監修 羽場 康高 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
2022年から2023年にかけて育児・介護休業法が改正されました。本記事では改正内容や企業経営者・人事担当者に求められる対応を解説します。
育児・介護休業法の改正は段階的に行われたので、いつどのように改正されたのか確認して、就業規則・労使協定の改定や従業員への周知など必要な対応を行うようにしてください。
また、2024年度税制改正大綱には、児童手当やひとり親控除など子育て支援に関する変更案が盛り込まれました。税制改正のポイントを確認し、今後の動向も注目しておきましょう。
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目次
- 育児・介護休業法とは?
- 育児・介護休業法改正のポイント
- 1.個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境整備の措置の義務化(2022年4月~)
- 2.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月~)
- 3.産後パパ育休の創設(2022年10月~)
- 4.育児休業の分割取得(2022年10月~)
- 5.育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月~)
- 育児・介護休業法改正の背景
- 育児・介護休業法の改正に伴って企業が取るべき対応
- 就業規則や労使協定を改定する
- 改正後の育児・介護休業法の内容を従業員に周知する
- 法改正の内容を踏まえた適切な雇用管理・記録の保存を行う
- 2024年度税制改正の子育て支援に関するポイント
- 児童手当の拡充
- 住宅ローンの減税に関する優遇措置
- ひとり親控除の拡充
- 社会保険に関する業務を円滑にする方法
- まとめ
- よくある質問
- 育児・介護休業法とは?
- 育児・介護休業法が改正された背景は?
育児・介護休業法とは?
育児・介護休業法とは、育児や介護を行うために休業する労働者への支援措置によって、労働者が退職せずに済むようにし、雇用の継続を図ることを目的とした法律です。
労働者が仕事と家庭を両立できるように、育児休業や介護休業を取得できる人の条件や取得期間、残業の制限などが定められています。
育児・介護休業法は、これまでに休業の取得条件や、休暇の取得単位の緩和など、時代の変化にあわせて何度か改正が行われてきました。
労働者が育児休業・介護休業を今まで以上に取りやすい環境を整備するため、2022年から2023年にかけても改正が行われています。
育児・介護休業法改正のポイント
2022年から2023年にかけての育児・介護休業法改正のポイントは主に5つです。
育児・介護休業法改正のポイント
1. 個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境整備の措置の義務化(2022年4月~)2. 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月~)
3. 産後パパ育休の創設(2022年10月~)
4. 育児休業の分割取得(2022年10月~)
5. 育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月~)
1.個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境整備の措置の義務化(2022年4月~)
労働者から本人または配偶者の妊娠・出産等の申し出があった場合、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と、休業取得の意向確認の措置を行わなければなりません。
周知が必要な事項
● 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する制度(例:制度の内容など)● 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)の申出先(例:人事部など)
● 育児休業給付に関すること(例:制度の内容など)
● 労働者が育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)期間に負担すべき社会保険料の取り扱い
これらの意向確認の措置は、「①面談(オンライン可)」「②書面交付」「③FAX」「④電子メール等」のいずれかの方法で行わなければいけません。ただし、このうち③と④は労働者が希望した場合に限ります。
また、日々雇用される者を除き、有期雇用労働者(※)も個別周知・意向確認の対象です。配偶者には事実婚も含みます。
個別周知・意向確認は、育児休業等の申出が円滑に行われるようにする目的があります。たとえば、申出をしないように威圧する、不利益な取り扱いをほのめかす、取得の前例がないと強調するなど、取得を控えさせるように仕向けてはいけません。
(※)有期雇用労働者:事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者(アルバイト・契約社員など)
2.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月~)
2022年4月から、期間を定めて雇用される労働者(有期雇用労働者)の育児休業と介護休業の取得要件が緩和されました。
2022年3月までは、有期雇用労働者に対して、育児休業・介護休業にはそれぞれ2つの要件があり、どちらも満たさなければなりませんでした。
