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令和6年税制改正大綱をわかりやすく解説! 法人や個人にとってどんな影響がある?

監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

令和6年税制改正大綱をわかりやすく解説! 法人や個人にとってどんな影響がある?

令和6年度税制改正大綱が公表されました。本記事では、税制改正の基本方針や、法人課税・個人所得課税・消費課税に分けて改正点を解説します。

最優先課題として「デフレ脱却・賃金上昇」が挙げられており、法人・個人の両者に影響があります。改正内容の目的やポイントをわかりやすく解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

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令和6年税制改正の基本方針

令和6年度税制改正大綱では、基本方針として大きく以下の2点を掲げています。

令和6年度税制改正の基本方針

  • デフレ脱却に向けた税制面での取り組み
  • 経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し

それぞれ詳しく見てみましょう。

デフレ脱却に向けた税制面での取り組み

令和6年度税制改正大綱では、物価上昇を上回る賃金上昇の実現が最優先課題とされています。

具体的な措置のひとつとして、「所得税・個人住民税の定額減税」を実施があります。税金の負担を減らすことで、可処分所得を伸ばし、賃金上昇・消費拡大・投資拡大の好循環をつくることが狙いです。

また、デフレ脱却と好循環を実現するには、国民の税負担軽減だけでなく、企業に対する賃上げ促進税制の強化が欠かせないとしています。

大企業にはさらなる賃金の増額を促し、中小企業には成長を後押しする制度を設け、企業の生産性を向上させる税制を創設・強化する方針です。

経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し

デフレ脱却を目指す税制面の取り組みだけでなく、人口減少や経済のグローバル化など、経済社会の構造変化に応じた税制の見直しを行います。

経済的な理由で子どもを産み育てることを諦めない社会を実現するため、子育て世帯への支援措置が実施されます。

また経済のグローバル化に対応しつつ、日本企業の国際競争力の維持・向上を目指すため、国際課税の新たなルールである「グローバル・ミニマム課税」に関して法制化を進める方針です。

法人課税に関する改正点

法人課税に関する改正点は、次の通りです。

法人課税の改正点

  • 賃上げ促進税制の強化
  • 中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充
  • 戦略分野国内生産促進税制の創設
  • イノベーションボックス税制の創設
  • 第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外
  • 交際費から除外される飲食費にかかる見直し
  • 外形標準課税の適用対象法人の見直し

それぞれ、どのように改正されるのか解説します。

賃上げ促進税制の強化

賃上げ促進税制とは、賃金を引き上げる企業に対して税金の負担を減らす優遇措置です。今回の改正では、下図の通り「中堅企業向け」の枠が新設され、企業規模に応じて税額控除率の上乗せや要件の緩和を講じます。


出典:経済産業省「令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(2023年12月時点版)」

賃上げが一時的なものにならないように、構造的・持続的な賃上げの実現が狙いです。

大企業に関しては、より高い賃上げ率を促すために要件が厳格化されます。中小企業には5年間の税額控除の繰越措置が創設され、厳しい経済状況でもチャレンジを後押しするという措置内容です。

中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充

中小企業の成長をサポートするため、中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充を実施します。対象となる企業が複数回のM&Aを実施する場合、リスクに備えるための準備金を積み立て、損金参入が可能です。

現行の積立率70%から最大100%に拡充され、据置期間は5年から10年に延長されます。改正により、中小企業の従業員の雇用を確保して、生産分野への円滑な労働移動を促します。

戦略分野国内生産促進税制の創設

戦略分野国内生産促進税制とは、民間としては採算性が取りにくいが、国として長期投資が不可欠な対象物資に着目した制度です。生産段階のコストが高い対象物資の生産・販売量に応じて10年間の減税措置(税額控除)を設けます。

主な対象物資は、以下の通りです。

戦略分野国内生産促進税制の対象物資

  • 電動車(軽自動車ではない電気自動車および燃料電池自動車)
  • グリーンスチール
  • グリーンケミカル
  • SAF(持続可能な航空燃料)
  • 半導体

