監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP
厚生労働省は「家事使用人の雇用ガイドライン」を発表しました。本記事では、ガイドラインの概要や家事使用人を雇用する際のポイントを解説します。
日本国内の夫婦のうち、収入を得るのは夫のみで妻は専業主婦である世帯の数は、年々減少が続いています。今や、共働き世帯のほうが多い時代です。時間の余裕が取りづらいなか、家事代行を検討する家庭も多いはずです。
家事使用人を雇用する際の注意点も説明するため、ぜひ参考にしてください。
目次
家事使用人とは
家事使用人は、家政婦・家政夫とも呼ばれる職種です。個人宅に出向き、掃除・洗濯・料理などの家事業務に従事します。
家庭の雇用主と直接労働契約を結んで働く場合や、家事代行サービス会社に所属し派遣として働く場合など、形態はさまざまです。雇用主と家事使用人とのマッチングをあっせんする紹介所も存在します。
家事使用人の雇用ガイドライン
2024年2月、厚生労働省が「家事使用人の雇用ガイドライン」を公表しました。
出典:厚生労働省「家事使用人の雇用ガイドライン」
多くの家事使用人は一般家庭の雇用主と労働契約を結んで働きます。直接雇用される家事使用人の場合、労働契約法の適用は受けますが、労働基準法の対象外です。
業務の内容・就業時間などの条件が明確でないため、就労に関するトラブルが発生するケースがあります。また、就業中に負傷した場合の補償が不十分であるなどの問題も確認されています。
ガイドラインは、こうした諸問題を是正する目的で策定されました。家事使用人が安心して働くための環境整備を促進する内容が定められています。
労働者本人・雇用主・紹介所などの関係者は、ガイドラインの内容を理解し、家事使用人が安全に就労するための条件を把握しておきましょう。
家事使用人と雇用主に適用される労働関係等法令
家事使用人と雇用主である一般家庭に適用される法令は以下の通りです。
家事使用人と雇用主に適用される労働関係等法令
- 労働契約法
- 労働者災害補償保険法
- 職業安定法
- 民法
雇用主には、長時間労働を防ぐ調整・過度なストレスを与えない・転倒防止など安全に配慮する対応が求められます。
一般的な労働基準法や最低賃金法・労働安全衛生法などは対象外ですが、働きやすい環境を整備するためには、これらの水準を下回らないよう注意しましょう。
家事使用人を雇用する際の注意点
ガイドラインには、家事使用人を直接雇用する際の注意点として以下の5点が挙げられています。
家事使用人を直接雇用する際の注意点
- 労働契約の明確な内容を提示する
- 労働契約は適正な条件にする
- 就業環境を整備する
- 労働契約の更新・終了の際の対応
- 損害保険・災害補償保険(労災保険の特別加入を含む)
それぞれ詳しく解説します。
労働契約の明確な内容を提示する
労働契約は、書面や電子メールなどで条件を明確にしましょう。厚生労働省のウェブサイトに労働契約書の記載例が掲載されているので、参考にしてください。
明記すべき主な内容は以下の通りです。
労働契約に明記すべき主な内容
- 雇用主の氏名・所在地・連絡先・実際の業務指示者
- 就業場所
- 労働契約の期間(開始日と終了日)
- 試用期間(試しに働く期間)の有無・期間
- 業務の内容
- 就業時間等(始業・終業時刻、休憩時間、深夜勤(22時~5時)の有無・回数・想定される時間数、残業の有無・想定される時間数、泊り込み・住み込みの有無・日数・睡眠時間を含む)
- 休日・休暇
- 報酬等(報酬等の額(基礎的な報酬、時間外手当・深夜手当、報酬の増額に関する事項、交通費、諸手当の有無を含む)、支払日、支払方法)
- 退職に関する事項
- 受動喫煙防止対策
業務は、就業時間内に終えられる現実的な業務量を設定しましょう。また、誰の指示で業務にあたるか、求める家事の水準はどの程度か、などの詳細も事前に話し合っておけばトラブルを防止できる可能性が高まります。
出典:厚生労働省「家事使用人の雇用ガイドライン」
出典:厚生労働省「家事使用人(家政婦・家政夫)について」
労働契約は適正な条件にする
報酬や就業時間・契約期間のなどの内容は、適正な条件を設定しましょう。
過重労働とならないよう労働時間の調整が必要です。上限は、労働基準法に準じて8時間×5日(週40時間)が望ましいでしょう。報酬は、最低賃金を下回る水準となっていないか注意してください。
業務の範囲は明確にしましょう。高所作業などの危険が伴う業務や、法律上有資格者でないと行えない医療行為・訪問介護などの業務には従事させられません。
労働契約の内容を変更する場合は、家事使用人と十分に話し合い、お互い納得したうえで行ってください。
