監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
サーキュラーエコノミーは、製造や利用などのさまざまな段階で資源を循環させ、効率的に利用する経済システムです。
サーキュラーエコノミーでは、製品の設計段階から廃棄を最小限に抑える取り組みを行います。リサイクルやリユースを通じて製品や資源をできる限り長く利用し、同時に経済的な付加価値を生み出す仕組みです。
本記事では、サーキュラーエコノミーの概要や3つの原則、注目される背景やメリット・課題を解説します。
目次
サーキュラーエコノミーとは
サーキュラーエコノミー(循環経済)は、資源利用のさまざまな段階で資源の投入量や消費量を抑え、効率的に循環させる経済システムです。限りある資源を有効活用しつつ、付加価値の最大化を目指します。
これまでの社会では、製品を大量に生産して消費し、多くの廃棄物が発生するリニアエコノミー(線型経済)を形成していました。結果として、近年は資源の枯渇や気候変動・生態系への影響など、複数の課題を抱えています。
サーキュラーエコノミーは、従来型のリニアエコノミーから経済システムを転換し、持続可能な社会を構築する試みです。サーキュラーエコノミーの考え方はヨーロッパを中心に広まり、近年では世界各国で取り組まれています。
出典:環境省「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
サーキュラーエコノミーの3つの原則
サーキュラーエコノミーに対する研究は多くの国や研究機関で行われており、定義・類型は多様です。代表的な定義には、英国のエレン・マッカーサー財団が提唱する次の3つの原則が挙げられます。
サーキュラーエコノミーの3つの原則
- 廃棄物や汚染を出さない設計
- 製品と資源の継続的使用
- 自然システムの再生
サーキュラーエコノミーの3つの原則では、製品の設計段階から廃棄物や汚染を発生させない取り組みを求めています。耐久性の向上やリサイクルによる製品の継続的使用、資源の有効活用による自然システム内での再生も、重要な視点です。
出典:経済産業省・環境省「循環型の事業活動の類型について」
サーキュラーエコノミーが注目される背景
サーキュラーエコノミーが注目される背景には、従来の大量生産・大量消費型の経済システムの限界が挙げられます。温室効果ガスによる気候変動や廃棄物による環境破壊は喫緊の課題です。
しかし、現在行われている経済活動を極端に縮小してしまうと、各国の経済そのものに影響を与えるため、経済活動を維持しつつ、既存の資源を持続可能な形で利用するサーキュラーエコノミーが注目されています。
出典:内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) サーキュラーエコノミーシステムの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」
出典:環境省「令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
サーキュラーエコノミーの仕組み
サーキュラーエコノミーの考え方を示す概念図には、エレン・マッカーサー財団が提唱するバタフライ・ダイアグラムが挙げられます。
エレン・マッカーサー財団のバタフライ・ダイアグラムは、左側で再生可能資源のサイクル、右側で枯渇性資源のサイクルを示しています。羽を広げた蝶(バタフライ)に見えることから、「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれています。
バタフライ・ダイアグラムの特徴は、資源利用の各段階でさまざまな資源を循環させる点です。
たとえば、再生可能資源のサイクルでは、資源を多段階に活用するカスケード利用やバイオマス原料への活用などにより、資源を循環させます。枯渇性資源では、リユースやリサイクルなどを通じて材料を繰り返し利用します。
サーキュラーエコノミーは循環利用を前提としており、投入される資源と排出する廃棄物をできるだけ抑える仕組みです。
サーキュラーエコノミーに対する国内外の取り組み
サーキュラーエコノミーは、欧州を中心に制度設計が進んでいます。日本でも実現のためのロードマップが設定され、サーキュラーエコノミーへの転換が図られています。
欧州で先行するサーキュラーエコノミー
2015年、欧州委員会は世界に先駆けてサーキュラーエコノミーに関する行動計画を採択しました。行動計画には、廃棄物法令の改正案やサーキュラーエコノミーに関する研究開発への資金支援が盛り込まれています。
欧州委員会はその後、2020年に「欧州グリーンディール」の一環として、サーキュラーエコノミーのアクションプランを採択しています。アクションプランでは持続可能な製品政策の枠組みが示され、電子機器やバッテリーなどの重点分野が指定されました。
出典:内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) サーキュラーエコノミーシステムの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」
出典:経済産業省 産業技術振興局「成長志向型の資源自律経済の確立」
日本でのサーキュラーエコノミーのロードマップ
