監修 大柴 良史 社会保険労務士・CFP
2023年12月22日、「こども未来戦略」が閣議決定されました。こども未来戦略とは、子ども・子育て政策を抜本的に強化するための戦略です。
具体的には、児童手当の拡充や大学等授業料・入学金の無償化(多子世帯)などが今後3年間に実施する「加速化プラン」として盛り込まれました。
本記事では、こども未来戦略の概要や決定された背景、具体的な施策を解説します。
企業の実務にもさまざまな影響を与えるため、こども未来戦略への理解を深めたい企業担当者の人はぜひ参考にしてください。
目次
こども未来戦略とは
2023年12月22日、政府によって「こども未来戦略」が閣議決定されました。
こども未来戦略とは、子ども・子育て政策を抜本的に強化し、次元の異なる少子化対策を実現するための戦略です。将来的なこども・子育て政策の大枠とともに、集中取組期間(2024年度からの3年間)に実施すべき「加速化プラン」の内容が示されています。
こども未来戦略決定の背景
こども未来戦略が決定されたのは、急速な少子化・人口減少に歯止めをかけるためです。
厚生労働省によると、日本の出生数(2022年)は80万人を下回っており、過去最少となりました。現在のスピードで少子化が進めば、2060年ごろには50万人を割り込むことが予想されます。
また、少子化は人口減少も加速させており、減少幅は11年連続で拡大しています。人口減少は今後も続き、2060年には9,000万人を割り込む見込みです。
人口減少を食い止めなければ、経済規模の拡大は難しくなり、国際社会での存在感を失うおそれがあります。政府は、若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、状況を反転させられる最後のチャンスだと述べています。
こども未来戦略による抜本的な政策の強化が発表されたのは、このような現状を食い止め、持続的な経済成長を達成するためです。
こども未来戦略の3つの基本理念
こども未来戦略で示している基本理念は、以下の3つです。
こども未来戦略の3つの基本理念
- 若者・子育て世代の所得を増やす
- 社会全体の構造や意識を変える
- すべての子ども・子育て世帯を切れ目なく支援する
3つの基本理念の背景には、少子化対策を行ううえで特に乗り越えるべき大きな課題があります。
乗り越えるべき3つの大きな課題
- 若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない
- 子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある
- 子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する
これらの課題を解決するため、3つの基本理念が掲げられました。3つの基本理念について、以下で詳しく解説します。
①若者・子育て世代の所得を増やす
少子化が進む大きな要因のひとつは、若い世代の未婚化・晩婚化の進行です。
若い世代(18~34歳)のうち、「いずれ結婚するつもり」と考える未婚者の割合は男女ともに8割を超えています。
出典:内閣官房「こども未来戦略」
しかし、多くの若者が結婚や子どもを生み育てることを望みながらも、所得や雇用の不安から将来展望を描くことができなくなっているのが現状です。
そこで、若い世代が現在の所得や将来の見通しをもてるよう、若い世代の所得を増やすことが基本理念として掲げられました。
具体的には、賃上げや男女ともに働きやすい環境の整備・同一労働同一賃金・社会保険適用拡大などに取り組む方針です。
②社会全体の構造や意識を変える
社会全体の意識・雰囲気が出産や育児を躊躇させる状況にあることも、少子化を加速する要因のひとつです。
そこで政府は、子どもや子育て世帯が安心して暮らせるよう、子どもの視点に立った社会を実現する「こどもまんなかまちづくり」を加速する方針を示しました。
また、育児が女性に集中する、男性が育休を取得しにくい雰囲気にあるなど、根強く残る性別役割分担意識から脱却する重要性にも触れています。具体的には、男女ともに気兼ねなく育休を取得できる環境の整備や、長時間労働の是正などに取り組む方針です。
③すべての子ども・子育て世帯を切れ目なく支援する
子育ての経済的・精神的負担感や、子育て世帯の不公平感をなくすには、親の就業形態や家庭状況にかかわらず、ライフステージに沿って切れ目なく支援を行うことが求められます。
そこで政府は、すべての子育て世帯を等しく支援する方針や、妊娠・出産期から0~2歳の支援の強化、多様な支援ニーズへのきめ細かな対応などに取り組む方針を示しました。
こども未来戦略「加速化プラン」の主な施策
政府は、少子化対策が待ったなしの状況であることを踏まえ、2024年度からの3年間で集中的に実施する施策を「加速化プラン」として公表しました。主な施策は以下の通りです。
「加速化プラン」の主な施策
- 児童手当の拡充
- 出産・子育て応援交付金の制度化
- 大学などの教育費負担軽減
- 「こども誰でも通園制度」の創設
- 保育士の配置基準の見直し
- 育児休業の取得促進
- 社会保険の適用拡大
児童手当の拡充
子育てにかかる経済的な支援を強化するため、児童手当制度の拡充が決定されました。拡充の内容は以下の通りです。
児童手当の拡充内容
- 所得制限の撤廃
- 支給期間の延長(高校生年代まで)
- 第3子以降の支給額の増額(月3万円)
- 2ヶ月に1回の支給へ変更(改定前は4ヶ月に1回)
