監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
2022年の法改正により、男性が育児休業を取りやすくなる施策が始まりました。育児休業は、従業員が仕事と家庭の両立のために利用できる制度です。
しかし日本では育児休業は女性が取得する制度という意識が今も根強く、男性が取得しやすいように国をあげて環境整備が進められています。
この記事では、2022年度の法改正の内容を交えながら、男性の育児休業取得について育児休業制度の概要をわかりやすく解説します。
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目次
育児休業は男性も取得できる?
育児休業は男性も取得できます。育児休業とは、仕事と育児の両立を支援するために、子どもを養育する従業員が性別に関わらず取得できる育児休業制度です。
育児・介護休業法にもとづき、従業員から会社に申し出によって、原則として産休後から子どもが1歳に達するまで取得可能です。
取得要件は子どもが1歳半になるまでに雇用契約を終える予定がない場合に、契約社員やパートなどの有期契約の従業員も対象です。
要件を満たしていれば、共働き家庭ではなく配偶者が専業主婦・主夫であっても取得可能です。2022年4月1日からは、取得直前に1年以上の継続した雇用という要件が原則撤廃となりました。
また、以前は育児休業の期間はまとめて1回でしたが、2022年10月からは2回に分割して取得できます。
育児休業を利用中は会社に給与支払いの義務はありません。従業員の収入面の不安は、育児休業を取得し、支給要件を満たした場合に申請が可能な育児休業給付金でカバーされます。
育児休業給付金の受給額は開始後180日間が休業開始時賃金日額の67%、それ以降が50%です。給付金は非課税であるうえ、会社を通じて年金事務所に申出書を提出すると社会保険料が免除されるため、実際の受け取り額は手取りの約6~8割が目安と言われています。
男性が取得できる育児休業期間
育児休業の取得可能期間は原則として子どもが1歳になるまでで、入園する保育園が決まらないなど一定の要件を満たすと最長2歳まで延長可能です。
また、2022年の法改正では1歳以降の期間延長への対応が柔軟になり、1歳時点と1歳半時点での取得状況を基準に、男性と女性が交代で育児休業を取れるようになりました。この改正では配偶者の病気など特別な事情による再取得も認めています。
男性・女性とも育児休業を取得する場合には、1歳2ヶ月に達するまで取得可能期間が延びるパパ・ママ育休プラスと呼ばれる特例もあります。いずれかが先に取得を開始しているなど条件を満たしたときに適用されます。
産後パパ育休が男性の育児休業取得を後押し
2022年10月から新たに始まった制度が産後パパ育休です。子どもの出生後8週間以内、つまり母親の産休中に、父親が育児休業とは別に最長4週間まで休業できます。
産後パパ育休が始まるまでに、パパ休暇と呼ばれる育児休業制度の特例がありました。どちらも産後8週間以内に取得できる男性の育児休業に関する仕組みですが、パパ休暇は産後8週間以内に育児休業を利用したときに2回目の取得を可能とする特例でした。
しかし、産後パパ育休は男性向けの新たな育児休業制度です。2回に分割して取得できるため、通常の育児休業とあわせて計4回に分けて休業できます。
また、産後パパ育休の申出期限は、原則休業の2週間前まででしたが、法改正により雇用環境などの整備を労使協定で取り決めている場合、1ヶ月前までとできるようになりました。
産後パパ育休で会社を休むと出生時育児休業給付金の対象となります。支給要件は育児休業給付金と同じで休業開始時賃金日額×休業日数の67%を受け取れるので、休業中に収入が途絶える心配もありません。
ただし産後パパ育休では利用中の就業も認められているため、たとえば28日の休業中に10日(80時間)を超えて働いたときなど、就業日数によっては支給対象外となる場合もあります。
男性の育児休業取得率
厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、育児休業の取得率は女性が80%台で推移しているのに対し、男性は少しずつ増えてはいるものの2021年時点で13.97%とまだ低いのが現状です。
また、育児休業の取得期間も、女性は95%以上が半年以上なのに対し、男性の51.5%は2週間未満、うち25.0%は5日未満と、大半が数日程度の利用にとどまっています。
一方で、育児休業を取得したいと考える男性のうち実際に取得できた男性の割合は19.9%で、取得できなかった割合は37.5%にのぼります。男性が育児休業を取得しなかった理由には、収入面の不安の他、職場の雰囲気や担当する仕事の都合などが多く挙げられています。
男性の育児休業取得率を上げるには、利用しやすい制度の導入、職場の雰囲気づくりや環境整備、社会全体の意識改革が必要だと考えられます。
2022年法改正では男性の育児休業取得促進が義務化
2022年法改正では男性の育児休業取得促進が義務化されました。男性の取得義務を定めた改正ではなく、会社に従業員への取得促進を義務づけた改正です。
2022年法改正
- 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備、取得に関する個別の周知・意向確認の措置
- 大企業(常時雇用の従業員1,000人超)に対する育児休業取得状況を年1回公表
- 算定期間である公表前事業年度の明示
- 算出方法(「①育児休業等の取得割合」又は「②育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれか)の明示
公表する割合は、算出された割合について小数第1位以下を切り捨てた数字とされています。
