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2026年度末までに手形・小切手の利用が廃止に!手形の代わりとなる「でんさい」についても解説

監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士

2026年度末までに手形・小切手の利用が廃止に!手形の代わりとなる「でんさい」についても解説

手形や小切手は、現金の代わりとして使われる有価証券です。いずれも、これまで主に企業間の商取引で使われてきましたが、運用にあたって抱えている課題から、現在これらは2026年度末の廃止に向けて国全体で動いています。

本記事では、手形・小切手が廃止される理由や廃止されることによる影響、廃止後に手形・小切手の代わりとなる「電子記録債権(でんさい)」について解説します。

手形については以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

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目次

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手形・小切手が廃止される理由

商取引で用いられている紙の手形・小切手は、2026年度末までの廃止が予定されています。その理由として、紙の手形・小切手を用いることによる以下のデメリットが挙げられます。

紙の手形・小切手の使用によるデメリット

  • 現金が手元に入るまでの期間が長い
  • 支払期限前に現金化する際の割引料が高い
  • 振り出しなどの事務手続きが煩雑
  • 郵送料や印紙税がかかる
  • 紛失や盗難のリスクがある

これらのデメリットのうち、とくに郵送料・印紙税などのコストや紛失・盗難のリスクなどは紙媒体という現物を用いて商取引を行うことのデメリットであり、ビジネスでさまざまなツールがデジタル化していく時代の流れにそぐわないと考えられます。

紙媒体の手形・小切手を廃止し電子化を進めることで、上記のような紙媒体特有のデメリットも解消するねらいがあります。

さらに、手形の種類のひとつである「約束手形」には、「受取側の負担が大きい」というデメリットも存在します。

以下は、約束手形を用いた商取引の流れです。


約束手形

約束手形の場合、②手形の振り出しから、⑦支払いまでの期間が3〜4ヶ月空くことが一般的で、その間受取側は現金を受け取れません。商品・サービスの提供が完了しているにもかかわらず数ヶ月先まで現金が入ってこないことは、資金繰りするうえで大きな負担となります。このような状況からも、紙の手形を利用することに対して消極的になる企業も増えていました。

手形・小切手は2026年度末に廃止予定です。ただ、廃止されるのは「紙の手形・小切手」であり、電子化されているもの(電子記録債権・でんさい)は引き続き利用可能です。でんさいについては記事内「手形・小切手の廃止に代わる「でんさい」とは何か」で後述します。


出典:一般社団法人 全国銀行協会「手形・小切手の廃止/電子化について」
出典:中小企業庁「第5回 約束手形に関する論点について」

紙の手形・小切手廃止までのスケジュール

紙の手形・小切手の廃止は、以下のスケジュールで進められてきました。

2021年6月18日
政府が公表した「成長戦略実行計画」に、以下2点の内容が盛り込まれる


  • 5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を推進する
  • 小切手の全面的な電子化を図る

2021年7月19日
一般社団法人 全国銀行協会が「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を公表。同計画内で以下の目標を定める


  • 2026年度末までに電子交換所における交換枚数(手形・小切手)をゼロにする

2021年7月20日~
政府や全国銀行協会のこれまでの公表を受け、金融業界を筆頭に「手形・小切手の発行停止」など関連する動きが見られる



~2026年度末
紙の手形・小切手の利用廃止目標

2026年度末の廃止は義務ではなく、廃止以降の紙の手形・小切手の利用に対しては罰則は設けられいるわけではありません(2024年7月現在)。

しかし、政府・全国銀行協会・各金融界などが一体となって紙の手形・小切手の廃止に向けて精力的に動いています。これから2026年度末まで、紙の廃止および電子化の流れはさらに加速すると予測されます。

紙の手形・小切手廃止による企業へのメリット

紙の手形・小切手が廃止されることで、先述したデメリットが解消され、コスト削減や紛失・盗難のリスクが減少するなどのメリットがあると考えられます。以下では、紙の手形・小切手廃止による商取引のメリットを詳しく解説します。

管理や押印、郵送などの負担やコストを減らせる

紙媒体の手形は、管理や押印、郵送などで負担やコストがかかりますが、手形廃止によって、手形を受け取る側はさまざまなコストや負担を減らせます。たとえば、手形を銀行まで持っていったり手形帳への記入、郵送作業などの事務的な手間や、手形の郵送費や手数料、印紙代などのコストカットが可能です。

紛失や盗難のリスクを抑えられる

紙媒体の手形の性質上、紛失や盗難のリスクがあることが懸念点です。また、支払期日を失念するリスクもあります。これらのリスクは、手形が電子化されることによって抑えられます。支払期日を失念するリスクは、電子化によって支払期日に自動入金されるようになることで大幅に減ると考えられます。

