監修 竹国 弘城 1級FP技能士・CFP
デジタル円とは、新しい形態の電子的なお金です。本記事ではデジタル円の導入が検討される背景や、メリットなどを解説します。
デジタルなお金と聞くと、電子マネーや暗号資産が連想されますが、日本銀行が発行するデジタル円は性質が異なります。
具体的な導入予定はありませんが、デジタル円の発行に向けた検証や実験がスタートし、2023年4月からは民間企業を交えた実験も始まる予定です。
目次
- デジタル円(中央銀行デジタル通貨)とは?
- 電子マネーとは何が違う?
- 暗号資産(仮想通貨)とは何が違う?
- 日本でもデジタル円の導入が検討されている
- デジタル円の導入を日本が検討している背景
- 社会全体の急速なデジタル化
- アメリカの大企業が多国籍デジタル通貨の発行を計画
- 各国の中央銀行がデジタル通貨を検討
- デジタル円のメリット
- デジタル円を事業者が利用するメリット
- デジタル円を個人が利用するメリット
- デジタル円のデメリット
- デジタル円を事業者が利用するデメリット
- デジタル円を個人が利用するデメリット
- 経理を自動化し、業務を効率的に行う方法
- まとめ
- よくある質問
- デジタル円とは?
- デジタル円はいつから導入される?
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デジタル円(中央銀行デジタル通貨)とは?
「デジタル円」とは、正式名称「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」といい、新しい形態の電子的なお金です。
デジタル円を始めとする中央銀行デジタル通貨は、一般的に次の3点を満たすものとされています。
中央銀行デジタル通貨の要件
● デジタル化されている● 円などの法定通貨*建てである
● 中央銀行の債務として発行されている
日本だけでなく、他国でも自国通貨をデジタル化できるか、デジタル化する場合の課題は何か、などが議論されています。
しかし、民間銀行の預金や資金仲介への影響など検討すべき課題は多く、ほとんどの主要中央銀行が慎重な姿勢をとっている状況です。
※法定通貨とは、国家や中央銀行によって発行・管理されているお金のこと。最終的な決済手段としての効力が認められている。
電子マネーとは何が違う?
デジタル化されたお金と聞くと、電子マネーが思い浮かびます。
電子マネーはデジタル化されていて、お金の代わりに利用可能です。法定通貨で電子マネーを購入して利用するか、後日利用分の請求がされるため、法定通貨建ての条件には該当します。
しかし、電子マネーはサービスを提供している民間企業が発行するため、「中央銀行の債務として発行されている」の条件を満たせません。
中央銀行デジタル通貨の条件 | 電子マネー | デジタル円 |
デジタル化されている | ○ | ○ |
法定通貨建てである | ○ | ○ |
中央銀行の債務として発行されている | × | ○ |
また、電子マネーはチャージ金額に上限が設定され、高額な決済には不向きです。加盟店や提携サービスでしか利用できず、手数料も発生します。
一方でデジタル円は保有している金額までなら自由に利用でき、対象店舗も限定されていません。
さらに電子マネーでの支払いは、決済代金が事業者の銀行口座に反映されるまで時間がかかります。デジタル円は受け取りまでのタイムラグがない、現金と同様に使える仕組みで考えられている点も電子マネーとの違いです。
項目 | 電子マネー | デジタル円 |
発行主体 | 民間企業 | 中央銀行 |
利用できる場所 | 加盟店・提携サービスのみ | ほぼ制限なし |
利用金額の上限 | チャージ金額に上限あり | 保有額まで自由に利用可能 |
手数料 | 発生する | 発生しない(想定) |
決済代金が銀行口座に反映されるまでのタイムラグ | あり | なし(想定) |
電子マネーとは何が違う?
