監修 松浦絢子 弁護士
2023年9月にAmazon配達員が労災認定されました。原則として労災保険は、企業と雇用契約を結んでいる労働者を対象者とした制度です。
本来、個人事業主は基本的に認定や給付の対象になりません。しかし、Amazon配達員のような個人事業主でも労災認定されるケースがあります。
労災保険の仕組みを正しく理解し、労災認定の対象になる場合には申請手続きを忘れずに行うようにしましょう。
本記事では、Amazon配達員が労災認定された件の概要や、労災認定されるための要件を解説します。
目次
労基署がAmazon配達員の怪我を労災認定
Amazon配達員が階段から落ちて腰を骨折した事案で、横須賀労働基準監督署が2023年9月に労災として認定しました。
本事案の配達員は、Amazonの下請会社と業務委託契約を結んで商品配達業務を行っていたため個人事業主にあたりますが、労災として認定されました。
労災認定の対象となるのは、原則企業と雇用契約を結んでいる労働者なので、Amazon配達員のような個人事業主は通常、労災認定の対象になりません。
しかし、契約形式が業務委託契約や請負契約になっているだけで、実態としては労働者と同じように働いている場合、雇用契約を結んでいる労働者と同様に労災保険の対象にして保護すべきです。
そのため、業務委託契約等で仕事をしている個人事業主でも、労働者性が認められると労災認定される場合があります。今回のAmazon配達員が怪我をした事案でも、労働者性が認められて労災認定されたものと考えられます。
労災保険とは?
労災保険とは、業務中や通勤時に労働者が負傷・疾病・障害または死亡した場合に、労働者やその遺族のために必要な給付を行う制度です。
業務中にケガをして治療費がかかった場合や、療養のため働けず賃金を受けられない場合などに労災保険から給付を受けられます。
【労災保険の主な給付】
療養(補償)給付 | 業務災害・通勤災害による傷病で治療が必要な場合、原則として傷病が治ゆするまでの間、無料で治療を受けられる |
休業(補償)給付 | 業務災害・通勤災害による傷病の療養のため働けず賃金を受けられない場合、休業4日目から給料の80%相当額が支給される |
障害(補償)給付 | 業務災害・通勤災害による傷病が治癒した後に障害が残った場合、年金や一時金が支給される |
遺族(補償)給付 | 業務災害・通勤災害により労働者が死亡した場合、遺族に対して年金や一時金が支給される |
労災保険の対象になる労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で賃金を支払われる者」です。企業と雇用契約を結んでいる労働者であれば労災保険の対象になります。正社員やアルバイト、パートタイマーなどの雇用形態は関係ありません。
個人事業主が労災認定されるための「労働者性」とは
労災保険は、企業と雇用契約を結んでいる労働者を対象とした制度なので、企業と業務委託契約を結んでいる個人事業主は原則として対象外です。
ただし、個人事業主や一人親方などが業務委託契約や請負契約などで働いている場合でも、実態としては労働者にあたる場合には労災保険の対象となります。労災保険の対象になるかどうかは、契約形態によって形式的に決まるものではありません。
実態で判断されるので、労働者性が認められればAmazon配達員のような個人事業主でも、労災認定されることがあります。
労働者性を判断する際の主な基準は以下の通りです。労働者性の有無の判断はさまざまな要素を総合的に考慮して行われます。
労働者性の判断基準
● 仕事の依頼や業務従事の指示などに対する諾否の自由の有無● 業務遂行上の指揮監督の有無
● 拘束性の有無
● 代替性の有無
● 報酬の労務対償性
指揮監督下に置かれていて拘束性が強い場合や、指示に対する許諾の自由がない場合に、労働者性が認められて労災認定される場合があります。
これは、雇用契約に基づき勤め先の指示にしたがう必要があるという部分で、労働者に近いと判断できるためです。
個人事業主が労災認定されにくい背景
個人事業主として働く場合でも、一定の業種では労災保険に加入できる特別加入制度があります。労働者と同じように保護すべき業種では、特別加入制度によって労災保険への加入を認め、必要な補償を受けられる仕組みです。
しかし、一般の労働者に比べると、特別加入した個人事業主では労災認定されにくい傾向にあります。
たとえば、仕事道具の片付けをしている際に怪我をしたケースです。雇用契約に基づく労働者であれば、仕事で使う道具の片付けも業務の一環であり、業務中の怪我として一般的に労災認定を受けられます。
一方で、請負契約に基づいて働いている個人事業主の場合は、請負先からの依頼内容とは関係がない片付け作業では、業務災害になりません。
雇用契約によって働く会社員であれば労災認定されるケースでも、個人事業主や一人親方などでは、業務災害にならず労災認定されないケースが多いです。
個人事業主が労災保険に加入できる「特別加入制度」とは
労災保険の対象者は原則として労働者です。ただし労働者以外でも、その業務の実情や災害の発生状況などから、特に労働者に準じて保護すべきケースでは特別に任意加入が認められています。
労災保険の特別加入制度と呼ばれる制度で、特別加入できる対象者は以下の通りです。
労災保険の特別加入制度の対象者
● 中小事業主等● 一人親方等
● 特定作業従事者
● 海外派遣者
一人親方等で特別加入できる職業
● 個人タクシー業者、個人貨物運送業者● 大工、とび職人など建築業の一人親方等
● 漁船を用いる自営漁業者
● 林業の一人親方等
労災保険の特別加入に関する詳細は、厚生労働省が公開している「特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)」で確認可能です。
また労災保険の特別加入制度については「一人親方など自営業者必見!労災保険の特別加入について」の記事でも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
まとめ
Amazon配達員のような個人事業主は、原則として労災保険の対象外です。
しかし、個人事業主として働いている場合でも、実態として労働者と同じように働いている場合は労災認定されることがあります。
契約の形式が雇用契約ではなく業務委託契約や請負契約になっているからといって、絶対に労災認定がされないわけではありません。個人事業主で働いている場合でも、労災の認定を受けられないか、よく確認することが大切です。
また、職種によっては個人事業主でも労災保険に特別加入できる場合があります。万が一の場合に必要な補償を受けられるように労災保険への特別加入を検討してみましょう。
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よくある質問
Amazon配達員は労災認定される?
Amazon配達員のような個人事業主は原則として労災保険の対象外ですが、労働者性が認められる場合は労災認定されることがあります。
Amazon配達員が労災認定された事案について詳しく知りたい方は「労基署がAmazon配達員の怪我を労災認定」をご覧ください。
労災保険に特別加入できる個人事業主は?
個人タクシー業者や個人貨物運送業者などは、個人事業主であっても特別加入制度によって労災保険に加入できる場合があります。
労災保険の特別加入制度について詳しく知りたい方は「個人事業主が労災保険に加入できる「特別加入制度」とは」をご覧ください。
監修 松浦絢子(まつうら あやこ) 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、金融取引など幅広い相談に対応している。さまざまなメディアにおいて多数の執筆実績がある。