項目 | 育児休業取得要件 | 介護休業取得要件 |
雇用期間 | 引き続き雇用された期間が1年以上 | 引き続き雇用された期間が1年以上 |
契約満了の明確性 | 1歳6ヶ月までの間に契約が満了でないことが明らか | 介護休業開始から93日経過後~6ヶ月以内に契約が満了でないことが明らか |
2022年4月からは、育児休業・介護休業いずれも雇用期間の要件が撤廃され、無期雇用労働者と同様の取り扱いとなっています。
なお、「契約が満了することが明らかでない」という判断ポイントは、契約の更新がないことが確実であるか否かによって判断されます。そのため、「更新しない」旨の明示をしていない場合は、原則「契約の更新がないことが確実」とは判断されません。
引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は、労使協定の締結により休業対象からの除外が可能で、取得の申し出を拒否できます。
3.産後パパ育休の創設(2022年10月~)
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、子の出生後8週間以内に4週間まで男性が育休を取得できる制度です。
子の出生直後の時期は男性の育児休業取得ニーズが高いため、従来の育児休業よりも柔軟で休業を取得しやすい枠組みとして設けられました。
産後パパ育休の対象者や取得期間は上記の表の通りで、通常の育児休業とは別で取得できます。
産後パパ育休は2回に分けて取得できます。労使協定を締結している場合は休業中に働くことができますが、原則は「働かない」です。就業を認めない取り決めもでき、働かない場合は労使協定の締結は不要です。
なお、休業中の就業日数等には上限があり、休業中の就業日数次第では育児休業給付や社会保険料免除の要件を満たさなくなる可能性があります。
【関連記事】育児休業は男性も取得可能?2022年法改正とあわせて制度の概要を解説
【関連記事】産休中の社会保険料は免除になる?手続き方法や注意点をわかりやすく解説
4.育児休業の分割取得(2022年10月~)
2022年9月まで、育児休業は原則1回しか取得できませんでしたが、2022年10月から分割して2回取得可能になりました。
ただし、分割できるのは子が1歳までです。1歳6ヶ月や2歳までの育児休業では分割できません。
また改正前は、1歳以降の育児休業の開始日が各期間の初日に限られていました。
育児休業期間 | 育児休業開始日 |
1歳から1歳6ヶ月まで | 1歳到達日の翌日 |
1歳6ヶ月から2歳まで | 1歳6ヶ月到達日の翌日 |
各期間の初日でしか夫婦で育児休業の交代ができませんでしたが、改正後では育児休業期間の途中でも夫婦で交代が可能です。
ただし、本人と配偶者の育児休業に切れ目がない必要があります。
5.育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月~)
常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主に対し、育児休業等の取得状況の公表が2023年4月から義務化されました。
公表を行う日の属する事業年度(会計年度)の直前の事業年度(公表前事業年度)に、年1回男性の育児休業取得状況を公表しなければなりません。
公表が必要な情報は以下のいずれかです。
公表する男性の育児休業取得状況
● 育児休業等の取得割合● 育児休業等と育児目的休暇の割合
男性の育児休業取得状況を公表の方法
● 自社のホームページ等● 厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」 など
育児・介護休業法改正の背景
育児・介護休業法改正の背景には、男性の育児休業の取得率の低さがあります。
厚生労働省の調査結果によれば、育児休業取得率は男女で大きな差があり、2021年度の取得率は女性が85.1%に対して男性は13.97%でした。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」
仕事と育児を両立できるよう、希望に応じて男女ともに育児休業を取りやすい環境を整備するためには、男性の育児休業取得率を向上させるための取り組みが不可欠です。
また、同調査によると男性労働者のうち、育児休業制度の利用を希望していたものの利用できなかった割合は約4割にもなります。
労働者の休業取得の希望が十分にかなっていない現状があり、特に出生直後の時期に休業の取得ニーズが高い状況です。より柔軟に育児休業を取得しやすい枠組みを設ける必要があるとして、一連の法改正が行われました。
育児・介護休業法の改正に伴って企業が取るべき対応
対応漏れがあると、法令違反や労使間のトラブルの原因になります。以下では、法改正にともなって、企業の経営者や人事担当者が取るべき対応を解説します。
就業規則や労使協定を改定する
法改正にあわせて就業規則や労使協定の改定が必要になる場合があるため、まずは改定が必要な項目を洗い出すようにしてください。
たとえば就業規則に育児休業・介護休業の取得対象者の要件を「引き続き雇用された期間が1年以上」と記載している場合は削除する必要があります。
法改正によって有期雇用労働者に対しても雇用期間の要件が撤廃されたため、問題が生じかねません。
就業規則や労使協定を改定する際には、以下のような手続きが必要です。
就業規則や労使協定の改定に必要な手続き
● 改定項目の洗い出し● 就業規則への反映
● 労働者の代表等への意見聴取
● 労使協定の締結
● 労働基準監督署への届出 など