暗号資産はデジタル化されていますが、特定国家に依存しないシステム(ブロックチェーン)で発行・取引されています。つまり、国の中央銀行が債務として発行したものではなく、デジタル円の条件を満たしません。
中央銀行デジタル通貨の条件 | 暗号資産 | デジタル円 |
デジタル化されている | ○ | ○ |
法定通貨建てである | ○ | ○ |
中央銀行の債務として発行されている | × | ○ |
また、暗号資産の価値は現状変動が激しく、通常の取引には不向きです。1万円分の価値だった通貨が、決済当日5,000円に下落していては、安心して使えないでしょう。
デジタル円は国が市場流通量をコントロールし、価値を安定させられるため、現金と同様に扱えます。
項目 | 暗号資産 | デジタル円 |
発行主体 | 独立したシステム(ブロックチェーン) | 中央銀行 |
価値の変動 | 激しい | 穏やか |
国家との関連性 | 特定国家に依存しない | 国の中央銀行が発行 |
取引の適用性 | 通常の取引には不向き | 現金と同様に扱える |
通貨の流通量 | 市場に依存 | 国がコントロール |
日本でもデジタル円の導入が検討されている
現時点では、デジタル円を発行・導入する具体的な計画はありません。しかし、今後の変化に対応するべく、日本でもデジタル円の導入が検討され、準備が進められています。
2021年4月~2022年3月は「概念実証フェーズ1(※1)」が実施され、実験環境を構築して、デジタル円は実現可能なものかの検証がなされました。
※1出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験の開始について」
2022年4月~2023年3月は「概念実証フェーズ2(※2)」に移りました。周辺機能を付加してのデジタル円の実現可能性や課題を検証し、2023年3月には民間事業者への説明会「CBDCフォーラム(※3)」も実施されています。
※2出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験(概念実証フェーズ2)の開始について」
※3出典:日本銀行「『CBDCフォーラム』への参加説明会の開催について」
そして、2023年4月からは「パイロット実験(※4)」の実施が予定されており、ITシステムの開発や製品・サービスを提供する事業者からの情報提供を呼びかけている状況です。
※4出典:日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験について」
実証実験と制度設計の検討が始まっている段階ですが、需要がある限り、今後も現金を供給すると日本銀行は発表しています(※5)。
デジタル円の具体的な導入予定はないものの、新しい通貨のあり方や決済手段のひとつであり、今後の動向が注目される存在です。
※5出典:日本銀行「『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針』の公表について」
デジタル円の導入を日本が検討している背景
デジタル円を発行する計画はまだないものの、日本での導入に向けた検討や実証実験が進められている背景には、大きく3つの理由があります。
社会全体の急速なデジタル化
現代ではデジタル化が急速に進み、キャッシュレス決済も年々普及・利用額が拡大しています。
社会の変化を受けて、現金のデジタル化需要も高まる可能性を考えると、対応できる体制作りが重要です。
誰もが扱う現金をデジタル化するには、さまざまな問題を解消し、使いやすいシステムを構築しなければなりません。そのため、今後の変化・需要を考え、あらかじめ検討しているのです。
アメリカの大企業が多国籍デジタル通貨の発行を計画
2019年にアメリカのMeta(旧 Facebook)が、全世界のユーザーを対象に、国境を越えて低コストで送金できるサービスを計画しました。クレジットカードや送金サービスの大手企業も協力し、民間企業発行の世界的な通貨が誕生すると思われた出来事です。
しかし、政府や各国の中央銀行から反対を受け、当初の予定通りには発行できませんでした。
反対された理由には、国が行う金融政策への影響や、マネーロンダリング(資金洗浄)などの不正に利用されるおそれ、一企業が膨大な利用履歴を保有することによるプライバシー侵害への懸念などがあります。
計画は変更を余儀なくされましたが、民間企業が通貨を独占する可能性を考慮し、各国がデジタル通貨を検討するきっかけのひとつになりました。
各国の中央銀行がデジタル通貨を検討
現在、各国の中央銀行の多くが、デジタル通貨に対して何らかの取り組みをしている状態です。すでにデジタル通貨を発行している国もあり、中国では導入に向けた積極的な準備を進めています。
日本もデジタル円の導入について検討や実証実験を進め、通貨をデジタル化できる状態を整えていないと、国際的な変化に対応できない可能性が生じます。
実際に導入するかどうかは別として、世界の変化に後れを取らないためにもデジタル円の導入に向けた検討は必要といえるでしょう。