物資ごとに単価が設定され、各年度の控除上限は当期の法人税額の40%です。措置期間は計画認定から10年間であり、4年間の税額控除の繰越期間が設けられます。

なお半導体に関しては、各年度の控除上限は当期の法人税額の20%、税額控除の繰越期間は3年間です。

イノベーションボックス税制の創設

近年、世界でイノベーションの国際競争が進んでいます。研究開発拠点としての立地競争力を強化するため、イノベーションボックス税制が新設されます。企業が国内で自ら行った研究開発によって生まれた知的財産から生じる所得に対する優遇措置です。

対象となるのは、知的財産権(特許権・AI関連のプログラムの著作権)から生じるライセンス所得や譲渡所得です。30%の所得控除が認められ、令和7年度から7年間の適用期間が設けられます。

第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外

現行では、内国法人が所有する暗号資産のうち活発な市場が存在するものに関しては、税制上、期末に時価評価し評価損益は課税対象です。しかし、キャッシュフローを伴う実現利益がないものへの課税は負担となる点が課題でした。

今回の改正で、発行者以外の第三者が継続的に保有する暗号資産に関して、一定要件のものは期末時価評価課税の対象外となります。

交際費に関する見直し

取引先との接待などを目的とした支出を、「交際費」といいます。今回、交際費に関して以下の内容が見直されます。

交際費に関する改正点

  • 交際費から除外される飲食費の上限が1人当たり1万円に引き上げられる
  • 交際費を800万円まで全額損金算入できる中小企業向けの特例措置が3年延長される

改正後は、それぞれの企業で社内規定や慣例の見直しが必要になるでしょう。

外形標準課税の適用対象法人の見直し

一定規模以上の法人は、外形標準課税の対象です。今回の改正では、大企業による課税逃れに対応するため、以下の通り基準の厳格化を図ります。

外形標準課税の適用基準

  • 前事業年度に課税対象であった法人が資本金1億円以下になっても、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合は課税対象となる
  • 資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える課税対象法人の100%子法人のうち、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える場合は、原則、課税の対象となる

なお現時点で課税対象外である中小・スタートアップ企業に関しては、引き続き課税されません。

個人所得課税に関する改正点

個人所得課税に関して、主に以下の点が改正されます。

個人所得課税の改正点

  • 所得税・個人住民税の定額減税
  • ストックオプションの利便性向上
  • 住宅ローン控除の拡充
  • 森林環境譲与税にかかる譲与基準の見直し

それぞれ詳しく見てみましょう。

所得税・個人住民税の定額減税

納税者および配偶者を含めた扶養親族を対象に、所得税と住民税の定額減税が実施されます。減税額は以下の通りです。

定額減税

  • 所得税:3万円(1人あたり)
  • 個人住民税:1万円(1人あたり)

なお対象になるのは、納税者の合計所得金額が1,805万円以下の場合に限ります。減税は、令和6年6月以降に速やかに実施するとされており、今回の措置による減収額はすべて国費で補填する方針です。

ストックオプションの利便性向上

ストックオプションとは、新株予約権の一種で、企業の従業員があらかじめ決めた価格で自社株を買える権利です。スタートアップが付与したストックオプションの場合、年間の権利行使価額の限度額を1,200万円から最大3,600万円に引き上げられます。

ストックオプションを利用して、人材確保を行う企業もあります。ストックオプション税制を使いやすくすることで、スタートアップ企業の雇用創出を促す効果が期待できるでしょう。

住宅ローン控除の拡充

子育て世帯などを対象に、住宅ローン控除に関する借入限度額や床面積要件が見直されました。具体的には、下表の通り借入限度額が上乗せされます。

 環境性能など借入限度額
(通常)
借入限度額
(令和6年改正内容)
新築住宅/買取再販長期優良住宅
低炭素住宅
4,500万円5,000万円
ZEH水準省エネ住宅3,500万円4,500万円
省エネ基準適合住宅3,000万円4,000万円

