監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

子育て中で時短勤務にしていると、収入が減るため、毎月の社会保険料も少なくなります。社会保険料は老後の年金額に影響するため、結果的に年金が下がることがあります。
しかし、養育特例(標準報酬月額のみなし措置)の適用を受ければ老後に受け取る年金額は下がりません。養育特例とは、3歳未満の子どもを育てている人の年金が減らないようにするための制度です。
本記事では、養育特例の要件やメリット、申請手続きのやり方や添付書類、2025年の改正内容をわかりやすく解説します。
目次
養育特例とは「子を養育する前の高い標準報酬月額で年金額を計算する制度」
養育特例とは、会社員や公務員が子育てをしている場合に、老後に受け取る年金が減らないようにするための制度です。
会社員や公務員が老後に受け取る老齢厚生年金は、働いていたときに納めた保険料をもとに年金額が決まります。
子育て中に時短勤務にして収入が下がれば、給与額をもとに決まる社会保険料の等級(標準報酬月額)が下がって毎月納める保険料が減り、老後の年金が減ることがあります。
しかし、養育特例の適用を受ければ、子育て中に毎月納める社会保険料が減っても老後の年金は減りません。老齢厚生年金の年金額は、子の養育開始以降の低い標準報酬月額ではなく、養育開始前の高い標準報酬月額をもとに計算されます。
夫婦で共働きの場合は、後述する適用要件を満たせば夫婦それぞれで養育特例の適用を受けられます。
出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
出典:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
養育特例の適用要件
養育特例の対象となる期間は「3歳未満の子の養育開始月」から「養育する子の3歳誕生日のある月の前月」までです。養育特例の適用を受けるためには以下の要件を満たす必要があります。
養育特例の適用要件
- 厚生年金保険の被保険者または被保険者であった者で3歳未満の子を養育している
- 子の養育期間中の各月の標準報酬月額が養育開始月の前月の標準報酬月額を下回っている
- 「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出している
出典:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
「3歳未満の子」とは同居の子を指し、子が社会保険の扶養に入っているかどうかは関係ありません。実子だけでなく養子も対象です。
養育開始月の前月に厚生年金保険の被保険者でない場合でも、その月から1年以内に被保険者であった月があれば特例を適用できます。1年以内に被保険者期間がなければ、本特例の適用は受けられません。
養育特例は要件を満たす者に自動的に適用されるわけではなく、適用するには手続きをする必要があります。過去2年以内であればさかのぼって申請が可能です。
本特例制度を利用する人は、事業主経由で「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を年金事務所に提出します。退職済の人は、元勤務先経由ではなく自分で特例申出書を提出してください。
養育特例のメリット
養育特例の主なメリットは以下の4つです。
養育特例のメリット
- 将来の年金額が増える
- 毎月支払う社会保険料は上がらない
- 過去2年分まで申請できる
- 扶養に入っていない子どもや養子も対象になる
将来の年金額が増える
会社員や公務員が老後に受け取る老齢厚生年金の年金額は、現役時代の月給額に応じて決まる標準報酬月額をもとに計算します。
子育て期間中に時短勤務などで収入が下がって標準報酬月額が下がれば、通常は老後の年金額も下がります。しかし、養育特例の適用を受ければ標準報酬月額は下がらないので、実質的に将来の年金額が増える点がメリットです。
毎月支払う社会保険料は上がらない
養育特例の適用を受けると、老後の年金額を計算する際の標準報酬月額は高くなりますが、子育て期間中に納める社会保険料の金額を判定する際の標準報酬月額は高くなりません。
過去2年分まで申請できる
養育特例は、子の養育を開始したときに申請すれば、子の3歳誕生日のある月の前月まで適用を受けられます。ただし、申請を忘れていた場合でも過去2年分は申請が可能です。
「特例の適用を申請する日の前月までの2年間」はさかのぼって適用でき、退職後でも過去2年分であれば申請できます。
出典:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
扶養に入っていない子どもや養子も対象になる
養育特例の対象となる子とは、「3歳未満」でかつ「特例の適用を受ける人と同居している子」です。子が社会保険の扶養に入っているかどうかは要件ではありません。
たとえば、共働き世帯で子が両親の一方の扶養に入っている場合、夫婦ともに養育特例の要件を満たせば、扶養に入れていないほうの親含めて夫婦両方で特例を適用できます。
また、実子だけでなく養子も対象です。
出典:日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
養育特例の適用を受けるときの手続きのやり方
会社員や公務員が養育特例の適用を受ける場合は勤務先が手続きを行い、退職済の人は自分で手続きを行います。