デジタル円のメリット
デジタル円が導入されると、事業者、個人ともにメリットがあり、従来の取引や決済方法で発生していた問題を解消できる可能性があります。
ただし、デジタル円の導入、発行自体が具体化されていないため、導入された場合の運用方法や制度は不確定です。事業者と個人に分けてメリットを紹介しますが、実現するか不確定な部分も存在します。
デジタル円を事業者が利用するメリット
デジタル円は現金と同じ使い方ができるため、給料や取引先への支払いにも利用可能です。
手数料の負担なく支払えて、即座に相手口座へ反映される点がメリットです。今まで手数料や時間がかかっていた海外への送金も、デジタル円なら低コストで素早く支払いを完了できる可能性があります。
また、加盟店や決済代行事業者との契約不要で、顧客からの代金受取にも使えます。新たな契約不要で決済方法の選択肢が増え、顧客の利便性を向上させられるでしょう。
デジタル円を個人が利用するメリット
デジタル円を個人が利用するメリットは、従来の電子マネーやクレジットカード決済にある制限がなくなる点です。
電子マネーのチャージ金額は数万円程度の上限が設定されていますが、デジタル円なら保有している金額まで制限なく利用できます。
クレジットカードなら電子マネーより高額な決済もできますが、発行には審査が必要です。デジタル円は、現金と同じく利用にあたっての審査はありません。
また、クレジットカードや電子マネーは、加盟店・サービス提携している場所でしか使えませんが、デジタル円は場所を制限されずに使えます。
デジタル円のデメリット
デジタル円には、デメリットも存在します。事業者、個人いずれが利用する場合でも、匿名性でなくなる不安やオフライン状態では使えず、セキュリティへの懸念がデメリットです。
これらのデメリットは、デジタル円を発行するうえでの課題にも挙げられています。
デジタル円を事業者が利用するデメリット
デジタル円は日本の中央銀行である日本銀行が発行し、価値を安定させるために流通量をコントロールします。
デジタル円での取引情報は、日本銀行を通じて取引するすべての国に知られてしまうおそれがある点が問題視されています。
国がお金の流れをすべて把握すれば不正防止になるものの、匿名性は失われるでしょう。プライバシー侵害への不安から、取引先や顧客がデジタル円の利用をためらう可能性も考えられます。
また、決済方法が増えれば管理や業務の手間も発生します。デジタル円が電子的記録なため、サイバー攻撃やデータ改ざんされる懸念も、デメリットに挙げられている事柄です。
デジタル円を個人が利用するデメリット
個人の利用でも、デジタル円での取引情報は日本銀行を通じて国に知られてしまう点がデメリットです。プライバシーの侵害が心配であれば、利用はためらわれます。
またデジタル円は、デジタル上のデータで存在する通貨です。どのような運用方法になるかは明確ではありませんが、災害やネットワーク障害で通信が遮断されると、デジタル円は使えなくなるおそれもあります。
経理を自動化し、業務を効率的に行う方法
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まとめ
デジタル円とは円を電子化した新たな形態のお金で、日本では導入に向けた検討や実証実験が進められている段階です。
もしも導入されれば、従来のクレジットカードや電子マネーにある制限のない、新しい決済方法に使えると考えられています。
一方で、ネットワークにつながらない状況下では利用できないおそれや、セキュリティ面が懸念点です。また、お金の動きが国に見られてしまい、プライバシー侵害が心配されるなどの問題点も考えられます。
デジタル円がいつ導入されるか、どのような制度で運用されるかは不明です。今後どのように進められていくのかが注目されます。
よくある質問
デジタル円とは?
正式名称「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」といい、新たな形態の電子的なお金です。
デジタル円を詳しく知りたい方は「デジタル円(中央銀行デジタル通貨)とは?」をご覧ください。
デジタル円はいつから導入される?
日本でもデジタル円の導入が検討されていますが、具体的な発行・導入の計画は、今のところありません。
日本でデジタル円の導入が検討されていることを詳しく知りたい方は「日本でもデジタル円の導入が検討されている」をご覧ください。
監修 竹国弘城(たけくに ひろき) 1級FP技能士・CFP
RAPPORT Consulting Office (ラポール・コンサルティング・オフィス)代表。名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業。証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自身のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうための活動を行う。