公開日:2023/08/16
監修 松浦 絢子 弁護士
政府では「デジタル遺言制度」の創設が検討されています。本記事では、デジタル遺言制度が検討される背景や、メリット・デメリットなどを解説します。
遺言とは、残された家族に自分の意思を伝える手段です。遺言を残しておくことで、相続に関するトラブルを避ける効果も期待できます。
自分で作成する「自筆証書遺言」はコストを抑えられますが、必要事項が漏れている場合、遺言として無効になるケースがあります。遺言書作成の手間を減らし、紛失などのリスクを防ぎたいと考えている人は、デジタル遺言制度を理解しておきましょう。
目次
デジタル遺言制度とは?
デジタル遺言制度とは、自筆証書遺言のデジタル化に向けて創設が検討されている制度です。
すでにデジタル遺言を作成する民間のサービスはありますが、法的な効力は持ちません。デジタル遺言制度が創設されれば、法的効力を持った遺言書をインターネット上で作成し、保管できるようになります。
政府は、2024年3月に新制度の方向性を提言する予定であり、デジタル遺言制度の創設に関する主な論点は下記の通りです。
デジタル遺言制度創設における主な論点
● 本人確認・真意の確認・方式の正確性を担保できるか● 電子文書や映像などによる遺言を認めるか
● 2020年に開始した自筆証書遺言書保管制度に基づいて、法務局が保管している遺言の「データによる交付」を可能にするべきか(申請手続き自体のデジタル完結)
デジタル技術を活用し、自筆証書遺言と同等の信頼性を確保できるかが重視されます。
そもそもデジタル遺言とは?
デジタル遺言とは、自筆証書遺言を作成する際、電子署名などのデジタル技術を活用し、終活の「デジタル完結」を実現するための仕組みです。
遺言書の種類は、主に下記の3種類です。
自筆証書遺言 | 遺言者本人が自分で手書き・押印して作成する |
公正証書遺言 | 公正役場で証人2人以上立ち会いのもと、公証人の筆記で作成する |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にしたまま、存在を公証人および証人2人以上で証明する |
デジタル遺言は、一般的に自筆証書遺言をデジタル化することを指します。
自筆証書遺言は、主に次のようなメリットがあります。
自筆証書遺言のメリット
● 費用がかからない● 書き直しが容易
● 遺言の内容を他人に教えなくていい
自筆証書遺言のデメリット
● 要件を満たさない遺言は無効になる可能性がある● 紛失したり、隠されたりするリスクがある
● 遺言者が亡くなった後、家庭裁判所にて検認の手続きが必要
デジタル遺言制度の創設が検討されている背景
遺言書を用意しておくと、相続トラブルを回避できる可能性が高くなります。しかし、遺言書の作成にはルールが多く、専門家への相談が必要なケースもあるため、個人での作成が難しい問題があります。
自筆証書遺言書は、公正証書遺言と比べると、専門家に依頼する手間やコストがかかりません。ただし、一定の条件を満たさないと無効になる可能性や、内容を改ざんされるリスクがあります。
複合認証や電子署名などのデジタル技術の活用で、セキュリティ向上や遺言者の負担軽減につながるため、デジタル遺言制度の創設が求められています。
デジタル遺言のメリット
デジタル遺言の主なメリットは、以下の通りです。
デジタル遺言の主なメリット
● 遺言書作成の負担が軽くなる● デジタル技術で本人確認が可能
● 紛失や改ざんのリスクを抑えられる
● 遺言だけでなく終活全体の「デジタル完結」ができる
遺言書作成の負担が軽くなる
従来の自筆証書遺言は、遺言者本人がすべて手書きで作成し、一定のルールにしたがわなければなりません。パソコンや代筆は認められないため、遺言者にとっては負担が大きいといえます。
デジタル遺言の場合、スマートフォンやパソコンでの作成が可能です。またフォーマットなどを利用できるため、手書きよりも作成の負担が軽く、書き漏らしを防ぐことが期待できます。
デジタル技術で本人確認が可能
自筆証書遺言では、本人確認と真意性を担保するために自書・押印が求められます。
デジタル遺言では、複合認証や電子署名による本人確認が可能です。デジタル技術を活用することで、厳格に本人確認および真意の確認を行えます。
紛失や改ざんのリスクを抑えられる
紙で保存する自筆証書遺言と比べ、デジタル遺言は紛失のリスクを抑えることが可能です。さらに、ブロックチェーン技術によって、遺言書の改ざんを防止する効果も期待できます。
ブロックチェーンとは、暗号技術によって取引履歴(ブロック)を1本の鎖のようにつなげて記録することで、データの破壊・改ざんを極めて困難にするものです。
デジタル技術によって、より安全な遺言を作成できるようになるでしょう。
遺言だけでなく終活全体の「デジタル完結」ができる
デジタル遺言が浸透することで、専門家への相談やその他相続関連の手続きを、すべてオンラインで完結できる可能性があります。
終活がデジタルで完結できれば、都心や地方など場所による格差を解消する効果が期待できます。また、非接触で手続きできる終活は、アフターコロナの社会に適したスタイルだといえるでしょう。
デジタル遺言のデメリット
デジタル遺言の主なデメリットは、以下の通りです。
デジタル遺言の主なデメリット
● デジタルデバイスを使用しないといけない● 遺言能力の有無の判断は慎重に行う必要がある
デジタルデバイスを使用しないといけない
デジタル遺言制度を活用するには、ある程度パソコンやスマートフォンを使えなければなりません。
高齢者など、デジタルデバイスの使い方がわからない人にとっては、利用が難しくなる可能性があります。
遺言能力の有無の判断は慎重に行う必要がある
書面の遺言と同様に、遺言能力の有無は争点になり得ます。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、自分の死後、遺言によってどのようなことが起こるのかを理解する力です。
デジタル遺言制度の創設にあたり、遺言者の意思の正確性をシステムで担保できるか否かは、重要なポイントです。
まとめ
政府は、デジタル遺言制度の創設を検討中です。デジタル遺言制度が実現すれば、法的効力を持った遺言書をインターネット上で作成し、保管できるようになります。
デジタル遺言によって、遺言書作成の負担が軽くなり、紛失や改ざんのリスクが低くなります。しかし遺言者の真意の確認に関しては、慎重な判断が必要です。
よくある質問
デジタル遺言制度とは?
デジタル遺言制度とは、自筆証書遺言のデジタル化に向けて創設が検討されている制度です。デジタル遺言制度が創設されれば、法的効力を持った遺言書をインターネット上で作成し、保管できるようになります。
デジタル遺言制度に関して詳しく知りたい方は、「デジタル遺言制度とは?」をご覧ください。
デジタル遺言とは?
デジタル技術(電子署名など)を活用して作成する遺言を、「デジタル遺言」といいます。すでにデジタル遺言を作成する民間のサービスはありますが、現状では法的効力を持ちません。
デジタル遺言制度に関して詳しく知りたい方は、「そもそもデジタル遺言とは?」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。