改正後の育児・介護休業法の内容を従業員に周知する
改正が行われ、法律が変わった旨は従業員へ周知しなければなりません。
育児・介護休業法の内容を従業員が正しく認識しておかないと、トラブルにつながるおそれがあります。
また育児・介護休業法の内容を従業員に説明する管理職・役員等が法律の内容を理解していないと、従業員に誤った説明をしてしまう可能性も生じます。
出産や育児等による従業員の離職を防ぎ、仕事と育児等を両立できる社会を実現するためにも、法律の内容は管理職・役員等も含めて周知しましょう。
法改正の内容を踏まえた適切な雇用管理・記録の保存を行う
従業員が育児休業や介護休業を取得するにあたり、企業は取得対象者や取得日数などを把握しなければなりません。
育児休業や介護休業をどの従業員がいつから取得するのか、現在何日取得していて残日数はどれくらいか、管理するようにしてください。
また、従業員数が1,000人を超える企業では育児休業取得率を公表しなければなりません。取得率の計算の基礎となる取得日数等の適切な記録・管理が大切です。
2024年度税制改正の育児関連のポイント
2024年税制改正大綱で子育て世帯に対する複数の優遇が盛り込まれました。育児に関する2024年度税制改正の変更ポイントは以下の通りです。
● 児童手当の拡充
● 住宅ローンの減税に関する優遇措置
● ひとり親控除の拡充
各ポイントの詳細を解説します。
児童手当の拡充
児童手当は、中学卒業までの児童を養育している人に支給される手当です。従来の児童手当には所得制限があり、一定の所得を超えると減額もしくは支給されなくなっていました。
2024年度からは支給対象が18歳までの高校生に拡大され、第3子以降は3万円に増額され、所得制限は撤廃されます。
また、これまで年3回(2月・6月・10月)4ヶ月分ずつ支給されていたものが、年6回(偶数月)2ヶ月分ずつに支給頻度を増やす予定です。
一方で16歳から18歳までの扶養控除額が所得税は38万円から25万円に、住民税は33万円から12万円に引き下げられます。
そのため高校生を扶養している人は、所得税や住民税の納税額が増える可能性がありますが、児童手当の拡充により実質的には手取りが増えるように設計されています。
住宅ローンの減税に関する優遇措置
住宅ローン控除とは、正式には「住宅借入金等特別控除」といい、税額控除のひとつです。税額控除は、所得税額から一定額を差し引く制度です。
個人がローンなどを利用してマイホームの新築・取得・増改築などを行い、一定の要件を満たす場合、住宅ローン控除を受けられます。
住宅ローン控除の減税対象となる借り入れ限度額は、2024年の入居分から上限が引き下げられています。
住宅の種類 | 借り入れ限度額 |
認定住宅 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 |
しかし、2024年度税制改正では、18歳以下の扶養親族を有する子育て世帯や夫婦のどちらかが、39歳以下の世帯は上限の引き下げを見送ることになりました。2024年の入居分は2022年・2023年の水準で維持されるため以下の通りに優遇されます。
住宅の種類 | 借り入れ限度額 |
認定住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
認定住宅では500万円、ZEH水準省エネ住宅と省エネ基準適合住宅では1,000万円が上乗せされます。
また、床面積要件の緩和措置(通常は50㎡以上が、合計所得1,000万円以下の場合に限り40㎡以上に緩和)が2024年末まで延長されることになりました。
ひとり親控除の拡充
ひとり親控除に関しては、所得税の控除額が35万円から38万円に、住民税の控除額は30万円から33万円に引き上げられます。
また現行のひとり親控除は合計所得金額500万円以下の所得制限がありますが、1,000万円以下に緩和されます。
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まとめ
2022年から2023年にかけて育児・介護休業法が段階的に改正され、従業員にも企業にもさまざまな影響が生じています。
いつからどのように制度が変わったのか、改正内容の正しい理解が大切です。
就業規則・労使協定の改定や従業員への周知など、必要な対応に漏れがあると法令違反や労使間トラブルの原因になる可能性があります。法改正への対応は迅速かつ適切に行うようにしましょう。
また企業経営者や人事担当者は法改正が行われた背景も理解して、育児休業や介護休業の取得率向上に向けた取り組みが重要です。
休みを取りやすい雰囲気作りや、仕事と家庭を両立できる環境の整備が従業員の就労意欲の向上や企業の発展につながります。
よくある質問
育児・介護休業法とは?
育児休業及び介護休業に関する制度ならびに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を定めた法律です。
育児・介護休業法を知りたい方は「育児・介護休業法とは?」をご覧ください。
育児・介護休業法が改正された背景は?
男性の育児休業取得率が伸びず、より柔軟に育児休業を取得しやすい枠組みを設ける必要性が高まり、法改正が行われました。
育児・介護休業法が改正された背景を詳しく知りたい方は「育児・介護休業法改正の背景」をご覧ください。
監修 羽場康高(はば やすたか) 社会保険労務士・1級FP技能士・簿記2級
現在、FPとしてFP継続教育セミナー講師や執筆業務をはじめ、社会保険労務士として企業の顧問や労務管理代行業務、給与計算業務、就業規則作成・見直し業務、企業型確定拠出年金の申請サポートなどを行っています。