ダブルワークの割増賃金の考え方
ダブルワークをしている従業員がいる場合、労働時間や残業代の計算で注意すべき点がいくつかあります。
以下では、ダブルワークの割増賃金の考え方を紹介します。
本業と副業の労働時間を通算して割増率を判定する
割増賃金の対象になるか、割増率はいくらかを判定をする際には、本業と副業の労働時間を通算して判定します。本業と副業、それぞれで別々に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えているかを基準とするわけではありません。
労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定められています。
そのため従業員がダブルワークをしていて、本業と副業で異なる事業場で働いている場合でも、労働時間や残業時間は通算して計算します。
本業と副業の労働時間の合計が法定労働時間を超えれば、原則として割増賃金の支給対象です。残業代の計算で使う割増率は通常は25%以上、月60時間超の残業では50%以上です。
通算の対象にならない労働時間は除外する
従業員がダブルワークをしており、自社と他社いずれでも雇用契約を結んで従業員として働いている場合は、労働時間を通算して計算します。
一方、フリーランスとして働いている時間や、起業して個人事業主として働いている時間は、労働基準法の適用対象外のため通算しません。
また労働基準法第41条により、農業・畜産業や管理監督者として働く時間なども、労働基準法の労働時間に関する規定の適用対象外です。
● 労基法が適用されない場合(例 フリーランス・独立・起業・共同経営・アドバイザー・コンサルタント・顧問・理事・監事等)
● 労基法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・ 養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度)
出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
本業と副業どちらの会社が残業代(割増賃金)を支払う?
ダブルワークをしている従業員に割増賃金の支払いが必要になった場合、本業と副業どちらの会社が支払義務を負うのかはケースによって異なります。
自社に支払義務があるにも関わらず支払わないと、残業代(割増賃金)が未払いになり、労働基準法違反になるため注意が必要です。
自社と従業員の副業先どちらに支払義務があるのか、企業の経営者や人事労務担当者は適切に判断しなければなりません。
ダブルワークの残業代(割増賃金)は原則「後から労働契約を結んだ会社」が支払う
ダブルワークをしている従業員の残業代(割増賃金)は、原則として「後から労働契約を結んだ会社」が支払います。
従業員から「別の会社でも働き始めた」と報告を受けた場合、従業員が新たに働き始めた会社が「後から労働契約を結んだ会社」です。
そのため上記のケースで割増賃金の支払いが必要になった際には、原則として従業員が新たに働き始めた会社が割増賃金を支払います。
先に労働契約を結んだ会社が残業代(割増賃金)の支払義務を負う場合もある
従業員の労働時間が法定労働時間に達するという認識があるうえで、労働時間を延長した場合は、先に労働契約を結んだ会社が残業代(割増賃金)を支払わなくてはなりません。
たとえば、従業員が先に労働契約を結んだ会社で6時間勤務し、その後、後から雇用契約を結んだ会社で2時間働くケースで考えてみましょう。
この場合、従業員が勤務後に2時間別の会社で働くことを知っていながら、先に労働契約を結んだ会社が1時間労働時間を延長させた場合、先に労働契約を結んだ会社が残業代(割増賃金)の支払い義務を負います。
上記のようなケースでは、労働契約を締結した順番の前後は関係ありません。
そのため「ダブルワークの従業員を雇用する際の注意点」でも詳しく解説していますが、副業時間の長さを把握しておく必要があります。
ダブルワークの割増賃金の計算方法
ダブルワークの割増賃金では、従業員が勤務しているすべての勤務先での労働時間を通算して割増率の判定や残業代の計算を行います。
残業代の計算に関するそのほかの事項は、一般的な残業代計算と基本的に変わりません。
残業代の割増率
● 時間外労働:25%以上● 休日労働:35%以上
● 深夜労働:25%以上
ダブルワークの従業員を雇用する際の注意点
ダブルワークをしている従業員がいる場合、通常の雇用管理とは異なる点があるので注意が必要です。
企業の経営者や人事労務担当者がおさえるべき主な注意点は、以下の通りです。
ダブルワークの従業員を雇用する際の主な注意点
● ほかの勤務先の労働時間を従業員に申告してもらう● 36協定の締結が必要になる場合がある
● 残業時間の上限規制にも注意する
ほかの勤務先の労働時間を従業員に申告してもらう
ダブルワークをしている従業員のほかの勤務先の労働時間を把握するには、従業員から申告してもらわなければなりません。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働時間は「労働基準法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りる」とされています。そのため必ずしも日々把握する必要はありません。
時間外労働の上限規制の遵守等に支障がない限り、たとえば以下のような方法で把握することが考えられます。
従業員の労働時間を把握する方法の例
● 一定の日数分をまとめて申告等させる(1週間分を週末に申告する等)● 所定労働時間どおり労働した場合には申告等は求めず、実労働時間が所定労働時間どおりではなかった場合のみ申告等させる(所定外労働があった場合等)
● 時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合に申告等させる
36協定の締結が必要になる場合がある
従業員に残業をさせるためには、36協定を締結しなければなりません。そのためダブルワークをしている従業員と、36協定の締結が必要になる場合があります。
たとえば本業の会社で8時間勤務した後、同じ日に副業の会社で2時間勤務する場合、副業の会社の2時間はすべて残業扱い(割増賃金の対象)となります。
一般的に従業員が2時間勤務するだけであれば、法定労働時間(1日8日時間)以内に収まっているので、残業にはあたらず36協定は不要です。
しかしダブルワークをしている従業員の場合は、上記のように2時間の勤務が残業扱いになり、36協定の締結が必要になる場合があります。
自社で働く時間が法定労働時間外になる場合、36協定を締結していないと労働基準法違反となり、違法な残業をさせていることになります。
残業時間の上限規制にも注意する
労働基準法が定める残業時間の上限規制に関しては、本業・副業の労働時間を「通算して適用する規定」と「通算せずに適用する規定」があります。
まず時間外労働のうち、以下に関しては本業と副業の労働時間を通算して判定します。
通算して適用する規定
● 時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満か● 時間外労働と休日労働の合計で複数月平均80時間以内か
通算せずに適用する延長時間
● 36協定によって延長できる時間の限度時間● 36協定に特別条項を設ける場合の年間の延長時間の上限
休憩・休日・年次有給休暇に関しても、本業と副業の労働時間は通算せずに適用します。
まとめ
従業員がダブルワークをしている場合、残業時間の把握や残業代の割増率の判定は、本業と副業の労働時間を通算して行います。
ダブルワークをしている従業員がいる場合には、ほかの勤務先での労働時間を報告してもらうことが必要です。
ダブルワークの残業代(割増賃金)は原則として「後から労働契約を結んだ会社」が支払いますが、先に労働契約を結んだ会社が支払義務を負うケースもあります。
働き方が多様化して副業をする人が増える中、企業の経営者や人事労務担当者には、従業員の労働時間を適切に把握することが求められます。
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よくある質問
ダブルワークで割増賃金の支払いは必要?
本業と副業の労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いが必要です。
従業員がダブルワークをしている場合に割増賃金の支払いが必要かどうか、詳しく知りたい方は「ダブルワークの割増賃金の考え方」をご覧ください。
本業と副業どちらの会社が割増賃金を支払う?
ダブルワークの残業代(割増賃金)は原則として「後から労働契約を結んだ会社」が支払います。ただし、先に労働契約を結んだ会社が支払うケースもあります。
従業員がダブルワークをしている場合に割増賃金をどちらの会社が支払うのか、詳しく知りたい方は「本業と副業どちらの会社が残業代(割増賃金)を支払う?」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。