取得促進の対象は男性に限りませんが、これらが細かく義務化され、職場での男性の育休取得に対する行動や意識、サポート体制への変化が期待されます。
義務化により男性の育児休業を進める背景
これまでも行われてきた育児休業への取り組みが法によって義務化された背景には、急速に進む少子高齢化への懸念があります。
少子高齢化が続くと次世代の負担が重くなり、年金や医療などの社会保障制度の維持が危うくなります。安定した社会を実現するには、安心して子どもを産み育てるための環境づくりが欠かせません。
現状、育児や家事の負担は女性に偏りがちです。それが女性の出産意欲低下につながり、少子高齢化の一因になっていると考えられています。
男女の偏りを改善し、育児参加に意欲のある男性の希望を叶えるためにも、男性の育児休業取得は優先順位の高い課題と言えます。男性の積極的な育児休業取得は、女性の出産意欲の向上や仕事の継続を促進し、少子化対策や働き方改革にもなります。
政府は、2025年までに男性の育児休業取得率を30%とする目標を掲げています。法による育児休業取得促進の義務化により、ワーク・ライフ・バランスの実現が期待されます。
男性の育児休業取得推進による会社側のメリット
育児休業を取得する男性が増えると会社側にもさまざまなメリットがあります。
男性の育児休業取得の割合が高まると、職場や関連企業で男性の育児参加に対する理解が深まり、職場環境の整備や生産性の向上が求められるため、働き方改革にもつながります。従業員ごとに異なるライフスタイルや働き方など多様性を受け入れる環境も作られるでしょう。
実務では、休業に入る前の引継ぎで業務の棚卸しや個人が請け負う仕事の見える化となり、業務内容の整理や仕事の属人化防止に役立ちます。
また、育児のために残業を減らすなどの努力が長時間労働を改善し、人件費の抑制とともに効率的な業務の実現も望めます。
さらに、従業員に配慮した取り組みを公表すれば、会社のイメージアップにもなります。新たな人材確保が容易になったり、離職率の低下によるノウハウを蓄積しやすくなったりと、従業員のモチベーションアップや安定した経営にも影響するでしょう。
育児休業取得に必要な手続き
育児休業を利用するには、従業員から会社への申し出が必要です。育児休業制度は休業開始予定日の1ヶ月前までに、育児休業申出書など所定の書面で申し出ます。会社が認めていれば書面以外の方法も可能です。また、期間延長の申し出は延長開始予定日の2週間前までとされています。
産後パパ育休も基本は通常の育児休業制度と同じですが、従業員からの申し出期限は原則休業開始予定日の2週間前までです。
ただし、産後パパ育休は子どもの出生日から取得となり、申し出た時点では休業開始日が不確かです。そのため、実際の出生日を基準に育休期間をカウントし、出産予定日より早く生まれた日数は追加されます。
会社は従業員からの申し出が遅れたからと言って、育児休業取得を拒否できません。しかし、育児休業制度の申し出が休業開始予定日まで1ヶ月未満だった場合、会社が開始日を指定できます。
育児休業取得に伴う育児休業給付金などの支給申請や社会保険料の免除に必要な手続きは、原則として、従業員からの申し出を受けて会社が行います。
従業員の育児休業取得で会社が行う手続き
従業員から育児休業取得の申し出を受けたのち、会社はおおむね2週間以内に育児休業取扱通知書を従業員に交付します。通知書には申し出を受けた事実、育児休業の開始予定日と終了予定日を明記します。拒否する場合には、法に基づく正当な理由を記載します。
育児休業中に支給される出生時育児休業給付金(産後パパ育休)、育児休業給付金(通常の育児休業制度)の申請も、通常、会社が行います。
それぞれの給付金ごとに所定の支給申請書を用意し、事業所を管轄するハローワークへの提出もしくは電子申請により手続きします。申請には従業員の休業開始時賃金月額証明書、賃金台帳、母子健康手帳などの添付書類も必要です。
出生時育児休業給付金の申請時期は、子どもの出生日(予定日より早く生まれたときは出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から申請可能となり、当該日から2ヶ月を経過する日の属する月末までです。
育児休業給付金の申請は、初回が育児休業の開始日から4ヶ月を経過する日の属する月末まで、2回目以降はハローワークが指定する支給申請日で、原則として2ヶ月に一度です。
育児休業中の社会保険料免除の手続きは育児休業中または、育児休業などの終了日から起算して1ヶ月以内に、事業所を管轄する年金事務所に申請書類を提出もしくは電子申請で行います。
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まとめ
育児休業は男性も取得できますが、育児や家事の負担は女性に偏り、男性の取得率は低いのが現状です。
少子高齢化を背景に、2022年の法改正では産後パパ育休の新設など男性の育児休業取得を促進する施策が始まっています。今後増加すると予想される男性の育児休業取得に対して、会社がスムーズに対応できるよう、環境の整備が大切です。
よくある質問
育児休業は男性も取得可能?
育児休暇は男性でも取得できます。2022年の法改正では1歳以降の期間延長への対応が柔軟になり、1歳時点と1歳半時点での取得状況を基準に、男性と女性が交代で育児休業を取れるようになりました。
男性の育児休暇の取得可否について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
男性の育児休業取得率は?
厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は2021年時点で13.97%でした。女性に比べてまだ低いのが現状です。
男性の育児休暇取得率について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。