受取側の資金繰りに対する負担を解消できる

先述のとおり、紙の手形は支払いに使用するにあたって、現金化できるまで3~4ヶ月かかるため、受取側の資金繰りに対する負担が大きいという問題点があります。紙の手形を廃止して電子化されたものを使うことでこの問題点を解決でき、資金繰りに対する不安や心配などが解消されるきっかけとなるでしょう。

手形・小切手の廃止は製造業・建設業への影響が大きいのはなぜか

一般的に、企業間での取引では、仕入れの際の商品受け渡しと同時に代金を支払わず、「買掛金」としてまとめて後日支払いを行います。この場合、「買掛金」としてからおよそ1ヶ月後などに現金を支払わなければなりません。

しかし、手形であれば買掛金よりも遅い期日を支払日として指定できます。このことから、高額な仕入が発生する製造業や建設業などでは、商慣習として手形が好んで使われているという現状がありました。しかし一方で、製造業や建設業の下請業者にとっては商品の受け渡しから支払いまでの期間が長くなればなるほど資金繰りが難しくなるといったデメリットも生じていました。

紙の手形や小切手の廃止は、製造業や建設業の下請業者にとっては、資金繰りの負担改善につながるなどの影響があるといえるでしょう。

手形・小切手廃止で企業が対応すべきこと

2021年3月31日に公正取引委員会から公表された通達によると、手形・小切手廃止の一環として、事業者には以下のような対応が求められています。

  1. 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
  2. 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
  3. 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。

出典:公正取引委員会「下請代金の支払手段について(令和3年3月)」

ここでいう「サイト」とは、取引額の決済期間(支払サイト)のことです。紙の手形・小切手の廃止にあたって、親事業者は支払サイトの見直しなどを早めに行う必要があるといえます。

手形・小切手の廃止に代わる「でんさい」とは何か

手形・小切手の廃止に向けて利用が推奨されているのが、電子記録債権(でんさい)です。でんさいとは、株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称・でんさいネット)が取り扱う電子記録債権のことです。紙の手形の課題を克服した金銭債権として、2013年2月のサービス提供開始以降、利用数を伸ばしています。

紙の手形や小切手に代わってでんさいを利用することで、電子記録債権の受取企業・支払企業それぞれにどのようなメリットがあるのか解説します。

受取企業にとっての「でんさい」のメリット

債権の受取企業がでんさいを使うメリットとしては、以下が挙げられます。

受取企業にとっての「でんさい」のメリット

  • 紙ではなく電子化された金銭債権を使うことで、紛失や盗難のリスクがなくなる
  • 支払期日になると自動入金され、取り立てのための手続きが不要
  • 紙の手形と異なりWeb上で管理できるため、事務手続きの負担を軽減できる
  • 紙の手形ではできない「債権の分割譲渡」が行える

電子記録債権の取り扱いについては、以下のページで解説しています。

手形口座を作成せずに受取手形・支払手形による決済を記帳する

支払企業にとっての「でんさい」のメリット

支払企業がでんさいを使うメリットには、以下のようなものがあります。

支払企業にとっての「でんさい」のメリット

  • 手形の用紙代や、手形使用に必要な印紙代などが削減できる
  • ペーパーレスであるため郵送費がかからない
  • 手形発行作業が紙と比較して簡単になるため、事務手続きが効率化できる

まとめ

紙の手形や小切手は、そのデメリットを解消するために2026年度末を目標に廃止が進められており、政府だけでなく、手形・小切手の発行に直接関わる金融機関なども廃止に向けて積極的に動いています。

紙の手形には、支払い期日が延ばせることで支払い側の資金繰りに余裕が出るというメリットもあります。ただし、受取側の資金繰りの負担や紛失・盗難リスクなどを考慮すると、一概に良いものであるとはいえないでしょう。

紙の手形や小切手が廃止されたのちの対応方法として、政府は電子記録債権(でんさい)の活用を推奨しています。電子化に対応できていない事業者は、早めの対応を検討してはいかがでしょうか。

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よくある質問

手形が廃止されるのはいつ?

紙の手形・小切手(でんさいネット以外で発行されたもの)が廃止されるのは、「2026年度末」です。なお、廃止は義務ではないため、2026年度末以降の紙の手形・小切手を使用しても罰則はありません(2024年7月現在)。

詳しくは記事内「紙の手形・小切手廃止までのスケジュール」で解説しています。

手形が廃止される理由は何?

紙の手形・小切手が廃止される理由は、「管理、押印、郵送などの負担がかかるため」「紛失・盗難のリスクが伴うため」などのデメリットによるものです。特に紙の手形は発行から支払いまで3〜4ヶ月の期間が空くことから、債権者にとっては資金繰りの負担が生じるといったデメリットがあります。

詳しくは記事内「手形・小切手が廃止される理由」をご覧ください。

監修 前田 昂平(まえだ こうへい)

2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。

前田 昂平

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