就業環境を整備する
家事使用人が安全に就労できるよう配慮が必要です。
業務期間を適切に管理・記録して、認識の齟齬がないようにしましょう。また、空調やトイレの利用、住み込み・泊り込みの場合のスペース・寝具の提供など働きやすい環境を整えてください。
トラブルを防止するため、貴重品の管理は雇用主が自身で行いましょう。
介護保険の訪問介護と組みあわせて家事使用人のサービスを利用するケースも考えられます。介護保険部分と保険外部分は明確に区別し、全体の業務を考慮して過重労働とならないよう就業時間を設定してください。
労働契約の更新・終了の際の対応
労働契約に期間の定めがあり自動更新でない場合は、満了日に契約が終了します。
5年を超える契約更新の際は注意が必要です。家事使用人本人が希望した場合、期間の定めのない労働契約に移行でき、雇用主は拒否できません。長期で雇用を検討している場合はルールを正しく把握しておきましょう。
また、直接雇用の家事使用人は労働基準法の対象外ですが、一方的に突然解雇してよいわけではありません。
やむを得ず解雇や契約を打ち切る際は、速やかにその旨を伝えます。
30日程度前までに通告するか、30日分以上の予告手当を支払うなど労働基準法に準じた対応をとるとよいでしょう。
【関連記事】
無期転換ルールとは?労働契約が5年を超えた場合の注意点
損害保険・災害補償保険(労災保険の特別加入を含む)
リスクに備え、家事使用人の保険の加入状況を把握しておくことも大切です。家事使用人に関係する保険は、主に以下の2種類です。
家事使用人に関係する保険
- 家事使用人が業務に関連して雇用主や第三者に損害を与えた場合に備える「損害保険」
- 業務が原因で家事使用人がけがをした・病気になった場合に備える「災害補償保険」
家事使用人の紹介所が労災保険の特別加入団体の適用を受けている場合、「労災保険の特別加入」が手続きできます。
家事使用人を雇用する際に知っておきたいポイント
家事使用人を雇用する際に知っておきたいポイントは以下の通りです。
家事使用人を雇用する際に知っておきたいポイント
- 家事使用人への給与は経費にできない
- 家事使用人への給与から源泉徴収する必要はない
- 家事使用人は確定申告が必要
それぞれ詳しく解説します。
家事使用人への給与は経費にできない
経費に計上できるのは事業に関わる費用であるため、家事使用人への給与は経費にできません。
福利厚生費として家事使用人のために支出した費用も経費には計上できないため、注意が必要です。
家事使用人への給与から源泉徴収する必要はない
常時2人以下の家事使用人のみを雇用している場合は、給与や退職金の支払時に源泉徴収をする必要はありません。
ただし、常時3人以上の家事使用人に給与を支払う場合には源泉徴収のほか、住民税の特別徴収も必要です。
家事使用人は確定申告が必要
家事使用人自身は、確定申告をしなければなりません。所得税などが源泉徴収されていないため、確定申告して納税が必要です。
常時2人以下の家事使用人を雇った際は、源泉徴収されない点や確定申告が必要である旨を説明しましょう。
まとめ
一般家庭に出向いて、掃除・洗濯・料理などの家事業務に従事する労働者を家事使用人といいます。
家事使用人を直接雇用する場合、労働基準法や最低賃金法・労働安全衛生法などは対象外ですが、家事使用人が安心して働けるようこれらの水準を上回る条件や環境を検討しましょう。
雇用主には、長時間労働の防止や安全面の配慮が求められます。万が一のリスクに備えるため、家事使用人の保険加入状況は事前に確認しましょう。
なお、家事使用人への報酬は経費にはできません。常時2人以下を雇用している場合は源泉徴収の必要はありませんが、家事使用人自身は確定申告が必要です。
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よくある質問
家事使用人とは?
一般家庭に出向き、掃除・洗濯・料理などの家事業務を行う職種です。家政婦・家政夫とも呼ばれます。
家事使用人を詳しく知りたい方は、「家事使用人とは」をご覧ください。
個人が家事使用人を直接雇用する際の注意点は?
以下の5点に注意しましょう。
家事使用人を直接雇用する際の注意点
- 労働契約の明確な内容を提示する
- 労働契約は適正な条件にする
- 就業環境を整備する
- 労働契約の更新・終了の際の対応
- 損害保険・災害補償保険(労災保険の特別加入を含む)
直接雇用する際の注意点を詳しく知りたい方は、「家事使用人を雇用する際の注意点」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。