改定時期は2024年10月、拡充後の初回の支給は2024年12月です。3人の子どもがいる家庭では、改定により総額で最大400万円増の1,100万円が支給されます。
出産・子育て応援交付金の制度化
出産の経済的な負担を軽減するため、10万円相当の経済的支援を行う「出産・子育て応援交付金」の制度化が決定しました。妊娠・出産期から2歳までの支援を強化する目的で、妊娠届出時・出産届出時にそれぞれ交付金が支給されます。
区分 | 支給内容 |
---|---|
妊娠届出時 | 5万円相当 |
出産届出時 | 5万円相当×妊娠した子どもの人数 |
制度化後は、「伴走型相談支援」などの支援もあわせて実施されます。さまざまな悩みに応じ、両親学級、産前・産後ケア、一時預かりなどの必要な支援につなげることで、妊娠期からの切れ目ない支援を実施する方針です。
さらに、出産費用を軽減するため、2023年4月より出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられました。
大学などの教育費負担軽減
加速化プランでは、高等教育(大学など)の教育費の負担を軽減するための施策も盛り込まれました。主な施策は以下の通りです。
教育費の負担を軽減するための施策
- 大学授業料等、給付型奨学金を多子世帯へ拡大
- 貸与型奨学金の減額返還制度を利用する際の年収要件などの緩和
- 大学院生を対象とした「授業料後払い制度」の導入(※)
(※)授業料後払い制度とは、在学中は授業料を納めず、卒業後の年収に応じて納付できる制度です。
2025年度からは、子どもを3人以上扶養している場合、大学等授業料・入学金の無償化によって所得制限なく授業料・入学金が2人分以下となります。
「こども誰でも通園制度」の創設
「こども誰でも通園制度(仮称)」とは、月一定時間までの利用可能枠の範囲で、就労要件を問わず柔軟に利用できる新たな通園給付制度です。
「こども誰でも通園制度」が制度化されれば、働いていなくても時間単位などで保育施設を利用できるようになります。子どもが家族以外の人と関わる機会が増えるだけでなく、孤立感・不安感を抱える保護者の負担軽減も期待できるでしょう。
2025年度の制度化を目指し、2023年度から本格実施を見据えた試行的事業が進められています。
保育士の配置基準の見直し
安心してこどもを預けられる体制を整備するため、保育士の配置基準が76年ぶりに見直されました。
見直しによって、2024年度から4歳児・5歳児の職員配置基準が「30:1」から「25:1」に改善されます。ただし、混乱が生じないよう、当分は従来の基準でも運営できるよう経過措置が設けられています。
また、1歳児についても、2025年度以降早期に「6:1」から「5:1」への改善が進められる予定です。
さらに、配置基準の見直しにあわせて保育士の処遇改善も推進する方針を示しています。
育児休業の取得促進
夫の家事・育児関連時間を増やし、共働き・共育てを定着させるため、男性の育休取得を促進する施策が実施されます。
政府は、男性の育児休業取得率の目標(2025年までに30%)を大幅に引き上げ、2030年に85%を達成することを掲げました。
また、ママ・パパ両方の育休取得を促進するための給付率引き上げや、中小企業への助成措置、「親と子のための選べる働き方制度(仮称)」の創設などが給付面の対応として盛り込まれています。
なお、「親と子のための選べる働き方制度」とは、3歳以降小学校就学前の子どもがいる場合に、フレックスタイム制や短時間勤務などの複数の措置の中から労働者が選択できる制度です。
社会保険の適用拡大
パートやアルバイトの人が年収の壁(106万円・130万円)を気にせず働けるよう、引き続き社会保険の適用拡大、最低賃金の引き上げに取り組む方針が示されました。
現行では、従業員数101人以上の企業が社会保険加入の対象ですが、2024年10月からは51人以上の企業が対象となります。
社会保険に加入すると保険料の負担は発生しますが、出産手当金を受け取れる、老齢年金が充実するなど手厚い保障が受けられます。
まとめ
こども未来戦略とは、2023年12月22日に政府が閣議決定した、次元の異なる少子化対策を実現するための戦略です。
2024年度からの3年間で集中的に取り組むべき施策を盛り込んだ「加速化プラン」は、3.6兆円程度の予算規模をもって実行されます。
今後数年間のうちに、児童手当の拡充や多子世帯の大学等授業料・入学金の無償化などの政策が始まり、企業の実務にもさまざまな影響を与えることが予想されます。こども未来戦略の概要や具体的な施策内容への理解を深めておきましょう。
よくある質問
こども未来戦略とは?
こども未来戦略とは、子ども・子育て政策を抜本的に強化し、次元の異なる少子化対策を実現するために政府が発表した戦略です。
こども未来戦略の概要を詳しく知りたい方は「こども未来戦略とは」をご覧ください。
こども未来戦略の具体的な施策は?
こども未来戦略では、2024年度からの3年間で集中的に実施する施策として「加速化プラン」を公表しました。主な施策は以下の通りです。
「加速化プラン」の主な施策
- 児童手当の拡充
- 出産・子育て応援交付金の制度化
- 大学などの教育費負担軽減
- 「こども誰でも通園制度」の創設
- 保育士の配置基準の見直し
- 育児休業の取得促進
- 社会保険の適用拡大
こども未来戦略の具体的な施策を詳しく知りたい方は「こども未来戦略「加速化プラン」の主な施策」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。