以下では、年金事務所に提出する特例申出書の記入方法や提出時に必要になる添付書類について解説します。
申出書の記入方法
「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の用紙は日本年金機構のサイトからダウンロードできます。以下は特例申出書の記入例です。
記入例の画像に番号を付した各項目の書き方は以下の通りです。
記入方法 | |
---|---|
1 | 事業主が当届書を年金事務所または事務センターへ提出する日を記入 |
2 | 事業所整理記号を必ず記入 |
3 | 事業所の所在地・名称等を記入 特例の適用を受けようとする期間に勤務していた事業所を退職していて、当届書を被保険者自身が提出する場合、提出者記入欄の記入は不要 |
4 | 被保険者が当届書を事業主に提出する日付または事業主が被保険者本人の届出意思を確認した日付を記入 被保険者が特例の適用を受けようとする期間に勤務していた事業所を退職している場合、年金事務所または事務センターへ提出した日を記入 |
5 | 特例の適用を受ける被保険者の氏名、住所を記入 |
6 | 被保険者整理番号を必ず記入 |
7 | マイナンバーカードや基礎年金番号通知書等を確認し、個人番号または基礎年金番号(10桁、左詰め)を記入 |
8 | 養育する子の氏名・生年月日・個人番号を記入 |
9 | 事業主が戸籍謄(抄)本等で申出者と養育する子の身分関係を確認した場合、「□確認済み」にチェック |
10 | 〈⑧の子について初めて「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出する場合〉 「はい」を○で囲む 〈⑧の子について以前に「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出し、申出が受理されたことがある場合〉 「いいえ」を○で囲む |
11 | 養育開始日を記入 |
12 | 〈3歳未満の子を養育する者が新たに被保険者資格を取得した場合〉 「資格取得年月日」を記入 〈3歳未満の子を養育する被保険者が育児休業等を終了した場合〉 「育児休業等を終了した日の翌日」を記入 〈3歳未満の子を養育する被保険者が産前産後休業を終了した場合〉 「産前産後休業を終了した日の翌日」を記入 〈3歳未満の子を養育する被保険者がこの申出に係る子以外の子について適用されていた特例措置が終了した場合〉 「特例措置終了年月日の翌日」を記入 |
提出する添付書類の種類
養育特例の申請手続きでは、「申出者と子の身分関係を証明できる書類」として「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」の提出が必要です。ただし、以下のいずれかに該当する場合には提出する必要はありません。
- 事業主が戸籍謄(抄)本等で申出者と養育する子の身分関係を確認し、「□確認済み」にチェックを入れた場合
- 申出者と養育する子に日本の戸籍があり、申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されている場合
また、「子の生年月日および要件に該当した日に申出者と子が同居していることを確認できる書類」として「住民票の写し」の提出が必要です。ただし、申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されていれば提出は不要です。
このほか、養育する子が養子の場合や、特例の適用を受ける人が退職後に自分で手続きをする場合は、追加で添付書類が必要になることがあります。添付書類の詳しい内容は日本年金機構のサイトを参照してください。
【2025年】養育特例の改正内容
従来、養育特例の適用者と子の身分関係を証明するためには、戸籍謄(抄)本等の提出が必要でした。しかし、2025年1月1日からは、事業主がその身分関係を確認した場合、申請手続きの際に証明書類の添付は不要となりました。
この変更は、申請時の添付書類に関する改正によるもので、養育特例の申請手続きをよりスムーズに行えるようにすることを目的としています。
出典:厚生労働省「厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令の公布について(通知)」
まとめ
子育てに伴って時短勤務にしたり残業代が減ったりした場合、納める社会保険料が減って将来の年金が減ることがあります。しかし、養育特例を適用すれば老後の年金額は下がりません。
特例を適用しても毎月納める社会保険料は上がらず、共働き世帯では要件を満たせば夫婦ともに適用を受けられます。過去分でも2年間はさかのぼって申請が可能です。
養育特例の対象となるのは、3歳未満の子の養育開始月から養育する子の3歳誕生日のある月の前月までです。対象となる子がいる人は、勤務先を経由して手続きを行うようにしてください。
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よくある質問
養育特例とは?
養育特例とは「子を養育する前の高い標準報酬月額で年金額を計算する制度」です。
養育特例について詳しくは「養育特例とは「子を養育する前の高い標準報酬月額で年金額を計算する制度」」をご覧ください。
養育特例のメリットは?
養育特例のメリットは、将来受け取る年金額が下がらないことです。
養育特例のメリットについて詳しくは「養育特例のメリット」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。