日本では2020年に「循環経済ビジョン2020」が策定され、2022年には「循環経済工程表」が公表されました。
循環経済工程表では、素材や製品ごとの徹底的な資源循環を含め、2030年に向けた目指すべき方向性が示されました。たとえば、バイオマス分野では、廃棄物系バイオマスの活用や食品廃棄物ゼロエリアの創出が挙げられています。
あわせて、2050年のサーキュラーエコノミーの達成に向けた方向性も示されました。
出典:経済産業省 産業技術振興局「成長志向型の資源自律経済の確立」
出典:環境省 リサイクル推進室「サーキュラーエコノミー関連の最近の動向」
2050年に向けた日本のサーキュラーエコノミーの方向性
国は2050年のサーキュラーエコノミー達成に向けて、環境的側面・経済的側面・社会的側面からの取り組みの重要性を指摘しています。
たとえば、環境的側面では、3R+Renewableを含むサーキュラーエコノミーへの移行が示されています。3R+Renewableは、これまで取り組まれてきた3R(リユース・リデュース・リサイクル)に、Renewable(再生可能)を加えた考え方です。
また、経済的側面では、サーキュラーエコノミーの関連市場を約80兆円以上とする目標が設定されています。社会的側面では、地域活性化を含む社会的課題の解決、官民が連携した意識改革の必要性が挙げられています。
出典:環境省「令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
サーキュラーエコノミーを推進するメリット
サーキュラーエコノミーの実現は、資源の有効活用により、複数のメリットが想定されています。特に、経済的・環境的な影響は、サーキュラーエコノミーに期待される主なメリットです。
サーキュラーエコノミーに関連する需要が生まれる
国によると、2020年に50兆円であったサーキュラーエコノミーの市場規模は、2030年には80兆円、2050年には120兆円へ達すると試算されています。海外のコンサルティング企業では、2050年には25兆ドルの市場規模になることがレポートで報告されました。
現在の経済システムを転換し、資源を循環させるためには、新たな技術やサービス、システム構築が必要です。サーキュラーエコノミーの推進は、関連する分野やビジネスでの需要創出が期待されています。
出典:経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課「成長志向型の資源自律経済戦略について」
CO2削減につながる
サーキュラーエコノミーが実現すると、投入される化石資源が少なくなります。削減可能なCO2排出量は約36%に上るとする試算もあり、CO2削減につながる点がメリットです。
また、サーキュラーエコノミーでは、製品を長く使い、製品を資源としてリサイクルすることが重要視されています。原料の調達から製造、廃棄までの資源のライフサイクル全体の脱炭素化に貢献し、カーボンニュートラル実現にも役立つでしょう。
出典:脱炭素ポータル「【有識者に聞く】脱炭素社会の実現の要となる循環経済(サーキュラーエコノミー)について」
資源の節約につながる
サーキュラーエコノミーは、製造過程での無駄を省いて資源を再利用することで、資源の節約につながる点がメリットです。天然資源で作られるバージン原料の投入量を抑えられ、大規模な資源採取による環境への影響も抑制できます。
出典:経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課「成長志向型の資源自律経済戦略について」
サーキュラーエコノミーの課題
サーキュラーエコノミーは社会全体のシステムに関わります。そのため、幅広い分野での技術開発が必要な点が課題です。たとえば、金属の資源循環に関わる技術、製造の過程で排出される炭素や窒素の分離・回収技術など、多くの技術開発が求められます。
また、サーキュラーエコノミーの実現には、資源を最適に循環利用するシステム設計が必要です。活動の基盤となるガイドラインや評価の基準となる指標の策定も求められており、現時点では、実現に向けてさまざまな課題が残されています。
まとめ
サーキュラーエコノミーは、資源を循環利用して、廃棄物をできる限りなくすための経済システムです。従来型の大量消費・大量生産型経済システムから転換し、持続可能な成長を図る経済システムとして期待が寄せられています。
サーキュラーエコノミーは、欧州委員会が最初の行動計画を策定した後、日本を始め世界各国で導入が進められています。技術開発やシステム設計などの課題も残されており、今後の動向が注目される取り組みです。
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よくある質問
サーキュラーエコノミーが意味する内容とは?
資源の投入量や消費量を抑え、すでに流通している資源や製品を有効活用しながら、資源を循環させる経済システムです。
サーキュラーエコノミーを詳しく知りたい方は「サーキュラーエコノミーとは」をご覧ください。
サーキュラーエコノミーがもたらすメリットは?
新しいビジネス機会の創出やCO2削減、資源の節約などのメリットが想定されています。
メリットを詳しく知りたい方は「サーキュラーエコノミーを推進するメリット」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。