また住宅を取得する際、子育て世帯に関しては「駅の近く」など利便性が重視される点を踏まえ、新築住宅の床面積要件が緩和されます。

通常の床面積要件50㎡以上/合計所得金額2,000万円以下
令和6年の税制改正における床面積要件40㎡以上/合計所得金額1,000万円以下

なお今回の改正は、令和6年限りの措置として先行的に行われます。

森林環境譲与税にかかる譲与基準の見直し

森林環境税および森林環境譲与税は、各地方団体による間伐などの適切な森林整備に必要な地方財源を確保するための税です。

令和6年度から課税がスタートする森林環境譲与税は、有林人工林面積、林業就業者数および人口による客観的な基準で按分し、下表のように国から市町村と都道府県に対して譲与されます。


出典:総務省「森林環境税及び森林環境譲与税」

今回、森林環境譲与税の「私有林人工林面積」の譲与割合を現行の5割から5.5 割へ、「人口」の譲与割合を現行の3割から2.5割へ見直されます。

消費課税に関する改正点

消費課税に関する改正点は、次の通りです。

消費課税の改正点

  • プラットフォーム課税の導入
  • 外国人旅行者向け免税制度の見直し
  • 航空機燃料譲与税にかかる譲与基準の見直し

具体的に、どのように改正されるか解説します。

プラットフォーム課税の導入

近年、拡大するデジタルサービス市場には、海外の事業者も多く参入しています。しかし、国外事業者に関して「消費税を徴収できていない」「調査が難しい」などの問題点があります。

そこで、消費税の調査・徴収に関する課題を踏まえ、国外事業者の代わりにプラットフォーム事業者に納税義務を課す「プラットフォーム課税」制度の開始が決定しました。

外国人旅行者向け免税制度の見直し

近年、国内の免税購入物品の横流しが疑われる事例が増えています。そのため出国時に、税関で免税購入物品の持ち出しが確認された場合に、免税販売が成立する制度へ見直されます。

制度の詳細は、令和7年度の税制改正で決まる予定です。令和6年度の税制改正では、横流しされた免税購入物品と知って仕入れた場合、仕入税額控除を認めない措置を講じています。

航空機燃料譲与税にかかる譲与基準の見直し

航空機燃料譲与税に関して、新たに以下の基準を用いることが決まりました。

「航空機の重量 × 着陸回数(延べ重量)」および「旅客数」

なお「延べ重量および旅客数」は、空港対策に関する財政需要との対応性を考慮し、必要な減額・増額補正を行う方針です。

その他の改正点

法人課税・個人所得課税・消費課税以外で、主な改正点として「扶養控除等の見直し」があります。

扶養控除等の見直し

児童手当に関して、所得制限が撤廃され、支給期間が高校生まで延長されるなど支給内容が拡充されます。児童手当の拡充に伴い、高校生期の扶養控除を縮小する旨が示されました。

公表された改正内容は、以下の通りです。

扶養控除現行改正後
所得税の控除額38万円25万円
住民税の控除額33万円12万円

なお改正内容は明記されましたが、実際に適用されるのは令和8年分以降の所得税・令和9年度分以降の個人住民税と想定されています。

まとめ

令和6年税制改正大綱の大きな基本方針は、「デフレ脱却に向けた税制面での取り組み」と「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」の2つです。

個人所得に関して、「定額減税」などデフレ脱却を目指した措置が設けられています。また企業に関しては、さまざまな減税措置や事業の成長を後押しする制度が創設され、賃金上昇・消費拡大・投資拡大の好循環の実現が期待されます。

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よくある質問

令和6年税制改正の基本方針は?

基本方針として、「デフレ脱却に向けた税制面での取り組み」と「経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し」の2点が挙げられます。

令和6年税制改正の基本方針を詳しく知りたい方は、「令和6年税制改正の基本方針」をご覧ください。

令和6年税制改正の主な改正点は?

法人に関しては、賃上げ促進税制の強化のほか、「戦略分野国内生産促進税制」や「イノベーションボックス税制」などが新たに創設されました。

令和6年度の税制改正の内容を詳しく知りたい方は、「法人課税に関する改正点」、「個人所得課税に関する改正点」、「消費課税に関する改正点」をご覧ください。

監修 安田 亮(やすだ りょう)

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

監修者 安田亮